ゴビ砂漠、それは旧中国の内モンゴルから旧モンゴルにかけて広がる砂漠の事で。
その面積は東西約一六〇〇キロ、南北約九七〇キロ、総面積約一三〇万平方キロメートルを誇る、世界で四番目に大きいとされる砂漠である。
そんな広大な熱砂の大地を、第046独立部隊一行を乗せた二梃のギャロップが、砂煙をあげて突き進んでいた。
直線距離にして五六〇〇キロにも及ぶ長距離移動の為か、ギャロップの艦尾には、物資を積載したドーム状の"カーゴ"と呼ばれるキャンピングトレーラーを牽引している。
「司令、間もなくマルコシアス隊の野営地に到着します」
「むふふ、もうすぐあのマルコシアス隊とご対面だ……」
艦橋で司令席に腰を下ろしたランドニーは、マルコシアス隊との対面に、期待に胸を膨らませていた。
一方、そんな期待されているマルコシアス隊の面々はと言えば。
ゴビ砂漠の一角、巨大な岩石の影に設けた野営地で、唯一の楽しみと言える食事にありついていた。
「あ~、それにしても、一体いつまでこの砂漠の中で野宿しなきゃならないんだ」
「もうすぐ作戦開始だとは思うけど」
「先行して輸送隊の飛行ルート上で待ち伏せるのはいいけどさ、もう三日だぜ。あぁ~、何時になったら連邦の輸送隊が飛んでくるんだよぉ」
「ぼやくな、リベリオ」
「でもよぉ、セベロ。……はぁ、せめてこの飯がもう少し柔らかければなぁ。見て見ろよヴィンセント、このクッキーの固さ、これなら釘だって打てるぞ」
「そんなに固いのなら、水に浸して柔らかくすればいいだろう?」
「はぁ……、そんな無駄な事にじゃぶじゃぶ水を使いたいよ」
今回の作戦の為、連邦軍の輸送部隊が飛行すると思われるルート上で待ち伏せを行うべく、三日前から現地入りしていたマルコシアス隊。
しかし、砂漠と言うとコロニーでは絶対にお目にかかれない厳しい環境に、コロニー育ちの隊員達は、食事事情の悪さも相まって、不満を零していた。
「つか、風呂とまでは言わないけど、いい加減シャワー位浴びたいよな。昨日なんて濡れたタオルで体拭いただけだし」
「この作戦が終われば、基地に戻って浴びる程水を使えるさ」
「だといいけど……」
と、突如、強い風が吹くと共に砂塵が舞い上がり、マルコシアス隊の隊員達が食事をとっていた簡易テントを襲った。
砂塵が通り過ぎた簡易テントの中は、文字通り砂まみれであった。
「ぺっ! ぺっ! うぇ……」
「これが、砂の味、か」
「ぐぬぬぬぬ……」
トレーに乗った食事も、口の中も、一瞬にして砂混じりとなり、気が滅入る隊員達。
そんな中、黒いパイロットスーツに身を包んだ一人の隊員が、堪らず手にしたフォークをへし折ると、大声で不満を叫び始めた。
「だぁぁぁっ!!! このゴビ砂漠ってのは、満足に飯も食わせてくれねぇのか!! 何が母なる我らの大地だよ!!? これじゃ意地悪な継母だろうが!!!」
大声で不満を叫ぶ隊員に、不意に、一人の男性が近づくと、隊員の肩に手を置きながら、宥める様に話しかけた。
「そう腐るな、ギー」
「!? 総隊長」
彼に話しかけたのは、顔に痛々しい傷跡を残す、マルコシアス隊の総隊長兼部隊の教導試験官。
ダグ・シュナイド大尉その人であった。
「今回の作戦で活躍すれば、この野営でへこたれた気分も吹き飛ぶかもしれんぞ?」
「総隊長、それはどういう意味でありますか!?」
「キシリア閣下から連絡があった。『突撃機動軍特別編成大隊』、『キマイラ隊』と呼ばれる部隊の発足を決定されたそうだ。エースパイロットを中核とする、文字通りのエリート部隊。戦果次第で、我々も仲間入りを果たせるかもしれんぞ」
シュナイド大尉の言葉を耳にした瞬間、ギーと呼ばれた隊員を始め、他の隊員達も目の輝きを増していく。
「我々は数多のモビルスーツパイロットから選別されたマルコシアス隊だ、これ位の試練、耐え抜き乗り越えられなければ、キマイラ隊の一員など、夢のまた夢だぞ」
そして、ひとしきり語り終えたシュナイド大尉は、自身のテントへと向かっていった。
「噂は本当だったんだな、ヴィンセント! こんな僻地での作戦に従事させられて、見捨てられたかと思ってたけど、戦果如何でエース部隊の仲間入りだってよ!」
「そうだな」
リベリオと呼ばれた隊員は、興奮冷めやらぬ様子で、ヴィンセントと呼ばれた仲のいい隊員に語り掛ける。
「ふん、残念だったな。仲間入りを果たすのは、俺達F小隊だ」
「……んだと?」
「総隊長と新型のお陰で生き残ってるお前らG小隊には、エースの仲間入りは無理だって言ってるんだよ」
「この野郎! もう一度言ってみろギー! ぶっ飛ばしてやる!!」
「望む所だ、返り討ちにしてやる!!」
「ふ、二人とも! 止めろよ!!」
と、そんなリベリオに対してギーの放った一言が彼の怒りに触れ。
気付けば二人は取っ組み合いの喧嘩を始めていた。
二人の喧嘩を止めようと、ヴィンセントを始め、他の隊員達が間に割って入る。
「放せ! 放せよヴィンセント!」
「リベリオ止めろよ、仲間割れはよせ!」
「ふん、仲間だと? 俺達マルコシアス隊は
「分かってる。……でも、戦争って言うのは、一人じゃできない、そうだろ、ギー?」
「にししし、だとよ、ギー。ヴィンセントの方が、お前よりよっぽど小隊長らしいや」
「んだと!!?」
と、リベリオの余計な一言で、沈静化した喧嘩が再び再燃しようとした矢先。
不意に、隊員の一人が、地平線の彼方から自分達の方へ接近している二梃のギャロップの姿を見つけた。
「何だ? あれ?」
そして、リベリオとギーの喧嘩は、ギャロップに気を取られ、いつの間にか自然と収まるのであった。
「いや~、どうもどうも! シュナイド総隊長。 自分は、今回の作戦でマルコシアス隊と共闘させていただきます、第046独立部隊の司令官を務めるランドニー・ハート中佐であります!!」
その後、野営地に到着した二梃のギャロップから降りてきたのは、第046独立部隊一行であった。
作戦開始前の顔合わせを目的に、マルコシアス隊の野営地を訪れた第046独立部隊一行は、早速挨拶を交わす。
「なぁ、ヴィンセント。何で自分の方が階級が上なのに、シュナイド総隊長にあんな腰低くしてるんだ、あの中佐?」
「さぁ、俺に言われても……」
ゲームの登場人物と生で対面できた感動で自然と腰が低くなっている、等と理解できず。
リベリオとヴィンセントは、シュナイド大尉に対してへりくだった様子のランドニーに疑問符を浮かべるのであった。
「ふん、分かってないな、二人とも」
「ん? 何だよギー、お前には分かるって言うのか?」
「第046独立部隊の司令官、ランドニー・ハート中佐と言えば、低姿勢でどんぶり勘定な人なのは有名だぞ」
「低姿勢なのにどんぶり勘定って……、それ大丈夫なのか?」
「確かに」
「それでも大丈夫なんだよ。なんせ、第046独立部隊には双璧とも言えるエースがいるからな」
ランドニーの説明に心配せずにはいられないリベリオとヴィンセントの二人を他所に。
ギーは説明を続ける。
「一人はあの、ジオン十字勲章を授与され、今や公国軍を代表するエースと言っても過言ではない難読彗星の沙亜の異名を持つ、沙亜 阿頭那武婁少佐。何といってもあの赤い彗星を彷彿とさせる操縦テクニックに、謎多き素顔。だが、隠しきれず漂う雰囲気は、まさにエースそのもの!!」
「おぉ……あれはたしかに、エースだ。なヴィンセント!」
「え、あ……、そうだな」
シュナイド大尉と握手を交わしているパイロットスーツ姿の沙亜を目にしたリベリオは、確かに隠し切れず溢れんばかりに目立つエースの脅威に目を凝らすと、ヴィンセントにも同意を求める。
それに対して、ヴィンセントは少々頬を赤らめ、小さく同意するのであった。
「そしてもう一人は、沙亜少佐の影に隠れがちだが、戦闘から支援まで、幅広くオールマイティーにこなすレイヴンことユーリアン・ルク中尉」
「ふーん、何か、ヴィンセント、お前と雰囲気似てるな、あの中尉」
「え? 俺と?」
「ふん、おこがましいぞ。ヴィンセントとルク中尉とでは、格が全く違う」
こうして沙亜とユーリアンの説明を終えたギーは、一拍置くと、残りの面々の説明を始める。
「勿論、それだけではない。部隊随一のスナイパー、シモン・ヘイチェフ准尉に。部隊の頼れる支援役、メノ・ポートマン上等兵。寡黙な前衛、ロッシュ兵長。文字通り精鋭揃いのエース部隊だ!」
「流石はギー、詳しいんだな」
「ふん、何を言ってるんだヴィンセント。これ位、知っていて当然だ」
「うわぁ、流石はエースペディアのギー君」
エース部隊の情報は知っていて当然とばかりに語るギーであったが、彼の常識は、リベリオとヴィンセントとは少々異なっていた。
マルコシアス隊の中で自他ともに認めるエースマニア。それが、ギーであった。
それを証明する様に、彼はエース部隊の一つである黒い三連星のレプリカモデルの黒いパイロットスーツを愛用し。
自らの乗機であるザクIIFS型には、エースに人一倍強い憧れを抱く彼の気持ちを反映するかのように、頭部に小さなスパイクを四本、取り付けていた。
「そうだ、作戦前に部下達の士気を鼓舞したいのだが、もしよろしければ、エース部隊である第046独立部隊に協力して欲しいのだが、よろしいか?」
「勿論。それ位ならお安い御用ですよ! なんせエースですから、
「……」
「ら、ランドニー! す、すいませんシュナイド大尉! それで、具体的にはどう協力すればよろしいですか!?」
「あ、あぁ、そうだ……」
そんなギーの熱意が通じたのか、突然のギャグにきょとんとした様子のシュナイド大尉の計らいで、第046独立部隊の誇る双璧。
沙亜とユーリアンの愛機、ザク・アライヴとグフ・インフェルノを、マルコシアス隊の隊員達にお披露目する運びとなった。
「見ろよヴィンセント! スゲー! ギンギンにカスタマイズされたザクとグフ、チョーかっけぇ!」
「まさしくエースが乗るに相応しい機体だな!」
眼前に佇むザク・アライヴとグフ・インフェルノを前に、リベリオとギーは目を輝かせ。
他のマルコシアス隊の隊員達も、その姿を目にし、いつか自分自身も同様の機体に乗れるようにと奮起していた。
「エース、か……」
そんな中、ヴィンセントは、不意にランドニー達の方へと視線を向けた。
すると、不意にユーリアンと目が合う。
刹那、ユーリアンが優しく微笑んだので、ヴィンセントは軽くお辞儀して返すのであった。
その後、第046独立部隊と別れたマルコシアス隊は。
程なくして、作戦開始の為、野営地を後にした。
「にしても、カッコよかったよな、ヴィンセント!」
「あぁ、そうだな」
「あの部隊なら、今回の作戦で当たりを引かれても、あんまり悔しくはないな」
「少なくとも、囚人部隊よりはな」
襲撃地点へと向けて移動するモビルスーツのコクピット内で、マルコシアス隊の隊員達は作戦前の談笑に弾んでいた。
「さぁ、お喋りはそこまでだ。間もなく襲撃ポイントに到着する、各員、気を引き締めろ!」
刹那、シュナイド大尉の一喝に、隊員達の顔が途端に引き締まる。
(母さん、父さん……。俺は生き残ってみせるよ)
自らのパーソナルカラーの青に塗装された陸戦高機動型ザクのコクピットで、ヴィンセントは、コクピット内に貼った一枚の写真を見つめながら内心呟くと。
気合を入れ直し、操縦桿を握り直した。
悪魔の名を持つ彼らの戦いの時は、間近に迫っていた。
いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。