機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第十五話 宇宙(そら)へ

 砂漠。地平線の彼方まで止め処なく広がる砂の大地。

 ここは、北アフリカ、旧リビア東部。

 

 書類上はジオンの勢力圏内である同地で、第046独立部隊一行は今日も戦いに明け暮れていた。

 

「撃つよー! それ!!」

 

 一見するとザクIIがキャノン砲を装備しただけのようにも見えるその機体は。

 その特徴でもあるキャノン砲を運用するにあたり、頭部の改修が施され、モノアイが全周囲型に改良された他、ザクの特徴でもある動力パイプが廃止されている。

 改修点はそれだけではなく、専用のランドセル、胸部のダクト増設に、グフのノウハウを生かした補助バーニアを装備した脚部等々。

 新たな形式番号MS-06Kが与えられている事からも、同機は単なる現地改修機ではない事が容易にうかがえる。

 

 その名はザクキャノン。

 第046独立部隊ではメノの乗機となり。同機は、その最大の特徴でもあり主武装でもある一八〇ミリキャノン砲を使用した支援機として運用されていた。

 

 そして、たった今も、その自慢の一八〇ミリキャノン砲が火を噴いた所であった。

 

「こちら沙亜、いい攻撃だ」

 

「でしょ、でしょ」

 

 そんな一八〇ミリキャノン砲から放たれた一八〇ミリ榴弾は、見事な放物線を描き、事前のルッグンによる観測により把握された敵の戦車隊に飛来し、損害を与えるのであった。

 

「くそ! こっちの火力支援はどうした!?」

 

「はぁ!? こっちの母艦が墜ちただと!? いつの間に!!」

 

「ど、どうすんだよおい!」

 

 第046独立部隊から攻撃を受けていた連邦のプレイヤー軍団は、この時点で既に、引き連れていた戦車隊の損害が酷く。

 また、後方で待機していた、母艦であり火力支援の要でもあった前後左右に六門の単装砲を装備した、ジオン側コードネーム『ミニ・トレー』は、ザク・アライヴの電光石火の攻撃を前に沈黙していた。

 この状況に、連邦のプレイヤー軍団は、母艦と共に指揮官も失った事も相まって、混乱の只中にあった。

 

 だが、第046独立部隊側からしてみれば、それは好機でもあった。

 

「えぇぃ、くそ! だから母艦を買う前に新型モビルスーツを買った方がいいって言ったのにぃ!!」

 

 まだ始めたばかりの自分達の台所事情を暴露した断末魔と、装備したジムマシンガンの発砲音を響かせながら、一機のザニーが砂漠の大地に上半身と下半身を分断され没した。

 その下手人は、黒く塗装されたグフカスタム。

 パイロットは、誰であろうユーリアンである。

 

「僕も、負けてられない」

 

 そんなユーリアンに感化されてか。

 ロッシュもまた、変化の乏しい表情のまま、乗機である陸戦型ザクIIを操縦し、残りのザニーに襲い掛かった。

 

 ザニーが装備したジムマシンガンから放たれる九〇ミリ弾を被弾しつつも、ターゲットのザニーに見事なタックルをお見舞いする陸戦型ザクII。

 そして、タックルを受けて砂漠に倒れ込んだザニーにトドメを刺すべく、間髪入れずに手にしたヒートホークを振り下ろした。

 

「こちらランドニー、敵プレイヤー軍団の全滅を確認。全員、よくやった、ご苦労さん」

 

「いえーい! 大勝利!」

 

「あの戦力では、当然の結果だな」

 

「……まだ、僕は上手く戦えませんね」

 

「誰でも最初はそんなものだよ」

 

 戦闘終了を告げるランドニーの声に、各々が反応を示す中。

 シモンは、小高い砂丘の影に身を隠した乗機のザクIIF型のコクピット内で、一人静かにごちた。

 

「あれ? 今回俺、一発も撃ってねぇ……」

 

 母艦のギャロップやビターチームも砲撃を行っていたのに、自身は今回、MS用対艦ライフルを一発も撃たなかった事に思い返して気付くのであった。

 

 

 

 

 出撃先から無事に帰還した一行は、各々の結果を確認し終えると、第046独立部隊用のロビーへと集結する。

 

「そんじゃ今回もお疲れさん、と、締めの言葉の前に」

 

 ランドニーから労いの言葉がかけられた刹那、本人から何やら発表があるようだ。

 

「今度の木曜なんだが、悪い。俺、リアルで抜けられない用事が出来ちゃってさ。って事で、今度の木曜は俺抜きでプレイしてくれるか?」

 

 どうやら、現実世界での都合で、今度の木曜日に予定していたプレイをできなくなった様だ。

 

「あ、ランドニー君もなんだ!」

 

「え? もしかしてメノも?」

 

「ちょっと、急にシフト代わってって言われちゃってさ」

 

「あー実は俺も」

 

「おいおい、シモンもかよ」

 

「あの! 実は僕も! 今度の木曜日は新発売の"プロテイン"の発売日で、僕の筋肉たちに合っているかどうかを確かめたいので失礼ながら不参加を表明したく!!」

 

 と、ランドニーが不参加を表明した途端。

 次々に他の面々も不参加を表明し。

 

 結局、不参加を表明しなかったのは、ユーリアンと沙亜の二人だけであった。

 

「って訳で、悪いユーリアン」

 

「あ、あぁ、分かった。……それじゃ、どうしようか沙亜?」

 

「愚問だな。勿論、私は平常通りログインするつもりだ」

 

 そちらの都合が悪ければ、俺もログインを見送るけど。

 なんて雰囲気を醸し出していたユーリアンに対して、沙亜はきっぱりと平常通りにログインしてプレイする事を宣言した。

 

「それじゃ、今度の木曜日は、俺と沙亜の二人でプレイしとくよ」

 

「そっか、んじゃ、楽しんでくれよ」

 

 こうして、締めの言葉の後にログアウトしていくメンバー達。

 そんな中、まだログアウトせずに残っていた者がいた。

 ランドニーとシモンの二人である。

 

「で、どう思うよ?」

 

「何がだ?」

 

「若い男女、二人っきりのゲームプレイ、狭いコクピット……。何も起きない筈はない!!」

 

「いや、そういうゲームじゃねぇからこれ(俺の野望)!!」

 

 と、お約束のような漫才を披露した所で、二人は改めてログアウトするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、迎えた木曜日。

 いつものようにログインしたユーリアンは、第046独立部隊用のロビーへと足を運ぶ。

 すると、既にログインしていた沙亜が、ソファーに座り、手にしたタブレット端末を操作して何かを見ていた。

 

 軽く挨拶を済ませると、ユーリアンも、近くの椅子に腰を下ろす。

 

「それで、今日はどうしよっか?」

 

「ふむ、それなんだが……」

 

 二人だけでどのように遊ぶかを尋ねると、沙亜は、手にしたタブレット端末の画面をユーリアンに向けた。

 

「ここに面白そうなことが書かれていたので、これに参加するというのはどうだ?」

 

 タブレット端末の画面に表示されていたのは、ゲーム内の掲示板であった。

 参加プレイヤーなら誰でも書き込めるQ&A等の共有掲示板と異なり、画面に表示されていたのは、ジオン公国所属のプレイヤーのみが使用可能な専用掲示板であった。

 

 そして、幾つかあるタイトルの内、沙亜が指で指示したのは、『降下作戦時の護衛急募!』というタイトルだった。

 その内容は、間もなく行われるアフリカ大陸の旧モザンビーク北部一帯を制圧する為の制圧作戦、その要となる降下部隊の地球降下時の護衛要員募集であった。

 書き込み主はこの作戦の作戦指揮官を務めるコマンダープレイヤーらしく、どうやら、思った以上に集まりが悪いらしい。

 

「ま、参加の対価として提示されているゴールドがこの程度では、集まりが悪いのも頷けるがな」

 

 沙亜の漏らした言葉の意味とは、護衛要員として参加したプレイヤー達に支払われる謝礼のゴールドの額の事であった。

 謝礼のゴールドを設定するかしないかは、各プレイヤーの判断に委ねられている。

 中には、ジオン勝利の為の志を共にする者同士、謝礼など不要。と謳っているプレイヤーもいるだろうが。

 そうした崇高な意志を持った者はやはり多くなく。

 

 大半は、見返りを求める者であった。

 

 そして、その見返りの設定であるが。

 状況により上下されるが、攻略サイトやSNS等では、指標となる相場というものが出回っていた。

 

 それに今回の設定額を照らし合わせると、今回の設定は、相場よりも安かった。

 

「それでも参加するんだ」

 

「あぁ、無論だ。確かに同地は重要拠点ではなく、多くの者にとってはアフリカの一地方に過ぎないかも知れない。だが、同地に埋蔵されている資源は、ジオンにとって今後大きな役割を果たす筈だ。私は、例えゲームであったとしても、ジオンに勝利を齎したい、それにつながる可能性があるならば、行動は惜しまない、そう考えている。だからこそ、この作戦に参加する!」

 

 沙亜の熱のこもった説明を聞き、ユーリアンは黙って頷くと、自身も参加する事に異論はない旨を伝える。

 

「よし、では行こうか!」

 

 こうして二人は、作戦に参加すべく、一路宇宙(そら)を目指した。

 

 地上から宇宙(そら)へと向かうには、地上の各地に設定されている宇宙港からHLV等を使用するか、大気圏離脱能力を有する母艦を使用するかの二択となる。

 幸い、第046独立部隊の活動拠点であるオデッサは、宇宙港の一つに設定されていた為、HLV等を手配すれば、宇宙(そら)に上がる事は容易である。

 

 二人は、レンタルしたHLVに乗り込み、オデッサの宇宙港から宇宙(そら)を目指して早速出発した。

 

 

 

 宇宙港から専用のブースターを使用し打ち上げられたHLVは、程なくして大気圏を離脱し、専用のブースターを切り離すと、慣性飛行へと移行する。

 その艦内では、パイロットスーツに身を包んだユーリアンと沙亜が、ベルトサインが消えた為、ベルトを外し、久しぶりの浮遊感を堪能していた。

 

「っとと」

 

「大丈夫か?」

 

「あはは……」

 

 久しぶりの無重力に、ユーリアンは天井に頭をぶつけてしまいそうになったが。

 沙亜の差し出した手を掴み、何とか事なきを得た。

 

「感覚が戻りきらない内は、手すりに掴まっていた方がいい」

 

「そうするよ」

 

 沙亜の助言に素直に従い、手すりを使って窓際へと移動したユーリアン。

 そこから見える、母なる星地球の姿は、仮想現実の生み出したものと言えど、何度見ても美しいものであった。

 

「所で沙亜、回収って、どれくらい待つのかな?」

 

「そう長く待つものではない筈だ」

 

 二人の乗ったHLVには、自力航行の能力がない。

 故に、移動の際は、自力航行可能なムサイ級等の艦艇に運搬或いは曳航してもらう必要がある。

 

 その為、作戦の行われる宙域に向かうには、回収してもらう必要があるのだ。

 

 そして、それから数分後。

 二人の乗ったHLVに、一隻のムサイ級宇宙軽巡洋艦が接近してきた。

 

「こちら狩人部隊旗艦"メガソニック"、応答せよ」

 

 すると、近くの通信機器から接近してきたムサイ級からの通信が入る。

 ユーリアンが駆け寄り応答すると、再び先方から通信が入る。

 

「そちらは第046独立部隊で間違いないか?」

 

「はい、こちら第046独立部隊で間違いありません」

 

「了解した。これより運搬準備にかかる。暫し待たれよ」

 

「了解」

 

 どうやら、回収の為の部隊のようだ。

 艦首にウサギを咥える狼をかたどった部隊エンブレムが書かれたムサイ級、個艦名メガソニックは、慣れた動きで所定の位置へと移動すると、船外作業のクルー達がHLVの最終接続を確認していく。

 

 こうして準備が整うと、再び通信が入った。

 

「接続完了、これより作戦宙域へと移動します」

 

「了解です」

 

「それと、移動の間のお時間に、隊長が直接お会いしたいと仰っていますので、ご足労おかけしますが、メガソニックの方に移乗をお願いできないでしょうか?」

 

 先方からのお願いに、二人は一瞬顔を見合わせるが、沙亜は軽く頷き、それを見たユーリアンも何かを感じ取ったかのように頷き返すと、再び通信を入れた。

 

「分かりました、直ぐに向かわせていただきます」

 

 こうして、HLVを抱えたメガソニックは作戦宙域を目指して移動を開始した。

 その最中、二人はHLVからメガソニックへと移乗すると、隊長が待つ艦橋へと足を運んだ。

 

「オレの我儘に応えてくれて感謝する。狩人部隊隊長、ウォルフガングだ」

 

 そして、艦橋で二人を出迎えたのは、黒髪に端正な顔立ちをした青年士官、ウォルフガング少佐であった。

 

「"黒衣の狩人"の異名を持つ少佐と共闘できるとは、とても光栄だ」

 

「いやこちらこそ、難読彗星の沙亜と呼ばれた沙亜 阿頭那武婁少佐と共闘できて光栄だ。沙亜少佐の地上での活躍は、宇宙(そら)でも多く耳にする」

 

 互いに握手を交わす沙亜とウォルフガング。

 その絵になる様子を、ユーリアンは後ろで眺めていた。

 

「それに、同じく黒に塗装された機体を操る君と共闘できる事も、オレは嬉しく思う、レイヴン。いや、ユーリアン・ルク中尉」

 

 すると、ウォルフガングはユーリアンに視線を向け、ユーリアンに対して新たに握手の手を差し出した。

 

「あ! こ、こちらこそ、光栄です! ウォルフガング少佐!」

 

 まさか自分にも声を掛けられるとは思っていなかったユーリアンは、不意の事に反応が遅れたが。

 慌ててウォルフガングと握手を交わすと、頭を下げるのであった。

 

「そうかしこまるな。これから共に戦場を駆ける者同士、肩の力を抜いて話そうじゃないか」

 

「は、はい」

 

 本人に気楽にと言われ、少し肩の力が抜けたユーリアン。

 その後、三人は作戦宙域に到着するまでの間、親睦を深めるべく他愛ない話を交わすのであった。

 

 

 

 

 

 

 一方、別の宙域では。

 ジオンの降下部隊の降下を阻止すべく、部隊が展開している宙域へと急行する連邦艦隊の姿がった。

 

 その内の一隻、連邦宇宙軍の主力であるサラミス級宇宙巡洋艦。

 同艦種の上甲板の主砲を撤去し、モビルスーツ用の拘束用土台を設置し、露天繋止を可能とした改修型。

 

 そんな、戦時急造品の改修サラミス級の艦内の通路を、一人の連邦軍パイロットが歩いていた。

 

「おい、中尉! 聞いているのか! 中尉!!」

 

 暢気に通路を歩くパイロットの後ろから、壮年の男性の呼ぶ声が響く。

 その声色には、若干怒りが滲んでいた。

 

「返事をしないか! ヤザン・ゲーブル中尉!!」

 

「ん? 何だぁ? 大佐殿?」

 

 金髪リーゼントに頬がこけ、野獣の如く鋭い目つきをしたパイロット。

 ヤザン・ゲーブルは、自らのフルネームを呼ばれ、ようやく足を止め声の主の方へと振り向いた。

 

「いいか、今回の最優先目標はあくまでも敵降下部隊だ! 護衛との戦闘は可能な限り避けて、敵降下部隊の撃破を最優先とするんだ、いいな!」

 

「は、大佐ぁ。そこに色とりどりの美味そうな餌があるっていうのに、我慢しろって言うのか、あんたは」

 

「だから! 今回の目的はあくまでも敵降下部隊の"阻止"だ! 敵を"全滅"させろとは言っていない!」

 

「だがよぉ、無抵抗のHLVを撃破したって、面白くもなんともねぇだろう!? 俺は戦闘がしたくて軍に入ったんだ、射撃の訓練をする為に入った訳じゃねぇ」

 

「だ、だからぁ!」

 

「分かってるよぉ。ちゃんと敵降下部隊もきっちり仕留めてやる、それで文句ねぇだろ? じゃ、これで失礼しますよ、大佐、殿」

 

 こうして勝手に話を切り上げると、ヤザンは大佐に背を向け、再び通路を歩いていった。

 一方、残された大佐は、腹立たしさを隠すことなく滲み出すと、ヤザンに対する不満をぶちまけ始めた。

 

「だぁ! くそ! バトルジャンキーの野獣め! ふざけやがって!」

 

 そして、一通り不満をぶちまけ終えると、冷静さを取り戻したのか、ぽつりと、呟く。

 

「……あぁ、ジャマイカン少佐の気苦労が嫌でも解る」

 

 呟き終えると、彼は、哀愁漂う背中と共に、艦橋に向かうのであった。

 

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