機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第二十六話 死にゆく者たちへの祈り(ララバイ)

 捜索班や、無事救助されたルッグンの乗員と救助班。

 そして、傷ついたモビルスーツ達を収容し、戦闘地域から離脱した第046独立部隊のギャロップ二梃は、程なくして、手ごろな巨大岩石の影に身を隠した。

 そこで、共闘する残りの二隊からの報告を受け取る為だ。

 

「司令、マルコシアス隊より報告。輸送部隊の襲撃に成功するも、残骸から物資等は発見できず」

 

「司令、ウルフ・ガー隊より報告。輸送部隊の襲撃に成功、なれど輸送品は確認できず」

 

「おいおい! どうなってんだよ!?」

 

「えぇー、それってもしかして、全部外れって事!?」

 

 ギャロップの艦橋内に響くのは、シモンとメノの嘆息混じりの声であった。

 ギャロップの格納庫内で戦闘の疲れを癒している愛機を降りて、パイロット達はこの艦橋に集結していた。

 

「やっぱりな」

 

「あれ? ランドニー。何だか事前に分かっていたような口ぶりだけど?」

 

「あぁ、実はな……」

 

 共闘した残りの二隊からの報告を聞き、沙亜とユーリアン、それにロッシュも、声には出さずとも今回の作戦が空振りに終わったことに気落ちしていたが。

 ランドニーだけは、特に気落ちした素振りなどなく、むしろ当然だと言わんばかりの口ぶり。

 その事を不思議に思ったユーリアンは、ランドニーにそのからくりを尋ねる。

 

 すると、ランドニーは何処からか紙の束を取り出して、ユーリアン達の前に提示した。

 

「報告を受け取る前にこいつに目を通していたから、今回の作戦は空振りだって分かってたんだよ」

 

「それは?」

 

「捜索班が捕獲したミデア輸送機内を捜索した時に押収していた、今回の輸送作戦の命令書さ」

 

 ランドニーの提示したその紙の束は、連邦軍によるホワイトベース隊への輸送作戦の命令書であった。

 ユーリアン達五人は、受け取った紙の束に目を通していく。

 そこには、以下のような内容が書かれていた。

 

 本輸送作戦は、ジオン軍の目を欺く為、複数の囮の部隊を用意し、複数のルートから偽の合流地点を目指す。

 囮の部隊につられジオン軍が部隊を襲撃し、本作戦を阻止したと誤認した所で、仮設基地にて待機中の本命部隊が、ホワイトベース隊との合流地点へ急行。

 必要な物資とモビルスーツをホワイトベース隊に受け渡す。

 

 この内容を見た五人は、自分達がまんまと連邦に一杯食わされたと悟るのであった。

 

「とすると、あのコア・ファイターが私達を襲ったのは?」

 

「多分、ミデア輸送機の乗員から囮部隊の存在が露見されるのを恐れてか、単にあの乗員達の救援要請を受け取って駆け付けたかのどちらかだろうな。最も、結局こうして露見しちまった訳だけどな」

 

「それよりも、これからどうするんだ? とりあえず今回の任務は終わった訳だし……」

 

「いや~、それがだな」

 

 沙亜の質問に答え、次いでシモンの質問に、歯切れが悪そうに答えるランドニー。

 

「何だよ? どうした?」

 

「いや~、それが。今回の任務、ターゲットは輸送部隊の中核をなすミデア輸送機の撃破。で、俺達、何機撃破した?」

 

「……、あ」

 

 そこでシモンは、気付いた。

 そう、あの二機のコア・ファイターに邪魔され、捕獲した最後の一機を破壊し損ねた事を。

 

「ってことは、まさか」

 

 シモンのみならず、他の面々も嫌な汗が滲み出始める。

 

「──あぁ、今回の任務、失敗だ」

 

「って事は当然、報酬も?」

 

「なしだ」

 

 そして、ランドニーの口から告げられた事実に、皆の表情が暗くなった。

 

 現実なら、一機逃がした所で、内部を捜索して得た情報を報告書に添付すれば、酌量してもらえるだろう。

 しかし、これはゲーム。

 幾ら酌量を求めた所で、システム的には成功条件を満たしていない為、有無を言わさず"失敗"である。

 当然、失敗したのだから、成功報酬など払われるはずもない。

 

「ま、偶にはそんな時もあるよ。次頑張ろう、次!」

 

 そんな落ち込まずにはいられない空気が艦橋内を支配する中、いち早く気持ちを立て直したメノは、他の面々を元気づける。

 

「そうだな。もう終わった事だ、今更悔いてもどうにもならん。気持ちを切り替え、次に挑もう」

 

「だね。気持ちを切り替えて、次を頑張ろう」

 

「ま、仕方ねぇ、次頑張りますか」

 

「……、失敗は、成功のもと」

 

 メノの声援に他の面々も気持ちを切り替え、次に向けて意気込みを口々に言う。

 

「そうだぞ! クヨクヨせず、前向きに! 次をがんばろー!」

 

 そういうランドニーが一番落ち込んでたけどな。

 とのシモンのツッコミに、艦橋内に笑い声が木霊し、先ほどまでの暗い空気は、何処かへと吹き飛ぶのであった。

 

「さて、気持ちも切り替えた所で、普通ならオデッサに戻る所だが」

 

「何だ? 戻らないのか?」

 

「いや~、流石にこのままじゃ、今回の任務、収支的にマイナスになっちまうからな。──そこで、マイナスをプラスにすべく、行動を開始したいと思う! 即ち、セルフ追加ミッションだ! 幸い、明日は皆休みで時間もあるだろ? という訳で、最後まで付き合ってもらう」

 

 どうやらランドニーとしては、任務で発生したルッグンの買い直しに修理の費用等、発生したマイナス分を帳消しにし、更に成功報酬分を少しでも回収しようと画策していたらしく。

 少々強引に、他の五人を巻き込むのであった。

 

「で、具体的には何をするんだ?」

 

「ふふふ、実はな。さっき移動中に、今回回収した局地型ガンダムを、買取窓口に出すよりも遥かに高値で売れるかもしれない方法がある事を思い出してな!!」

 

 不敵な笑みを浮かべたランドニーは、思い出したというその方法を話し始めた。

 

「この前のアップデートで実装された"オークション"機能。これを利用するのさ」

 

 オークション機能。

 それは、従来掲示板上などで自らが改造・開発、或いは回収したモビルスーツを宣伝し、希望するプレイヤーと交渉して取引を行っていたものを、オークション・ページと呼ばれる場所に一元化したもの。

 出品者は、初期価格や出品期間等の必要事項などを記入し、専用ページ上に商品を出品。

 一方入札者は、検索機能を利用し、自らが希望する商品を検索、購入希望額を指定して入札を開始する。

 その際、他の入札者により入札が行われ再入札を行うかどうか等、最新の入札状況は、各々のタブレット端末に通知される仕組みとなっている。なお、これは出品者側も、出品期間中の現在の入札状況などをタブレット端末等から確認できる。

 

 出品期間が終了すると、出品者と落札者の当事者間で最終的な取引が行われる。

 という仕組みの機能である。

 

 この機能の存在を思い出したランドニーは、早速、同機能に精通しているであろう人物に連絡を取って、ガンダムタイプの相場というものを確認した。

 その人物とは、第179独立回収隊のフローラである。

 

 そして、フローラから聞かされたガンダムタイプの相場を聞き、ランドニーは、笑顔を抑えきれなかった。

 一例として提示された陸戦型ガンダムの相場が、ランドニーの予想よりも高かったからだ。

 

 勿論、状態により変動はするが、やはりガンダムタイプは量産型でもジムやザクIIよりも、高値で取引される事が多い様だ。

 

 そこでランドニーは思った。

 今回回収した局地型ガンダムに加え、無傷のガンダムタイプを捕獲できれば、ハッピーになれると。

 

「──という訳で! 名付けて! 『ガンダム、売るよ!』大作戦!!」

 

「でもよ、無傷のガンダムタイプなんて……、当てはあるのか?」

 

「ふふふ、そこは抜かりはないよ、シモン君」

 

 ランドニーの口ぶりに、シモンは若干イラっとしながらも、ランドニーの当てとやらを伺う。

 

「この命令書、よく見ると本命の部隊が待機している仮想基地の場所が書かれている。本命の部隊の詳細や積み荷の内容などは書かれていない為分からないが、あのホワイトベース隊に届ける品物だ。絶対ガンダムタイプに違いない!! という訳で、今からこの仮想基地の場所に向かい、荷を強奪する!!」

 

 鼻息を荒くし当ての内容を語るランドニー。

 一方、それを聞いたシモンは、ふと湧いた疑問をぶつける。

 

「でもよ、もう俺達が命令書を手に入れた事は、連邦側も気付いてるんじゃないのか? だとしたら、今から向かってももう遅いんじゃ……」

 

「シモン。──行ってみなきゃ、分かんないだろが!!」

 

 シモンの両肩を掴み、熱弁するランドニー。

 彼の熱意に、シモンも圧倒され、肯定するのであった。

 

「さぁ、お宝探しにレッツゴー!!」

 

 ランドニーの号令を合図に、ギャロップ二梃は、連邦軍の仮設基地を目指して再び熱砂の中を進み始めた。

 

 

 

 

 

 ゴビ砂漠の中を、砂煙を巻き上げて進む二梃のギャロップ。

 移動中、天高く昇っていた太陽は地平線の彼方に沈みかけ、砂の大地を暁色に染め上げていた。

 

「司令、味方の反応を捕捉しました」

 

「ん? 味方?」

 

 そんな中、仮想基地まで間もなくの距離にまで近づいた時の事。

 不意に飛び込んだ艦橋乗組員の報告が気になり、ランドニーは補足した味方の方へとギャロップの進路を変更させた。

 

 程なくして、二梃のギャロップは、巨大岩石の影に複数のモビルスーツが待機している場所へと到着した。

 

「いや~、まさか第17MS特務遊撃班、ウルフ・ガー隊の皆さんだったとは。しかし、息災そうで何よりです」

 

「お互いに」

 

 巨大岩石の影に待機していたのは、ウルフ・ガー隊のモビルスーツ達であった。

 作戦終了後とはいえ、ギャロップから降りた第046独立部隊一行は、ウルフ・ガー隊と挨拶を交わす。

 

「所で、ヘンリー大尉。何故この様な場所に?」

 

「輸送部隊を襲撃し終えた直後に、救援に駆け付けた連邦の航空部隊に追撃され、合流予定だった味方部隊ともはぐれ、この灼熱の砂漠を彷徨っていた所だ」

 

「それは、災難でしたね」

 

「それで、そちらは何故こんな所に? まさか、我々を助けに来た……、という訳ではなさそうだが?」

 

「いや~、ちょっと作戦中に、"宝の地図"を見つけたものですから。お宝探しに」

 

「ほぉ」

 

 握手を交わし、互い状況を話し合うランドニーとウルフ・ガー隊隊長のヘンリー大尉。

 

「しかし、随分と執拗な追撃を受けたみたいですね。負傷者もいるようですし」

 

「あ、あぁ」

 

「あ! そうだ大尉。どうでしょう。なんでしたら、こちらから医薬品などの物資をご提供しましょうか。幸い、こちらはカーゴに十二分な物資を積載しますので、まだまだ余裕があるんですよ。あ、何でしたら、人員をお貸ししますよ?」

 

「それは、有難い申し出だ」

 

 待機しているモビルスーツの内、二機は損傷が激しく。

 その足元には、二機のパイロットと思しきウルフ・ガー隊の青年隊員、手当てを受けているレイ・ハミルトン伍長とレスタ・キャロット伍長の姿があった。

 だが、医薬品が不足しているのか、その応急処置は十二分なものとは言えない状態であった。

 

 それを目にしたランドニーからの申し出に、ヘンリー大尉は二つ返事で応じた。

 

「所で、ハート中佐。先ほど中佐は宝の地図を見つけたと仰っていたが? 因みにそれは、どの様な宝なのか、教えてはいただけないでしょうか?」

 

「ははは、ヘンリー大尉、ご冗談が上手ですね」

 

「冗談、ではないのだが?」

 

「またまた、分かってますよ。大尉の事ですから、もう見当は付いておられるのでしょう? そう、この砂海の中で光り輝く"妖精"の如く美しい宝の正体を」

 

 ランドニーの言葉に、ヘンリー大尉の眉がピクリと動く。

 同時に、飄々とした様子ながらも、まるで全てを見透かしているかのような、そんな不気味さをヘンリー大尉は感じ取っていた。

 

「所で大尉。等価交換と言う法則をご存知ですか?」

 

「それが何か?」

 

「物やサービスを受ければ、その代価を支払わなければならない。……つまり、医薬品と人材をご提供いたしましたので、我々のお宝探しに"ご協力"願えないでしょうか、ヘンリー大尉? あぁ、もしご協力いただけるのでしたら、大尉達が如何に頑張ってくださったかを、マ・クベ中将に取り持ち致しますが?」

 

 ただ、どうやらその不気味さは、ヘンリー大尉自身が考えていたものよりも、遥かに巨大であった様だ。

 

「ふ、どうやら、中佐は相当の食わせ者の様だ」

 

「いえいえ、お互いに、ですよ」

 

 互いに不敵な笑みを浮かべ合うランドニーとヘンリー大尉。

 そんな二人を他所に、物資の運び出しや負傷者の手当てが淡々と行われていく。

 

「あ、所で大尉、最後にもう一つ、お聞きしたいのですが?」

 

「何だ?」

 

「大尉の乗機、アレの肩は赤く塗らないんですか?」

 

 ランドニーの質問に、これも駆け引きか何かかと思考を巡らせるヘンリー大尉であったが、いくら考えても質問の真意が測れず言葉に詰まるヘンリー大尉。

 すると、そんなヘンリー大尉の様子を見たランドニーは、特に深い意味はないと釈明するのであった。

 

 因みに、ランドニーとしては質問に深い意味などなく。

 ヘンリー大尉の乗機である陸上試作モビルスーツ、形式番号MS-08TX、イフリートの姿を見て、つい口が滑ってしまっただけなのであった。

 

 

 

 

 

「大尉、本当によろしかったんですか?」

 

「何、ここで恩を仇で返せば、それこそ、この砂漠どころか地球上、いや、軍内部にすら居場所がなくなっちまう。文字通りの"はぐれ"者だ」

 

「ま、いいじゃねぇか。生きて戦い続けてれば、何時かまた、いい獲物に出会えるさ!」

 

 砂の大地を夜の闇が覆い尽くし、空に散らばる見渡す限りの星々と月の光が、昼間の熱砂から一変、冷たい砂の大地を見守る中。

 指定された位置に待機したウルフ・ガー隊の三名は、作戦開始前の私的な会話を交わしていた。

 

 ウルフ・ガー隊の紅一点であるサキ・グラハム軍曹は、第046独立部隊の介入により、自分達の獲物を横取りされた様な気分で、不満を露わにしたが。

 ヘンリー大尉や、大尉の友人であり同じ隊員の仲間でもあるマーチン・ハガー曹長に諭され、渋々従うのであった。

 

「こちらランドニー、大尉、準備の方はいいかな?」

 

「あぁ、問題ない」

 

「では、作戦を開始する」

 

 程なくして、ランドニーからの通信で作戦開始が告げられると。

 刹那、砲撃音の後、夜の砂漠に巨大な砂煙が登場した。

 

「よし、予定通り、新型を誘い出すぞ!」

 

「了解!」

 

「よっしゃ! 派手にぶっ放してやろうぜ!!」

 

 砂山の影に待機していたイフリート、そして二機の陸戦型ザクIIは立ち上がると、眼下に広がる砂の大地の只中にぽつんと建てられた、連邦軍の仮設基地目掛けて歩み始める。

 各々が装備した火器を、派手に発砲しながら。

 

 

 ウルフ・ガー隊の行動は、ランドニーの作戦の一環であった。

 協力の一環として、基地の構造や把握した戦力等の情報をヘンリー大尉から聞き出した彼は。

 更に自前での偵察で得た情報などをもとに、仮設基地に対する襲撃作戦を立案した。

 

 作戦の初動として、二梃のギャロップ、そして修理の完了したメノのキャノン砲による砲撃で、事前に確認された地雷原を砲撃。

 次いで、ウルフ・ガー隊、及び第046独立部隊の沙亜とシモン、そしてロッシュの三名による攻撃で、例の新型であるガンダムタイプのモビルスーツを誘い出し。

 仕上げに、誘い出されたガンダムタイプを、捕獲の要であるグフ・インフェルノのヒートロッドで機能停止に追い込み、捕獲するという流れだ。

 

 

 

 

 

 当然ながら、そんな作戦に従って動いているとは思いもしない連邦軍側は、突然の砲撃によりパニックに陥っていた。

 

「くそ! 昼間の奴らだけじゃないのか!?」

 

「大尉、地雷原が!?」

 

「畜生、いつの間にあんな援軍を!?」

 

 仮設基地内に設けられた格納庫の前で、三機のモビルスーツのパイロット達は、コクピット内で苦々しい表情を浮かべる。

 既に今日一日だけで、同基地は何度も襲撃を受け、その度に、同基地に滞在していた輸送部隊の護衛である彼らモビルスーツ隊は駆り出され。

 度重なる出撃の疲れから、既に三人とも辟易していた。

 

 それでも、軍人としての責務を全うすべく、彼らは出撃した。

 

「愚痴っていても仕方がない! サナ、ダバ! 迎撃する! 行くぞ!!」

 

 そして、隊長機であるトリコロールカラーに塗装されたモビルスーツ。

 ガンダムタイプの特徴でもある額のV字型ブレードアンテナにツインアイ、開発方針である陸上での近接戦の為、デッドウェイトとなる宇宙空間用のスラスター等は取り除かれ、スッキリとした外見。

 左右両腰にマウントした、取り回しの良いビーム・ダガーに、こちらも取り回しを重視した小型の九〇ミリサブマシンガンをその手に持つ。

 

 形式番号RX-78XX、ガンダム・ピクシーの名を持つ、ガンダムタイプのモビルスーツ。

 

 そのパイロットを務める、モビルスーツ隊の隊長、ボルク・クライ大尉は、ガンキャノンに乗る部下のサナ・ニマ伍長とダバ・ソイ軍曹に出撃を指示した。

 だが、その直後、そんなボルク大尉のもとに、通信が入る。

 

「大尉。これ以上、勝手な行動は慎んでもらおうか!」

 

 通信を入れたのは、ボルク大尉のモビルスーツ隊の護衛対象である輸送部隊、アルバトロス輸送中隊の中隊長、ノクト・ガディッシュ少佐であった。

 

「何故です!?」

 

「遺憾ながら、この基地を放棄する事を決定した」

 

「基地を、放棄ですと!?」

 

「そうだ。もはやこれ以上この基地は敵の攻撃に耐えられん。故に、我々は間もなく脱出する」

 

「待ってください! このピクシーがあれば、奴等など!」

 

 ノクト少佐に考え直してもらう様に直訴するボルク大尉。

 すると、彼の直訴を聞いたノクト少佐は、搭乗するミデア輸送機のコクピット内で、不敵な笑みを浮かべた。

 

「ほぉ、そうか。……ピクシーがあればいいのだな、よかろう。──ダバ! サナ! 貴様達は私の援護につけ!!」

 

 そして、次の瞬間、ノクト少佐の口から漏れた命令に、ダバ軍曹とサナ伍長は困惑する。

 

「大尉。貴様はピクシーがあればいいのだろう? ならば、貴様はミデアが発進するまで、そのピクシーで奴らをひきつけておけ!!」

 

「そんな無茶だ!」

 

 更に、ボルク大尉に対する無茶な内容の命令に、遂に我慢しきれずサナ伍長が声を挙げた。

 

「ダバ、サナ。命令だ……、少佐をお守りしろ」

 

 だが、その声は、他でもないボルク大尉によって遮られた。

 

「命令通り、奴等をひきつけておきます」

 

「よろしい。──それで、大尉? そのピクシーはいつ返してくれるのかなぁ?」

 

「奴等とけりを付けたら、直ちに追いかけます」

 

「時間もないと言うのに、クズである貴様を待つために、貴重な時間を浪費しろとぉ?」

 

「お願いします、少佐殿」

 

「……よかろう。ただし、手短に済ませるんだぞ」

 

 そして、ボルク大尉は険しい表情と共に、ガンダム・ピクシーをウルフ・ガー隊の方へと駆け出させた。

 

 

 だが、ウルフ・ガー隊へと向かう道中。

 ガンダム・ピクシーのレーダー画面が、後方から急速接近して来る機影を捉える。

 

「何!?」

 

 攻撃を仕掛けてきた部隊とは別方向から基地内に侵入したと思しき機影は、見る見るうちにノクト少佐の乗るミデア輸送機の方へと近づいてくる。

 

「くそ!?」

 

 ボルク大尉は舌打ちすると、機体を反転させ、フットペダルを踏み込むと、ダバ軍曹とサナ伍長の援護に向かうべくガンダム・ピクシーを跳躍させた。

 

「グフタイプ? くそ!」

 

 その高い機動性から繰り出された跳躍によって、天高く飛んだガンダム・ピクシーのメインカメラが捉えたのは。

 闇夜に溶けるような、黒い改造グフタイプ、グフ・インフェルノが、その高い機動力でミデア輸送機に迫る光景であった。

 

 接近するグフ・インフェルノを迎撃すべく、ダバ軍曹とサナ伍長のガンキャノンが装備した二四〇ミリ低反動キャノン砲やジムマシンガンを発砲するも、それを掻い潜りながら接近を続けるグフ・インフェルノ。

 

「うわ、く、来るな、くるなぁぁーーっ!!」

 

 そして、サナ伍長のガンキャノンの懐に飛び込んだグフ・インフェルノは、手にしたヒート・サーベルを、コクピット目掛けて突き刺した。

 

「サナ! くそ! まだ、まだ俺は死ねないんだぁぁ!!」

 

 味方の死に激高したか、将又、死の恐怖を振るう為か。

 ダバ軍曹は吠えながら、乗機のジムマシンガンをグフ・インフェルノに向け発砲するも、放たれた九〇ミリ弾は、盾として利用されたサナ伍長のガンキャノンに阻まれる。

 

「! うわぁぁぁ!!」

 

 刹那、排出される空薬莢の数々と同数の、七五ミリ弾の雨がダバ軍曹のガンキャノンを襲い。

 そして、ダバ軍曹のガンキャノンを炎と黒煙の中に消した。

 

「り、離陸だ! 早く離陸しろ!!」

 

 護衛の二機が倒され、急いでパイロットに離陸を指示するノクト少佐。

 だが、そんなノクト少佐の乗るミデア輸送機の前に、黒い鴉が姿を見せる。

 

「わ、私は、こんな所で──」

 

 グフ・インフェルノから放たれる七五ミリ弾とミサイルを受け、ノクト少佐の乗るミデア輸送機は、巨大な火の玉の中へと消え去った。

 

「ダバ、サナ……。くそ!!」

 

 ボルク大尉は上官や部下を殺した下手人のグフ・インフェルノ目掛け、九〇ミリサブマシンガンを発砲する。

 だが、グフ・インフェルノは軽々とその火線を躱してみせた。

 

「あのモビルスーツ……。それにパイロットも。……並の強さじゃない。だが!!」

 

 かつてミデア輸送機だった、巨大な炎の近くに着地したガンダム・ピクシーのコクピットで、ボルク大尉はグフ・インフェルノの強さに慄いていた。

 だが、それを振り払うように、彼は操縦桿を握り直すと、再び九〇ミリサブマシンガンを発砲し始める。

 

 しかし、放たれる九〇ミリ弾は、グフ・インフェルノの装甲をかすりもしない。

 

「こいつ、一体なんだ?」

 

 だが、不思議な事に。

 何故か先ほどまで使用していた筈の二連装七五ミリガトリング砲も、脚部の三連装ミサイルポッドも、使用する気配がない。

 

 回避運動に専念ばかりして、攻撃が疎かになる様な筈がないにもかかわらず。

 

「攻撃しないのなら、遠慮なくやらせてもらうぞ!!」

 

 理由が分からぬが、グフ・インフェルノが攻撃してこないと判断するや、ボルク大尉は左腰のビーム・ダガーを抜き、逆手に持つと。

 右手の九〇ミリサブマシンガンと組み合わせ、近接戦闘を仕掛ける。

 

 だが、グフ・インフェルノも安々と得意な距離での戦闘に持ち込ませまいと、一定の距離を保ち続ける。

 

「く、やろう!」

 

 それから暫し、ガンダム・ピクシーの一方的な攻撃が続いた後。

 遂に、グフ・インフェルノが動き出した。

 

 それは、九〇ミリサブマシンガンが弾切れを起こした直後の事。

 

「何!?」

 

 グフ・インフェルノが、不意に手にしていたヒート・サーベルを、ガンダム・ピクシー目掛けて投擲してきたのだ。

 その想定外の使用方法に、ボルク大尉は気が動転しつつも、ガンダム・ピクシーの瞬発力のお陰で、何とか躱す事には成功する。

 

 だが、気が動転した為、躱した直後に、次の行動に移るのが遅れてしまった。

 

 その隙をつき。

 グフ・インフェルノから放たれたヒートロッドが、ガンダム・ピクシーの胸部に付着した。

 

 そして、次の瞬間。

 ヒートロッドを通じて、ガンダム・ピクシーに高圧電流が流される。

 

「なっ!!?」

 

 刹那。

 ガンダム・ピクシーのコクピット内に火花や機器の破片が飛び散り、パイロットスーツを着用していなかったボルク大尉に襲い掛かる。

 

 そして、ガンダム・ピクシーは、膝をつき、そのツインアイの光りを消すと、その動きを止めた。

 

「っ!? 何だ、動け! おい、動けよ!!」

 

 飛び散った影響で負った傷の痛みを堪えながら、非常灯もつかず暗いコクピットの中、ボルク大尉は再びガンダム・ピクシーを動かそうとするも。

 ガンダム・ピクシーの正規のパイロットではないボルク大尉には、機能を停止したガンダム・ピクシーを、再起動させる事はできなかった。

 

 

 

 

 

「いやー、本当に、お世話になりました」

 

 こうして、無事にガンダム・ピクシーを捕獲できた第046独立部隊は、何とかスペースを確保したカーゴにガンダム・ピクシーを積み込み。

 大満足なランドニーは、満面の笑みでヘンリー大尉に協力を感謝するのであった。

 

「それで、本当に捕虜はこちらで見ても?」

 

「えぇ、どうぞ。序に、この基地も、ウルフ・ガー隊の皆さんにお任せします」

 

 制圧した仮設基地も、捕虜となり手当てを受けているボルク大尉の処遇も、全てウルフ・ガー隊に任せると言い切るランドニー。

 ほぼ丸投げではと思ったヘンリー大尉だが、これも等価交換だと、引き受けるのであった。

 

 こうして、お宝を手に入れた第046独立部隊は、オデッサに戻るべく、仮設基地を後にした。

 夜明けと共に地平線の彼方へと消えいていく第046独立部隊を見送るヘンリー大尉は、彼らの姿が見えなくなるまで、敬礼を行うのであった。




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