ゴビ砂漠からオデッサへと戻ったランドニーは、提示された任務失敗の評価を気にする事もなく。
ゴビ砂漠で回収した二機のガンダムタイプのオークション出品に取り掛かった。
「ふむ、むふふふふっ!!」
自室で作業を行うランドニーは、自室が他のプレイヤーが踏み込めない完全なプライベート空間である事を感謝すべきだろう。
何故なら、落札金額の妄想に浸るランドニーの表情は、とても残念だったからだ。
「よっしゃ、これでオッケー! さぁ、頼みますよ……」
出品完了ボタンを押し、タブレット端末に祈る様に手を合わせたランドニーは、程なくログアウトする。
それから数日後。
いつものようにログインした第046独立部隊の面々が目にしたのは、福の神が乗り移ったかの如く終始笑顔なランドニーであった。
「おいおい、どうしたんだよ?」
「何か、いい事でも、あったんですか?」
「むふふ、そりゃもう!」
シモンとロッシュの質問に、笑顔で答えるランドニー。
「あ、分かった! オークションに出品したのが売れたんだ!」
「その通り!」
と、メノの言葉に、白い歯を見せて答えるランドニー。
「いや~、もうね、落札額見たら、笑いが止まりませんよ!!」
「という事は、これでこの間の任務の失敗は?」
「勿論! チャラどころかプラスよプラス!!」
「ほぉ、それはよかった」
「いやー、これもひとえに皆のお陰! 改めて、ありがとう!!」
と、笑顔を見せていたランドニーだったのだが。
その翌日。
「……あ、あのぉ」
彼は、第046独立部隊用のロビーの真ん中で、正座していた。
しかも、以前彼が実装を熱望していた、水着機能を使用した水着一丁の姿で。
まさか彼自身も、この様な形で熱望していた水着を堪能する事になろうとは、思いもしていなかった。
因みに水着のタイプは、ブリーフタイプである。
そして、そんな彼の前には、青筋を立てているシモンが仁王立ちしている。
「あのよぉ、ランドニー」
「は、はい」
「ルッグンはいいさ、ルッグンは。任務で撃墜させられちっまったんだからな」
「はい」
「でもよぉ、何で"もう一機"増えてるんだよ!! しかも、戦闘ヘリとかサムソン・トレーラーとか、それらの整備人員とか!! おまけに何だよこれ! 歩兵って!!」
「い、いやぁ……。これから捕獲・制圧するには、やはり整備班から抽出するより、専門のスキルを持った人の方がいいし。回収した物を運ぶにも余裕はあった方がいいだろうし。それに軍団の航空戦力の強化を考えると、本当はドップがいいんだろうけど、ちょっと使いづらいから戦闘ヘリで手を打って……、で、数が増えれば、当然負担も増えるから、ルッグン二機体制にしちゃえって事で」
「……で、その結果、また財政状況が悪化してるんだが?」
「仕方ないね、てへ! ──うわらば!!」
やはりこの技は可愛い女の子が行うからこそ効果を発揮する。
その事を、身をもって再確認したランドニーであった。
「もう一度聞くぞ? 折角オークションで稼いだゴールド、また無駄遣い事、反省してるか?
「シモン、それ全部"はい"じゃないですか……」
「あん?」
「本当に、申し訳ありません!!!!」
シモンの鋭い眼光が飛び込んだ刹那、ランドニーは伝家の宝刀、土下座を繰り出し、自身の過ちを謝罪するのであった。
「シモン君。もういいんじゃないかな? ランドニー君も大分反省してるみたいだし」
「あぁ、女神じゃ。女神がおる!」
そんな一連のやり取りの様子を眺めていた他の面々から、お灸をすえるのはその位でいいだろうとの意見が飛び出す。
「……ランドニー。反省してるか?」
「してます、してます! 猛省してます!!」
「分かったよ。なら、今後は金遣いは厳格に頼むぞ! いいな!」
「は、はい!!」
最後に念押しして、こうしてランドニーは、シモンのお説教から解放されるのであった。
因みに。
出品したガンダム・ピクシーが、巡り巡って再び連邦のもとに戻っている事実は。
出品者であるランドニーは疎か、他の面々も気付いていない事であった。
(そういえば、落札した奴の名前の綴り、どっかで見た事ある様な……、グラーヴ? グレイブ? ん? ──ま、いっか)
気まぐれな砂漠の妖精は、今度はどんな主と共にこの大地を駆けるのか。
それはまだ、誰にも分らない。
「しーえすえーあーる?」
「Combat Search And Rescue、戦闘捜索救難、略してCSAR。その支援が今回の任務だ」
「具体的には、どの様な任務なのだ?」
「ヨーロッパ方面の最前線で連邦勢力圏内に不時着したマゼラ・トップのパイロットを捜索救難する部隊の護衛、それが今回の任務の主な内容だ」
いつものようにログインし、第046独立部隊用のロビーに集まった一行。
今回より、事前のブリーフィングで役立つと用意したプロジェクタとスクリーン。
スクリーンに映し出された資料画像などを交えながら、ランドニーは説明を続けていた。
すると、不意にシモンの手が挙がる。
「一ついいか。CSARでは確かに、救出の際に敵との交戦が想定されている。その点、モビルスーツは救出に際して敵を排除、或いは足止めするには向いてるが。だが幾ら何でも、部隊規模を差し向ける程か? 過剰過ぎやしないか? ただの一パイロットだろ?」
「ま、そうだよな。たかがマゼラ・トップのパイロット一人の為に、複数のモビルスーツを含んだ規模の戦力を動員する。通常なら、ありえない事だ」
「って事は、今回はその通常じゃないって事か?」
「ご名答」
シモンとのやり取りに一拍置くと、ランドニーはプロジェクタを操作し、スクリーンにとある軍人の顔写真が映し出された。
「これが、今回の要救助者。名前はフィリアン・バルヒェット。階級は少尉。所属はヨーロッパ方面軍第一二装甲旅団、第一二四戦車大隊第二戦車小隊だ。士官学校を卒業して最近地球に降りてきたばかりの新米少尉様だ」
端正な顔立ちの青年軍人ことフィリアン少尉の簡単な紹介を済ませると、ランドニーは彼の素性を話し始めた。
「で、このエースでもないフィリアン少尉だが。何故ここまで一介のパイロットである彼が手厚く待遇されてるかと言えば、この少尉の父親が関係している。この少尉の父親は現職の高級官僚で、とある省庁のナンバーツー。しかも、年取ってから出来た子供なもんだから……、と、ここまで言えばわかっただろ?」
「つまり、エリートの親父が溺愛している息子の少尉様を傷物になる前に是が非でも見つけて助け出す。か」
「そういう事だ。……因みに、本人は元々モビルスーツのパイロットを目指していたようだが、適性がないって事で戦車乗りに。更に言えば、親の反対を押し切って地球に降りてこなきゃ、空調の利いた後方の室内で、悠々と、モニターと睨めっこしてるだけで過ごせてたそうだ」
「は! 何だそれ。……現実でも俺の野望内でも、金持ちの考える事は、俺達庶民には理解できない事ばかりだ!」
不意に零れたシモンの自虐混じりの悪態を他所に。
ランドニーは、ふと自身の私見を口にする。
「親兄弟が偉大であればある程、その息子や弟は、親兄弟の敷いたレールを外れ、自分の力だけでやれるって所を証明したくなるものさ……」
「? 随分とフィリアン少尉の肩を持つな?」
「重なって見えたのかもな……」
「???」
不意に遠くを見つめたランドニーの瞳は、何処か寂しげなものであった。
「っと、悪い。話が脱線しかけたな。じゃ、説明を続けるぞ!」
だが、暫くすると、いつものランドニーに戻り、再び説明を再開する。
「で、今回の任務に関してだが、捜索救難を担当する部隊とは別に、もう一部隊と共同で当たる事になってる」
「おいおい、ますます好待遇だな。流石はエリート官僚の息子」
シモンの呆れるような声を他所に、ランドニーは咳払いで私語を注意すると、説明を続ける。
「今回の作戦エリアは、比較的大きな都市だから、俺達だけじゃカバーしきれないと判断したんだろう。因みに、都市部だから、モビルスーツのみでは細かい所に手が届かず何かと不便なので、今回共同する部隊との相互作用で遂行率を上げたいんだろう」
「その部隊ってのは?」
「"第823機動偵察隊"。俺達と同じプレイヤー軍団だが、この部隊の特徴は、何といってもモビルスーツを使用していない事だろうな」
「はぁ!? モビルスーツなしって、それどうやって戦うんだよ!?」
共同する部隊の説明を聞いたシモンが驚愕する中。
他の面々も、シモンの意見に同調するような視線をランドニーに向ける。
「あぁ……。とりあえず、これは説明するより見た方が手っ取り早いかな」
そう言うと、ランドニーは再びプロジェクタを操作する。
すると、スクリーンに映像が映し出された。
どうやら、共同する第823機動偵察隊の新規加入者募集用の映像のようだ。
どこかのステージ上と思しき場所の中心に、パイロットスーツ姿の男性プレイヤーが一人、佇んでいる。
「モビルスーツを上手く操縦できなくて不貞腐れてる皆ーっ!! この世は理不尽だと感じてないか!? そんな事はないよーっ!! 世界は、君が変われば幾らでも変わるんだ!! さぁ、その顔を上げて! 俺の野望を楽しむ方法は、モビルスーツを操縦する事だけじゃない! 楽しみ方は無限大!! それを今から証明するよ、だから、見ていて御覧! カモン!!」
と、男性プレイヤーの呼び声と共に、同じ部隊のプレイヤーと思しきパイロットスーツ姿の者達がステージ上に現れる。
そして、続々と各々の定位置と思しき場所に並ぶ。
「ミュージック、スターーット!!」
刹那、聞こえてきたのは、軽快な音楽であった。
──P! O! ダブルS! I! BILITY!!
──P! O! ダブルS! I! BILITY!!
──It's so easy play one's hunch……。
──ワッパ! ワッパ! ワッパ! ワッパ! 股を潜った、トラップ仕掛けた!
──ワッパ一台あればいい! 楽しめるからラッキーだ!!
──ワッパ! ワッパ! ワッパ! ワッパ! レース出場、入賞確実!
──やんなる位楽しいんだー! さぁいっしょに、ワッパーーーッ!!!
──コクピット窮屈。でも!
──ビュンビュンビュンビュン、風を切るから、気持ちぃーーーーーーっ!!!!
そして始まったのは、一糸乱れぬ、キレのある彼らのダンスであった。
その背後には、彼らが連呼する、ジオン公国軍が運用する一人乗り小型ホバークラフトであるワッパが、回転する台座に飾られた上、更にライトに照らされ神々しく展示されている。
よく見れば、彼らの被っているヘルメットの頭頂部には、ワッパの頭文字であるWのアルファベットが描かれている。
──ワッパ! ワッパ! ワッパ! ワッパ! 君は変われる! 何にでもなれる!!
──やんなる位の
──P! O! ダブルS! I! BILITY!!
──P! O! ダブルS! I! BILITY!!
──因みにワッパは空飛ぶ、バイQ~!!
最後に、ステージの中心に集まった彼らの締めのポーズと共に、映像は終わりを告げた。
そして、そんな映像を見終わった第046独立部隊の面々は、皆呆気にとられ、暫く固まったままであった。
「な、なぁ、これが今回の味方、なのか……」
「味方です」
やがて、何とか我に返るも、顔を引きつらせずにはいられないシモンの質問に、ランドニーは死んだ目をしながら答える。
「あぁ、因みに、この後出撃前の顔合わせする予定だから、よろしく」
そして、ランドニーの放った一言に、再びロビー内の時が止まった。
いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。