イナズマイレブン アテナの楯 作:百合マスター
ブクマ登録ありがとうございます、励みになります。
書いててタイトル詐欺になってないかと思った、きょうこのごろ。
では、どうぞ。
私……立花唯那は未だにくすぐったい感触の残る体を自分の手で抱き締めるように包みながら、放課後の利根川東泉中学校のグラウンドに立っていた。
あの風呂場の一件は……もう何も言うまい。とにかく酷い目にあった、それだけだ。それは置いといて、今日は待ちに待った利根川東泉との合同練習の日だ。
朝の家での食事中、昼の授業、放課後のここまでくるまでの間の全てがサッカー、サッカー、サッカーで頭の中が埋め尽くされていた。
そしてようやくサッカーが出来ると思うと、心が踊るし顔が自然と綻びを見せてしまう。そんな私を横目に瞬夜、慧斗は準備運動を行っていた。
ちなみに私は既にこれでもかって、くらい準備運動を行っているので問題は無い。本来なら今日が土曜日なら朝から晩までサッカー出来たのにな。
今日は金曜日だからたった三時間くらいしか出来ないのが非常に残念だ。
「どうもー、桜花イレブンの人達!」
「あ、坂野上君」
そこへ坂野上君達……利根川東泉サッカー部の面々がやって来た。その中には昨日見かけなかった何となくタヌキっぽい女の子の姿もある。
確か利根川東泉の部員は強化委員の円堂さん、正規部員は坂野上君、六豹君、要君、下町君、そしてあの女の子……狸ヶ原ちゃんだったはずだ。
「立花さん! 今日から連合チームとしてよろしくお願いしますね」
「うん、よろしく! 後、私も一年生だからタメ口で大丈夫だよ。名前も気軽にユイで良いからね」
「わかった、ユイちゃん!」
私と坂野上君はお互いに握手を交わした。瞬夜も他の部員たちとコミュニケーションをはかっていたけど、慧斗だけ隅の方でポツリと一人で立っていた。
……慧斗がチームに溶け込めるかどうかも、チームとして強くなるために重要になってきそうだな。
「そうだ、今日は初回だからミーティングを最初に行うから、練習は後半だって」
「あ、そうなんだ……了解」
よくよく考えたら、チーム名とか、ユニフォームとか、フォーメーションとか、ポジションとか、決めること盛り沢山だったんだった。
私は少し落ち込みながら、瞬夜たちと利根川東泉の部室に向かうのだった。というか、二人も昨日のこともあってか、準備運動してたよね、監督に確認もしないで珍しい。
「あらあら三人とも、これからミーティングなのに気が早いわねー」
その途中でニヤニヤといじわるな笑みを浮かべたジャージ姿の加奈多の姿があった。その隣には強化委員としてやってきた木野さんの姿もある。
「加奈多ぁ……知ってるなら教えてくれても良かったじゃん」
「あはは、ごめんごめん」
謝りながらも、あまり悪びれた様子が無い。木野さんまで苦笑いしているし……。桜花姉もいい、加奈多といい、立花の人間はイタズラ好きなのかな。
私は別にイタズラしたことないけど。
皆で話しながら古びた小屋のような部室に行くと、そこには外見とは異なり、複数のパソコン、たくさんの座席、液晶ビジョンなど、最新の設備が揃った部室だった。
自分たちの古い部室より真新しい設備に、なんだか時代の流れというのを感じつつ、響木監督と桜花姉のいる先頭の席に向かう。
「おはようございます、桜花姉、響木監督」
「来たか。その様子だと待ちきれずに入念な準備運動をしたようだな」
「お前らしいよ、ユイ」
「あはは……」
もう二人にも知られていたようで、なんだか生暖かい眼差しを向けられて、別の意味でむず痒くなる。
「もうすぐミーティングを始めるから、席についておけ。お前は桜花学園のキャプテンだから、先頭の二つあるキャプテン用の席にな」
「うん、わかった」
桜花姉に指定された座席に座ると、隣にはこっちにニカッと明るい笑みを向けてきてくれる円堂さんの姿があった。その額からは僅かに汗が流れており、少し体から湯気が出ていた。
「よっ、立花。あはは、オレ……いきなり練習だと思って早朝から準備運動してて、さっき監督から知らされるまで放課後も色々と準備してたんだよな」
「円堂さんもですか。実は私も……」
円堂さんが少し照れ臭そうに秘密を話してくれて、だから私も同じだと言ったら、驚いたように目を見開いていた。
なんか驚いた顔の円堂さんって新鮮かも。それに……可愛く見えてしまった。
「ほんとか!? そうだよな! やっぱり連合チームて聞いたらワクワクしたし、お前らとサッカーするのも楽しみだったからなぁ」
「ですよね!!」
お互いに身を乗り出して共感するように大きく頷き合う。それがどうしようもなく嬉しくて笑ってしまう。そして円堂さんも釣られて笑っている。
「全員揃ったようだな。ではこれより第一回連合チームのミーティングを行う」
全員が席についたところで桜花姉が口を開いて、ミーティングが始まった。目の前の液晶ディスプレイから今回話し合うことの一覧が出てきた。
ちなみにディスプレイは加奈多と木野さんの操作で行われている。私は機械には疎いし苦手なので、そういうことが出来る二人を尊敬した。
「まずは自己紹介から始めようか。そうだな、学年、名前、ポジション、得意なプレイ、を言ってくれ」
まずはキャプテンから、ということで私は立ち上がる。比較的少ない人数とはいえ、こうも視線が集中してると、かなり緊張する。
深呼吸を一度してから精神の乱れを無くして、平常心を整える。今は波一つ無い水面のように落ち着いたものとなった。
「桜花学園一年、立花唯那です! ポジションはMFです。得意なプレイは……チームプレイだと思ってます。よろしくお願いします!」
私の自己紹介が終わった瞬間、ドッと割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。少し恐縮しながらも、ペコリと頭を下げて席についた。
次に利根川東泉のキャプテンである円堂さんが立ち上がる。やっぱり、三年生ということもあって、落ち着いた雰囲気だな。
「利根川東泉三年、円堂守だ。ポジションはGK。得意なプレイはもちろん、がむしゃらに相手に立ち向かう熱いサッカーた!! という訳でよろしくな!!」
先程より大きな拍手が起こりながら、円堂さんは席ついた。流石は円堂さん、とてもかっこいいな、と私は思いつつ、次のメンバーの自己紹介も見る。
「次は部員だからな、ざっと素早く頼む」
響木監督の言葉に全員が頷きつつ、桜花学園側の瞬夜たちが立ち上がる。
「桜花学園一年、雪崎瞬夜だ。ポジションはDFで、得意なプレイは相手からボールを奪ってからの前線への攻撃参加だ」
「それって……」
瞬夜の言葉に坂野上君が反応する。少し驚いている様子からして、同じプレイスタイルなのかな。ということは坂野上君もDF……リベロである可能性が高いね。
「桜花学園一年、マネージャーも兼任してる立花加奈多です! ちなみに唯那とは従姉妹です! ポジションはMFで、得意なプレイは魅せるドリブルです! よろしく♪」
加奈多は手慣れたような自然で明るい口調で、すらすらと自己紹介を終えた。それは良いんだけど、問題は慧斗……ちゃんと自己紹介出来るか、少し心配だ。
桜花学園側はいつ慧斗がやらかしてもフォロー出来るように心掛けを持ちながら、当人である彼女がゆっくり席を立った。
そのオーラからは円堂さんと再び戦うことが出来てなくて少し不機嫌なのが伺える。円堂さんにやられた後から、眠らずに早朝まで練習してたらしいからな。
ちなみに情報源は心配で付き添って、同じく寝不足になっている瞬夜からだ。
「……桜花学園一年、大月慧斗。漢字は名字が大きい月に、名前は賢いという意味の慧、北斗七星の斗、だ」
あれ、意外と丁寧な自己紹介だ。名前を覚えて貰うためにわざわざ漢字の説明までしてるし。慧斗の慧って難しいから書きにくいんだよね。
「ポジションはFW」
このまま平和に終わって欲しい…………。
「得意なプレイはオレの完璧なプレイから生まれる個人技だ。だから貴様らはさっさとオレにボールをよこせ。そうすればチームは勝つ。貴様らはただ突っ立てればいい。以上だ」
……やらかした。
慧斗の最後の言葉に部室に吹雪が巻き起こったかのように凍りついた。まるで白恋中の吹雪士郎さんのアイスグランドを食らったような気分だ。
しーん、という痛いくらいの静穏がこの場を支配する。さっきまで利根川東泉側は女の子選手多い、とか、可愛いとか、楽しいサッカー出来そう、とか盛り上がってたのに、慧斗の言葉に困惑半分、怒り半分、といった様子で彼女のことを睨んでいる。
「……あ、えーと、慧斗クンはツンデレさんだから、その仲良くしてあげて!」
加奈多が一番先に硬直が解けて、必死にフォローしてみるが、もうこの空気からマイナスな印象をプラスに補正するのは難しいだろう。
「……突っ立てればいい、てどういうことだよ」
ガタッ、と音をたてながら、さっきまで明るい表情だった坂野上君が険しい表情で立ち上がった。怒気のこもった坂野上君の言葉に慧斗は冷たい表情のままだった
「言葉通りだ。オレが得点を決める。仮に円堂守……先輩がゴールを守りきれなくても、オレがいくらだって点を取るから問題は無い」
「ふざけるなよ! サッカーは11人全員が力を合わせないと勝てない!!」
「それはオレのいないチームでの話だ。現にオレは今まで相手がどのチームであろうと、オレのシュートは止められたことがないし、勝ってきた」
慧斗の言っていることは確かに事実だ。私が慧斗と知り合って一緒にサッカーを始めたのは小学生五年生の時だった。
学校は一緒だったけど、何故か瞬夜に近寄ることさえ止められていたので、とある偶然が無ければ出会えなかった。それは今語ることではないけど。
彼女のいたチームは彼女以外はやる気が無くて、特訓もしないし、当然ながら実力は無い。毎試合10失点以上は当たり前のチームだった。
だけど、無敗だった。それは大月慧斗という一人の天才プレイヤーがいたからだ。彼女は必ず毎試合20得点以上をあげて勝ってきた。
そう、頼れず存在が一人もいなくて、一人でサッカーをやるしかない環境にいた彼女にはそれしか出来なかったからだ。
パスをすれば、誰もとってくれず、パスを要求しても見当違いな方向に飛んでいき届かない。味方にシュートを任せてもゴールを決められず、逆に得点される。
そんなチームにいたからこそ生まれた究極にして孤高の個人技。あまりにも悲しくて、やるせない気持ちになってしまう。
今喧嘩してるのだって、慧斗はチームに頼れず、それしか出来なかったからだ。もっと早く慧斗と出会ってれば、チームの大切さをもっと早く教えていれば、こんなことになっていないのかもしれない。
「貴様らがどうしようが勝手だが、足は引っ張るな。それだけだ」
慧斗は席を立ったまま、部室の扉に手をかけた。
「待て慧斗、どこへ行く。まだミーティングのミの部分しかしてない」
「知るか。全て任せる。オレは昨日の時点でキーパーがまともであれば、それで知りたいことは達成された。後はオレの邪魔さえしなければ、どうでもいい」
桜花姉の制止を聞くことなく、慧斗は言いたいことだけ言って、そのまま部室から出ていった。桜花姉は少しだけ悲しそうな目をしていたが、直ぐに元の表情に戻った。
「響木さん、うちの教え子が粗相な真似をしてしまい申し訳ない。私は彼女を追いかけなければならないので、ここは任せても良いか?」
「ああ、問題無い。あいつにも訳がありそうだしな。オレにもそんな時代があったから分かる。行ってこい」
「ありがとうございます」
桜花姉はそのまま部室から飛び出した。和服でどうやったらあそこまで早く動けるのか、というくらいに早かった。
「さて、まだ利根川東泉の自己紹介は終わってないな。続けよう」
「……はい」
こうして最悪の空気のまま自己紹介は続いた。
私は利根川東泉の自己紹介をメモにとって覚えつつ、頭の隅では慧斗が心配で仕方が無かった。きっと桜花姉が何とかしてくれるだろうけど、それでも心配だ。
しかし。
「……」
一瞬、ゾクッと背筋が凍るような視線を感じた。まるで死さえも予見させるような冷徹なものだ。思わず、周りを見渡したけど、目が合ったのは私を心配する目を向ける瞬夜だけだった。
うん、きっと気のせいだ。
だから利根川東泉の自己紹介に集中しないと。
そう思いながら、私はメモを取るのを再開した。
こうして最悪な形でイレブンが結成された。
慧斗の言葉に深まってしまう溝。そんな険悪な空気を払拭するようにスポンサー紹介が始まる。
あれ、この子って……。
次回 イナズマイレブンアテナの楯
『アテナの降臨』
イナズマイレブンアテナの楯、今日の格言。
『サッカーは11人全員が力を合わせないと勝てない!』
以上。