百合の花〜三題噺の箱庭~   作:しぃ君

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 練習がてらに一話完結の三題噺を書きました。
 お暇な時にどうぞ。


盲目少女と○○少女

 ──────────

 

「『彩り』、『自由』、『不幸』」

 

 ──────────

 

 世界は彩りに溢れている。

 誰かがそう言っていたのを今でも覚えている。

 だけど…そんなの嘘だ。

 だって、私には何も見えない

 生まれて此の方、光が見えたことは一度もない。

 

 

 先天盲…と言うらしいが、私にとってそんな事どうでもいい。

 ただ……

 

 

「世界が見たい……」

 

「ま~た、変な事言ってる。そりゃあ、見たいって思うのはしょうがないけど、諦めも肝心だよ? ねっ? はるはる」

 

「はるはるは止めてって前も言ったよね?」

 

「いーじゃん別に~」

 

 

 私の名前が春華(はるばな)(はるか)だから、はるはる。

 何度も止めてと言ってもその呼び方を止めない奴が、幼馴染み兼ヘルパー擬きをやってくれてる親友。

 名前は八橋(やつはし)(はる)

 明るくて、やかましくて、時々ウザイ。

 

 

 自分と同じく彩りある名前に生まれながらも、こうも違うと羨ましくなる時もある。

 だって、私は……暗くて、口が悪くて、多分愛想も悪い。

 なんでこんな自分と仲良くやってくれるのか、私は不思議でしょうがなかった。

 何度か聞いたことがあるが、名前が似てるからと言った意味不明な理由でスルスルと交わされてしまった。

 

 

 彼女の容姿を私は見た事はないが…きっとウザやかましい感じの明るい奴なのだろう。

 自分の容姿さえ分からないのに、世界の彩りさえ知らないのに……何故か彼女の容姿だけはハッキリと想像出来た。

 それがあっているかは分からないが……

 

 

「学校はどう? 楽しい?」

 

「まあまあかな。そっちは?」

 

「私は楽しいよ? 最近さぁ~、良いな~て思ってる人が居るんだけど。中々手強くてさ~、全然隙を見せてくれないんだよね」

 

 

 良いなと思ってる人…彼氏候補だろうか。

 私は盲学校と言う視覚障害者専用と言ってもいい学校に行ってるので、容姿で判断はせず性格頼みだ。

 悪い人じゃなければ上手くやって行けるが…偶に目が不自由なのを理由にセクハラ紛いのことをされて苛つく。

 

 

 ああ言う奴が居るから…視覚障害者がぞんざいに扱われることがあるんだ。

 …そうやって私が心の中で愚痴を漏らしていると、表情に出ていたのか晴が頬をつついてきた。

 

 

「怖い顔してるよ~可愛いんだから笑ってないと~」

 

「自分じゃ自分の顔なんて見れないから、そんな事言われても嬉しくない」

 

「厳しいな~、はるはる」

 

「だ~か~ら~! はるはる言うな!」

 

「他の患者様も居ますので、お静かにお願いします」

 

 

 不味い…病院だったことをスッカリ忘れてた。

 視覚障害はあっても動かす体に問題はない私は、通院も晴と二人で来ているのだ。

 不自由な部分はあるけど、自由な部分があるだけマシ。

 晴がよく私に言っている言葉。

 

 

 普通の事を言っているのに、偶に凄い事を言っているように聞こえるのは気の所為だろう。

 診察は終わっているので、後は診察費を払って帰るだけだ。

 番号が言われるのを待っていると、不意に右隣に居た晴からではなく左隣から声を掛けられる。

 

 

「黒い髪のおねーちゃん。何で病院に居るの~?」

 

「…おねーちゃんは目が悪いの。だから、目を良くするためにここに居るんだよ」

 

 

 出来るだけ優しい声音で諭すように言葉を紡ぐ。

 嘘を言ってしまっているが、目が見えないと言うと重く感じてしまうから、これぐらいでいいだろう。

 子供相手に毒を吐くわけにはいかない。

 晴ならいざ知らず、声からして五、六歳の子供に毒を吐くなど言語道断。

 良い返しが出来た、そう思って満足していると…また少年の声が聞こえた。

 

 

「じゃあ何で…おねーちゃんは一人で病院に来たの? お母さんとお父さん居ないの?」

 

「…はっ? いや、冗談でじょ? おねーちゃんの隣にお友達居るよ? ほらここに」

 

 

 見えないけど、感じることは出来る。

 触ることだって出来る。

 晴は私の右隣に居る…居るはずだ。

 居ないなんて……

 

 

「おねーちゃんやっぱりおめ目悪いんだね。おねーちゃんの隣誰も居ないよ?」

 

 

 …………有り得ない。

 何か言ってよ晴。

 私はここに居るよって、いつもみたいにウザったらしい声でそう言ってよ……じゃないと……

 

 

『八十六番の方~』

 

「私達だね……行こっか?」

 

「………………」

 

 

 晴が手を引いてくれる。

 温かい…温かい筈なのだ……

 なのに……何で……何も言わなかったの? 

 その言葉が口から出てくる事はなく、無事に診察費の支払いを済ませて病院を出た。

 

 

 今もまだ、手には温かい感触がする。

 握ってくれてる。

 晴はここに居る。

 そうやって強く思わないと……何かが消えてしまいそうだった。

 

 

「…はるはるには言ってなかったけ?」

 

「なに?」

 

「私、生まれつき……影が薄いんだよね!!」

 

「へっ? ……どう言う事?」

 

「さっきもちっちゃい男の子に全然気付かれなかったじゃん? それも生来の影の薄さが原因なんだよね~」

 

 

 おどけたように言う親友に呆れを通り越して殺意を覚える。

 ぶん殴ってやりたいが、彼女が転べば私も転ぶ。

 殴るわけにはいかない……いかないのだが……

 先程までの調子で言葉を続ける晴に嫌気が募る……やっぱり殴ってやろうかな。

 

 

「ちょっ!? 殴るのだけは勘弁」

 

「…口に出てた?」

 

「出てた出てた! マジで出てたよ!」

 

 

 今度から気を付けよう。

 一応、幼馴染みで親友の彼女を失うのは辛い。

 

 私の世界に彩りはないけど……少しは自由で不幸じゃないんだから。

 

 ──────────

 

 遥はまだ気付いてないよね? 

 …出来るなら一生、気付かないで欲しい。

 私は本来、この世界にもう居てはいけない人間。

 彼女の傍に居ることが出来なくなった人間で……一度彼女から逃げた人間。

 

 

 最初はなんでもない口論で……それが絶交って言葉が出るほど発展してしまった。

 何時もは私が居るから杖を持ってない遥を、病院近くの場所に置いて逃げた。

 目以外の全てが完璧な彼女の隣に居るのは、私にはもう耐えられなかったのだ。

 

 

 絶交って言われたのを良い機会に逃げ出した……

 本当は大好きだったのに、最高の親友だと思っていたのに……

 

 

 それをしっかりと自覚して、元の場所に戻ろうとした時…事件が起きた。

 遥は信号のない道路を渡ろうとしたのだ…見つけた時にはもう遅くて、助からない…そう思ったけど私は走り出していた。

 

 

 そして…私は車に轢かれて命を落とした。

 代わりに、遥は奇跡的に無傷で生還した…いや、してしまったのだ。

 私の訃報を聞いた彼女はショックで一時的な記憶喪失になり、今の彼女は私が生きていると錯覚している。

 

 

 違うな、錯覚じゃない。

 事実、私はまだこの世に留まっている…幽霊として。

 遥だけが私に触れられて、遥だけが私の言葉を聞くことが出来る。

 私の世界には彩りがあっても自由はないし……とてつもなく不幸だ。

 

 

 唯一の幸福は、まだ遥の隣に居られる…この一つだけだ。

 

 

「ご飯なんだろうね~?」

 

「さぁ、私はあなたのお母さんじゃないから知らない」

 

「…だよね~」

 

 

 たわいのない会話…これもあと何回出来るのだろうか? 

 やっぱり…私は不幸だ。

 

 

 夕日に照らされてアスファルトの地面に影が映る。

 だけど、その影は一つだけしかなくて。

 それが無性に悲しかった。

 

 

「遥…好きだよ」

 

「いきなりなに? …まぁ、私も嫌いじゃないけど」

 

「言ってみただけ。気にしなくていいよ~」

 

 

 ああ、どうせなら生きてる時に言いたかったなぁ。

 私は遥の目が見えなのがいいことに、涙を流した。

 彼女しか私を感じられないのに、彼女が感じられない方法で悲しみを吐き出す。

 

 

 明日も、明後日も嘘をつく。

 止まった時間の中に囚われる私を、彼女が置いて行かないように。

 遥が真実に気付くのは何時だろう……ずっと気付かなければ良いな。

 




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