最強魔女と狼娘   作:双碧

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魔女たち

「だ……大魔女様……」

 

 突然のシアの登場にのけぞってしまうヴァイオレット。

 

「そう言うところですよ、シア。そんな急に隣に現れたら誰だって常識を疑います」

「ま、分かっててやってるから」

 

 さっきまでの物憂げな表情が一転、シアはにこにことそう言ってのける。

 状況をよく理解できてないのかヴァイオレットは困惑したように私を見つめてくる。

 

「えっと、別にシアは全く怒ってないし、からかって遊んでいるだけですよ」

「そういうもの……なの?」

「もーネタ晴らしは早いよ、アズ」

「可愛そうなので止めてあげてください」

「まあ、いいけどね」

 

 きょとんとしたヴァイオレットにシアは視線を向け。

 

「そうそう、さっき言ってたアズを街に連れていく話、よろしくね」

「……!はい、しかと承りました!」

「重い重い。気楽にやってね?別に依頼と言う訳でも試練と言う訳でもなく、アズの友人としての頼みだから」

 

 こくこくと何度も頷くヴァイオレット。

 ……うーん、シアは苦笑いしているから分かっているのかもしれないけど……多分ヴァイオレットからすれば平民が貴族に気軽に話しかけられているような気分なんだろうな……

 そういうのをシアは望んでいないのは分かるけど、私だって最初はかなり緊張していたし難しいと思う。

 ましてや魔女同士だと実力さえ如実に分かってしまうだろうし。

 

「だ、大魔女様、こちらにおられましたか……」

 

 息を切らせたイージスが部屋に駆け込んできた。

 

「イージス……大体想像つくけど説明して」

「ね、義姉さん……分かったよ……当然だけど師匠の許可はでた。何故か俺より先に大魔女様がいらっしゃったけど。で、案内しようとしたら大魔女様が先に移動し始めて、追いかけて今に至るという訳」

「シア?」

 

 なにしているの、という目でシアを見つめると微笑みを返される。

 いや、迷惑かけたんだから笑うとかじゃなくて。

 ……でもシアは分かっててやっているんだろうな、これも。

 

「あ、そうそう。グレイもそろそろここに来ると思うよ」

「え、師匠が!?」

「そりゃそうでしょ。友人とはいえ客人だからな。義姉さんはこういうところたまに抜けるからな……」

「イージス!?」

 

「んぅ……?」

 

 どたばたと騒がしくなったからか、ソファーで寝ていたフィーの瞼が開く。

 それに気づかずヴァイオレットとイージスがもみくちゃにじゃれ……これは喧嘩なのだろうか?そういった感じで互いの頬や髪を引っ張りあっている。

 にこにことシアは微笑んでその様子を見守っていて。

 

「どういう状態なんだい、これは」

「ひやぁああああ!?」

 

 グレイさんが部屋に入ってきて呆れた表情を浮かべると同時にフィーが素っ頓狂な声を上げてソファーに逆戻りした。

 

 

 

「……なるほどね。フィーという子かい。そりゃそうだろうよ。普通に暮らしている魔女にはここは目にも魔力にも毒だろうし、聞く話では私らに心底心酔しているらしいじゃないか。フォス、そこら辺分かっててやったね?」

 

 私が一連の流れをグレイさんに説明すると、グレイさんは呆れたような目でシアの方を向く。

 ヴァイオレットとイージスはグレイさんに叱責され、再び倒れてしまったフィーの看病を見ている。

 二人とも頬が腫れているのは互いに強く引っ張りすぎたからだろう。

 

 シアは悪びれた様子もなく。

 

「まあ、別にいいかなと思って。いい子だし、アズも気に入ってるしね。それに貴女に用があるらしいから」

「ふぅん……でも貴女でも対応できただろう?」

「そういうの制約に引っかかるって知ってるよねグレイは」

「アズリエナちゃんにそれだけやっておいて制約も何もない気がするけどね」

「アズは条件が整ってたから特例なんだけどね。そもそもアズのお願いだから動いてるに過ぎないし」

「そういうものかい……まあ聞くだけは聞くけどね。応えられるかどうかは別だよ」

 

 そこまでグレイさんとシアが二人で話すと、そのまま寝ているフィーへと視線が集まる。

 

「……まあ、起きてからになるだろうね。とりあえずはそれ以外の話をしようか……と言っても私がイージスとヴァイオレットに、って程度」

「「師匠……?」」

 

 グレイさんの仄暗い笑みにイージスとヴァイオレットは身震いしながらも聞き返す。

 

「課題だよ。まだしばらく最終課題も答えられないだろうしね。魔の森深部の攻略。提出するものは緑透輝石、それも両手に収まるほどの球を作れるほどのモノ、かつ魔力がしっかりこもったものだ。……二人だけでとは言わない。手助けを求めてもいい。が、購入などで手に入れたものは分かるからね」

 

 その言葉に青ざめる二人。

 

「魔の森って……?」

「……ああ、アズリエナは知らないだろうね。師匠のこの宮殿……この下、と言っていいのか分からないけど被っている空間がそう呼ばれている。遠目で森があっただろ?あれが魔の森。入り口付近なら大した生物はいないんだけど……」

「奥に行けば行くほど、強力な生物……いいえ、魔物、怪物、そう言っても過言ではないものが住み着いているのよ……」

 

 イージスとヴァイオレットは唇を震わせながらも私の疑問に答えてくれる。

 明らかに様子がおかしいながらも。

 どうしたのかグレイさんを見てもにこやかにかわされる。

 でも大体想像がつく。

 恐らくそれに出会ってしまったのだろう。

 あの強気な二人がここまで萎縮するのだから相当の相手だったに違いない。

 

「ま、急ぎでもないからじっくりやるといいさ。『集会』まで時間もあることだしこの子の話は私が聞いておくから自由にしているといいさ。それこそ街に出るでもね」

 

 グレイさんはそれだけ言うとシアの腕を取り、フィーを抱えて出ていこうとする。

 

「あ、なら私もアズと一緒にいるから――」

「貴女さあ……ちょっとは離れてやりなさいよ。アズリエナちゃんだって一人の時間が欲しかったりするでしょうし」

「大丈夫、ちゃんと考えてるから。というか今お昼!ここに放っておくぐらいなら、ご飯くらい準備してくれてもいいんじゃないの?」

「貴女は食べなくて平気でしょうに」

「そういう問題じゃなくてさ」

 

「あの……」

 

「なんだい?」

 

 掛け合いを始めた二人に私は思わず声をかける。

 グレイさんは優しい表情でこっちをみながらシアの頬を引っ張っている。

 シアはまったく気にした様子もないが。

 

「フィーの件、ありがとうございます」

 

 グレイさんは私の礼にぽかんとした後。

 

「何、気にすることはないさ。解決も何もまだ聞いてすらいないんだからね。それにこれでも一応魔女筆頭だからね」

 

 そう笑い飛ばした。

 

「それでも、です。……あと、非常に申し訳ないのですが――」

 

 私が言葉を紡ごうとしたと同時に。

 

 くぅうぅうぅう~

 

 私のお腹が大きくなってしまい、頬が熱くなる。

 

「はははっ、ごめんなさいね。昼食はここから出て左手に三つ行ったところの食堂に準備してあるから食べにおいで。……イージス、ヴァイオレット、いつまで震えているんだい、案内しておやり!私は少し用事があるからね。シア、分かってるね?」

「はいはい、それじゃあ二人ともアズをよろしくね」

 

 私と茫然とする二人を置いてグレイさんとシアは部屋から出ていった。

 

「……やっぱり師匠がからむと嵐みたいね……はぁ……まあいいわ、アズリエナ行きましょ?」

 

 そう言ってヴァイオレットは私の手引いて食堂へと歩き出した――固まったままのイージスを置いて。

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