オデッサの中心地から北部に約二七〇キロメートル、旧ウクライナの中心部に位置する州の一つチェルカースィ州。
同州の都市の一つであるウーマニ。
日本語ではウマニともウマンとも呼ばれる事のある同都市の郊外付近に、第046独立部隊一行の姿があった。
「偵察中のルッグンから連絡。市内に敵モビルスーツ隊の存在を確認」
「詳細データの転送を確認、モニターに表示します」
艦橋乗組員の報告に合わせ、艦橋内のモニターに、ルッグンから送られてきたウーマニ市内の偵察データが表示される。
上空から撮影したウーマニ市内の地図に、赤い光点が表示されていく。
現在、ヨーロッパ地域におけるジオンと連邦の最前線は、旧ポーランド・スロバキア・ハンガリー等を分断する形に形成されている。
しかし、それ以東の、ウーマニのような地域であっても、そこが完全にジオン側の勢力圏内になっている訳ではなく。
帰属の不明瞭な空白地帯が点在し、前線から離れた後方であっても、完全に安全と言う訳ではない。
故に、少数の敵部隊などが侵入していも、不自然ではないのだ。
「敵モビルスーツ隊の使用機種は?」
「解析完了、別モニターに表示します」
別のモニターに表示されるのは、敵となる連邦モビルスーツ部隊の詳細な使用機種。
そこに表示されたのは、ザニーのような見慣れた機種の他、連邦側プレイヤー以外では、NPCが使用する機種としては初となる機種も存在していた。
赤を基調とした塗装に、両肩に装備された二門の二四〇ミリ低反動キャノン砲。
ガンキャノン最初期型の色違いの二門キャノン仕様にも見えるそのモビルスーツの名は、形式番号RX-77-2、ガンキャノンである。
本来ならば、固定武装のキャノン砲の他、標準武装としてビームライフルを装備している筈だが。
今回装備しているのは、ジムマシンガンであった。
「ガンキャノン二体にザニー四体、それに61式戦車が複数か……」
モニターに表示された敵の詳細な情報に、ランドニーは顎に手を当て、この敵をどの様に撃破するか、その為の作戦を練り始める。
やがて、ある程度作戦の骨格が組みあがった所で、ランドニーは、それぞれの乗機のコクピットで出撃の時を待っている二人を呼び出す。
「それじゃ、これから作戦を伝えるが、その前に一言。さっきも説明した通り、今回のミッションの成功条件は、敵部隊の撃破と、グフカスタムの生還だ。つまり、敵を倒してもグフカスタムが撃破されればミッションは失敗だ。だから、もしもの時はシモン、お前が身を挺してグフカスタムを守るんだぞ」
「遭遇戦や通常のミッションなら怒る所なんだろうが、ま、成功条件なら仕方ないよな。りょーかい、万が一の場合は、文字通り死んでもユーリアンのグフカスタムを守ってやるよ」
モニターに映し出されたシモンは、仕方ないと言わんばかりの表情と共に、ランドニーの意見に同意する。
「じゃ、改めて作戦を説明する。まず敵部隊の位置と詳細は、送ったデータ通りだが、一番脅威となりそうなのは何といっても二体のガンキャノンだ」
ランドニーの説明に、モニターに映し出された二人が頷く。
「そこで、優先的にこの二体のガンキャノンを撃破する事を前提とする作戦だが。先ず、ミノフスキー粒子を散布した後、シモンが狙撃でガンキャノン一体を撃破、その後、マゼラアタック小隊の支援砲撃で敵の注意を散漫にさせ、その直後、グフカスタムの機動性とユーリアンの腕前を持って残ったガンキャノンを撃破、そして、最後に残敵を掃討して、ミッションコンプリート。という流れの作戦だ」
「大まかな流れは分かったけど、最初の狙撃で残りの敵が警戒して固まる可能性は?」
作戦を聞いたユーリアンが、ふとした疑問をランドニーにぶつける。
すると、ランドニーは赤い光点が示された市内の地図を表示させながら、疑問に答えていく。
「見て分かる通り、敵はそれぞれのガンキャノンを隊長機として二個小隊を形成している。便宜上A小隊とB小隊と称する両小隊だが、その配置は、こちらとしては幸いなことに分散している。両小隊の間には湖が存在し、両小隊が合流する為には、どちらかが湖の縁を移動しなきゃならない。つまり、容易に合流は出来ない訳だ」
「なーるほどな。……所で、この作戦って、何気に初弾の俺の一発が重要なんだよな?」
「ご名答。でも、我らが頼れるスナイパー、シモンなら、一撃でガンキャノン位倒せるだろ?」
「気軽に言ってくれるよ……。ま、でも、そう言われちゃ、やってやらない訳にもいかないしな」
「流石は未来の名スナイパー! ま、もし万が一狙撃に失敗しても、ユーリアンが何とかカバーしてくれるだろうから、安心しろ」
「おい! そこは他人頼みかよ!?」
こうして最後に、おそらく冗談と思しきものを交え、作戦の説明が終わると、いよいよ、出撃の時が訪れる。
ギャロップの船体前方に設けられたハッチが開き、格納庫内に眩いばかりの光りが差し込む。
そんな差し込んだ光のカーテンに、モノアイを赤く点滅させた二体の巨人が歩みを進める。ユーリアンのグフカスタムと、シモンのザクIIF型だ。
「ユーリアン、出ます!!」
「シモン、いっくぜーっ!」
掛け声と共に、二体の巨人がギャロップより出撃する。
それに続くように、指示を受けたマゼラアタック小隊も、砲撃地点へと展開すべく、砂煙を立て前進していく。
一方、ギャロップの艦橋で推移を見守るランドニーは、新たな指示を飛ばす。
「ミノフスキー粒子の散布を開始」
「了解、ミノフスキー粒子、散布開始します」
「シモン、出来ればミノフスキー粒子の散布が完了するまでに、狙撃ポイントに到着してくれよ」
「わーってるよ」
愛用のMS用対艦ライフル ASR-78を肩に担いだシモンのザクIIF型は、ランドニーの急くようなお願いに、走る速度を速めるのであった。
それから数分後、味方を示す青い光点が所定の位置へと展開した事をモニター上で確認したランドニーは、各々に最終確認を尋ねる。
「ユーリアン、準備は?」
「こっちはいつでも」
「シモン、何時でもいけるか?」
「あぁ」
「カフェオレパパよりビター・リーダー、そちらも準備はいいか?」
「こちらビター・リーダー、砲撃準備完了。ご命令あればいつでも砲撃可能です」
ユーリアンにシモン、それにビターチームのコールサインを持つマゼラアタック小隊も準備が完了した事を確認し。
ランドニーは、戦闘開始を告げる命令を下す。
「ミッション開始! 上手くやれよ!」
戦闘開始を告げる命令が下され、一番に動いたのは、シモンであった。
ウーマニ市の郊外、大型スーパーの屋上で片膝をつきMS用対艦ライフル ASR-78を構えたシモンのザクIIF型は、その銃口を目標に向けていた。
「さぁ、おっぱじめようぜ」
コクピットのメインモニターに表示されたレティクルを、目標であるガンキャノンのコクピットに合わせたのを確認すると。
シモンは、小さく呟き、そして、操縦桿のトリガーを引いた。
刹那、轟音や機体を震わせる振動と共に、一発の一三五ミリ弾が放たれ、ウーマニ市内を突き抜ける。
コンマ数秒、ウーマニ市内を突き抜ける弾道を描いて飛来した一三五ミリ弾は、まるで吸い寄せられるかのように目標のガンキャノンのコクピットに着弾する。
もはや即死だろう。弾丸の勢いに引き寄せられ倒れこんだガンキャノンは、再び起き上がる事はなかった。
「カフェオレパパよりビター・リーダー、砲撃開始!」
「ビター・リーダー了解! ビター・リーダーからビターチーム各員へ、砲撃開始!」
「ビター・ツー、了解!」
「ビター・スリー、了解」
隊長が凶弾に倒れ混乱する敵A小隊、一方のB小隊も、攻撃地点も分からぬ突然の攻撃に、困惑の色を隠せない様子だ。
そんな彼らに、更に追い打ちをかけるかの如く、ビターチームによる砲撃が降り注ぎ始める。
マゼラアタックの主砲である一七五ミリ無反動砲から放たれる榴弾が、A・B両小隊に降り注ぎ、周囲の建物を瓦礫へと変貌させていく。
「こ、こちらアルファ・スリー! アルファ・ツーもやられた! くそっ! 下手人はどこだよっ!?」
そんな中、シモンの狙撃も続いていた。
「弾幕! 弾幕を張りつつ後退!! ベータ・リーダーよりアルファ・スリー、弾幕を張りつつ後退しろ!」
何処からとも分からぬ狙撃と砲撃に、B小隊の小隊長を務めるベータ・リーダーは、兎に角我武者羅に発砲して弾幕を形成させつつゆっくりと後退していく。
適当に撃って相手が怯んで手を止めてくれれば儲けもの、という計算だろう。
後退しつつ火を噴く二四〇ミリ低反動キャノン砲にジムマシンガン、市内の建物を次々と瓦礫に変えていく中、ふと、砲撃が止んでいる事に気が付く。
ラッキーヒットがあったのか、と思って一旦後退を止めたが、実はそれは誤りであった。
本当は、B小隊に接近した味方を砲撃に巻き込まぬよう、中止しただけだったのだ。
「な!? 敵の反応!? いつの間にこんな近……」
近くのビルの影から突如現れたユーリアンのグフカスタムに、ガンキャノンを操るベータ・リーダーは応戦しようとするも。
手にしていたジムマシンガンの銃口を向けるよりも早く、ユーリアンのグフカスタムはその俊敏性を生かして一気にガンキャノンの懐に飛び込むと、右手に持っていたヒート・サーベルを、ガンキャノンのコクピット目掛けて突き刺した。
刹那、まるでパイロットの生命力を現すかの如く、ガンキャノン頭部のメインカメラの光が消えた。
「た、隊長!?」
「くそがっ!」
一瞬の内に隊長が倒され、その下手人であるユーリアンのグフカスタムに対して怒りを向けるベータ・ツーとベーター・スリー。
各々が乗るザニーが手にしたジムマシンガンを向けたのだが、そこで、二人は操縦桿のトリガーを引く事を躊躇ってしまう。
それは、二人の乗るザニーの位置からユーリアンのグフカスタムを攻撃しようとすると、丁度ガンキャノンが盾として機能してしまうからだ。
そして、ユーリアンは、そんな二人の一瞬の隙を見逃さなかった。
ガンキャノンを盾として利用しつつ、グフカスタムの左腕に装備している攻守一体型の武装、ガトリング・シールドの七五ミリガトリング砲を起動させると。
モーター音の鳴り響く中、その銃口を、ベーター・スリーの乗るザニーへと向けた。
「うわぁぁっ!?」
刹那、銃身の高速回転と共に次々と銃口から放たれる七五ミリ弾の雨は、ベーター・スリーの乗るザニーを、文字通りハチの巣へと変貌させていく。
排出される空薬莢の数々、金属音を立て地面に落ちていくその数から、直撃を受けたベーター・スリーの命運が如何に悲惨かを容易に想像させる。
そんな味方の悲惨な最後を目の当たりにしたベータ・ツーは、怒りと恐怖が入り混じった声を上げながら、ユーリアンのグフカスタム目掛けてジムマシンガンを発砲する。
が、予想通り、ガンキャノンが盾となり、致命弾を浴びせる事は出来ない。
「こちらベータ・ツー! おい戦車隊聞こえるかぁ! 何やってるんだ!! すぐに来て援護しろよ!」
「こちら戦車隊、そちらに向かおうにも、建物の瓦礫が道を塞いで直ぐには向かえない」
戦車隊からの応答に、ベータ・ツーの頬を嫌な汗が流れ始める。
まさか、自分達が張った弾幕が原因なのか。
自分達の行いが、結果として味方戦車部隊の足を止め、数的優位であった筈の自分達の破滅を呼び込む結果になろうとは。
「じょ、冗談じゃ……」
最後にベータ・ツーが目にした光景は、自らのザニーに向けられる、高速回転し硝煙を吹き消す七五ミリガトリング砲の銃口であった。