オデッサの一角、鉱山エリアとは別のエリア、港湾施設などが存在する港湾エリアに隣接する軍事基地の一角。
ジオン公国の地球方面軍の司令部として利用されている施設の中を、第046独立部隊の三人が進んでいた。
「なぁ、ランドニー。本当にサイン貰う人がいるの、こっちで合ってるのか?」
「あぁ、間違いないが。どうしたシモン?」
「いやー、なんかこう、この場所、重苦しいと言うか、ピリピリしてると言うか……」
通路を進む中で、シモンは漂う雰囲気が重苦しいのを感じ取った様だ。
すれ違うNPCのジオン軍人たち目つきも、鋭く見定めるかの如くと表現している。
「ま、場所が場所だし、仕方ないさ。あ、そうだ、特にシモン。これからサイン貰いに会う人はとても高貴なお方だから、粗相のないようにな、軍服とか、きっちりしとけよ」
「おい、俺名指しかよ!」
名指しされた事に不満を漏らすシモンではあったが、ランドニーの忠告を受けて、自身の着ている軍服に汚れやヨレ、着崩し箇所がないか等を確かめるのであった。
こうして、身嗜みに問題がない事を確認しながら、三人は、目的の人物がいる部屋の前に差し掛かろうとしていた。
「──では、失礼いたします閣下」
すると、目的の部屋から、二人の軍人が出てくる。
一方は整えられた顎髭が素敵な中年と思しき恰幅の良い体格の男性で、マントが付けられ、同じく取り付けられた階級章は、男性が大佐の階級を有する者であると示していた。
そしてもう一方は、濃い青色を基調とした、女性用の軍服とは異なる、所謂女性秘書官用の制服を身に纏った、知的な女性。階級章には、女性が大尉である事を示していた。
そんな二人の軍人とすれ違った三人は、敬礼を行いながら見送ったが。
二人の軍人が角を曲がり、その姿が見えなくなるや、先ほどの二人についてランドニーが声を上げた。
「ユーリアン見たか!? ローデン大佐とコンティ大尉だったぞ! いやー、感動! 本物をこの目で見れて!」
「そうだな、やっぱり生で見るのは違うな」
「え? あの二人、有名なのか?」
興奮気味のランドニーに、あまり表に出てはいないものの、同じく興奮しているであろうユーリアン。
そんな二人に対して、先ほどの二人がとあるガンダム作品に登場するキャラクターとは知らない様子のシモンは、何故二人がここまで興奮しているのか、疑問符を浮かべるのであった。
それから暫くして、二人の興奮も、特にランドニーが大分落ち着きを取り戻してきた頃。
三人は、本来の目的であった、受領書へのサインを貰うべく、目的の部屋の前に足を運んだ。
「どうぞ……」
「失礼します!」
部屋の主からの入室許可を得て、部屋に足を踏み入れる三人。
そこで三人が目にしたのは、高価な執務家具や調度品、それに、価値の高そうな磁器等が飾られた、執務室内の様子であった。
その様子に、三人は自然と背筋が伸びる。
「確か君達は、第046独立部隊の面々だったね。それで、今回はどの様な用件で私の執務室を訪れたのかね?」
そんな執務室に設けられた執務机で、執務机の上に置かれた書類をさばいている、少々血色の悪そうな頬がこけた男性こそ。
この執務室の主にして、ジオンの地球方面軍の司令官を務める人物、マ・クベ中将その人であった。
因みに、その傍らには、彼の副官を務める身長一九〇センチを誇る恵まれた体格の男性。
ウラガン中尉が、仏頂面のまま直立不動で立っている。
「は! 本日、マ・クベ中将閣下のもとを伺いましたのは、こちらの新型機運用テストに関する受領書に、閣下のサインをいただきたく、伺った次第であります!」
「ほぉ……」
マ・クベ中将が手をかざすと、ウラガン中尉が静かに動き始める。
ランドニーが差し出した受領書を受け取ると、それをマ・クベ中将に手渡す。
そして、自身の役割を終えたウラガン中尉は、再び元の位置へと戻るのであった。
「あぁ、この新型機の事か」
受領書の内容を確認し、関係する記憶を思い出したかのようにぽつりと零すマ・クベ中将。
刹那、執務机に置かれた万年筆立てから万年筆を手に取ると、受領書に、自らのサインを記入していく。
「これで問題はない筈だ」
再び動いたウラガン中尉を介して、受領書を受け取ったランドニーは、敬礼しつつ感謝の言葉を述べるのであった。
「では、失礼いたします!」
「あぁ、君達、待ちたまえ」
こうして用件を済ませ、退室しようとした三人を、不意に、マ・クベ中将が制止を促す。
「諸君も知っての通り、我がジオン公国は連邦に対して国力で劣る。故に、今や戦局を左右する存在となったモビルスーツ、その新型の開発と配備は、急務である」
そこで一旦息を整えると、マ・クベ中将は再び語り始める。
「故に、新型機の配備を一日でも早く行われんと身を粉にする君達に期待するところ、大である」
「は! ジオン公国勝利の為、第046独立部隊一同、粉骨砕身する所存であります!!」
「ふふ、では、期待しているぞ。……、あぁ、最後に一言。あれは、いいものだ」
直立不動の敬礼の後、マ・クベ中将の執務室から退室した三人は。
暫く移動した後、まるで緊張の糸が切れたかの如く、通路の壁に手をつき、ため息を零し始めた。
「はー、緊張した」
「本当だね」
「あ、あれ、本当にNPCか? 威圧感というか、纏った雰囲気が本当の軍人みたいというか……」
各々がマ・クベ中将と対面した感想を漏らす中。
ランドニーが、思い出したかのように話し始めた。
「そう言えば噂で聞いたことがある。ジオンと連邦、双方の一部将官はNPCではなく、運営の中の人が務めてるって」
「でも、それは……」
「ま、あくまで噂だよ」
「どっちにしても、あの刺さる様な鋭い視線は生きた心地がしねぇよ」
マ・クベ中将と対面で多大な精神的疲労を被った三人。
しかし、そんな苦難を乗り越えた先には、明るい未来が待っている。
「ま、兎に角。受領書にサインは貰えたんだ。さ、我らが第046独立部隊の新しい戦力となる新型機を受け取りに行こうや」
「あ、所で、その新型機のパイロットは、俺とシモン、どっちが?」
「そりゃ、我らが第046独立部隊の頼れるエース、ユーリアン、お前に決まってるだろ。……ま、元々このミッション、プレイヤーの階級が"少尉"以上でないと受けられない条件だったし、その点で言えば、ユーリアンの階級は既に"少尉"だから問題ないだろ?」
第一次降下作戦のイベントを通じて、ユーリアンの階級は既に少尉にまで昇進していた。
因みにシモンは、スナイパーと言う性格上、多数の敵を撃破する事は難しく、階級は曹長のままである。
「ま、仮に俺が条件満たしてても、俺の戦い方じゃ、持て余すだけだろうし。妥当な判断だな」
「お、分かってるじゃないかシモン。それじゃ、そんな身の程を弁えてるシモンには、ユーリアンのお古を差し上げよう! いいよな、ユーリアン?」
「あぁ、いいよ」
「そりゃ助かる。……あ、それじゃ、俺のお古になるザクIはどうするんだ?」
「ま、とりあえずは保有しておいてだな。ゴールドに困ったら売ってもいいし、万が一の場合は現役復帰させるか、だな」
俺の野望では、プレイヤー同士で保有しているモビルスーツを交換や譲渡する事が出来る。
ただし、当然ながらそれらを行えるのは同じ勢力に属しているプレイヤー同士であり、交換や譲渡を行うにあたっては、互いに同意している事が望ましい。
「所でランドニー」
「ん? 何だ?」
「俺が乗る事になる新型機って、どんなモビルスーツなんだ?」
「ふふふ、それは見てからのお楽しみってやつだ」
意味深な笑みを浮かべるランドニーは、早く新型機を受け取りに行こうと、再び歩み始める。
そんな彼を、残りの二人は後を追うのであった。
オデッサの軍事基地内の一角。
燃料や消耗品等を積載した車輛が脇に止まり、整備士達が額に汗をかきながら忙しそうに右往左往しているその場所は、格納庫群であった。
「だからぁっ! そのコンテナはBブロックの格納庫だって、何度言えば分かるんだよ!!」
「バーニア用の部品はどうした!? あ? 間違ってBブロックの格納庫の方に持っていっただぁ!? おい誰だよ、担当者は!!?」
「そっとだ、そっと! ……馬鹿野郎! 余計にフレームを歪ませる気か!! 女の下着を脱がすように優しくやれってんだよ!!」
整備の為の機械音に整備士達の怒号が飛び交うこの場所を、三人は歩いていた。
「えーっと確か、A-9って書かれた格納庫の筈だが……。っと、あった、ここだ」
そして、とある格納庫の前で、三人はその歩みを止めた。
三人の目の前にある格納庫には、A-9という番号がでかでかと書かれている。
「すいませーん! ここの責任者の方、いらっしゃしますかーっ!」
格納庫内に足を踏み入れると、そこでは、ハンガーに固定されたザクIIの整備が行われていた。
整備の音に負けぬよう、声を張ったランドニーに応えるかのように、汚れてくたびれた作業着を着た、褐色肌の男性が一人、三人のもとへと近づいてくる。
「ここの責任者のブラハルトです。少佐、本日はどの様なご用件で?」
「この度、我が第046独立部隊で新型機の運用テストを行うことになった。それで、その新型機の受領の為にやって来た訳だ」
ブラハルトと名乗った整備士に、ランドニーは受領書を手渡しながら赴いた理由を説明する。
すると、受領書の内容と、マ・クベ中将のサインを確認したブラハルトは、声を張り上げ部下を呼んだ。
「ドメニー!! 例の新型機を持ってこい! 受取人がやって来たぞ!」
「了解です! 班長!」
ドメニーと呼ばれた整備士が格納庫の奥へと消え、それから幾分すると。
格納庫の奥から、通常サイズのトレーラーを凌ぐ、巨大なトレーラーが姿を現した。
その荷台には、シートが掛けられた巨大な何かが横たわっている。
「ブラハルト班長、すまないが、シートを外してくれるか?」
「了解しました」
ブラハルトの指示で、整備士達が荷台に掛けられたシートを外し、荷台に横たわっている物の正体が露わとなる。
「これって……」
「そう、これが、今回お前に搭乗してテストしてもらう新型機」
真上から見下ろせない為、その全体像を見る事は叶わなかったが。
それでも、トレーラーの周囲を回り、荷台に横たわるその新型機の外見を目にしたユーリアンは、カラーリングや形状などから、新型機の正体を把握していた。
「形式番号MS-07B-3、陸戦用モビルスーツ、グフの改良型。その名を、グフカスタムだ」
故に、ランドニーが新型機の正体を明かしても、ユーリアンの視線は荷台に横たわるグフカスタムに釘付けなままであった。
「わーっ! 見て見てケン! 新型の陸戦用モビルスーツだよ!」
「ん?」
と、グフカスタムに視線を釘付けにしていた為、後ろから近づいて来ていた者達に気付かなかった三人。
突然の女性、それも幼さの残る若い女性の声に、揃ったように三人が振り返ると。
そこには、数人の軍人の姿があった。
しかも、その内の一人、白い軍服を着た女性は、明らかに成人しているとは思えぬ程幼さの残る容姿の女性であった。
「あ、あぁ、あ……」
「いいなぁー、新型だよ、新型!」
「これが、グフ、と言う陸戦用モビルスーツなのか……」
「違うよケン! あれはグフの改良型で、グフカスタムって名前の最新型だよ!」
「ま、何でもいいが、どうせ俺達には縁のない機体さ」
「つまんねぇ事言うなよ、ガースキー曹長。もしかしたら、俺達の隊にも回ってくるかも知れねぇぜ?」
「あのモビルスーツって、やっぱりザクよりも強いんでしょうか?」
「強いなんてものじゃないよ! 運動性や機動性は、ジオン製モビルスーツの中でもトップクラスなんだから!」
グフカスタムを目にして盛り上がる軍人達。
そんな軍人達の姿を目にしたランドニーは、軍人達の正体を知っているのか。
驚きの表情になったかと思いきや、次の瞬間には目を輝かせだすなど、明らかに平常心を失っている。
「え、MS特務遊撃隊、レッドチームの皆さんですよね!!」
そして遂に、ランドニーは気持ちを抑えきれなくなったのか、軍人達に声をかけた。
「あぁ、そうだが?」
「おいおい、誰だよあの野郎、なんか俺達の事を見て興奮してねぇか?」
「レッド・スリー、仮にも少佐殿に対してあの野郎はいただけねぇな」
「でもよぉ、ガースキー曹長」
「もしかして、私達のファンでしょうか?」
「ユウキって、時々凄い発想するよね」
「え?」
突然声をかけられた軍人達は戸惑いを隠せない一方、ランドニーは構わず彼らに握手を求めるのであった。
「MS特務遊撃隊の皆さんにこうして直接お目にかかれて、いやー、本当に感激だなぁ!」
一人一人と握手をしていくランドニー。
そんなランドニーの、何故か自分達よりも階級が高い筈なのに、へりくだった様子に、困惑の色を隠せないMS特務遊撃隊の面々。
一方のランドニーは、今までモニター越しにしか見れなかった人物達が、仮想現実とはいえ、生で対面できた事に感動し、自然と腰が低くなっていたのである。
「あ、あの、少佐殿」
「はい? 何でしょう!? ケン・ビーダーシュタット少尉?」
「少佐殿は、我々の事をご存知のようだが、何故、我々の事を?」
「それはもう、小説やゲー……」
「小説やゲー?」
「いやーいやいや! あ、あれだ! 数々の輝かしい戦歴を残したダグラス・ローデン大佐が結成した部隊ですから! 知らない者なんていませんよ!」
危なくメタ発言をしそうになったランドニーは、寸での所で誤魔化すと、この話題をこれ以上を深掘りさせない意味も込めて、思い出したかのように自らの自己紹介を始めた。
「自分は、第046独立部隊の司令官を務めるランドニー・ハート少佐であります! そして彼が、我が部隊のエース、ユーリアン・ルク少尉に、我が部隊の頼れるスナイパー、シモン・ヘイチェフ曹長」
「よろしくお願いします」
「どーも、よろしく」
自身の自己紹介のみならず、ユーリアンとシモンの紹介も終えると、MS特務遊撃隊の面々が自己紹介を始める。
と言っても、既にランドニーとユーリアンは彼らの事を知っている為、主に耳を傾けているのはシモンであった。
「はいはーい! お互いに自己紹介も終わった所で質問していい?」
こうして互いに自己紹介を終えると、白い軍服を着た少女、メイ・カーウィンが元気よく質問を投げかける。
「あのグフカスタムって、ルク少尉とヘイチェフ曹長のどっちが乗るの?」
「俺が乗ります」
メイの質問に、ユーリアンは小さく手をあげながら自分だと答える。
「ねぇ、少尉、少尉さえもしよければ、あとで後でグフカスタムを操縦した感想とか聞かせて!」
「お、おいメイ、感想を聞かせてって。新型機のテストは、俺達とはあまり関係ないだろ?」
メイのお願い事に、小隊長であるケンが待ったを掛けた。
「そんな事ないよケン! もし今後、同型機が部隊に配備されたら、その時には今回聞いた感想が大いに役立つんだから! 実際の戦場で、現役のパイロットが使った感想って言うのは、私達エンジニアにとって、すっごく貴重な情報なんだから!」
「そ、そうか」
力説するメイの気迫に、ケンは押され、反論する事は叶わなかった。
「あの、俺の感想なんかでよければ、幾らでも話しますよ」
「本当! それじゃ、これ、私の連絡先ね!」
「あの少尉殿も大変だな、メイの質問はそら事細かいってのによ」
「それはお前の感想が大雑把すぎるだけじゃないのか、ジェイク?」
「な!? 俺だって、一応細かくは伝えてるつもりですよ、ガースキー曹長!」
「でもガンス軍曹の報告って、大雑把なのが多いですよね」
「ユウキ!? おめぇまで!」
「いやー、分かりますよ、その苦労。うちの司令官もお金に関しちゃ丼勘定だから」
「待て待て! どうしてその流れから俺の金遣いの話になるんだ!」
「そうなのか、なら、その点で言えばローデン大佐の方が、管理はしっかりしてるな」
「いやいや、分かりませんよ隊長。もしかしたら、コンティ大尉の補佐なしじゃ、少佐殿とどっこいだったりして」
「それじゃ、ハート少佐も、コンティ大尉のような秘書官を付けてみてはどうでしょうか?」
「え? 俺、もう金の管理が出来ないって事にされてんの?」
ユーリアンがメイと連絡先を交換している最中、MS特務遊撃隊の他の面々とランドニーとシモンの二人は、お金の管理に関する話で盛り上がるのであった。
こうして妙な成り行きながら親交を深めた面々は。
互いの本来の用事を済ませるべく、別れるのであった。
「いやー、まさかMS特務遊撃隊の皆さんと親交を持てるとは。これは、何れ彼らを我が第046独立部隊に加えよとの神のお告げか!?」
「でも、ローデン大佐もとなると、階級も上げなきゃならないし。何より、全員採用する為のゴールドを貯めないとね」
「そうそう、金があったら、つい欲しい物買っちゃうからな、ランドニーは。頑張って貯めないとな」
「い、言ったな! 見てろよ! もう同じ
運用テストの為のグフカスタムと、新たにシモンの乗機となったザクIIF型、二機を搭載した第046独立部隊の母艦たるギャロップは。
ルッグンとマゼラアタック一個小隊を引き連れ、オデッサを後に、一路、ミッションである運用テストの為のエリアへと向かっていた。
その道中、ギャロップの艦橋では、ランドニーが新たな誓いを立てるのであった。