「こちらランドニー、ユーリアン、そっちの状況はどうだ?」
「こちらユーリアン、最後の一輌を撃破した所だ」
目の前の道路で黒煙を上げるのは、七五ミリ弾により鉄塊と化した一輌の61式戦車。
ユーリアンの活躍により敵B小隊を、シモンの狙撃により敵A小隊を見事に撃破した第046独立部隊は、残敵である61式戦車の掃討戦に移行していた。
ビターチームの砲撃と、ユーリアンのグフカスタムの性能を持って、掃討戦は速やかに終息を見せた。
「よーし、損害らしい損害もなく、まさにパーフェクト・コンプリート! ってやつか」
ユーリアンからの報告に、ランドニーはガッツポーズし喜びを表現する。
これでミッションは成功し、報酬としてグフカスタムを手に入れられることが確実となり、第046独立部隊の戦力は飛躍的に向上する事になる。
「それじゃ、ユーリアンとシモンはギャロップに戻って……」
「司令! 上空待機中のルッグンから緊急連絡! 地上から攻撃を受けたとの事です!」
「はぁ!?」
艦橋乗組員からの緊急報告に、ランドニーは思わず妙な声色で反応してしまう。
「地上から攻撃を受けたって……、ルッグンの状況は!?」
「乗員は無事に脱出した模様。ですがルッグン本体の方は右主翼をビーム兵器と思われるもので撃ち抜かれ、墜落しています」
「え? ビーム兵器!?」
乗員の無事に安堵したのも束の間、ルッグンの撃墜原因に、ランドニーの顔から血の気が引いていく。
「ど、何処から撃ってきた! 攻撃ポイントの特定は!? 攻撃してきた奴の詳細は!?」
「お待ちください。……ルッグンが攻撃される寸前に送られたデータがあります」
艦橋内のモニターに表示されたのは、ルッグンが攻撃される寸前に撮ったと思われる写真。
上空から望遠で撮られたと思しきその写真は、緊急時の為か、ピントがずれて被写体がぼやけてしまっていた。
しかし、ぼやけていても被写体の輪郭や色合いなどから、ランドニーはその被写体、ルッグンを撃墜した下手人の正体を、見破っていた。
「おいおい、マジかよ。……"陸ガン"かよ」
白を基調とする四肢に、青を基調とする胴体。そして、頭部のツインアイにV字アンテナ。
RX-78 ガンダムの規格型落ち部品を基に、地球連邦の陸軍が主導して開発された、ガンダムの陸戦用再設計モビルスーツ。
RX-79[G] 陸戦型ガンダム、通称陸ガンとも呼ばれる、連邦製の高性能陸戦用モビルスーツだ。
写真に写っていたのは小隊と思しき三機編成の陸戦型ガンダム。
内二機は、形式番号YHI YF-MG100、小型で取り回しの良い一〇〇ミリマシンガンに、打撃武器としても使用可能な小型のシールドを装備しているが。
最後の一機は、細長いライフル状の武装を装備していた。
「しかもロングレンジビームライフル持ちがいるのかよ、厄介だな……」
ライフル状の武装の正体、型式番号BLASH XBR-X-79YK、ロングレンジビームライフル。
その名称の通り、狙撃可能な長射程を誇るビームライフルは、まさに脅威そのもの。
そしておそらく、ルッグンを撃墜したのも、ロングレンジビームライフルを装備した陸戦型ガンダムであろう。
(NPCが陸ガン使ってるなんて情報はまだなかった、なら連中は多分プレイヤー。NPCを雇ってるかどうかは分からないが、最低でも一人はプレイヤーがいる。しかも、もしプレイヤー一人なら、僚機分も含めて買い揃えてる筈だ。だとすると、相応にやり込んでるか課金戦士のどっちかだが……)
顎に手を当て、突然の乱入者たちの正体を推測するランドニー。
他のプレイヤー達や、ジオンや連邦、両勢力などの動向は、現実世界の攻略サイトやSNS等に、断片的ながら記載され、それらを目にする事もある。
それらの断片的な情報源によると、既に両勢力の一部プレイヤーは、改造などではなく、ノーマル状態で現時点で入手可能な最高性能のモビルスーツを手に入れているとも言われており。
両勢力の一部"廃人"とも呼べるやり込みプレイヤーは、既に最高の高みへと登り詰めていた。
そして、陸戦型ガンダムの小隊が、そんな廃人プレイヤーかどうか、それを確かめる術は現時点ではない。
しかし、こだわっているのでなければ、陸戦型ガンダムよりも高性能な連邦製モビルスーツは数多く存在している。
となると、あの小隊にいるプレイヤーが、廃人と呼ばれるやり込みプレイヤーである可能性はそれ程高くはない。
であれば、次に考えられるのは、ランドニー達と同じ上の下、或いは中堅辺りのプレイヤーである。
同レベルのプレイヤー達は、既にザクやザニーのような機種から、原作等で対モビルスーツ戦を想定して開発された機種に乗り換えており。
その事実は、攻略サイトやSNS等の情報源から、既に多くの者が知る所であった。
(相手の実力が俺達と同等かどうかはさておき、どっちにしてもロングレンジビームライフル持ちは厄介だな。逃げるにしても、背中から狙われちゃ、折角手に入れたグフカスタムが失われる可能性だってあるしな……)
とりあえず相手の実力を推し量るのは棚上げし、ランドニーは、ロングレンジビームライフルへの対処に考えを巡らせる。
折角ミッションが成功し、グフカスタムを手に入れても、ロングレンジビームライフルにより撃破されてしまえば、今までの苦労は水の泡だ。
ジオンの開発レベルはまだグフカスタムを開発していない為購入できないし、ランドニー自身の開発レベルも、まだグフカスタムを開発するまでには至っていない。
故に、ここでグフカスタムを失えば、再び手に入れるまで時間を要する事になる。
それだけは、避けたかった。
「よし……、大至急ユーリアンとシモンに連絡を!」
「了解!」
簡単な対策の組み立てを終えたランドニーは、直ちにユーリアンとシモンの二人に連絡を入れる。
刹那、応答したユーリアンとシモンの二人は、各々に今起こっている事への説明をランドニーに求める。
「おいおい、何が起こってんだ!? さっき上空に向かっていく、ビームの光線みたいなものが見えたぞ!?」
「ランドニー、一体何が起こってるんだ?」
「ちょっと不味い事になった。ウーマニ市の北西方向から、陸ガン三機で構成された一個小隊が侵入、しかも内一機は、ロングレンジビームライフルを装備してる。そいつのお陰で、大事なルッグンが墜とされちまった」
ランドニーの説明に耳を傾けながら、ユーリアンとシモンの二人は、各々の機に送られた敵小隊の現状判明しているデータを確認している。
「なお、現状敵陸ガン小隊に俺達の位置や戦力がバレた可能性は低いと思われるが、相手は機種からも分かる通り、俺達と同じプレイヤーだ。そう簡単に、俺達をオデッサに帰してはくれないだろう」
「そうだろうな、特にロングレンジビームライフル持ちは厄介だ。市内なら遮蔽物も多いが、市外は見晴らしのいい草原、当然、スナイパーにとっちゃ最高の狩場だ」
「モビルスーツなら兎も角、ギャロップじゃ、いい的になるしね」
「そう。そこで、後顧の憂いを断つ為にも、ここで奴らを撃破する!」
ランドニーの決断に、ユーリアンとシモンの二人は頷き答える。
「それで、具体的にはどんな作戦であいつ等を倒すんだ?」
「先ずは、奴らが狙撃に適した場所まで来るのを待つ。幸い、連中にはまだこっちの詳細な戦力を把握された形跡はないからな、こっちにも最高のスナイパーがいる事を知らない筈だ」
不意に褒められて照れるシモンを他所に、ランドニーは作戦内容の説明を続ける。
「そして、奴らが絶好のポイントまでやって来た所で、シモン、お前の出番だ」
「俺がロングレンジビームライフルを狙撃すればいいって訳だな」
「そうだ。必ず初撃でロングレンジビームライフルの方を破壊してくれよ、持ってる機体の方を破壊しても、他の奴がロングレンジビームライフルを引き継ぐと厄介だからな」
「すんげぇプレッシャー……」
「だが、お前ならやれるだろ?」
刹那、シモンの口角が不敵に上がる。
「当ったり前だ!」
「期待してるぞ。……で、ライフルを使用不可能にした後だが、ビターチームによる砲撃で更に奴らの気を引き、足を止める。で、その後はユーリアン、お前に任せた」
「了解」
「だが、あんまり無茶はするなよ。一応、グフカスタムは撃破されたら、今までの苦労が水の泡になるんだからな」
「分かってる。もし無理そうなら、適当に足止めして退くよ」
「よし、それじゃ。追加の緊急ミッション開始といきますか!」
こうして、戦いの第二幕、その幕が上がり始める。
「ルッグンがいないと、やっぱ情報の精度や量が制限されて不便だな……」
敵陸戦型ガンダムの小隊の動向を艦橋内のモニターで眺めていたランドニーは、ルッグンのありがたみを感じていた。
当たり前な時は何も感じていなかったが、ふとした瞬間にそれがなくなると、突然、そのありがたみを実感する。
「軍団長、各機、所定の位置についたとの事です」
「敵小隊の動向は?」
「概ねモニターに表示されている通りと」
モニターに表示された敵陸戦型ガンダムの小隊を示す光点は、ウーマニ市の中心部へとゆっくり移動している。
どうやら、市内に潜伏しているユーリアン達の事を警戒しながら進んでいるのだろう。
「よし、もうすぐだ……」
そして、敵小隊は、やがて巨大な交差点へと差し掛かる。
刹那、ランドニーが作戦開始の合図を告げた。
「ミッション開始だ! シモン!」
「おーけい! バッチリロックオン! ……ファイヤ!」
一列に列をなし進む敵陸戦型ガンダムの小隊、その最後尾を歩くロングレンジビームライフル装備の陸戦型ガンダム。
装備した本体ではなく装備そのものを狙われるとは露も思っていなかったパイロットは、突然の警報音と、間を置かず爆破するロングレンジビームライフルに、一瞬理解が追い付かなかった。
「……え?」
「敵襲!!」
「くそ、やっぱり潜んでやがった!!」
突然自身の相棒を破壊され、唖然とするパイロットを他所に、僚機の二人は付近の建物の影に機体を隠す。
「おいまっつん! 何してんだ! はやく隠れろ、狙われんぞ!」
「……あ! お、おう!」
仲間の声で我に返ったまっつんと呼ばれたパイロットは、慌てて仲間の二人の様に、乗機を建物の影に隠す。
こうして、建物の影から様子を伺っていると、甲高い音と共に、付近に土煙が発生する。
「ちくしょう、砲撃か!?」
「これじゃ迂闊に動けないよ、どんちゃん!」
「くそ!」
どんちゃんと呼ばれた、小隊のリーダーを務めるパイロットは舌打ちした。
撃墜したルッグンの存在を確認した時に、ある程度の装備や規模を持った敵だと判断しておけばよかったと、そんな後悔が滲み出る。
しかし、今更悔いた所で、もう遅かった。
「兎に角、一旦砲撃が止むまで待つぞ。相手は空からの目を失ってんだ、今は闇雲に撃ってるに違いない。砲撃が止んだら、敵スナイパーに注意しつつ後退して体勢を立て直す」
そして、その判断が間違いである事を、彼は程なく嫌でも理解する事になる。
程なくして、砲撃が止むと、彼らは後退を開始しようとした。
だが、それは突如やって来た。
「反応!?」
付近に未だ立ち上る煙を突き破り、何かがどんちゃん搭乗の陸戦型ガンダム目掛けて飛来する。
それは、まるで細長いワイヤーの如き形状の物体。
飛来したそれは、どんちゃん搭乗の陸戦型ガンダムが装備していた一〇〇ミリマシンガンの弾倉部分に付着すると。
刹那、まるで電気が流され暴発したかのように、一〇〇ミリマシンガンの弾倉部から爆破が生じ、一〇〇ミリマシンガンが破壊される。
「これは!? ヒート・ロ……」
どんちゃんはそれがなんであるのかを察すると、飛来した物体の発射元を確かめるべく、乗機のメインカメラを煙へと向けた。
次の瞬間。
煙を突き破り、それは姿を現した。
姿勢を低くしながら突進する、ユーリアンのグフカスタムだ。
「な!?」
ほぼ右真横から突進するグフカスタムを、左腕に装備した小型のシールドで対応することは出来ず。
「うぐ!」
どんちゃん搭乗の陸戦型ガンダムは、安々と懐に飛び込まれグフカスタムのタックルを受けると、バランスを崩しそのまま近くの建物に倒れ込む。
「どんちゃ……」
「馬鹿! 行くな!」
そんな味方の姿を目にしたまっつんは、彼を助けようと、近接戦闘用のビームサーベルを手にした乗機で駆け出すが。
刹那、鋭い轟音と共に、何かの衝撃で機体は後ろにのけぞり倒れてしまう。
「くそ! 早まりやがって」
倒れたまま動かなくなったまっつん搭乗の陸戦型ガンダム。
その姿を目にした残りの味方は、コクピット内で毒づいた。
まっつん搭乗の陸戦型ガンダム、そのコクピット部分には、一発の弾痕が刻み込まれていた。
「あぁ、くそ!!」
刹那、彼は気が付いた。
もう一人の味方の末路に。
頭部が旋回し、頭頂部のメインカメラが捉えたのは。
建物に倒れ込んだどんちゃん搭乗の陸戦型ガンダムに対し、手にしたヒート・サーベルを突き刺しているグフカスタムの姿であった。
突き刺されたヒート・サーベルは、機体の胸部を一突きにし、傷口からはまるで鮮血の如くオイルが漏れ出していた。
「くそ! くそっ!!」
一瞬の内に味方を二人も倒された彼は、その鮮やかな手際に恐怖すると共に、味方を倒され逆上する。
相反する感情が入り混じる中、そんな感情を吹き飛ばすかの如く、乗機の装備した一〇〇ミリマシンガンを発砲する。
バーニアを噴かせ回避すると共に、一旦距離を取ろうとしたグフカスタムであったが。
飛来した一〇〇ミリ弾の内の数発が、ガトリング・シールドの七五ミリガトリング砲の砲身に命中し、同砲を使用不可能にしてしまう。
再び地面に足を付けたグフカスタムは、使い物にならなくなった七五ミリガトリング砲をパージすると、右手のヒート・サーベルを構え直す。
それを目にした彼も、何かを悟ったのか、乗機の一〇〇ミリマシンガンの弾倉を交換すると、空いていた左手に、近接戦闘用のビーム・サーベルを装備する。
暫し、互いの出方を伺う様に、見つめ合う両機。
「! 来た!」
そして、グフカスタムのモノアイが怪しく光ったと思われた刹那。
グフカスタムがシールドを構えつつ突撃してきた。
「このぉぉっ!」
再び火を噴き始める一〇〇ミリマシンガン。
だが、放たれる一〇〇ミリ弾の多くは、グフカスタムの機動の前に装甲を叩く事無く、空しく彼方へと飛び去って行く。
捉えた命中弾も、多くは本体ではなくシールドを叩き、致命弾を叩き込むことはない。
それでも、一〇〇ミリマシンガンは火を噴くことを止めない。
まるで、銃身が焼けつくまで撃ち続けるかの如く。
やがて、互いの距離が近づく中、彼は、その間合いが訪れるのを待っていた。
乗機の左手に装備したビーム・サーベル、その一振りがグフカスタムを捉える間合いを。
そして、弾幕の中を突撃してきたグフカスタムが間もなくビーム・サーベルの間合いに入ろうかと思われた矢先。
不意に、グフカスタムが右腕に装備しているヒート・ロッドを明後日の方角に射出した。
「何だ?」
一瞬相手が何をしているのか、何かの罠かと考えたが。
もはや、悠長に考えている程、彼に時間は残されていなかった。
次の瞬間には、既にグフカスタムはビーム・サーベルの間合いに足を踏み入れていたからだ。
「こんのぉぉっ!!」
間合いに入った。
それを確認した彼は、光の刃を展開させたビーム・サーベルを振るった。
これで、光の刃はグフカスタムを切り裂く。
筈であった。
「……な!?」
だが、現実は非情にも異なっていた。
何と、グフカスタムは寸前に射出したヒート・ロッドを利用したのだ。
付近の建物に付着させたヒート・ロッドを勢いよく巻き取り、その力を利用して急速回避を成功させた。
それは、彼の側からしてみれば、目の前のグフカスタムが一瞬にして消えたように見えた。
「ど、何処に!?」
刹那、コクピット内に警告音が鳴り響き、同時に彼は、この仮想現実では感じる筈のない、寒気を感じた。
その寒気に導かれる様にメインカメラを動かすと、そこには、三連装三五ミリガトリング砲の砲口を乗機へと向ける、グフカスタムの姿があった。
「これが……、これがモビルスーツの動きだと!?」
射程や口径共に七五ミリガトリング砲より劣るものの、瞬間火力では秀でている三連装三五ミリガトリング砲が火を噴き、彼の陸戦型ガンダムを襲う。
左側面から攻撃の為、左腕に装備していた小型のシールドが、偶然にも胴体部への致命弾を防ぐのに役立ったが、それ以外の個所には、容赦なく三五ミリ弾の雨が降り注いだ。
途端、メインモニターが外部映像を映し出さなくなる。
どうやら、メインカメラが破壊されたらしい。
「うわ! 何だ!? どうなってるんだ!!?」
程なくして、今度は衝撃が襲い掛かる。
更に数度の衝撃、そして機体状況が、四肢に対して赤信号を点滅させる。
だが、メインカメラを破壊され、外部の様子が分からないので、一体何が起こっているのか、彼は把握できないでいた。
「おい、冗談だろ!? 何かの間違いだろ!!? ここまで来たのに、殺られるって言うのか!? 俺が!」
しかし、最後の瞬間、何かを感じ取った彼は、コクピットで叫んだ。
刹那、鋭利な剣先が、音を立ててコクピットを貫いた。
「こちらユーリアン、目標を撃破」
「了解だ。よくやった!」
メインモニターに映し出された、建物に倒れかけた敵機の残骸。
四肢を切断され、頭部を破壊され、そして胸部にヒート・サーベルの切り傷を持つ。
そんな残骸を目の前にして、ユーリアンは報告を終えた。
こうして、不測の事態はあったものの、第046独立部隊のミッションは無事に終わりを告げた。