風柱――不死川が御屋形様の「禰豆子を容認してほしい」という言葉に異を唱え、自身の腕を切りつけた上で勝手に屋敷へ上がる。
他の柱は何か言いたげな表情をする者もいるが傍観を貫いていた。
縛られたままの炭治郎はなんとか妹の元へと向かおうとするが、蛇柱である伊黒に妨害されてしまいその場から動けなくなってしまう。
痛みに喘ぎ、息を吸うことのできない苦しさを耐えながらも視線だけはなんとか妹の方へと向ける。
その妹の入った箱は、今まさに不死川によって再び突き刺されようとしていた。刀を握った腕は振り上げられ、理性を失った禰豆子が顔を出した瞬間殺してやろうという意思が表情にそのまま現れている不死川は、逆手に持った刀を突き立てようと腕を振り下ろした。
声は出ずとも叫びたかった。
もうやめてくれと、これ以上禰豆子を傷つけないでくれと。
俺にならなんだってしていいから、だからもうこれ以上妹に手を出さないでくれ――そう願った。
炭治郎の頭上をなにかの影が過ぎ去っていったのはまさにその瞬間だった。
わずかに視界に捉えたのは翻った
その羽織りの主は禰豆子の入った箱に振り下ろされるはずだった不死川の刀を自身の刀で弾き、禰豆子の入った箱を不死川から庇うように向かい合う形で陣取っていた。
突然の出来事に周囲にざわめきが走る。
邪魔をされた不死川も一瞬驚いた表情をしたが、すぐに苛立ちと憎悪で顔を歪ませた。
「藤丸ゥ…てめェどういうつもりだァ……!」
「どういうつもり、っていうのはむしろこっちが聞きたいかな。現状を見るにあなたは既にいくつか独断を重ねているように見えるけど、これ以上勝手をするならこの場で拘束するよ」
「なんだと……!」
「一旦落ち着きなよ。というか他の皆も止めてよね!というか不死川君土足のままじゃん!上がるならちゃんと脱ぎなよ」
「今そんなこと言ってるねェだろうが!そこに!鬼がいるんだぞ!!」
「分かってるよ。炭治郎君の妹さんの禰豆子ちゃんでしょ。御屋形様から話は聞いてる。その時に御屋形様の意見も聞いた。その上であなたが納得しないであろうとも思ってた。だからこの状況を見ればあなたが何をしようとしてるのかも分かる。箱には既に刀傷がいくつか付いてるよね。あなたの血を使って反応を見たいなら、これ以上禰豆子ちゃんを無駄に傷つける必要は無いと思うんだけど」
「黙れ!いいからそこをどけ!!」
二人がお互いに譲らない状況が続き、どうなることかと思われたが、その一触即発の空気は御屋形様の一言で動き出す。
「その声は立香だね、おかえり。実弥を止めてくれてありがとう。箱を開けてあげてくれるかな。それで実弥も納得してくれるはずだよ」
立香と呼ばれた女性は御屋形様の言葉に従い取っ手をつまんで箱の戸を引く。少しだけ軋むような音を立てたが、抵抗なく開いた。
中からゆっくりと禰豆子が起き上がってくる。
額にびっしりと汗をかき、瞳孔は狭まり口元からは唾液が幾筋か垂れていた。興奮したように荒い呼吸音を立てている。
それ見たことかと言わんばかりの顔で立香を見る不死川に対して立香はただ黙って禰豆子を見つめていた。
不死川の血の流れる腕を数秒見つめ続けたが、兄である炭治郎の声を掛けられるとそんな物に興味はないと顔をそむけた。
何が起こったのか未だ理解出来ずに呆けた顔を晒している不死川を横目に立香は禰豆子に向けて小さく「よく頑張ったね」と声を掛け、御屋形様の元まで歩み寄った。
「遅れ馳せながら、
御屋形様はその言葉に満足そうに頷き、朗らかな笑みを浮かべた