百合の花〜三題噺の箱庭~   作:しぃ君

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全部全部あなたが悪い

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「『寝取られ』、『愛』、『加工』」

 

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 私、綾瀬(あやせ)(かな)は青春真っ盛りのJK。

 三ヶ月前、初めての恋人が出来て、高二の夏直前で浮かれまくっている。

 あれやこれやと夏休みの予定を建てては、親友の川崎(かわざき)真奈(まな)とあーでもないこーでもないと話していた。

 

 

 恋人の(れん)はイケメンではないが、凄く優しくて頼りになる人だ。

 告白したのはあっちで、私は最初乗り気ではなかったのだが、真奈の後押しもあり友達から始めることに。

 喧嘩をしてしまう時もあったが、今では校内有数のラブラブカップル。

 だが、今でも真奈や他の友達との関係も崩れていない。

 

 

 特に、真奈とは彼氏が出来る前より一緒にいる時間が増えた。

 何故なら、恋愛初心者の私は彼女に色々と教えを乞いていたからだ。

 そのお陰で、蓮とは良い関係を築けている。

 

 

 …本当に、幸せに満ち溢れた日々。

 けど、私の幸せの日々は…夏休みに入る直前終わりを告げた。

 

 

 丁度その日は、蓮に用事があり真奈と二人で帰ろうとしたのだが、彼女も都合が悪く一人で帰ることになった。

 寂しくはあったが、彼氏が出来てから偶に遊びを断ることがあったので、仕方ないと感じる。

 勿論、最初は了承して後から断ったのではなく、最初から断っていたが……少しだけ彼女の寂しそうな顔が痛かった。

 

 

 帰宅途中、自宅に帰るには駅前を通り過ぎなければいけないため、嫌嫌ながらも人通りの多い道を歩いていると蓮を見つけた。

 

 

(用事って、電車でどっかに行くことだったんだ。……声掛けたら少しくらい驚いてくれるかな?)

 

 

 ほんの出来心だった。

 蓮なら笑って許してくれると信じていたし、怒られていても彼と一緒に居れるならそれでも良いと思っていた。

 恋心とは読めないものである。

 

 

 …けれど、その行動が私の未来を大きく変えた。

 声を掛けようと近付いたその時、見えたのだ彼の隣を歩く親友の──真奈の姿が。

 見間違えかと思ったが絶対に違う。

 私の視力は2.0で全く持って悪くないし……それに、自分の親友を見間違えるほど私はバカじゃない。

 

 

(…なんで? 二人とも今日は用事があるって、都合が悪いって……言ってたじゃん…)

 

 

 胸がズキズキと痛み、目頭が熱くなる。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 真奈は蓮にキスをしたのだ。

 しかも……大人がするような熱烈なものを。

 

 

 瞬間、私の心は音を立てながら崩壊した。

 全ての感情がグシャグシャに混ぜられて、それを許容できなかった事で心は簡単に砕け散ってしまった。

 私の初恋は、私の人生で初めての彼氏は、親友に寝取られて終わった。

 

 

 信じたくなくて、信じられなくて。

 確認するように何度も何度も思い返しては、グチャグチャになった感情が吐瀉物となって吐き出される。

 彼との間にあった愛は、呆気なく上書きされてしまった。

 

 

 翌日、私は彼に──蓮に別れを切り出した。

 必死に弁明の言葉を述べる彼に、私は言葉が出なかった。

 優しかった彼が、頼りになった彼が、余りにも小さく見える。

 

 

「浮気なんてしてない! あれは無理矢理されたんだ! 君以外の子と関係は持ってないし、あの子には昨日──」

 

「もういいから。私の前から消えてよ…」

 

 

 それだけ吐き捨てて、私は彼の前から姿を消した。

 いや、学校から姿を消した。

 幸い、残りの出席回数などたかが知れているし、出なくても問題は無い。

 今は、学校と言う空間に居ることが、苦痛で苦痛でしょうがなかった。

 …だって、あそこには思い出が沢山ありすぎるから。

 

 

 夏休みの間に、壊れた心を癒すよう頑張ろうとしたが……やる気が全く起きなかった。

 親友と彼氏、大き過ぎる二人の存在を失った私は、第三者が想像できない程衰弱していた。

 

 ──────────

 

 夏休みも中盤、八月の頭に入った頃。

 私は特に変わらず、無意味に時を過ごしていた。

 蓮との思い出の品は全部壊して、出かける約束を書いたカレンダーも破いて捨てた。

 少しスッキリした部屋とは裏腹に、私の心はグチャグチャである。

 

 

 来る日も来る日も、トラウマのように()()()の光景が脳に浮かび上がって、思い出す度に胃の中にある全てを吐き出した。

 

 

(…いっその事、私の中にある感情も吐き出せればいいのに)

 

 

 そんな思いも虚しく、私は今日も怠惰に過ごす───筈だった。

 突然、家のインターホンが鳴る。

 どうせ郵便物か何かだろう。

 仕事をしている人に迷惑は掛けたくない。

 人間不信になっても可笑しくない体験をした私だが、人に対する良心は忘れていなかった。

 

 

「はーい、お待たせしま───し…た?」

 

「久しぶり…だね。奏」

 

「ま……な…。どうして、ここに……?」

 

「どうしてって…言われても。親友だからとしか…」

 

「ッ!! 蓮君を奪っておいて…良く言えたねッ!!」

 

 

 私は怒りに任せて、平手打ちを喰らわせようとしたが……

 その攻撃が届くことはなかった。

 元々、できる筈ないのだ。

 童顔で小さくて、子どもみたいな私に真奈のような親友が出来るなんて都合が良すぎている。

 

 

 だって、真奈は背が高くて、胸も大きくて、綺麗な顔してるし。

 欠点なんて一つもありはしない…強いて言えば性格くらいのものだろう。

 …何せ、今回のことに関しても、彼女は全く悪気を感じていないのだから。

 

 

「…まっ、私のことは信じてくれなくて当然か。叩かないでくれただけマシかな? ……それ、見れば?」

 

「…何これ?」

 

「見れば分かるでしょ? 奏の元彼さんの写真だよ。日付け、よーく見てね?」

 

 

 真奈は私に三枚の写真を手渡して来た。

 …私は、恐る恐るその写真を見た。

 そこに写っていたのは、元彼である蓮と…知らない女の子。

 他の二枚も、片方は蓮でもう片方は違う女性だった。

 日付は…六月十日から二十日。

 

 

 私が蓮と付き合っていた時期に被っている。

 偶然? 加工された写真? 

 そんな訳ない、何故なら……私が彼の顔を見間違える訳ないのだから。

 

 

「撮るの、苦労したんだよ? 中々腹ん中見せてくれないから、尾行して色々調べたの。私の体を差し出したのも必要経費ってとこ。…奏にバレちゃったのは、計算外だったけど。……でも、これで分かったでしょ? 遅かれ早かれ、二人の関係は終わってたんだよ」

 

「…最初から知ってたの?」

 

「全然。奏と本気で付き合うってなったから、身辺調査のつもりで始めたら。まぁ、あれよあれよと情報が出てきてね…幸せそうな顔してるあなたに伝えるのが辛くてさ…」

 

 

 どこか遠い瞳で、私を見つめる真奈。

 その瞳の奥には、悲しみの色があった。

 痛い…痛いよ。

 蓮に浮気して、その相手が真奈だった時より……ずっとずっと痛い。

 胸が今にも張り裂けそうで、泣きながら彼女に謝った。

 

 

「ごめん! ごめんね! 私、わたしぃ、全然真奈の気持ちに気付けてなかった! ホントに、ごめんなさい!!」

 

「イイよ。奏と、もう一度やり直せるなら、それで」

 

「うん! うん!! 私も、やり直したい! もう一度、真奈とやり直したいよぉ!!」

 

 

 その後も、私は真奈に抱き着きながら嗚咽と涙を流し続けた。

 …明日から、もう一度やり直そう。

 きっと、今度は前よりも仲良くなれる筈だ。

 私には、()()()()()()()んだから。

 

 ──────────

 

 今、私は泣き疲れて寝た親友に膝枕をしながら、頭を優しく撫でている。

 本当に、奏が良い子で助かる。

 何時も、最後の最後は私の言葉を信じてくれるのだから。

 

 

 ……写真が()()だって、全然気付いてなかった。

 それもそう、何せプロに依頼して本物と判別できないレベルで仕上げてもらったからね。

 お金は掛かったし、友達に加工するようの写真を撮らせてもらうのにも手間が掛かった。

 理由は適当にでっち上げたが、意外と何とかなるものだ。

 

 

 まぁ、何にせよ。

 この子()が手に入るなら、痛い出費にはならない。

 態々、色々とお膳立てした甲斐があった。

 蓮君を焚き付けて奏に告白させて、その後は私がアドバイスと称して色々と誘導する。

 お互いを本当に好きになった頃に、私が登場。

 

 

 駅前で偶然を装って彼に接近し、奏が来るのを待ちつつ会話を持たせる。

 奏が来たら強引にキスを迫る。

 勿論、奏を動揺させる為にキスはディープキス。

 初めての相手が蓮と言うのが癪に障るが、しょうがないものはしょうがない。

 

 

 後は、勝手に奏が蓮を振って、一人になれば成功だ。

 ここまで来たら、あとは赤子の手をひねる様なもの。

 用意した写真を見せて、私をもう一度信頼させてやり直す。

 奏は信頼出来る本当の人間は私一人。

 彼女は、私に依存するしかなくなる。

 

 

 残念、寝取られたのは本当は奏……あなただったんだよ? 

 愛しい愛しい私の奏、これからも私の掌の上で踊っていてね? 

 

 

「大好きよ、奏。あなたを、愛しているわ」

 

 

 ゆっくりと顔を近付けて、彼女の唇に私の唇を重ねる。

 甘い、甘過ぎる。

 世界中の甘味を合わせても届かない程の甘さだ。

 蕩けるような感覚が、私の中に溢れていく。

 

 

「唇の味は分かったわ。でも、他の所の味は…どんなものかしら?」

 

 

 私を狂わせたのはあなたよ、奏…だから責任を取ってくれるわよね? 

 愛してるは、心の底からあなたを。

 世界中の誰よりも……ね。

 




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