デブリが散乱する宙域でヤザン小隊のジム二機を撃破したユーリアンは、急いで沙亜の援護に駆け付けるべく、乗機を走らせた。
高機動型ザクIIR-1A型の高機動性のお陰で、程なく沙亜とヤザンが戦っているであろう宙域へと駆け付けたユーリアンが目にしたのは。
文字通り、満身創痍なザク・アライヴとジムの二機の姿であった。
「沙亜!?」
「……っち! コーネストとリックスの奴らは駄目か」
損傷により、機器から配線が垂れ下がり、火花が飛ぶ中。
ヒビの入ったメインモニターが、接近する高機動型ザクIIR-1A型を捉えた事を確認したヤザンは、部下二人のジムが見られない事に、悔しそうな声を漏らす。
「流石にこのままもう一機を相手にするのは、分が悪いか」
そして、自身の不利を悟ると。
ヤザンは、連邦艦隊の方へと乗機のジムを回頭させると、そのままバーニアを噴かせ、宙域を離脱していった。
「沙亜。大丈夫!?」
「あぁ、大丈夫だ」
そんなヤザンのジムを他所に、高機動型ザクIIR-1A型は傷ついたザク・アライヴのもとへと近づくと、接触回線で呼びかけ、状態を確認する。
余程激しい戦闘だったのか。
右脚が切断され、背部の五連装ロケットランチャーは二基ともパージされている。
また、左肩の増加装甲も、ビームライフルが直撃したのか、一部が融解していた。
「私自身は大丈夫だ」
しかし、機体の状況に対して、コクピット内の沙亜は特に負傷もなく無事なようだ。
「ジムと思って油断していた様だ。少し、苦戦した」
「でも、沙亜に怪我がなくてよかった」
「……そ、そうか、そんなに心配してくれたのか」
「当たり前じゃないか!」
「……」
「沙亜?」
「……あ、あぁ、すまない。少し、ぼーっとしていた」
「兎に角、安全な後方に退避しよう。そろそろ降下完了のカウントダウンも終わる頃だと思うから、俺達がいなくても、後は大丈夫だと思うしね」
ザク・アライヴに肩を貸し、高機動型ザクIIR-1A型が後方へと退避を始めようかと思った矢先。
突如、メガソニックより緊急の通信が舞い込んでくる。
「こちら、艦長のオーランド大尉です! 阿頭那武婁少佐、ルク中尉。至急、降下部隊のHLVに向かってください! 敵モビルスーツが我が方の防衛網を突破し、HLVに向かっています! 少佐も、ウォルフガング少佐も負傷し、頼れるのはお二人しかいません!」
音声通信であったが、その声だけでも、オーランドの焦った顔が容易に想像できるほど、彼は落ち着きを失っていた。
「こちらルク中尉! オーランド艦長、敵の数は!?」
「数は一機、しかし、単機ながら高い機動性と、高威力の光学兵器を装備しています! 報告から、ジムタイプの改造機と思われます!」
オーランドからの報告に、ユーリアンは顔を強張らせる。
まさか、戦闘も終盤に差し掛かった所で、連邦は更にエースの投入。
しかも、戦闘での疲労の蓄積で防衛網に綻びが出来たとはいえ、そこを単機で突破してくる相手。
余程腕に自信のあるパイロットなのだろう。
「ユーリアン、何をしている。早く向かえ」
「え? 沙亜?」
「私は大丈夫だと言っただろう。さぁ、早く行け! 私達の今回の任務は、降下部隊の護衛だ! 護衛対象が危険に晒されているのなら、それに対処するのが私達の役割だろう!」
「……」
「それに私なら大丈夫だ。だから、早く行け」
沙亜の声に、ユーリアンは小さく了解すると、オーランドから送られたデータをもとに、降下部隊の護衛に急行する。
遠く一筋の光となる高機動型ザクIIR-1A型の後ろ姿を、満身創痍なザク・アライヴのモノアイが、優しく見送っているかのようであった。
さて、ここで時系列を少し遡る。
それは、ヤザン小隊が、沙亜とユーリアンの二人と各々の戦闘を開始した直後の事。
ジオンの展開した防衛網を突破できず、連邦艦隊の司令官である大佐は、座乗する改修サラミス級の艦橋で、怒りを露わにしていた。
「何をしている!! 攻撃隊は、まだ敵降下部隊に辿り着けんのか!!?」
「攻撃隊各隊、敵護衛部隊に阻まれ、未だ敵降下部隊のもとまで到達できず」
「ヤザンはどうした!?」
「それが、トレースした所、敵護衛部隊と交戦が確認されており。……呼びかけてはいるのですが、応答する気配がありません」
「くそ!! くそ!! あのバトルジャンキーめ!! あれ程念押ししたって言うのに!!!」
自身が座る司令席の肘掛けを力強く叩く大佐。
と、どうやら力強く叩き過ぎたのか、自身の手にも相応の衝撃がかかり、手を痛めたようだ。
叩いた手を、もう片方の手で庇う様にさすっている。
「くそ! もうあまり時間が残されていないって言うのに……。くそ! こんな事なら、友軍ガチャでヤザンを引き当てたから、楽に降下部隊を叩いて、地上のお前らを楽させてやるよ、なんて大口叩くんじゃなかった……」
そして、過去の自らの行いを小さく悔いるのであった。
「司令! 通信です!」
「あ? 通信? こんな時に、誰からだ!?」
「それが……。先方はコータと名乗っていますが」
「コータだと!?」
相手の名前を聞き、大佐は目を丸くした。
刹那、直ぐに通信をつなぐように指示すると、艦橋の一角にあるモニターに、コクピット内の映像が映し出された。
「どーも、カルンガムさん。お久しぶりっす」
コクピットシートに座るのは、ヘルメットでその顔は確認できないが、声からして若い男性。
それも、かなりチャラそうな雰囲気を見せる者であった。
「そうだな、久しぶりだ。……所で、君がいるという事は、まさかセトも?」
「あ、今回は俺一人っすよ」
「そうか。……それで、今回通信を入れたのは何用だ?」
「いやー、カルンガムさん、手こずってるようなんで、手を貸そうかと思って」
「く……」
カルンガムと呼ばれたコマンダープレイヤーは、コータの痛いところを突く発言に、言葉が詰まる。
「そうっすね。……とりあえず、成功報酬二千でどうっすか?」
「な!? 二千だと!?」
そして、コータから提示された報酬の額を聞いて、今度は口を大きく開けるのであった。
「い、幾ら何でも高すぎる! 千だ、千!!」
「えー、それじゃ割に合わないっすよ。あんなに大口叩いてたんっすから、失敗して恥かく事考えたら、素直に払った方がいいと思うっすよ。じゃ千八百」
「ぐ……、なら千三百!!」
「もう一声、千五百」
「……わ、分かった! なら千五百、千五百だ! だが、当然報酬は成功した場合のみ支払うからな!!」
「了解、それじゃ、報告、楽しみに待っててくださいっすね」
と通信が切れ、艦橋内からコータのチャラい声が消える。
刹那、艦橋のスクリーンが、セイバーフィッシュをベースとした改造機。
セイバー・ブースターが、搭載した鮮やかなオレンジ色のモビルスーツと共に、ジオンの防衛網へと向かっていく様子を捉えた。
ヤザン小隊と、沙亜とユーリアンの二人が戦っていた右翼側とは反対の、左翼側の宙域に、ウォルフガング専用ザクIIS型の姿はあった。
初期型ジムやボール等、いくつかの敵を宇宙の塵にしたウォルフガングは、コクピット内で一息ついていた。
「ん? どうした?」
すると、母艦であるメガソニックから通信が入る。
「少佐、少佐の方へ急速接近する反応を捉えました」
「数は? それと、詳細は分かるか?」
「数は一つ。観測したデータの解析から、大型戦闘機と思われますが……」
「了解した。直ちに迎撃に向かう」
通信を切ると、ウォルフガングは操縦桿を握り直し、乗機を謎の大型戦闘機が接近中の方向へと向かわせた。
程なくして、相手が大型戦闘機という事もあり。
乗機のレーダー画面に、報告のあった謎の大型戦闘機を捉える。
「さぁ、こい」
ザクマシンガンを構え、メインモニターに表示されるレティクルの中心に謎の大型戦闘機が現れるのを待つ。
それから一分も経たぬ内に、レティクルの中心に小さな機影が現れる。
初めは小さなその機影も、一拍置くごとに大きなり。
やがて、はっきりとした外見を現す。
「何!?」
姿を現したのは、謎の大型戦闘機ことセイバー・ブースターと、そのセイバー・ブースターに搭載された鮮やかなオレンジ色の、ジム系統のモビルスーツの姿であった。
その姿は、宛らジオンが地球で運用しているド・ダイYSを彷彿とさせた。
(成程、宛ら宇宙用ド・ダイYSか……)
ウォルフガングは、新たな概念の創造には膨大な時間を有するのに。
一度それが登場すれば、それを応用した物の登場には、さほどの時間もかからないものか。
と、そのスピードに感服するのであった。
「だがオレは、生憎狩人なんでな、壊させてもらう!」
刹那、ウォルフガングが操縦桿のトリガーを引くと、構えたザクマシンガンから幾つもの一二〇ミリ弾が放たれる。
放たれた一二〇ミリ弾の弾道は、セイバー・ブースターに搭載されたモビルスーツへと弾着する、かと思われた。
「っ!?」
だが、鮮やかなオレンジ色のモビルスーツは、一二〇ミリ弾が弾着する寸前にセイバー・ブースターから離脱する。
その際の動きは、ただのジムとはとても思えぬ程身軽であった。
だが、一瞬見とれかけたウォルフガングは、すぐさま操縦桿を操作すると、回避行動に移る。
自身を狙う光線が、鮮やかなオレンジ色のモビルスーツの持つビームライフルから放たれたからである。
「へぇ~、なかなかやるっすね」
三発ほどビームライフルによる攻撃を回避した所で、ウォルフガングの耳に、相手のパイロットと思しき若い男性の通信が飛び込んでくる。
「って、たはぁー! どうりで腕利きな訳だ。……パーソナルカラーの黒に、そのエンブレム。黒衣の狩人っすね」
「オレの事を知っているのか?」
「えぇ、貴方はジオンのエースパイロットの一人ですから」
「それは光栄だな」
「あぁ、そうだ。一方的に自己紹介されるのもあれっすよね。って事で、自己紹介します。俺の名はコータ、この俺用にカスタマイズしたジム・ライトアーマー共々、覚えといてくださいね」
と、コータは自らの名と乗機の素性を明かすと、一息置き。
「でも、ま、ここからは俺の
自信満々な台詞を放つと、再び戦闘を再開する。
「っち! 随分と自信たっぷりだな!」
放たれた光線を回避し、再びザクマシンガンの発砲を再開するウォルフガング。
傍から見ると、ザクマシンガンの弾幕でコータのジム・ライトアーマーを圧倒している様に見えるだろう。
だが実際は、放たれる一二〇ミリ弾は、ジム・ライトアーマーの装甲をかすめる事無く空しく空を切り。
ウォルフガングは、全く当たらぬ自身の攻撃に、焦りの色を滲ませ始めた。
「さぁて、そろそろ準備運動で体も温まってきたんで、本番、いきますか」
「っ!?」
と、コータからの通信に、ウォルフガングは静かに奥歯を食いしばる。
刹那、ジム・ライトアーマーはさらに加速を上げると、不規則な機動で一二〇ミリ弾の雨を掻い潜りながら、ウォルフガング専用ザクIIS型の懐へと飛び込む。
だが、ウォルフガングも、懐に入られた場合の対策として、新たに乗機の左手にヒートホークを装備し備えた。
そして、オレンジの巨人が懐に飛び込んできた刹那。
ウォルフガング専用ザクIIS型は、左手に装備したヒートホークを薙ぎ払った。
だが、その高温の刃が、鮮やかなオレンジの装甲を捉える事はなかった。
「ざーんねーん!」
「なに!?」
それは、まるで人を前方宙返りひねりで飛び越えるかのように。
有機的な動きで、ウォルフガング専用ザクIIS型の頭上を位置取ったジム・ライトアーマー。
次の瞬間、一瞬の狙いをつけ、装備したビームライフルのトリガーを引いた。
放たれる殺気を感じ取ったのか、脳で考えるよりも体が反応し、ウォルフガングは咄嗟に回避行動に出る。
だが、至近距離で放たれた光線を躱しきることは出来ず。
放たれた光線は、右腕から右脚にかけて貫くと、右腕と右脚を誘爆させた。
「ぐ!!」
誘爆の衝撃で細かな破片が飛び散り揺れるコクピット内で、微かな痛みを感じつつも、メインモニターを見つめるウォルフガングの目は、まだ闘志を失ってはいなかった。
片腕と片脚を失っても、もう片方が残っているのなら、戦う気でいた。
だが、乗機を回頭させた彼が目にしたのは、メインモニターの中で小さな光となっていくジム・ライトアーマーの姿であった。
「くそ!」
遠距離攻撃の手段を失い、更に追撃するにも片腕と片脚を失って本来の機動力を出せない乗機の現状。
初めから相手がそれを狙っていた。降下部隊を攻撃する際に邪魔されない様に負傷させるのが目的で、自身はまんまと相手の思惑にはまってしまった。
そう理解した時、ウォルフガングは手元の機器を叩いた。
「オレとした事が、熱くなり過ぎていたか……」
そして、自身でも気付かぬ内に冷静さを欠いていた事を反省すると。
ジム・ライトアーマーを仕留め損ねた事をメガソニックへと報告すると共に、破片でできた切り傷の応急措置を行うのであった。
そして、時系列は再びユーリアンが降下部隊の護衛に急行する場面へと戻る。
ユーリアンの高機動型ザクIIR-1A型は防衛網の最後尾まで到達し、そこで、目にする事となる。
一機のジム・ライトアーマーが、装備したビームライフルで、エムデンを撃沈した所を。
「これ以上は!」
刹那、ユーリアンはフットペダルを踏み込み、乗機をジム・ライトアーマー目掛けて突撃させる。
すると、ジム・ライトアーマー側も高機動型ザクIIR-1A型の存在に気が付いたのか、不意に振り返ると、そのまま回頭し、高機動型ザクIIR-1A型目掛けてバーニアを噴かせた。
「あんまり時間ないから、さっさと墜ちちゃってよ!」
コータは装備したビームライフルの銃口を高機動型ザクIIR-1A型へと向けると、発砲する。
だが、放たれた光線は、高機動型ザクIIR-1A型の回避行動により、空しく
更に続く二発目も、高機動型ザクIIR-1A型の装甲を捉える事はなかった。
「へぇ、少しはやるじゃん」
と、今度はお返しとばかりに、ジム・ライトアーマー目掛けて、一二〇ミリ弾が飛来する。
だが、ジム・ライトアーマーは軽々とそれを躱してみせると、三発目を発砲する。
しかし、またも光線は空しく
やがて、二機の戦闘は、徐々にその速さを加速させ。
宙域に、激しく交差し絡み合う、光の軌跡を描き始めた。
「か、艦長、どうしましょう」
「むやみに撃てば、味方に当たる可能性もある。ここは、推移を見守るしかない」
一方、そんな二機の戦闘を観測していたメガソニック。
その艦橋では、艦長のオーランド大尉が、観測員からの質問に答えていた。
「本艦は、防衛網最後の要だ! 観測員、観測を怠るな! もし敵モビルスーツが突破しようものなら、刺し違えてでも、後ろの降下部隊は守り通すぞ!」
オーランド大尉の指示に、艦橋内から力強い返事が返ってくる中。
不意に、通信員から急を告げる声が飛ぶ。
「艦長! エムデンのコムサイを確認! どうやら、カルクル大佐以下、主だった司令部の面々を乗せている様です」
「そうか……」
運のいい人だ。
と、オーランド大尉はカルクルの強運を内心称えると。
直ちにエムデンのコムサイを回収すべく指示を飛ばす。自らの戦いを、最後まで貫くために。
「いいねぇ、いいっすね! こんなに楽しめてんの、久しぶりっすよ!!」
「っ! く!」
そして、ユーリアンとコータの戦いもまた、続いていた。
お互いに目まぐるしく宙域を飛び回り、装備した武装を相手に当てようと撃ち続ける。
一見、お互い拮抗しているようにも見えるが。
実は、ユーリアンの方が少々苦しい立場にあった。
(もうあまり推進剤の残量がない。あまり時間はかけてられないな……)
作戦開始時から戦っているユーリアンに対し、コータは作戦終盤に参戦した。
故に、両者の乗機のコンディションは、圧倒的にコータの方が有利であった。
加えて。
「確かにR-1Aはいい機体っすけど、所詮ノーマルじゃ、俺用にカスタマイズしたジム・ライトアーマーに対しちゃ、力不足っすよ!!」
外見的には、塗装以外改造が施されているとは思えないジム・ライトアーマーだが。
その内部は、ノーマル状態の機体とは異なる程、改造が施されている。
一方の高機動型ザクIIR-1A型は、無改造の状態。
その為、余裕をもって攻撃を躱すジム・ライトアーマーに対して。
高機動型ザクIIR-1A型は、ギリギリでの回避が多かった。
そして、今回も。
警報音に反応しスラスターやAMBACを駆使し、ビームライフルの光線を躱す。
かと思われた。
「っ!!」
だが、放たれた光線は、高機動型ザクIIR-1A型のシールドに命中し、シールドを弾き飛ばす。
と、シールドを弾き飛ばされた事に気を取られていたのか。
高機動型ザクIIR-1A型は、進行方向上のデブリと衝突寸前の距離にあった。
「しまった!」
デブリの存在に気付いたユーリアンは、咄嗟に高機動型ザクIIR-1A型の推進力をもって衝突を回避する。
何とか無事に回避を成功したユーリアンが安心したのも束の間、再びコクピット内に警報音が響き渡る。
「よそ見してちゃ駄目っすよ!!」
咄嗟に回避行動を取るも。
デブリとの衝突を回避するために体勢を崩したため、避けきれず。
高機動型ザクIIR-1A型は、左腕をビームライフルの光線に撃ち抜かれてしまう。
しかし、ユーリアンは咄嗟に、被害を最小限に抑えるべく左腕を緊急パージし、更なる誘爆は防がれた。
「さぁーて、本当に時間もないし、そろそろ、トドメ、刺させてもらいましょうかね」
遊びはここまでだと、コータは操縦桿を握り直す。
一方ユーリアンは、左腕を失い、推進剤の残量も僅かな乗機の状態から、どの様にして形勢逆転を測るかの算段を立てていた。
(あれは……)
と、算段を立てる為に動かしていたモノアイが、少し離れた宙域を漂う何かを捉える。
それを確認したユーリアンは、一か八かの賭けに出た。
「あん?」
先に動いた高機動型ザクIIR-1A型に反応するように、ジム・ライトアーマーも攻撃を再開する。
だが、片腕がなくなった分身軽になったのか、再び攻撃が躱される。
そんな高機動型ザクIIR-1A型が向かったのは、先ほど、ジム・ライトアーマーが撃沈させたエムデンの残骸であった。
「障害物があれば、何とかなると思ってんの!?」
エムデンの残骸に姿を隠した高機動型ザクIIR-1A型目掛け、追いかけたジム・ライトアーマーはビームライフルを発砲していく。
その高い威力に、残骸は盾としての機能を果たすことなく、簡単に穴を開けていく。
と、残骸に隠れながら、高機動型ザクIIR-1A型が攻撃を再開した。
「無駄無駄ぁ! 諦めて楽になっちまいなよ」
残骸の脇から発せられる発砲炎目掛け、コータはビームライフルを撃ち込み続ける。
すると、程なくして、残骸の一部が、ジム・ライトアーマー目掛けて不自然に飛んでくる。
軽々と残骸を避けると、不自然に飛んできた正体を確かめる。
「もう、破れかぶれかよ」
よく見れば、高機動型ザクIIR-1A型が、攻撃の合間に、適当な大きさの残骸を、ジム・ライトアーマー目掛けて蹴り飛ばしていた。
そんな相手の様子を、コータは何処か憐れむかのような様子で見つめていた。
それから、一二〇ミリ弾と残骸のコンボ攻撃を躱しながら、ビームライフルを撃ち続けていると。
今度は、今までのよりも一回り大きな残骸が飛んできた。
「だから、いい加減諦めろって……」
しかし、大きくなった所で結果は変わらず。
安々と躱したジム・ライトアーマー。
そして、続けて一二〇ミリ弾が飛来したのだが。
「え?」
一二〇ミリ弾が飛来したのは、何故かジム・ライトアーマーではなく、先ほど躱した大きな残骸。
その弾道に不自然さを覚えたコータは、ふと弾道の先を確かめてみると、そこにあったのは、残骸の影に隠れていた、
しかも、
「しま──」
それが意味する所を瞬時に理解したコータは、直ちに距離を取るべくバーニアを噴かせた。
だが、直後。
閃光と共に、周囲一帯を包み込まんとする巨大な爆発が起こる。
程なくして、巨大な光球が収まった近くに、先ほどまでの鮮やかな塗装を失ったジム・ライトアーマーの姿があった。
爆発の影響か、機体各所には焦げや小さな穴が開いており。また、逃げきれずに巻き込まれたのか、左腕と左脚を失っていた。
「くそ、左腕左脚破損、推力四割ダウン、機体各部コンディション・レッド……」
その名の通り、機動性を重視した為、装甲の軽量化が図られた事が今回は仇となり。
先ほどの爆発の影響で、機体状況は一気に危険水域にまで達した。
と、そんなジム・ライトアーマーに、高機動型ザクIIR-1A型が近づく。
「ははは、参ったね。まさか、破れかぶれになったかと思えば、全部計算づくだったとは」
未だ生きている通信機を使い、ユーリアンに称賛の言葉を投げかけるコータ。
「ここまでやられたの、久々っすよ。ねぇ、R-1Aのパイロットさん。もしよければ、名前、教えてくれないっすか?」
「ユーリアン、ユーリアン・ルクと言います」
「ユーリアン・ルク?」
ユーリアンの名を聞いて、コータは以前何処かでその名を見た事があると、記憶を遡っていた。
そして、彼は思い出した。
以前、自身が尊敬するプレイヤーが、一度戦ってみたいと呟いていた名前だと。
「っ、はははは!! こんな事ってあるんっすね!!」
「?」
「成程、セトさんが言ってた意味、やっと分かったっすよ」
自己完結するコータに、ユーリアンは何が何だか分からない様子であった。
「ま、これも時の運ってやつっすかね。今回のステージは君に譲るっすよ。けど、次会った時は、そのステージ、俺がいただくっす!」
しかし、ふと我に返り、ユーリアンはもはや回避する素振りも見せないジム・ライトアーマーに、ザクマシンガンの銃口を向けた。
そして、トリガーを引こうとした、その時。
「!?」
コクピット内に警報音が鳴り響き、ユーリアンは咄嗟に乗機を後退させる。
すると、先ほどまで高機動型ザクIIR-1A型が立っていた位置に上方からミサイルが飛来した。
「強敵に一度倒されても、再び強くなって舞い戻ってくる! ヒーローものの王道パターンっすからね! じゃ、また何処かでー!!」
ミサイルに気を取られている隙に。
気が付けば、ジム・ライトアーマーはセイバー・ブースターに乗り、急速に離脱していった。
ユーリアンは、セイバー・ブースターが飛び去って行った方角を見つめながら、再びコータと再戦する時が訪れる。
そんな予感を感じていた。
その後、旧モザンビーク北部一帯を制圧する作戦は、見事、ジオン側の勝利で幕を閉じた。
護衛戦力に相応の被害は出たものの、要となる降下部隊は護衛戦力の奮闘により無事であった為、その後の制圧作戦は連邦側の防衛戦力の少なさも相まって滞りなく進んだ。
どうやら、連邦側は衛星軌道上での迎撃戦で相当の制圧戦力を削れるものと思っていた様だ。
いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。