機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第十六話 無課金戦士

 衛星軌道上の一角、その宙域に、周囲のデブリとは異なる、生きている証たる光を持った一団がいた。

 その正体は、降下部隊を擁するジオンの大部隊であった。

 

 降下部隊を内包した多数のHLVを中心に、宙域一帯には、ムサイ級やガガウル級等の戦闘艦の他。

 CAP(戦闘空中哨戒)を行う、ジオンの宇宙戦闘爆撃機、ガトルの機影も確認できる。

 

 そんな一団の中に、メガソニックの姿があった。

 

「艦首回頭、一八〇度。相対速度合わせ」

 

「ヨーソロー!」

 

 メガソニック艦長オーランド大尉の的確な指示と、それを実行する乗組員達の働きもあり、メガソニックは無事に一団の仲間入りを果たす。

 そんなメガソニックの隣を航行していたのは、今回の作戦の作戦指揮官であるコマンダープレイヤーが座乗するムサイ級、個艦名『エムデン』である。

 

 そのエムデンの艦橋に設けられた司令席に、コマンダープレイヤーである男性は腰を下ろして、メガソニックを捉えた外部映像を映し出す艦橋の巨大スクリーンを眺めていた。

 

「ふふふ、今回の私は運がいい。友軍ガチャで黒衣の狩人を引いたばかりか、あの難読彗星の沙亜まで参戦してくれるとは。……もうこの作戦は勝った! 完!!」

 

「先輩、それ、フラグですよ」

 

「う!? 五月蠅い!」

 

 司令席に座るのは、軍服を着ていても恰幅の良さが隠せない四十路前後の、大佐の階級章を付けた男性コマンダープレイヤー。

 一方、その横で直立不動で立っているのは、きっちりとした七三分けで眼鏡をかけた三十代半ばの、少佐の階級章を付けた、こちらも男性コマンダープレイヤー。

 

 二人は、現実世界で先輩と後輩の関係性にあるのか、俺の野望内でも同じ関係性を保っていた。

 

「まぁ兎に角。これで集まりの悪かった護衛戦力は何とかなっただろう! な?」

 

「まぁ、相手の戦力次第ですが……」

 

 少佐のコマンダープレイヤーは、手にしたタブレット端末を操作し、今回集まった戦力の確認を行う。

 

「各プレイヤーのレベルの開きは、一部を除いて許容範囲内ですので、連携が取れない事はないでしょう。それに各プレイヤーの乗機も、一部を除いてその性能は似たり寄ったりです」

 

「その一部っていうのは、難読彗星の沙亜か?」

 

「はい」

 

「ま、ありゃランキング九位だからな。彼女には、自由に戦ってもらうさ」

 

「では、お連れのプレイヤーも一緒にですか?」

 

「あ? 連れ?」

 

「忘れたんですが、先輩? 彼女、第046独立部隊って軍団に加入したって、少し前に話題になったじゃないですか。今回は、同じ軍団の方も一緒ですよ。因みに、その方もランキング入賞者ですよ」

 

「なにぃ!? 第046独立部隊って所は、二人もランキング入賞者を擁しているのか!?」

 

 淡々とした口調で説明する少佐に、大佐は少々オーバーリアクションで反応する。

 

「で、どうしますか?」

 

「そ、そりゃぁ。同じ軍団同士なんだし、二人一組で行動してもらうのがいいだろう」

 

「では、そう指示しておきます」

 

「あーそうだ、所でルーター」

 

 と、大佐はタブレット端末を操作している少佐こと、ルーターの名を呼ぶと。

 

「折角だし。戦闘が始まる前に、難読彗星の沙亜とウォルフガング少佐に一目お会いしたいなぁ」

 

 大佐は沙亜とウォルフガングの両名との面会を希望している旨を伝えた。

 

「分かりました。会ってもらえるように掛け合ってはみます」

 

「頼むよー」

 

 程なくして、ルーターがタブレット端末の操作を終えると。

 不意に、沙亜との面会の結果を楽しみに待っている大佐に声をかけた。

 

「所で、カルクル先輩」

 

「ん? 何だぁ?」

 

 すると、カルクルと呼ばれた大佐は、暢気な様子でルーターの方に顔を向ける。

 

「今回はたまたま、友軍ガチャで黒衣の狩人を引き当て、難読彗星の沙亜も参戦してくれましたが、次回もそうとは限りません! そこで、もう少し自前の戦力の強化を考えませんか?」

 

「あー、またその話か」

 

 ルーターの言葉を聞くや、カルクルの顔色がみるみる不機嫌なものへと変わる。

 

「確かに、我々の軍団は規模こそ大きいものの、その質についてはNPC部隊に毛が生えた程度です。ですので、ここは一人でもパイロットプレイヤーを軍団に加入させる事を検討しては……」

 

「私は、私自身の戦術眼で何処まで戦えるかを試したいんだ! だから、パイロットプレイヤーは加入させない!」

 

「では、装備している兵器の更新や、せめてネームドの採用等をもっと……」

 

「課金なんてもっと嫌だ! 私は、無課金と私自身の戦術眼で何処まで戦えるかを試してみたんだ!!」

 

「はぁ……、もう十分だと思いますが? 正直、これ以上は、現状のままでは頭打ちだと思います」

 

「いいや、まだだ、まだ戦える、上は目指せる!」

 

 カルクルは、どうやら自らのこだわりを持ってプレイしているプレイヤーのようだ。

 

 その証拠に、先ほどルーターが説明した通り。

 カルクルが軍団長を務めるこの軍団には、ルーター以外のプレイヤーやネームドは在籍していない。

 その為、隷下の戦力もNPCのみで、質に関しても、モビルスーツよりも通常兵器の割合が高い。

 

 それでも、大佐の階級にまで昇進した事実は確かである為、その手腕は悪くはないのだろう。

 

 加えて、彼の運の良さも、多少は影響しているのかもしれない。

 友軍ガチャ、一般にそう呼ばれている、友軍支援要請システム。

 小隊長、及び軍団長が作戦前に、設定されたゴールドを支払う事によって、その作戦の間のみ、NPC部隊の友軍と共闘できるというもの。

 

 因みに、これが友軍ガチャと呼ばれる所以についてだが。

 設定されたゴールドの支払額に応じて、共闘できるNPC部隊の規模が異なる、これは確定事項なのだが。

 NPC部隊の兵器の質やパイロットの練度に関しては、毎回ランダムに設定されている。

 その為、少ない支払いで、今回のカルクルの様にネームド擁する部隊を引き当てる事もあれば。

 最大額を支払ったのに、引き当てたのは名無しの権兵衛と通常兵器ばかり、と言う散々な結果の時もあり。

 

 その為、何時しか友軍支援要請システムは、友軍ガチャと呼ばれるようになったのだ。

 

「先輩、いい加減、その守銭奴な性格、何とかしたらどうですか?」

 

「もういいだろ、別に」

 

「はぁ……。先輩、そんなだから、奥さんにも愛想尽かされて、出て行かれちゃうんですよ」

 

「ちょ! 今それ関係ないだろ!」

 

 仲がいいからか、ルーターは辛辣な意見をオブラートに包むことなくズバズバと投げつける。

 そのような耳の痛い意見を聞いたカルクルは、慌てた様子でもう止めてと頼むのであった。

 

 そんなやり取りを行う二人のもとに、艦橋乗組員が近づく。

 

「司令! 格納庫より連絡。メガソニックより、司令との面会希望者を乗せたスペース・ランチが到着したとの事です!」

 

「おぉ、そうか! よし、早速艦橋に案内しろ!」

 

「は!」

 

 お待ちかねの二人が到着したとの知らせに、カルクルの表情は一転、ぱっと明るくなる。

 

「ルーター。軍団の今後の方針については、作戦が終わってから話すとしよう。もうこれ以上、水を差されて気分を害したくない」

 

「分かりました」

 

 しかし、一瞬ルーターに向けて厳しい表情になったかと思えば。

 再び、お待ちかねの二人を出迎えるべく、満面の笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

「いや~、ようこそ、今回の作戦指揮官を務めるカルクル大佐だ」

 

「狩人部隊隊長、ウォルフガング少佐であります!」

 

「第046独立部隊の沙亜 阿頭那武婁少佐です」

 

「同じく、ユーリアン・ルク中尉です」

 

 艦橋でカルクルが出迎えると、艦橋に案内された三人は、直ぐに直立不動でカルクルに対して敬礼を行う。

 すると、カルクルも答礼をもって応える。

 

「本当によく来てくれた、うんうん」

 

 こうして一通り挨拶を済ませると、カルクルはにこやかな笑顔で個別に握手を交わしていく。

 

「狩人部隊の活躍は私も聞き及んでいるよ、今回の作戦でも、是非とも素晴らしい活躍を期待しているよ」

 

「は! ありがとうございます」

 

「それと、難読彗星の沙亜の二つ名を持つ君にもだよ、沙亜 阿頭那武婁少佐」

 

「は! ありがとうございます」

 

「いやー、それにしても、直接会ってみると、君は実に魅力的だ」

 

 と、カルクルは握手を終えると沙亜の手を撫でまわし、彼女の体を舐め回すような目つきで確かめる。

 そんな様子を沙亜の横で見ていたユーリアンの目つきが、みるみる鋭くなっていく。

 

「時に、阿頭那武婁少佐。その~、仮面を外して、その美しいであろうご尊顔を拝見する事はできないだろうか?」

 

「……」

 

「頼むよ」

 

「……すいませんが、私の素顔はそう簡単には明かせません。この仮面は、それだけ特別なのです。大佐も、ジオンでプレイしておられるのなら、この意味、お判りですよね」

 

 カルクルの要望に対して、沙亜は凛とした声で遠回しに断る。

 すると、カルクルの眉間に一瞬しわが寄るも。

 

「そ、そうか、そうだったな。いや~、すまなかった。確かに、その仮面は特別だ、こんな所で外していいものではないな」

 

 瞬時に元に戻すと、沙亜の素顔を拝見することを断念するのであった。

 

「では、もう戻ってもいいぞ。ご足労かけたね」

 

 こうして、沙亜とウォルフガングの両名と面会し、満足したカルクルは、三人を返す。

 そして、司令席に再び腰を下ろすと、面会中は黙っていたルーターが口火を切った。

 

「先輩、ここはキャバクラじゃないんですよ。トラブルになるような事は、慎んでください。垢バンされたいんですか?」

 

「し、仕方ないだろ! 私だって男なんだから!」

 

「ま、向こうも事を荒立てようと思っている雰囲気ではありませんでしたので良かったですが。今後は注意してくださいよ、先輩」

 

「う、うむ」

 

 ルーターの言葉に、反省した様子で頷くカルクル。

 

(それにしても、同じ軍団のあの子、かなり殺気立っていたが……。はぁ、困ったものだよ、全く)

 

 それを他所に、ルーターは内心、カルクルのフォローに頭を悩ませるのであった。

 

 

 一方、艦橋を後に、スペース・ランチでメガソニックへの帰路に就いた三人はと言えば。

 

「沙亜、大丈夫?」

 

「……」

 

「……え?」

 

「少しだけ、メガソニックに着くまでの間でいいから、握っていて、欲しい」

 

 先ほどのカルクルの行為を心配するユーリアンの手を、沙亜は自身の手に誘導すると、儚げな声で握ってほしいと頼む。

 彼女の頼みに、ユーリアンは握る事で応えると、二人はメガソニックに到着するまで、手を握るのであった。

 

 そんな二人の様子を、スペース・ランチを操縦するウォルフガングは、バックミラー越しに静かに見守っていた。

 

(この作戦が終わったら久しぶりに、サキエの所に顔を出すか)

 

 自身の婚約者の事を思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

CIC(戦闘指揮所)より緊急! 本宙域に接近する複数の反応を確認! 解析の結果、連邦の艦隊と思われます!」

 

「到達予測時間、約十五分!」

 

「総員、第一戦闘配置!! 繰り返す、総員、第一戦闘配置!! 全クルーは至急各持ち場へ!」

 

「ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布急げ!!」

 

「モビルスーツ隊、モビルポッド隊、戦闘爆撃機隊、直ちに発進!」

 

「直掩隊、展開急げよ!!」

 

 それは突然訪れた。

 降下部隊の降下を阻止すべく接近してきた連邦艦隊の存在を捉えたジオン側は、慌ただしさを増していく。

 

 エムデンの艦橋も、慌ただしさの只中にあった。

 そんな中で、カルクルは護衛部隊の展開を指示すると、次いで、マイクを手に、士気を鼓舞すべく通信を飛ばした。

 

「この作戦は一地方の争奪戦だが、小さな勝利の積み重ねが、ジオンに大きな勝利を齎す! 公国の興廃この一戦にあり! その気持ちで挑んで欲しい、以上!!」

 

 こうして通信を終えると、カルクルは引き締まった表情で巨大スクリーンを見つめた。

 

「さぁ、いよいよだ」

 

 そして、静かに呟くのであった。

 

 

 一方、メガソニックの艦内も、戦闘配置の為に至る所で怒号が飛び交っていた。

 

「少佐、HLVの切り離し作業完了完了です」

 

「了解だ。オーランド、艦の事は任せたぞ」

 

「分かりました、少佐。少佐もどうかご武運を!」

 

「あぁ。……ウォルフガング、出るぞ!」

 

 そんなメガソニックから、黒色に塗装された一機の指揮官用ザクII、ザクIIS型が発進する。

 右肩のシールドにウサギを咥える狼のエンブレムが描かれたその機は、ウォルフガング専用機であった。

 

 同じ頃。

 戦闘の際に支障をきたす為、メガソニックから切り離されたHLVは、流れに身を任せメガソニックから距離を取ると、程なくして、ハッチを開く。

 そして、中から姿を現したのは、ザク・アライヴと、もう一機。

 

 一見するとザクIIF型と見間違えてしまうが。

 よく見れば、背部のランドセルは新設計の別物で、脚部も増速用のスラスターを備えた新設計の物になっている等。

 ザクIIF型とは別物である事は、疑うまでもなかった。

 

 形式番号MS-06R-1A、機体名は、高機動型ザクII。

 今回の作戦参加に際して、宇宙で使用できないグフカスタムに代わり、ユーリアンが乗機として用意した機体である。

 

 同機種はザクIIF型ベースではなく、全面的に再設計された機種であり。

 宇宙戦という使用用途を特化した機体ながらも、それ故に極めて高い性能を誇り。

 原作等で同機種を使用したパイロットが、軒並みエース・パイロットである事や、連邦軍の戦艦を沈めるよりも同機種を手に入れる方が難しい、とまで言われるあたり、その評価の高さがうかがえる。

 

 なお、この高機動型ザクIIR-1A型。

 ランドニーが、こんな事もあろうかと。と、以前密かに開発レベルを上げて開発した事を報告していたのだが。

 その際シモンから、地上をメインに活動しているのに宇宙専用機を開発したのはゴールドの無駄遣いじゃないのか。と突っ込まれ。

 ランドニーがいつもの如く、遠くを見つめていつもの台詞を呟いたのは言うまでもない。

 

 

 因みに、今回、ユーリアンの乗機であるにもかかわらず、彼が高機動型ザクIIR-1A型をパーソナルカラーの黒に塗装しなかった理由は。

 同機種の代表的なパイロットである黒い三連星専用機と、色が被っている事の他。

 単に急に用意したため、塗装を変更している時間がなかった為である。




いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。
そして、お気に入り登録、並びに評価や感想など、皆様からの温かな応援、本当にありがとうございます。
この場をお借りして、感謝の気持ちを述べさせていただきました。

最後に、今後とも、どうぞご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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