ズボラな女性を飼い主に   作:彰吏

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予約投稿久しぶりすぎてできてるか不安。

この話は人によっては嫌な思いをするかもしれないので、注意してください。特に虫嫌いの方。

改めて自分で読んでみると、なんでこの話を書いたのかよく分からないことありますよね。



2

 

 

「助けて、比企谷くん」

 

 明日は家事代行サービスのバイト、というより陽乃さん限定の家事手伝いがあるそんな夜のこと。陽乃さんのもとで働くことになったその時に交換した電話番号から電話がかかってきた。明日のバイトは休みだという電話だろうなとか自分に良いような考えを頭に浮かべながら、電話に出てみると冒頭の言葉のみを残して切られた。

 昔の俺なら場所がわからなくても押っ取り刀で駆け付けるところだが今の俺は冷静だ。冷静に電話を折り返しどこにいるのか聞こうとしながら、自分の住んでいるアパートを飛びだした。今日のこの時間帯なら陽乃さんは自分の部屋に居るはずだと思うが確認をとる必要があるだろう。もしこれで電話に出なくて、かつ陽乃さんが自身の部屋にいなかった場合は警察に通報しよう。陽乃さんはもしかしたら嫌がるかもしれないが、命には代えられないだろう。

 

「ちっ、出ないか」

 

 留守電サービスの電子音が流れ出したのでスマホをポケットに押し込みながら、歩いて2分の道を全力疾走する。俺の住んでいるアパートよりも新しくてきれいなマンションが陽乃さんが住んでいる、そして俺のバイト先である。マンションの前に辿り着くと陽乃さんから渡された合鍵でオートロックを解除して、エレベーターが上に昇っているのを確認して、迷いなく階段を駆け上った。陽乃さんの部屋は3階なので階段を使ってもさほど疲れないで登ることができる。これが最上階とかだったら確実にエレベーターに乗っていた。

 3階に辿り着いた俺は、騒がしくならないように注意しながらも、早足で陽乃さんの部屋に向かおうとした。だけど廊下の突き当り、陽乃さんの部屋の前で誰かが座っているのが見えた。正確に言うと、ジャージ姿の陽乃さんがスマホを握りしめたままへたりこんでいる様に見えたのだ。

 

「陽乃さん、大丈夫ですか?」

 

 見た感じ無事なことに安心しながら近づいて話しかけると、陽乃さんは初めて俺の存在に気づいたかのように驚いて顔をあげた。いつもと同じメガネの奥に涙を溜めながら、俺に倒れかかるように抱き着いてきた。

 

「ちょ、陽乃さん」

「よかった、来てくれたんだね」

「それは来ますよ、あんな電話があったら誰だって。それでこんなところで、どうしたんですか」

 

 言外に心配したと言いながら、俺はもしや空き巣にでも入られたのかと思い聞いてみたがそうでもないらしい。このままここで話していて同じ階の人に見られて変な噂になられても陽乃さんに迷惑がかかるので部屋の中に入ろうと言ったのだが、それは絶対に嫌だと首を横に振られてしまった。ちなみに、陽乃さんはずっと俺のお腹あたりに顔を埋めたままで、それに一方的に話しかける俺という構図である。

 このままでは本当に埒が明かないと思い、陽乃さんの許可なく部屋に入ろうとドアに手をかけてみると普通に開いた。空き巣はないにしてもてっきりカギを失くしたのかと思っていたが、流石の陽乃さんでもそれはないかと少し安心した。

 

「今、失礼なこと考えてなかった」

「いえいえ、そんなわけないですよ」

 

 俺がドアを開けて部屋に入ろうとするのを察知してか、お腹から腰のほうへと回り込んで未だに顔をうずめている陽乃さんのくぐもった声に内心ドキッとした。なんでこう雪ノ下姉妹は俺の心の内が読めるのかね。姉妹でエスパータイプなのかな。ナ〇メなの。

 

「変なことばっかり考えてないで、入るのなら早く入りなさい。そして、早く見つけて駆除してね」

「早く見つけて駆除?」

 

 やっとこそ復活したのか、それともなにかから開き直ったのか顔を上げた陽乃さんが変なことを言い出した。その言い方だと部屋の中にいる虫か何かを見つけて駆除してほしいみたいな言い回しだけど……。

 

「よく分かったいるじゃない、比企谷くん。そうなのよ、あの人類の天敵とも言える真っ黒な虫を見つけて駆除してほしいの」

「それってもしかして、ゴキ……「それ以上言わないで」…あ、はい」

 

 俺の後ろに隠れて震えている陽乃さんは、どうやら初めて生でヤツと会ってしまったらしい。それならばここまでのビビり様も分からなくもない。だけど、あの陽乃さんがいくら初めて見たからといって、ここまで怖がるとは正直意外だった。それと同時になんというか申し訳ないが、可愛いとも思ってしまった。

 何はともあれヤツを探すために部屋を見渡してみると俺は唖然とした。部屋が汚いのだ。俺が昨日1日かけて掃除したのに、言い繕うことができないほどに汚いのである。いや別に、週に2回この部屋に来るたびに見事に汚くなっているのを知っている。知っているがまさか俺が掃除した次の日の夜にはこの有様になっているとは思わなかった。ここまで来るとわざとやっているのではないかと疑いたくなってしまう。

 

「昨夜はちょっと色々あってね」

 

 申し訳なさそうに言う陽乃さん。もしかして彼氏とかそっち関係かな。それなら俺じゃなくてそっちに頼った方がいいのでは?あー、もしかしたら恥ずかしいとかかな。

 

「それはないから安心してな」

「あ、はい」

「それよりも早く見つけてね」

 

 何故か即否定された。背中に隠れながら凄まれても怖くないけど。てか、これまた考えを読まれてませんかね。別にもういいけどさ。

 

「部屋を片付けながら探しますね。このままなのもさすがに宜しくありませんし」

「わ、わかった」

 

 殺虫スプレーとかは持ってないようなので薬缶でお湯を沸かしておき、見つけ次第お湯をかけてしまうことにした。お湯を沸かしている間にテキパキと片付けをしようと思っていたが、陽乃さんがなかなか離れてくれない。それになぜか片手に先程纏めておいた新聞紙を丸めて棒のようにして持っていた。

 

「何してるんですか」

「比企谷くんがミスってこっちに飛んできた時のために」

「そうですか」

 

 持っているのは構わないけど動きずらいので少し離れて欲しいと言おうと思ったが、なんとか自分でもどうにかしようとする陽乃さんを見るとなんか可愛く思えてきて、つい笑ってしまった。

 

「なに笑っているの?」

「いえ、なんか可愛いなと思って」

「え…」

 

 陽乃さんの動きが止まったので、そのうちに片付けていると目の端でなにかが動いた。陽乃さんも見ていたらしくすぐさま俺の後ろに隠れるというか抱き着く勢いで引っ付いてきた。やばい、背中が大変なことに。何かが押し付けられてるよ。落ち着け、今はそれよりも目の前の問題のほうが大事だ。

 

「ひ、比企谷くん、今のって…」

「はい、陽乃さんの考えているものだと思います」

 

 素早くお湯を準備してヤツが隠れたと思われる雑誌の山の1部をゆっくり動かすと、そこからこっちに向かって飛んでくるヤツが見えた。

 

「ぎゃああああぁぁぁぁ」

 

 陽乃さんの耳を劈くような悲鳴で我に返った俺は、力一杯抱き着いてきた陽乃さんが火傷しないように薬缶をできるだけ被害が出ないように遠くに投げて、それとは逆の方向に陽乃さんを抱きしめるようにして倒れた。

 

「大丈夫ですか、陽乃さん」

「ひゃい」

 

 陽乃さんは情けない声を残して気絶してしまった。俺は正面から抱きしめるといい匂いがすることに気付いて、もしかしたら風呂入ったあとだったのかなとか、全く関係ないことを考えていた。

 

 






[おまけ]


「うぅん」
「おはようございます、陽乃さん」
「おはよ、比企谷くん」
「片付け終わりましたよ。それに駆除も終わりました」
「ありがとう。迷惑かけちゃったね」
「いえいえ、そんなことないですよ。陽乃さんだって頑張っていましたよ」
「あ〜、馬鹿にしてるでしょ」
「そんなことないですよ。本当に頑張りました」
「うん、ありがとう」
「それでは、俺はこれで」
「比企谷くん、今日は本当にありがとね。また、今度のバイトの時にね」
「はい。あ、そうだ。陽乃さんなら知ってると思いますが」
「なに?」
「ゴキブリって一匹いたら百匹いるらしいですよ」
「えっ」
「なので、早めに殺虫スプレーとか買ったほうがいいですよ」
「えっえっ」
「それでは俺はこれで」
「ちょ、ちょっと待って、比企谷くん」
「?」
「私を一人にしないで」
「はい?」
「えっと、私の部屋じゃダメだから……」
「なんだろう、悪い予感がする」
「比企谷くんの部屋に泊まればいいんだ」
「え、ちょっと」


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