機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第三話 重力戦線

 俺の野望が正規サービスを開始して、早いもので数日が経過した。

 優は、新たな生活サイクルの一部に組み込まれたこのゲームを楽しんでおり、まさに充実した日々を過ごしている。

 

 そして、この日。

 優にとって、いや、俺の野望のプレイヤー達にとって、待ちに待った瞬間が訪れた。

 それが、イベント。宇宙世紀の正史に沿う形で名付けられた、その名を『地球侵攻作戦』。

 即ち、ジオン公国による地球への侵攻の幕開け、重力戦線の開始である。

 

「いよいよ来たな、重力戦線」

 

「あぁ」

 

 宇宙要塞ソロモンのロビーで、ユーリアンとランドニーは、椅子に腰を下ろしながら、イベント開始の時を待ちわびていた。

 すると程なくして、壁に設けられた巨大なモニターの映像が切り替わり、とある人物の演説が映し出される。

 それは、ジオン公国総帥、ギレン・ザビの地球侵攻作戦開始を告げる雄弁な演説であった。

 やがてギレンによる演説が終わると、続いて、アナウンスが流れ始める。

 

「これより、第一次降下作戦、コーカサス地方のバイコヌール制圧作戦を開始いたします。作戦開始は三十分後、作戦に参加希望のプレイヤー様は、ロビーの受付カウンターにて参加登録を行ってください」

 

 ロビーアナウンスが流れ終えると、宇宙要塞ソロモンを拠点に活動しているプレイヤー達が、次々とロビーの受付カウンターに殺到する。

 そんな人の流れの中に、ユーリアンとランドニーは飛び込み、順番が訪れると、受付カウンターに設置されている端末を操作し、参加登録を完了させる。

 

 すると、二人の体がロビーから別の場所へと移動させられる。

 どうやらそこは、別のロビーのようだが、通路や扉のような何処にも見当たらない。おそらく、作戦参加者の待機所なのだろう。

 

「両勢力合わせて、どれ位のプレイヤーが参加すると思う?」

 

「うーん、最初のイベントだから、結構な人が参加するんじゃないかな」

 

 待機所に設けられた椅子に腰を下ろし、今回のイベントに関する話を交わすユーリアンとランドニーの二人。

 ユーリアンの言葉を裏付けるかのように、周囲を見渡すと、開始時刻が迫るにつれ、待機所に現れる人の数が増えていく。

 

「しかし、これだけ参加すると、経験値稼ぎの競争率もバカ高くなりそうだな」

 

「そうだな……」

 

 通常は、経験値やゴールドは、敵NPC或いはプレイヤーを倒す事により得る事が出来る。

 しかしこの手のイベントの場合は、参加しただけでも、一定の経験値とゴールドが参加者全員に支給される。

 

 だが、それ以上を得ようと思えば、敵を倒す他ない。

 故に、我先に敵を倒そうと、プレイヤーの中には意気込んでいる者もいるだろう。

 

「ま、先走って撃墜されちゃ、元も子もねぇけどな」

 

「だな」

 

 しかしそれも、無事に生還できればの事だ。

 

「お待たせいたしました。作戦開始時刻となりましたので、皆様、前方の扉へとお進みください」

 

 アナウンスが流れ終えると共に、それまで周囲は壁でしかなかったものが、突如として、幾つもの扉が姿を現す。

 プレイヤー達が案内に従い、それぞれ近い場所に現れた扉に入っていく。

 ユーリアンとランドニーの二人も、近くに現れた扉へと足を進めると、躊躇う事無く扉を潜る。

 

 ユーリアンが扉を潜るや、彼の服装がパイロットスーツへと変わり、全身を浮遊感が包み込み。

 やがて、真っ暗だった周囲が、明るさを伴って鮮明になっていく。

 

 鮮明になった周囲の光景は、格納庫を思わせる場所であった。

 だが、格納庫にしては、少々手狭で窮屈に感じる。

 それもそうだろう、今、ユーリアンがいる場所は、とある母艦の貨物室なのだ。

 

 卵のような形に近い円錐形の見た目を有した母艦。

 Heavy-lift Launch Vehicle、頭文字を略して『HLV』と呼ばれる垂直離着陸式の軍事用SSTOである。

 大気圏突入能力を有するこのHLVを用いて、ジオンは、地球の連邦勢力圏に侵攻を行うのである。

 因みに、大気圏離脱時は専用のブースターを取り付けて大気圏離脱を行う。

 

「間もなく、降下ポイントに到着いたします。パイロットの皆様は、機体に搭乗をお願いします」

 

 アナウンスが流れ、同乗者である他のプレイヤー達が、各々の愛機へと乗り込んでいく。

 ユーリアンも、無重力を生かした動きで自身の新しい愛機、ザクIIF型のコクピットに近づくと、慣れた手つきでコクピット内に乗り込む。

 

 同機種は、ユーリアンが今回のイベントを見越して、機体経験値を貯めて以前のC型から"機種転換"した機体である。

 プレイヤーの保有できるモビルスーツには、"機種転換"と"改造"と呼ばれる強化を施す事が可能であり。

 

 機種転換とは、例えばザクIからザクIIC型という例のように、より高性能な機種に強化する事が出来るのだ。

 しかし、機種転換を行うには、施す機体の経験値が必要数に達していなければならず。

 また、ザクからゲルググやギャン等の、系統の異なる機種への強化は出来ない等、注意が必要である。

 別系統の機種に乗り換えたければ、所属勢力が開発完了、もしくはコマンダープレイヤーが開発完了した機種を生産・購入するしかない。

 

 一方改造とは、文字通り、機体に購入したパーツなどを取り付け、機体を強化する事であり。

 これには機体の経験値は必要ではないので、保有したての機体でも直ぐに施せる。

 だが、改造を施した機体は機種転換を行えなくなるので、こちらも注意が必要である。

 

 機体性能を根本から向上させるか、それとも引き延ばすのか。

 それは、プレイヤーのこだわりや遊び方等、プレイヤー自身の選択次第である。

 

 因みに、経験値稼ぎの成果は機体のみならず、階級にも表れている。

 ユーリアンの現在の階級は、一段昇進して"曹長"となっている。

 

「イベントだから、降下時も安心だな……」

 

 シートベルトを締めながら、ユーリアンは独り言ちる。

 彼が先ほど口にした言葉の意味は、地球への降下作戦時に、相手勢力から降下阻止の為の攻撃が行われない事を意味していた。

 

 イベント時以外の降下作戦では、相手勢力から降下阻止の為の攻撃が可能となっている。

 しかし、今回のようなイベントの際には、それは行われない。

 故に、攻撃を受けてHLVから緊急脱出する等、身構える必要はなく、降下するまでは気が楽となる。

 

「あー、マイクテスト、マイクテスト……。え? もう繋がってんの!? それ早く言ってよ!!」

 

 降下の瞬間をコクピット内で待っていたユーリアンに、通信受信を知らせるサインが点滅する。

 そして、スイッチを入れると、メインモニターの右端のウィンドウに、一人の男性プレイヤーの姿が現れる。

 

「あー、こほんっ! 今回の作戦指揮官を務めさせていただくマーコックだ。今回は、正規サービスの開始という事もあり、新規プレイヤーの方々も大勢──、え、長い? もっと手短に? わかった、分かった!」

 

 マーコックと名乗ったダンディな男性プレイヤーは、今回の作戦の指揮官を務める者のようだ。

 

 作戦指揮官とは、侵攻或いは防衛作戦時に、文字通り指揮を振るうプレイヤーの事で。

 作戦に参加しているプレイヤー戦力の他に、ゴールドを支払いNPC戦力を投入、砲撃や爆撃などの戦術支援、作戦中の補給物資の手配・投入等々。作戦に関する様々な権限を有している。

 なお、作戦指揮官となれるのはコマンダープレイヤーのみで、万が一作戦にコマンダープレイヤーが参加していない場合は、NPCが行う事となっている。

 また、複数のコマンダープレイヤーが参加している場合は、その中で階級が高いものが選任されるが、同じ階級の者が複数の場合は、当人達で話し合い選任される。

 

「兎に角、勝ち負けにこだわらず楽しんでもらいたい、以上!」

 

 そんな作戦指揮官の作戦前の激励の言葉が終わると、新たなアナウンスが流れ始める。

 

「降下ポイントに到着しました。これより、HLVの降下を開始します」

 

 蒼き水の星、地球。

 そんな地球の影から、真っ赤に燃える太陽が姿を現し、地球の影を追い払っていく。

 しかし、太陽の光を一身に受けるのは、地球だけではなかった。

 

 地球の衛星軌道上にその姿を曝け出すジオン公国の宇宙艦隊。

 ジオン公国宇宙艦隊の主力たる宇宙軽巡洋艦、ムサイ級や、ガガウル級駆逐艦。

 それら戦闘艦に曳航、或いはムサイ級独特の船体配置に挟み込むように、多数のHLVがその姿を見せる。

 

 やがて、運搬していた艦から切り離されたHLVは、艦隊を護衛するモビルスーツや宇宙戦闘機に見送られながら、次々に地上を目指して大気圏を突入していく。

 そして、そんなHLVに続くかのように、一部のムサイ級の艦首下部から、コムサイと呼ばれる大気圏突入カプセルが切り離され、同じく大気圏へと突入していく。

 

 ここに、重力戦線、その火蓋が切って落とされたのである。

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