始まり
私は暗い森の中をよろめきながら彷徨っていた。
身体のいたるところが血で滲み、痣ができてしまっている。
時折くる激痛で表情が歪む。
「どうしてこんな……っ」
そう呟いたつもりだったが、口から零れるのはヒューという音と、血の塊だけ。
倒れるように近くの木に寄りかかる。
あの怪物からは逃げ切れたようだったけれど、これではもう……。
意識も朦朧とし始め、気付くと私は地面に倒れ伏していた。
動こうにも四肢は動いてくれず、ただただ自身の血の匂いが鼻につくばかり。
視界がぼやけ、よく見えなくなってきたと同時に、足音と、話し声、そして何故か明るく感じ始める。
その気配は私の頭辺りで止まり、何事かを呟いて私の身体に触れてくる。
遠くなり始める感覚に、ああ、死に際の幻覚か、と認識したところで私の意識は途絶えてしまった。
目を開けると見知らぬ部屋だった。
最初に目に映ったのは木製の天井と、近くの窓。そして、そこから吹き込む風で揺れる白いカーテン。
夢……?いやでも確か……。
自身の記憶を紐解きながら、上半身を起こす。
私にかかっていた布団が外れ、肌色が目に入る。
「え」
意識が覚醒してきて、自分の状態にようやく気が付き始める。
身に纏っていた衣服は一つも無い。
慌てて自分の身体をまさぐってみると、服どころか痣や傷一つ見当たらない。
「えっと……」
周囲を見渡すも椅子や、机、その上に飾られている花瓶ぐらいしかこの部屋には無いらしい。
死後の世界だからなのか、それとも死にかけたのが夢だったのか、はたまた……?
とりあえずこのまま行動するのは嫌なので、布団を身体に巻きつけて部屋を出る。
なるべく静かに扉を開けて様子を見ると、変わった模様入りの純白のローブを身に着けた金髪の女性が隣の部屋の椅子に座って居た。
こちらからだと背を向けているため何をしているのか分からないが、何かを呟きながら手元を弄っている。
そして何より彼女は神秘的な雰囲気を醸し出している。
目を擦って見直しても、後光が差しているが如く光り輝いて見える。
とにもかくにも普通じゃない人が居る。
知り合いではないし、声をかけるべきかと戸惑っていると、彼女は振り向くことなく。
「あ、起きたのね」
少し間延びした、柔らかい調子の声でそう告げてきた。
何がなんだか分からず硬直する私を無視して彼女は手を動かし続けている。
「ちょっと待っててね。もうすぐ終わるから」
そう言った彼女は机に何かを置いて、指を鳴らした。
それと同時に椅子から立ち上がり、こちらを振り向く。
「そのままじゃ寒いでしょ、狼娘さん」
彼女は私が着ていた服を手に持ちながら、柔和な表情で近づいてくる。
あ、凄く綺麗……。
先ほどから放心しっぱなしだったが、その姿はそうなっても可笑しくないほど神秘的でこの世のものとは思えなかった。
そんな私の手に彼女は服を乗せ。
「着替えてきてから、話をしましょう?」
私の頭にある狼の耳辺りを撫でながら、優しく微笑んでいた。
「お腹すいているでしょ、食べて」
私が着替えて戻ってくると、食事が並んでいる机に案内された。
服は凡そ前と同じ様だったが、ちょっとした刺繍が施されていた。
状況もよく分からないので、とりあえず席に着くものの、困惑気味に彼女を見つめる。
彼女は上品にスープを口に運んでいたが、私の視線に気付いたのか手を止める。
「どうしたの?食べないの?」
「いえ……あの……私は一体……」
死んでいるのか、生きているのか。
後光がずっと差しているこの女性は誰なのか。
ここが一体何処なのか。
聞きたいことはとても多い。
彼女は少し悩んだような表情をしながら。
「そうね……大怪我していたから連れ帰ってきたのよ」
「いえ!ありがとうございます!」
迷惑だったかしら?と言いたげな、少し寂しそうな様子でそんなことを言われたら、私のほうが動揺してしまう。
というか、生きてたんだ、私。
狼人といってもいろんなタイプが居る。
私は頭に狼の耳があり人の耳が無い、それと尻尾があるだけの、比較的人間に近い姿だけれど、殆ど狼でただ二足歩行するという狼人も見たことはある。
どちらにせよ狼人は基本的に自癒能力が高い。
しかしあの状態からでは、生半可な薬を使っても治癒なんてしないと思っていたから殆ど諦めていたというのに。
ひとまずの一番大きな疑問が解決して、大きく安堵の息を吐く。
安心したからかお腹が減っていたことを今更ながら自覚し、少し会釈して食事にありつく。
まともな食事は何日ぶりだろうか……。
私ががっついて食べているのを見て嬉しそうにしている彼女。
「あ、そういえばもう一つの疑問だけど……」
「んむ……?」
急に話し出した彼女に食べながら視線を向ける。
「魔女よ、私は」
……………。
あまりにも普通にカミングアウトされた言葉に、思わず持っていたスプーンを手から落としてしまう。
魔女……魔女ってことは……つまり……。
実験体として、扱われる……?
この世の中において魔女はそう多くない。むしろ遭遇することは稀だろう。しかしながら年に何回か獣人や人間の子供などが行方不明になる話を聞くことがある。
魔女の住むといわれる付近の森や洞窟、その他、人が踏み入れにくい地域で。
私が行った場所はそんな場所なんかじゃなかったはずだったけど。
でも、こんなに神々しいオーラを持つ人が魔女……?
頭ではまだ信じ切れていないけれど、本能的に危機を感じ始めてしまって、身体が竦み始める。
「あ、えっと、大丈夫よ?何もしないわ」
私があまりにも突然に挙動不審になったからか、フォローをいれる彼女。
「ほ、本当ですか……?」
「ええ」
未だに半信半疑だが、命を助けてもらっているのは確かなわけで。
とりあえず保留という事にして、机に落としたスプーンを拾いなおす。
「ああ、言い忘れていた」
「こ、今度は何ですか……?」
あまりに怯えている私に苦笑いを浮かべている彼女。
「まだ回復させて間もないから激しく動いたり、長時間起きてるとすぐ激痛が走ったり動かなくなったりするから、しばらく家で安静にしていてね」
「………はい」
何処が、とかそういうのは多分全身なのだろう。
今はとにかく目の前に居る女性を信じて休むしかない……みたいだ。
本当に魔女なら逃げたところで捕まりそうだし。
「あ、そうそう」
意外にお喋りな魔女は次々話題を振ってくる。
ちょっと食事が進まなくてスープが冷め始めている。
冷めても美味しいけれど。
「貴女の名前聞いてなかったわ」
その質問は今まで何回されてきただろう。
「名前は、ありません」
「あら……?」
不思議そうに首を傾げる彼女。
「強いて言うなら私達は
大抵の人は名前を持っている。たとえ獣人であっても。
獣人は人に比べて能力は高いものの、数が少ないため迫害を受けやすい。
私の両親は、私が物心付く前に死んでしまっている。
何が原因か分からないけれど。
そして、そのまま私は知らない人間に引き取られ、名を付けられることなく侮称で呼ばれ続けてきた。
名の通り人伝に物のように受け渡されながら。
力が強かったり、生命力が高いから、労働力、護衛がわりなど危険な目にも遭いやすい。
死に掛けたことも多数あったし、まともな治療をしてくれる人間は少なかった。
「うーん……でもそれで呼ぶのは、なぁ……」
魔女は何やらぼそぼそと呟きながら、ああでもないこうでもないと呟き始めた。
「えっと、私も伺っても……?」
「え、あ、うん。貴女の名前はおいおい考えるわ。それで私の名前ね?」
「はい」
「あー真名は教えられないけど、いい?」
「大丈夫です」
魔法などを扱う者にとって真名がとても大事だという話はよく聞いた事がある。
何でも魂に刻み付けられた名前だとか何とか。
訓練を積む事でそれを読めるようになると、魔術の行使が初めて出来るとか。
言っている意味はさっぱり分からないけど。
「うーん、じゃあ一番気に入っている通り名でいいかしら?」
「はい」
「アプリピシアって呼ばれたりするのよ。長いからシアでいいわ」
「あ、はい……え!?」
のほほんとした顔でとんでもないことを言い出す人だ、この人は……。
アプリピシアは無敵って意味で、その通り名を持つってことは、当然とんでもない能力の持ち主なわけで。
目の前で上品に欠伸なんかしているけど。
「えっと、では、シア、さん?」
「シアでいいの。誰も私をそう呼んでくれないんだもの」
ちょっと拗ねたように呟くシア。
前言撤回。
この人、変わってて、凄い人だけど、可愛らしい人なのかもしれない。
「シア、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ」
そうしてしばらくの間私はここでお世話になることにした訳だった。
昼食後、シアとの会話をしばらく続けていると、シアが虚空に対して何事か呟き、立ち上がる。
「あ、そうだ。私はこれから散策に出かけるから。私の部屋以外だったら見てもいいよ」
そういったシアはささっと何処かに行ってしまう。
「えっと……」
どうしよう、こういうことは初めてだ。
ずっと同じ場所に居ろと言われたことはあっても、自由にしていいとは今までにない。
きょろきょろ辺りを見渡すと、本などは多くある。
しかし残念だけど、私は字が読めない。
習ってないから、何を書いてあるかさっぱり。
聞く分には知識は多い方なのだが。
「うーん……」
あ、そういや何処がシアの部屋か聞き忘れた。
まあ、気付いたら閉めればいいか。
そうして私は探索を始めた。
当然、しばらくここでお世話になるのだから、場所の把握ぐらいはしておかなければならない。
さっき昼食を食べた部屋が居間だとすると、私の場所は寝室……。
とりあえず玄関に向かってみる。
シアが歩いていった道は匂いで何となく分かる。
次々と通り過ぎていくドアの数に、少し不安になってくる。
ここ、どれだけ広いの……?
既に数十の扉を脇に見て、それでもなお玄関の扉は見えない。
扉同士の間隔もそう狭くない。
廊下としては人が三人並んで歩けるか程度の狭さではあるものの、城などと大差ないぐらい広いのではと思わせる。
匂いを辿って角を何回か曲がり、そこに掛かっていた絵や物を元に頭の中で地図を構築しているうちに玄関に辿り着いた。
「……思ったより質素だった」
ただ木で出来た扉が一つ、行き止まりにあるだけ。
そして模様の描いてある布が地面に敷いてあるだけ。
あまりにも普通の民家の入り口というか、こんな広さの家ならば、こう、もう少し広くても、何て思ってしまう。
とりあえずこれで帰ってきたシアを迎えることが出来る。
元来た道を歩きながら、部屋を一つ一つ確認していく。
物置のような部屋、作業台のような物がおいてある部屋、鍛冶場みたいな部屋、広い料理場……。
全く統一感が無いというか、扉を開けると専門の人間が居そうな部屋が次々出てくるというか。
正直何のためにこれだけあるのかさえ分からない。
他に人など全く見当たらないし。
そして地味に寝室とバスルームがどれにも付属しているという徹底振り。
実は私に見えてないだけ……?と考えてしまってもおかしくないくらい、無音無人且つ広く充実している設備。
まるで豪邸、あるいは要塞といった大きな建物の中から人だけがまるまる消えてしまったような。
異常な雰囲気を感じたことは何回もあったけれど、これは異常を通り越して不気味としか言いようが無かった。
私はその後も少しおっかなびっくり次々と部屋を覚えていく。
と、ある行き止まりに札の掛かった部屋があった。
私が扉を開けてその中を覗くとあまりの光景に絶句する。
大量の生物、植物が置いてあるように傍目からも見える。
そしていたるところに線が引いてあり何がなんやら……。
見なかったことにしよう。
そう思って扉を閉めて立ち去ろうし。
「あっ……!」
急に右足の力が抜けて部屋の中にうつぶせに転がり込んでしまった。
と同時に顔の脇に落ちていた紙が突然光り始める。
「な、なに?!」
私は不穏な気配を感じ慌てて立ち上がろうとする。
しかし不思議と身体の各所から力が抜けてしまい思うように動けない。
そうこうもがいていると紙の光が消え、魔方陣らしき中心から得体の知れない何かが出てきている。
見た感じは黒くて植物の蔦のような……などと冷静に分析している暇は無さそう!
その良く分からないものは私の身体のほうに先を伸ばし始めている。
「や、やめて…こないで…っ!」
思わず声を出すものの、聞いてくれそうも無く……。
これから何をされるのか分からない恐怖から耐えようと私は目を瞑り歯を食いしばった。
が、しばらくたっても何も起きず不思議に思って目を開けると。
視界はシアの顔で覆われていた。
「きゃあああああああっ!?」
うそ、全く匂いも気配も音も察知できなかったけど!
思わず大声で驚く私を他所にシアは困った様子で微笑みながら私を立たせて。
「一応精霊ちゃんに頼んで見ててもらったけど、正解だったみたいね。貴女文字読めなかったりする?」
「え……あ、はい、申し訳ありませんが……」
「やっぱり。読めたなら入り口の札で分かるもの。普通に話が出来ていたからうっかりしていたわ、ごめんね?」
「いえ、私こそ……」
私は一応返答こそするが、シアが片手で紙に書かれた魔法陣ごとよく分からないものを、何事もなかったかのごとく握りつぶしている様子が気になって話が入ってこない。
というか短い間に色々されたみたいで理解が追いつかない。
何でさっきまで立とうとしても立てなかったのに、普通に起こされて大丈夫になっているのか、どうやって急にここに現れたのか、この部屋入っちゃだめだったのでは等々。
「ん……?ああ、これが気になってたのね」
シアは私の視線に気付いたのか手で握りつぶしているものについて話し始める。
「貴女が見ちゃったのは拘束用の魔法陣の失敗作ね」
シアは握りつぶしたものを片手でヒラヒラと広げながら言う。
「踏んだものの魔力を利用して起動する仕組みで、起動すると蔦がでてきて、そこに刻まれているありったけの呪文と合わせてがっちり相手を拘束するってものなのよ。元々の蔦の色は緑なんだけど黒くなっちゃったのよ」
「えっと、正直失敗作な気がしないんですが、私も引っかかってしまってましたし」
私が困惑するように言うと。
「それは貴女が病み上がりで体内の魔力量も少なかったし、私が思ったより貴女が家の中見て周っていたみたいだったからそのせいよ。そうでなければ動けないで引っかかる、なんてならないもの、これ。起動まで極端に時間がかかるから元気なら逃げれたと思う」
「そうなんですか」
「ええ。それにこれ悪魔や天使用に作ったのに、拘束時間は全然持ってくれないし。魔法陣自体の強度もそこまでじゃないって感じで…確かに使い道は無いわけじゃないけど、目的と違うものが出来上がってる点では失敗なの」
シアは説明しながら魔法陣を広げなおすと既に紙は光り始めていた。
「ここ、引っかいてみて」
「……え?」
「簡単に発動を阻止できるから、引っかいてみて」
シアは私に魔法陣の端のほうを指差してそう言う。
その間にも中央からさっきと同じ蔦が出始めていた。
中心から伸びてこないか心配しながら私は恐る恐る言われたとおりに爪で引っかく。
と、同時に空間に滲むように蔦が消え去った。
「ど、どういうこと……?」
私は明らかに実体があるものが唐突に幻のように消えて困惑する。
「まあ、あの魔法陣は半召喚だから実体じゃない云々、と言っても、専門の話じゃわからないでしょ?」
「…………はい」
私が頭を捻り始めているのを見て、そう確認するシア。
「とりあえず休むのが大事だから居間か寝室でゆっくりしてて。知りたいことならまた後で教えるから、ね?」
片手間に魔法陣をしまいながらシアは部屋から出るように促す。
私はそれにしたがって居間まで戻った。
「えっと、つまりはいっちゃいけないのは別に見ちゃ駄目、というわけではなく単純に危ないから、ですか?」
「そういうこと。正確には魔術用の部屋だから。むしろあの程度で済んでよかったと思ってるもの」
シアが花柄のティーカップに入った紅茶を嗜みながらそう言う。
私の前にも少々の茶菓子と紅茶が置かれている。
私もシアを真似て少しずつクッキーなどを口に運びながら話を聞く。
話された内容としてはさっき以上のやばいものがごろごろ置いてあるという事だった。
具体的には、正しい手順の触れ方で無いと魂に呪いを刻み付けられてしまう短剣だったり、見ただけで死に掛ける、下手をすると死ぬ素材諸々、など。
なんでそういうものを集められるのかは置いておいて、入っちゃいけないという理由は分かった。
でも、一番個人的に気になるのは……
「どうやって気配も匂いも音も無く私の前に現れたのですか?」
人一倍嗅覚や、空気の機敏には鋭いはずなのに。
「それは……口で言うより見せたほうが早い、かな?」
シアはおもむろに椅子から立ち上がり……え?
姿は見えているはずなのに私は急にシアの存在を視覚以外で認識できなくなった。
「こういうことなの」
「えっ……え!?」
どういう事なのだろうか。
何もしていないようなまま唐突にシアの気配が消えた為、理解が追いつかない。
「説明は難しいけど、端的にいうと気配遮断の上位互換に近くて、噛み砕いて言うなら肉体を消し去り影だけをこの世界に残したという状態、かな。正確には全然違う原理だけどね」
私が俄然よくわからず首を捻っていると、シアは苦笑いして。
「まあ、認識できなくなれると思ってもらえればいいの。で、この状態だと物理干渉をほとんど受けない……えーと、わかりやすいのは壁すり抜けや摩擦無しの移動が出来る、って言うところ?」
「それなら何となく分かります」
言っていることを何となく把握は出来たものの、あまりにも荒唐無稽で信じられない。
といっても少なからずそれが本当のこととわかるだけのことはされているわけで。
理解しがたいけど分かってしまっている状態というか、とても頭が痛い。
「まあ、この質問にはそれ以上答えられそうも無いかな。どうしても理屈が付きまとうから、学ばないことには説明できないし、そもそも0からしっかり教えるつもりなら最低でも丸一日はかかるし」
「あ、大丈夫です……」
思わず相槌を打つ。
興味が無いわけでは無いけれど、流石に一日もこういう話を聞いていたら頭がくらくらしてきそう。
とりあえず今は次の疑問を解消すべく口を開く。
「じゃ、じゃあ次に精霊に見てもらってたって、あの精霊ですか?」
私が知っている精霊と言うと、炎や氷、水、土など物を構成している大本を司っているもので、時折怪物として人に襲い掛かることがあるというイメージ。
実際に精霊の化身とかいわれている怪物と相対したこともあったし。
大抵は儀式をすれば去ってくれるという話だけれど、どうも今まで見てきたやつはそういう感じには見えなかったし。
私がそういう風に説明すると、シアは。
「うーん、あっているのは最初だけかな。精霊は怪物にならないし、多分貴女が見てきたのは全部怪物そのもので間違いないわ」
「え、でも炎を吐いたり土を操ったり……」
「そういうのは怪物と呼ばれているものは大抵行うから。ちょっとこっち来てもらってもいい?」
私の疑問にさらっと返して手招きするシア。
なんだろうと思いながら近づくと唐突に首筋を触れられ。
「ひあっ?!」
視界が白く点滅して、前が見えなくなるものだから思わず飛び上がる。
「な、何するんですか!?」
私はさっとシアから身を引き首元を押さえる。
視界が戻ってくると、シアの周りに大量に何かが浮いているのが見える。
えっ、え!?
その一つ一つが光っており、そこらかしこに漂っている。
「これが精霊ちゃんなの。で、何か起きそうだったら伝えて、と、この子達にお願いしたわけ」
シアは精霊それぞれにコミュニケーションを取るような仕草をしながら、私を見てそう言う。
私も近づいてよく見ると色が一つ一つ違うみたいで、ほのかに赤、青、緑、茶……様々な色に光っている。
その光の中心には妖精っぽい女の子がいるように見える。
「これ…が…精霊……」
私が視線を彷徨わせ、その後シアに向けると微笑んでいた。
「ねえ、貴女には精霊、どう見える?」
「えっと、光っている妖精みたいな女の子ですけど……」
どうしてそんなことを聞くのか分からずに尻すぼみ気味に答えると。
「そっか」
「え!?」
そう呟いたシアは私を抱きしめて頭を撫で始める。
訳が分からず困惑するも、何故か落ち着く私がいた。
しばらくして解放されるとシアが話し始める。
「精霊は実は人によって見え方が違うの。それで……いえ、名前、貴女にちょうどいいのが思いついたから。良かったら受け取ってくれる?」
話の途中で急にシアは話題を変える。
私は不思議に思いながらも、頷く。
シアはそれを受けて、愛おしそうにそして優しく。
「アズリエナ。貴女の名前はこれからアズリエナ。どうかな?」
私の、初めての、私だけの名前……。
口の中で、頭の中で響かせ復唱し。
何故だか分からないけど目から雫が零れる。
「……はい!シア、ありがとうございます!」
私の返事に嬉しそうにシアは顔を綻ばせていた。