二時限目が無事に終了し、約束通り昼休憩に食堂で合流を果たした四人。
驚愕の事実が判明したとは露も思っていなかった来飛は、優の口から沙愛の正体が、あの難読彗星の沙亜であると告げられ。
漫画のキャラクター張りのオーバーアクションで驚くのであった。
「ままま、マジで!? え、あの、難読彗星の沙亜ぁ!?」
「来飛、声が大きい」
「あ、悪い。……いやでもよぉ、優、あの難読彗星の沙亜だぞ! それがまさか、同じ大学に通ってるなんて……」
まさか身近に有名プレイヤーがいたなんて想像もしていなかった来飛。
「これが本当の、灯台下暗し、ってやつか」
やがて驚きつかれたのか、それとも驚き過ぎて逆に冷静さを取り戻したのか。
状況にぴったりのことわざを呟くと、缶コーヒーを一口、口に含む。
「へぇ、沙愛ってゲームの中じゃそんなに有名だったんだ」
一方、俺の野望を実際にプレイした事のない芽一は、事の凄さを理解できず、暢気な感想を漏らす。
「いやいやいや、有名なんてレベルじゃないよ! "超"が付くほどの有名人! 公式のランキングでトップテン以内に名を連ねてる位なんだから!」
「へぇ~」
テーブルをはさんで対面に座る来飛の説明に、芽一はドリンクバーのメロンソーダを飲みながら相槌を打つ。
「あ! そうだ所で、佐久良さん。どうして今回俺達、俺達の軍団に入ってくれる気になったんだ? 確か前回は、誰かとチームを組むなんて考えていないって、言ってたと思うけど?」
「……」
そんな芽一の横で、俯き加減に、まるで小動物の様に手にしたサンドイッチを食べる沙愛に対し、来飛はどのような心境の変化があったのかを尋ねる。
第一次降下作戦の際、確かに沙亜はチームプレイを考えていない節の発言を行っていた。
「やっぱり草原さんが俺の野望始めるから? あ、でも、一人位なら小隊システムでもいいような……。やっぱり別の……」
「来飛。あまり佐久良さんに根掘り葉掘り聞こうとするのはよくないと思うぞ」
理由を知りたい来飛であったが、優に注意され、それ以上追及するのを止めた。
「ま、何にせよ、心強いプレイヤーがチームメイトになってくれて、心づよ……。あ! 所で佐久良さん。佐久良さんの今の階級は如何程?」
「今は、し……、少佐、です」
「……あ、あぶねぇ。昇進して"中佐"になっててよかった」
階級が同列でも隷下に収められるが、やはり上下の明確な区別があった方が余計なトラブルも少なくて済む。
故に、来飛は安堵するのであった。
「さてと、それじゃ。ま、何れにせよだ。新しい仲間の加入を歓迎して、乾杯するか!」
「お、いいねぇ! やろやろ!」
来飛の提案に賛同する芽一。
そして二人は乾杯に必要なドリンクを用意すべく、ドリンクバーへと向かう。
一方、残された優と沙愛は、ジオン談議に花を咲かせて、二人が戻ってくるまでの間の暇をつぶすのであった。
「それじゃ、草原さんと佐久良さんの加入を祝って、乾杯!」
「かんぱーい!」
「乾杯」
「かんぱい」
程なくして、ドリンクバーから人数分のドリンクを持ってきた二人が戻ってくると。
四人は、乾杯を行うのであった。
その後、今度の週末に、現在第046独立部隊の活動拠点であるオデッサのロビーで待ち合わせる事や、連絡先の交換等を経て。
四人は、楽しい昼休憩を過ごすのであった。
それから、あっという間に時間は流れ、約束の週末。
現実世界から俺の野望の宇宙世紀へとやって来たユーリアンとランドニーの二人は、オデッサのロビーで、芽一と沙愛の二人の到着を待った。
そして、待ち合わせの時刻。
俄かに、ロビー内にいた他のプレイヤー達がざわつき始めた。
「やっほー、お待たせ」
「待たせたな、二人とも」
その理由は、ユーリアンとランドニーの前に現れた二人の女性、否、その片割れにあった。
一人は、特に外見をいじらず、ジオン公国の軍服を着ている以外、現実世界同様の外見を有する芽一ことメノ・ポートマン。
そしてもう一人は、モデルとなったキャラクターが着用しているのと同様の赤い軍服にマントを取り付けた服装に、顔には目元を隠す仮面と白いヘルメットを被っている。
それこそ誰であろう、現実世界の沙愛と同一人物とは思えぬ、難読彗星の沙亜こと沙亜 阿頭那武婁その人である。
「それじゃ、早速フレンド登録と軍団登録を」
「うむ、よかろう」
「オッケー」
引っ込み思案な様子は微塵も感じられない、凛とした様子で必要な登録を行う沙亜。
一方、メノは現実世界と変わらずであった。
「それじゃ、プライベートルームに行きますか」
こうして必要な登録を済ませた四人は、第046独立部隊用のロビーへと移動する。
一方、四人が第046独立部隊用のロビーへと移動した後。
オデッサのロビーでは、一部始終を見ていた他のプレイヤー達が、先ほどの出来事の話題で盛り上がっていた。
「おいおい、今のって確か、難読彗星の沙亜だよな!?」
「彼女、ソロプレイヤーじゃなかったのか!?」
「てか隣の緑の髪の子、チョー可愛い」
「つか、加入したのって何処のギルドだよ!?」
沙亜 阿頭那武婁の電撃的な第046独立部隊への加入は、それから暫く、俺の野望のプレイヤー達の話題の中心の一つとなるのだが、それはまた別のお話。
一方、その時はまだ他のプレイヤー達が電撃加入の話題で盛り上がっているとは知らない四人は。
無事に第046独立部隊用のロビーへと到着すると、先に到着して待っていたシモンに、メノと沙亜を紹介する。
因みに、シモンは事前に新しく加入するのが二人の女性とまでは知らされていたが、詳細は、直接会って教える事となっていた為。
「えぇー!! マジっすか!!!」
当然、その内の一人が沙亜である事に驚かない訳はなかった。
「以前バイコヌールで出会ったな。改めて、沙亜 阿頭那武婁だ。宜しく」
「あたしはメノ・ポートマン、よろしくね」
「あ、どうも、よろしく」
まだ半分頭が混乱しつつも、シモンは二人と握手を交わすと、早速フレンド登録を行うのであった。
こうして、部隊のメンバー全員が顔見知りになった所で。
ソファーに腰を下ろすと、親睦を深めるべく会話を始める。
「にしてもまさか、ランドニーとユーリアンの二人と同じ大学に通ってたなんてな。……いやぁ、世間は狭いなんて嘘じゃねぇかと思ってたけど、案外本当だな」
「いや全くだよ。俺もまさか、難読彗星の沙亜が同じ大学の生徒なんて思ってなかった」
「出会いとは、時として必然を伴うもののようだな」
「いやー、相変わらずクールでカッコイイっすね、沙亜さん」
「シモンと言ったな、さんは付けなくていい」
こうして楽しく会話を続けていると、不意に、メノが沙亜に質問を投げかけた。
「ねぇ、沙亜。あんたなんでさっきから、人が変わったように喋ってるの!?」
「何を言う、私はいつも通りだが?」
「いやいや、全然違うよ! ……あ、もしかして、その変な仮面被ってるから? もしかして、なりきってるってやつ? ねぇ、ちょっとその仮面、私に貸してよ」
「あ、おい、これは私の大事な仮面で……」
今まで本人からのプレイの感想等の話だけで、本人の性格の変貌についてまでは話されなかったので知り得なかったメノ。
故に、実際に俺の野望内で初めて沙亜と出会い、その性格の変貌ぶりに内心困惑していた。
そしてメノは、その原因が仮面にあるのではないかと考え、試しに仮面を取ろうとする。
当然、沙亜は仮面を取られまいと拒む。
「いいじゃん、ちょっとだけー」
「や、やめろ」
そんな二人の様子を、男性陣三人は福眼な様子で眺めていた。
というのも、メノと沙亜は、軍服を着ていても隠しきれない程、胸部にやわらかな大質量を持ち。
取り合いの最中、その胸囲の脅威が合わさったり、擦れたり、潰れたり、そして揺れたりしている。
健全な男の子である男性陣にとって、それは福眼以外の何物でもなかった。
「とりゃ!」
「あ……」
しかし、程なくして、そんな男性陣の至福の一時は終わりを告げる。
激戦を制し、メノが沙亜の仮面を奪い取ったからだ。
「ひ、酷いよ、芽一ちゃん」
刹那、仮面を取られた沙亜の様子が変わった。
まるで怯える小動物のような雰囲気のそれは、まさに現実世界の引っ込み思案な性格そのものであった。
「それがないと私、あんまり上手に……。全く、何をするんだ、失礼な奴だな。いいか、これは私にとって大事な仮面なのだ、あまり気安く外していいものではない」
なので、メノは再び沙亜に仮面を付けてみると。
途端に、自信に満ち溢れた凛とした雰囲気の性格へと舞い戻る。
「幾ら親友である君とは言え、親しき仲にも礼儀ありということわざがあるよ……。うぅ、またぁ」
再び取ると、引っ込み思案な性格に切り替わり。
「芽一ちゃん、あまり仮面で……。遊んでほしくはないものだな」
再び付けると、難読彗星の沙亜へと舞い戻るのであった。
「あー成程。よくハンドル握ると性格変わるって言うけど、沙亜の場合はその仮面が切り替えのスイッチになってるんだな」
一連の様子を見て、ランドニーは性格が切り替わる仕組みを解明するのであった。
「全く、今後はあまり仮面で遊ばぬ様に留意して欲しいものだ」
「えへへ、ごめんね」
こうして沙亜の性格の秘密が明らかになった所で、ランドニーがシモンに声をかけた。
「所で、シモン。お前も一人、新しく加入したいって奴を紹介するって言ってたけど、そいつとはいつ待ち合わせてるんだ?」
「っと、そういえばそろそろだな。オデッサのロビーで待ち合わせだから、ランドニー、付いて来てくれるか?」
「了解だ」
どうやらシモンも、現実世界での勧誘活動の成果として、一人確保したようだ。
二人が一旦第046独立部隊用のロビーを後にして、暫くすると一人の男性プレイヤーを引き連れて、二人が戻ってきた。
「こいつが、俺のバイト先で声かけて入りたいって言ってきた、知り合いのロッシュだ」
「ロッシュです、よろしく」
シモンがロッシュと紹介したのは、褐色の肌に、軍服を着ていても容易に判別できるほど、鍛え上げられた筋骨隆々の肉体、そして、きれいなスキンヘッドの青年であった。
「あたしメノ・ポートマン、よろしくね」
「沙亜 阿頭那武婁だ、気軽に沙亜と呼んでくれ、よろしく」
「俺はユーリアン・ルク、今後ともよろしくね」
「よろしくお願いします」
どうやらロッシュは口数が少なく、感情が表情に現れにくいのか。
メンバーと握手を交わす最中も、その表情は無表情であった。
「ま、見ての通り不愛想な奴だけど、根はいい奴だから、今後ともよろしく頼むな」
そんなロッシュに代わり、シモンから付き合いのほどよろしく頼むとの旨が告げられるのであった。
「所でロッシュ君ってさ、凄い筋肉だね。もしかして、鍛えてるの?」
「あ、メノ! ロッシュの前で筋肉の話は……」
「よくぞ聞いてくれました!!!! はいまずここ!! 見てください! この三角筋から上腕二頭筋、更にはこの裏の上腕三頭筋に前腕屈折群にかけてのこのライン!! どうです!! 芸術的でしょう!!!」
ふと、メノが何気なく発した刹那。
ロッシュは目を輝かせ、急に軍服を脱いで上半身裸になると、先ほどの口数の少なさは何処へやら、鍛え上げた自らの肉体を饒舌に自慢し始めた。
「次にここ! 大胸筋!! そして皆様ご存知、シックスパック!! この美しい胸と腹筋を手に入れる為に、僕は毎日一時間、トレーニングを欠かしていません! あ、ですがご存知の通り、筋肉は部位にごとに回復期間が異なる為、大胸筋や三角筋等は四八時間の回復期間を設けなければなりません。そこで、僕は日ごとに鍛える部位を変えています! 因みに今日は、この広背筋を鍛えていまして……」
突然始まったバックダブルバイセップからの、ロッシュの一人ボディビル大会と、止まらない筋肉談議に、主に女性陣二人が引いている中。
シモンはこのような事態となった理由を説明する。
「あー、
ロッシュが、好きな事となると饒舌になるタイプの人間と分かった所で。
「どうです!? 今日はちょっと上腕二頭筋の元気がないんですけど、でも、それを補う様に他の筋肉の調子は上がってますよ!!」
サイドチェストを決めるロッシュの一人ボディビル大会は、まだまだ終わる気配がなかった。
それから暫くして、満足したロッシュの筋肉談義と一人ボディビル大会が閉会した所で。
全員でプレイの時間帯を合わせる話し合いを行い、続けて今後の第046独立部隊の活動方針を話し合う。
「えーでは最後に、締めの言葉で終わりたいんだが。……その前に、皆に重大発表があります!」
「お、何だ? は! まさか! 遂に別れたか!! 連邦側でプレイしてた彼女と遂に破局か!! な、そうだろ! な!!」
「え、嘘!? そうなの!? その話、もっと詳しく聞かせて!!」
「だから! 勝手な想像するなよ!!」
勝手な想像で盛り上がるシモンとメノを落ち着かせると、ランドニーは咳払いで仕切り直す。
「では、発表します。……我らが第046独立部隊の増員に伴い、この程、更に母艦のギャロップを一艇、購入しちゃいました!!」
「思い切ったね、ランドニー」
「それは随分と気前がいい」
「それって凄いの?」
「……」
「で、その結果また財政状況が悪化したなんて言うんじゃないだろうな?」
ランドニーの発表に、各々がそれぞれの反応を示す中。
ランドニー自身は、シモンの言葉から耳を背けるかのように、明後日の方を見つめると独り言を呟き始める。
「認めたくないものだな、自分自身の、"筋肉"のなさ故の
「おいそれ、でじゃ」
「筋肉 is Moneeeeeeeeeey!!!!」
「だぁぁっ! ランドニーてめぇ狙ったな!」
再び騒がしくなる第046独立部隊用のロビー。
「……ふ、全く、楽しい所だな」
そんな中、沙亜はぽつりと呟く。
「明るく楽しく全力で楽しむ。それがモットーだからね」
「ふふ、それはますます楽しみだな」
そんな沙亜の言葉を耳にしたユーリアンの返答に、沙亜は口元を緩ませるのであった。