機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第二十九話 ナイト・ブリッツ

 地球連邦軍は、俺の野望内の暦が十月を過ぎた辺りから、それまでの防戦姿勢から、一部反転攻勢に転じていた。

 特にその勢いが強かったのが、ヨーロッパ戦線だ。

 現在の所、地球連邦軍を統率する軍人、現実では統合参謀本部議長や統合幕僚長等の、所謂"制服組"のトップを務めるレビル将軍がドーバー海峡を横断したとの情報は入っていないが。

 

 ジオン側は、この連邦側の動きは、そう遠くない内に"イベント"として大々的に起こされるであろう。

 一年戦争における転換期として、一年戦争を扱ったガンダムシリーズの多くで描かれる連邦軍の一大反攻作戦。『オデッサ作戦』を成功させるための布石であろうと推定していた。

 その為、防衛線の強化や配置している戦力の強化等、こちらも、来るべきその日に備えて着々と準備を進めていた。

 

 

 そんな、ヨーロッパでの両者の動きが活発化する中。

 第046独立部隊もまた、来るべきオデッサ・デーに向けて、準備の為の任務等に勤しんでいた。

 

「司令、間もなく目的地の飛行場に到着します」

 

 暁に染まった流れる木々や草原を横目に、オデッサから幹線道路を北西に進み続ける第046独立部隊一行。

 順調な移動を続ける彼らの進行方向上に、やがて、目的の施設が姿を現す。

 

 かつては旧ウクライナの空軍基地として機能し、連邦政府樹立後は、地方の空港として主に利用され。

 そして、地球侵攻作戦によりジオンに接収されて以降は、ヨーロッパ方面軍の航空隊などが主に使用する軍用飛行場として利用されていた。

 その名を、オゼルネ飛行場。

 

 同飛行場の正面ゲートを潜った第046独立部隊一行は、誘導に従いギャロップ等を停止させると、到着の挨拶の為、飛行場内の一角に設けられた司令部へと赴いた。

 

「オデッサから遠路はるばるよくお出で下さいました! オゼルネ飛行場司令のアロインツです」

 

 司令部の一角に設けられた、司令官の執務室へと赴いた一行を出迎えたのは、腰の低い中佐の階級章を付けた初老の男性であった。

 アロインツと名乗った飛行場の司令官と軽く挨拶を交わし終えると、アロインツ司令は一行を前に語り始める。

 

「ご存知の通り、最近ヨーロッパ戦線では連邦が攻勢を強めています。上は、この事態を大規模な反攻の予兆と捉え、ヨーロッパ戦線の各地でその反攻に備えて準備が進められています」

 

 そこで一拍置くと、息を整え、再び語り始める。

 

「しかし、その為に必要な人手が不足し、後方の我が飛行場の警備を担当する部隊まで駆り出される始末で。それでいて、連邦に対する攻撃の手を緩めるなと言うのですから。それはもう、前線も後方も問わずヨーロッパ戦線は天手古舞ですよ」

 

 と、アロインツ司令からお上に対する愚痴をある程度出尽くした所で。

 先ほどの愚痴は流していただければよしなに、と、フォローも忘れず付け加え終えると、最後に。

 

「F小隊との共同ではありますが。第046独立部隊の皆さんには、夜間の警備、期待しておりますよ」

 

 期待しているとの言葉で締めくくると、一行は敬礼し、アロインツ司令の執務室を後にした。

 

「さてと、それじゃ、夜間警備の任務、頑張りますか」

 

「夜更かしはお肌に悪いんだけどなぁ……」

 

「メノ。俺の野望と現実とでは時間の流れに差がある事を忘れたのか?」

 

「忘れてないけどさ~。沙亜だって分かるでしょ、気持ちの問題でもあるんだよー」

 

「警備って、色々と暇そう、ですね」

 

「あのなぁ、いいか、警備ってのは、いかに他人から見てサボってない様に見せるかが肝心なんだぞ」

 

「流石は一〇〇の職場を渡り歩いているシモンだね、説得力が違うや」

 

 そして、再びギャロップへと戻る道中、一行は各々会話を交わしながらギャロップへと戻る。

 その最中、ふとランドニーは、アロインツ司令の会話の中に出てきた共同で任に当たる味方の事を気にしていた。

 

(F小隊って何だ? 受託した時は味方と共同ってだけで、具体的な部隊名なども記載されていなかったが……。ま、会えば分かるか)

 

 もっとも、深刻な問題として受け止めてはいないようだが。

 

 

 

 

 

「今回の任務で共同します、第四地上機動歩兵師団、第七モビルスーツ大隊F小隊。小隊長のレオ・ブラウアー少尉です。よろしく」

 

「ぶ、ぶぶぶ、ブラウラー少尉ぃぃっ!? 本物、本物ですよね!」

 

 そして、ギャロップへと戻った一行の前に、今回の警備任務で共同する味方の部隊の面々が、挨拶にやって来た。

 味方部隊の正体を知り、感情の高ぶりを抑えられないランドニー。

 

 実は、彼らもまた、一年戦争を題材としたガンダムゲームの作品の登場キャラクター達で。

 登場作品では、前線で友軍を様々な形で支援する事から『戦場の調律師』と異名を持つに至る。

 そして、そんな部隊の隊長を務めるのが、朱色の髪をした、『灼髪の獅子』の異名を持つレオ・ブラウアー少尉。

 彼の家系は現在は没落したものの、貴族という事もあり、何処か気品を感じさせる。

 

「えっと、ハート中佐。以前何処かでお会いしましたか?」

 

「そりゃもう何度テレビの前でヌンチャク振るう……。じゃなかった! ブラウアー隊のご活躍は自分の耳にもバッチリ入ってきてますから、つい見知った感じで接してしまって」

 

「あ、あぁ、成程……」

 

「何だかハート中佐って面白い人ですね」

 

「アン、仮にも相手は中佐ですよ。あまり失礼なことは、本人の前で言わないのが賢明ですよ」

 

「ま、嬢ちゃんの言う事も分からんではないがな。にしても、開戦初期から活躍されているハート中佐、どんな人物なのかと思ってたが、案外威厳のねぇ人物なんだな」

 

「トルド軍曹、貴方まで……」

 

「いやいや、俺は褒め言葉として言ったんだよ。親しみが持てるって意味でよ」

 

「……、そういう事にしておきましょう」

 

 隊長であるレオ少尉と表情豊かに挨拶を交わすランドニーの姿を見て。

 ブラウアー隊の面々である、幼なじみで副隊長の眼鏡がトレードマーク、クラウス・ベルトラン曹長。

 一年戦争初期から参戦している古参軍人、トルド・ボブロフ軍曹。

 そして、まだあどけなさが残る学徒志願兵の一人で、隊のオペレーターを担当する、アン・フリーベリ二等兵。

 の三人は、ランドニーの印象をそれぞれ口にするのであった。

 

 その後、部隊長同士の挨拶が終わると、隊員達を交えての挨拶が行われたのだが。

 

「アンちゃんって可愛い~。私にも妹が居たら、アンちゃんみたいな妹が欲しかったな~」

 

「わわ、メノさん、くすぐったいですよ」

 

 直ぐにアン二等兵と仲良くなり、頬をすりすりとするメノとアン二等兵の仲睦まじい様子を目にし。

 主に男性陣が尊いと感じていたのはここだけの話である。

 

 なお、実はこの時沙亜も、内心ではアン二等兵と頬をすりすりしたかったのだが。

 欲望と理性との激しい攻防の末、理性が勝利した為、我慢していたのも、ここだけの話である。

 

 

 こうして、挨拶も終わり、いよいよ夜間警備の任務を開始し始めた一行。

 最初の頃こそやる気も十分に任務をこなしていたが。

 

「あ~、暇~!」

 

 数十分が経過する頃には。

 飛行場の周囲を見回り、不審な事が起きていないか等を探すだけの、代わり映えの無い単調な作業の連続に、不満が漏れ始めた。

 昼間なら、外の景色を眺めて時間を潰せたのだろうが、生憎と今は夜中の為、田畑と草原で囲まれた飛行場周辺は、一面闇夜に染まって代わり映えしない景色と化している。

 

「ねぇ、これっていつまで続くの?」

 

「メノ、まだ始まったばかりだぞ。まだまだこれからだ」

 

「そんなぁ~。……このままじゃ、暇すぎて死んじゃう」

 

「大袈裟な」

 

 事前に決められたルートを歩行する、オートパイロットで動くザクキャノンのコクピット内で不満を漏らすメノの様子を見て。

 同じくオートパイロットで動いているザク・アライヴのコクピット内で、沙亜は軽く呆れたようにため息を漏らした。

 

「ははは、嬢ちゃん、もしかしてこういう任務は初めてか?」

 

「え? はい、そうなんです」

 

「なら、初めの内は辛いかもな。だが、慣れてくれば、こういう任務も楽しくなってくるものさ」

 

「そうだぞ。暇な時間を有効活用できるように、どうやって手持ちの物で暇つぶしをしようか、あれこれ考えられれば、時間なんてあっと言う間だ!」

 

 トルド軍曹とシモンに励まされるメノ。

 しかし、狭いコクピット内でどう暇を潰せばよいのかは、考えが思い浮かばない。

 

「あの、だったら暇つぶしに、皆で"しりとり"でもしませんか?」

 

 すると、不意にアン二等兵から、暇つぶしの提案が挙げられる。

 

「あ、それいいね! やろやろ!」

 

 その提案に、メノは早速賛同。

 

「そうだな、気晴らしにはいいかもな」

 

 更にレオ少尉も賛同し、その後とんとん拍子に皆でしりとりをする運びとなった。

 

「それじゃ、最初は隊長からですよ」

 

「俺からか? なら……、りん"ご"。次、ポートマン上等兵」

 

「えっとそれじゃ……、ゴリ"ラ"。次、トルド軍曹さん」

 

「そうだな……、ラッ"パ"、だな。んじゃ、次、ロッシュ兵長」

 

「……、パエリ"ア"。次、ベルトラン曹長」

 

「では……、アルコールラン"プ"で。次、ヘイチェフ准尉、お願いします」

 

「えっとんじゃ……、プラモデ"ル"だ。お次、フリーベリ二等兵」

 

「では……、ルービックキュー"ブ"で。阿頭那武婁少佐、お次をどうぞ」

 

「ふむ……、ブルーベリータル"ト"。次はユーリアンの番だ」

 

「そうだね……、通り相"場"(とおりそう"ば")で。次、ランドニー」

 

「ば!? ば!?」

 

 自身の番となったが、"ば"から始まる単語が咄嗟に出てこず言葉が詰まるランドニー。

 必死に"ば"から始まる単語を記憶の引き出しから探すも、アン二等兵から間もなく時間切れとの知らせに、更に焦りでうまく言葉を引き出せなくなるランドニー。

 

 そして、終了のカウントダウンが始まろうかと思われたその時。

 遂に、ランドニーは"ば"から始まる単語をひねり出した。

 

「バターライス・ミルク!」

 

「おい待て! 何だよそれ!?」

 

 だが、ひねり出した単語は、一般常識としてよく知られた単語ではなく。

 すぐさま、シモンがランドニーに単語の意味を問いただす。

 

「え? カクテルの名前だけど、しし、知らないのか?」

 

「いやいや、絶対嘘だろ!」

 

 ランドニーの説明に疑念を抱かずにはいられないシモン。

 ランドニーがその場しのぎで勝手に造語したのではと詰め寄るシモン、それに対して、頑なにカクテルの名前と言い張るランドニーだったが、そんな彼の目は分かり易いほど泳いでいた。

 

「すいません、嘘つきました」

 

 だが、程なくしてシモンの圧力に屈したランドニーは、その場しのぎの造語であった事を認めたのであった。

 

 

 

 

 

 こうして暇つぶしのしりとりを行いつつ、更に時間が経過し。

 このまま何事もなく夜明けを迎えられるかと思われた、その時であった。

 

「司令、飛行場に接近する複数の機影を探知したとルッグン一号機から緊急連絡!」

 

「何だと!? 飛行場からはそんな連絡は何もないぞ」

 

「こちらでも捉えました! IFF(敵味方識別装置)反応なし!」

 

「くそ! 飛行場に直ちに連絡! 直ちに要撃機のスクランブルを……」

 

「司令! 複数の機影より小型の高速飛翔体が分離! ミサイルと思われます!」

 

「何だと!?」

 

 艦橋乗組員からの悲鳴混じりの報告の刹那。

 闇夜を照らした飛行場のいくつかの箇所で、突如、激しい炎が湧き上がり、飛行場を更に照らし始める。

 だが同時に、衝撃波と共に周囲に破片をまき散らし、闇夜に溶ける黒煙を巻き上げていた。

 

 刹那、飛行場内に急を告げるアナウンスが流れると共に、物々しいサイレンが響き渡り始める。

 

「くそ、近隣の防空網は何してたんだよ!? 全機! 防空戦闘開始! ギャロップも対空攻撃を開始する!」

 

 金属の独特な轟音を響かせ、闇夜の中を鋼鉄の翼をはためかせる敵航空機。

 夜の闇に乗じてオゼルネ飛行場へと襲来したそれら目掛け、方々から夜の闇を照らす火線が放たれる。

 

 すると、程なく。

 夜の大空に火球が一つ出現し、程なくしてその輝きを闇夜の中に消した。

 

 

 

 

「畜生! 俺達の機体が!」

 

「落ち着け! 今出てもバーベキューになるのが落ちだ!」

 

 飛行場の一角、敵の攻撃から人員や装備を守るために設けられたコンクリート製の掩体壕(えんたいごう)の中。

 飛行場に駐留していた航空隊所属のパイロットの一人が、同僚のパイロットに羽交い絞めにされながらも、掩体壕から出ようと暴れている。

 やがて、他の同僚パイロットにも取り押さえられ、ようやく大人しくなる。

 

「くそ! 味方の防空担当は何してたんだよ!! 折角の俺の機体がお釈迦じゃねぇか!!」

 

 だが、彼は肥大した怒りを吐き出すように、飛行場への接近を察知できなかった防空担当者への恨み節を愚痴る。

 

「愚痴った所で、仕方ないだろ」

 

「でも、愚痴ってでもないと気持ちの整理がつかねぇんだよ!!」

 

 同僚のパイロット達や、同じく掩体壕に身を潜めた整備隊員の中にも、声にこそ出さないまでも、彼と同じくやり場のない怒りを抱えているものは多かった。

 できる事なら、今すぐ飛び出してやりたい。

 だが、今の彼らは、このコンクリート製の穴蔵の中で安全が確認されるまで耐え凌ぐしか術はない。

 

 しかし、そんなストレス指数を上昇させていた彼らにも、漸く、この穴蔵と別れを告げる瞬間が訪れる。

 

「よーしお前ら、臨時の警備隊のお陰で敵の第一波は追い払われたぞ。だが、どうやら本命と思しき大型の機影を伴った第二波が接近中、こいつを直ちに迎撃しにいくぞ!」

 

「何だよ、臨時の連中、常駐の連中よりも手際がいいじゃないか」

 

「全くだ、常駐の連中なら、後三十分はかかってたな」

 

「お前ら、お喋りはそこまでだ! 扉を開いたら、急いで機体を滑走路に出すぞ! ヴァイパー隊、いいな!?」

 

 掩体壕の出入り口の扉を操作する操作盤の前に陣取った隊長と思しき者の一喝に、響いていた声が鎮まり、全員の表情が引き締まる。

 そして、操作盤を操作し、重厚な掩体壕の出入り口の扉がゆっくりと開かれてゆく。

 

 未だ大空を夜の闇が照らす中、開かれた扉の向こうに映し出されたのは、照明と共に飛行場を照らし出す激しい炎と立ち上る黒煙。

 そして、幾つかの、残骸と化した露天駐機や飛行場施設の光景であった。

 

「チェックOK! いつでもいけます!」

 

 そんな光景に向けて、掩体壕の中に収納されていた、ジオン公国軍の大気圏内用戦闘機。

 従来の戦闘機とは一線を画す、機体の斜め上段にコクピットを配置するという、空力特性が悪いながらも、それを強力なエンジンと姿勢制御のバーニアで強引に飛ばすという手法で、短い航続距離の代わりに高い運動性能を手に入れた異色の戦闘機。

 ドップの名を持つ、双発ジェット戦闘機が、整備隊員の合格サインと共に、主を乗せ、ゆっくりと誘導路へ進入していく。

 

コントロール(管制室)! グリューンの連中はどうした? まさかあっちの掩体壕はやられたのか!?」

 

「こちらコントロール、連中の掩体壕は無事だ。だが、連中の使う誘導路が撃墜した敵機の残骸で塞がっちまった。直ぐに撤去作業を始めるが、暫く時間がかかる」

 

「おいおい、誰だよ。臨時の連中手際がいいなんて言ったやつ!」

 

「ぼやくなクロウ2(ツー)。よし、クロウ隊は残骸の撤去の応援だ! 駆け足、急げ!!」

 

「マジかよ、くそ! 臨時警備の連中、あとで覚えてろよ!!」

 

「クロウ2、そういえば、臨時の連中の内二人は女性のパイロットらしい。しかも、かなりの美人との話だぞ」

 

「よーし! 俺、頑張って撤去しちゃうぞ!!」

 

「現金な奴だな……」

 

 耐Gスーツを着込み、航空ヘルメットを被ってコクピットのシートに体を固定した、ヴァイパー隊の一番機、ヴァイパー1(ワン)は、静かなコクピット内で、ヘルメットから無線伝いに聞こえてくる同僚のクロウ2の態度に、独り言ちた。

 キャノピーから見える光景は、数十分前まで彼が見慣れた飛行場の景色ではなかった。

 見慣れた景色を一瞬に破壊した連中への怒りを沸かせつつ、これ以上、自分達の家である飛行場に被害は出させないと誓う。

 

 やがて、赤い一つ目の巨人が守護神の如く見守る中、尾翼に、にらみを利かせた蛇を描いた部隊章を持つ四機のドップは、誘導路を抜け滑走路の末端へと到着する。

 

「ヴァイパー1より各機、一気にいくぞ!!」

 

「「「了解!」」」

 

 機尾のエンジンノズルが轟音と共に、機体を疾走させ始める。

 やがて、パイロットの操作と共に、機体が滑走路から引き離され、漆黒の大空へと舞い上がる。

 

 それに続くように、残りの三機も、次々と離陸していく。

 

 そして、程なくして四機は合流し、菱形、ダイヤモンドとも呼ばれる編隊を組むと。

 管制室からの誘導に従い接近中の敵第二波の迎撃に向かうべく、漆黒の大空に鋼鉄の翼をはためかせる。

 

 

 

 

「コントロールよりヴァイパー1、目標は方位2-2-0(ツー・ツー・ゼロ)より接近中、爆撃機部隊と護衛の戦闘機部隊と思われる」

 

「ヴァイパー1了解。ヴァイパー1より各機、聞いたな、先ずは爆弾抱えた爆弾魔から仕留めていくぞ!」

 

 返事と共に、四つの翼は接敵目指して風を切る。

 程なくして、自機のレーダー画面上にも、敵を示す光点が現れ始める。

 

 火器管制コンソールを操作し、搭載している武装の安全装置を解除。

 HUD(ヘッドアップディスプレイ)に表示されたレティクルに意識を集中させると、握った操縦桿のトリガーに軽く指を置き、その瞬間が訪れるのを待った。

 

「ヴァイパー1、エンゲージ!!」

 

 ロックオンを告げる電子音をかき消すかのような交戦開始を告げる声と共に、ドップの翼下に搭載されていたAAM(空対空ミサイル)が機体に軽い振動を与えると共に切り離され、刹那、エンジンに火がともる。

 同じく他の三機からもAAMが放たれ、あっと言う間に音速の壁を突破したAAMの群れは、白煙と共に漆黒の空の中へとその姿を消した。

 

 それはほんの僅かな時間、だが、パイロット達にとっては永遠にも感じられる、そんな時間。

 

 刹那、漆黒の大空を幾つもの光源が、フレアと呼ばれる防護手段が敵爆撃機より散布される。

 だが、その美しいフレアの光にも負けぬ巨大な火の玉が、次の瞬間に姿を現す。

 夜空を照らす巨大な火の玉は、周囲の味方爆撃機や護衛の戦闘機の機影を一瞬、映し出した後、その破片を漆黒の大地へとまき散らしていく。

 

「くそ! プラヴァー3(スリー)4(フォー)がやられた!」

 

「チョルリート2もだ!」

 

「ジオンの迎撃だ! 気を付けろ!!」

 

 味方の爆撃機が撃墜させられ、護衛の戦闘機部隊の動きが慌ただしくなる。

 そんな戦闘機部隊目掛け、行き掛けの駄賃とばかりに、ヴァイパー1のドップがすれ違い様に三〇ミリ弾をお見舞いする。

 三〇ミリ機関砲が暫し唸りを上げ、轟音と共にターゲットとなった連邦軍の小型制空戦闘機、TINコッドへと三〇ミリ弾叩き込まれると。

 

 やがてヴァイパー1の後方に過ぎ去ったTINコッドは、一瞬その姿を炎で夜空に照らし出すと、程なくその姿を漆黒の大地へと消していった。

 

「流石はヴァイパー1、お見事」

 

「ヴァイパー2、煽てても何も出ないぞ」

 

「なら、今回のスコアトップで何か出してもらいましょうかね」

 

 酸素マスクの下、ヴァイパー1の口角が不意につり上がると、旋回を終えたヴァイパー隊の進行方向上に、目標の爆撃機部隊の無防備な横っ腹を、ドップの電子の目が捉える。

 

「ヴァイパー1、フォックス・ツー!」

 

 ミサイル発射の符丁と共に、機体に再び軽い衝撃が走る。

 刹那、再び複数のAAMが機体から離れ、末端から激しい炎と煙を吐き出し、母機が狙いを定めた獲物目掛けて轟然と突き進む。

 

 当然爆撃機部隊もわが身を守る為、残ったフレアを散布し、回避行動に移行するも。

 ある機体は胴体に直撃、またある機体は右主翼と尾翼を吹き飛ばされ、爆音と共に炎に包み込まれてゆく。

 漆黒の大地に消えゆく爆撃機部隊を他所に、護衛の戦闘機部隊が本来の役割を果たすべく、行動を開始する。

 

「グリューン1よりヴァイパー1へ、待たせたな。俺達の分の獲物はあるか?」

 

「ヴァイパー1よりグリューン1へ、あぁ、まだいくらか大物は残しておいてやったぞ」

 

「グリューン1よりヴァイパー1へ、了解だ。それじゃ、存分に楽しませてもらうとしよう!」

 

「ヴァイパー1より各機へ、大物はグリューン隊に任せ、俺達は鬱陶しい小物を片付けてやるぞ!」

 

 漸く、空域に到着した味方の部隊に爆撃機部隊の始末を任せると。

 ヴァイパー隊は護衛の戦闘機部隊へと襲い掛かった。

 

 漆黒の大空を、幾つもの轟音と共に、火線や閃光が生まれては消え、生まれては消える。

 それは、夜空を彩る美しくも儚い、空戦と言う名の命のやり取り。

 

「ヴァイパー2より1へ! ミサイル! ブレイク! ブレイク!」

 

「っち! くそが!」

 

 刹那、ヴァイパー1の体を強烈な横方向のGが襲う。

 と、一拍置き、今度は背中を叩きつけるような衝撃が走る。

 

 キャノピーから見える景色は夜の為代わり映えしないが、昼間ならば、間違いなく世界は回っていただろう。

 その証拠に、ヴァイパー1は胃が裏返りそうになる感覚を覚えていた。

 

 だが、そんな苦労の甲斐もあってか、コクピット内に響いていたけたたましい警報音は、いつの間にか鳴り止んでいた。

 

「さて……、歓迎されたからには、お返し、しないとな」

 

 バイザーの奥に光る眼光を一層鋭くすると、ヴァイパー1は下手人を探し始めた。

 すると、一機のTINコッドがヴァイパー1へと近づく。

 

 レーダー上に表示された相手の進行方向は、ヴァイパー1の真正面。

 互いに減速する事無く、両機はヘッドオン、かと思われた。

 

 だが、互いに攻撃する事はなく。

 それはまるで、これから命を懸けて戦う者同士が、暗闇の中、コクピットの明かりで浮かび上がった互いの顔を確認するかの如く。

 至近距離ですれ違うと、互いに後方へと抜けていく。

 

 上下が反転し、そのまま降下すると、ヴァイパー1は先ほどすれ違ったTINコッドを探す。

 すると、相手のTINコッドは少し離れた位置に確認できたものの、コンソールに表示された情報通りならば、ヴァイパー1の頭を抑えるべく既に更なる上空へと舞い上がっていた。

 

「っち」

 

 舌打ちと共に機体を水平に戻すと、機首を上げ、TINコッド目掛けて加速する。

 まるで空気の壁が全身を押しつぶすかの如く、Gが圧し掛かる。

 それでもヴァイパー1の意思に従い、ドップは漆黒の大空を駆け上がっていく。

 

 刹那、コクピット内に警告音が鳴り響く。

 

 そして次の瞬間。

 TINコッドから放たれた火線が、漆黒の大空に走った。

 

「なろ!」

 

 機体をロールさせ、火線の弾道から機体を外そうと試みる。

 だが、不気味な鋭い音と共に、軽い衝撃がコクピット内に伝わる。

 

 直ちに機体の状況を確認するも、幸いに致命弾を受けた様子はなかった。

 

「さぁ、反撃開始だ。相棒」

 

 小さく独り言ちると、ヴァイパー1と相棒のドップは急旋回を始める。

 自身のレティクルに相手を捉える為に。

 

 だが、相手も簡単にレティクルに捉えさせてくれはしない。

 

 漆黒の大空に響く轟音、目まぐるしく動く世界に計器の数字。

 互いにけん制し、調整しつつ、二機は接近。そして、互いの機首が正面を向けた。

 

 刹那、互いの火線が交錯し、遅れて軌道も交錯する。

 

 

 それはまさに、漆黒の大空で繰り広げられる音速のダンス。

 一歩間違えれば、きりもみしてもおかしくはない、そんな極限状態で繰り広げられる命のダンス。

 

 体内の血液がミキサーの如く振り回され、空気の壁に固定されたように首は動かすことは出来ない。

 幾度か、意識が音速の向こう側に持っていかれそうになるも、寸での所で繋ぎ止める。

 そんな極限状態の中に合っても、ヴァイパー1の視線は、レーダーモニターから離れはしなかった。

 

「っち!!」

 

 やがて、本日何度目かのヘッドオン。

 コクピット内にけたたましいミサイルアラートが鳴り響く。

 

 自らに迫る音速の矢を躱すべく、ヴァイパー1のドップは横転と機首上げを同時に行う、所謂バレルロールを繰り出す。

 部隊章に恥じぬ軌道を描いたヴァイパー1のドップだが、それでもミサイルアラートは鳴り止まない。

 

「ならこいつでどうだ!」

 

 刹那、ヴァイパー1のドップから眩いばかりのチャフが散布される。

 更にオマケとばかりに、ヴァイパー1のドップはバレルロールの勢いを生かしてもう一回転。

 

 一拍置き、漆黒の大空に一つの火球が現れる。

 

 火球に照らし出された二つの機影は、次なる衝突に向けて、再び旋回を開始していた。

 

「──せよ。繰り返す、こちらシエル・アイ。生存している作戦機は直ちに撤退せよ。タイムリミットだ」

 

「こちらブラッド1、了解。……ブラッド2、おいレディキラー! 聞こえたな、撤退だ!」

 

「二枚目は負けないって、相場じゃそう決まってる筈だったんだけどな」

 

「だったらお前は二枚目じゃないって事だ。兎に角、さっさとケツをまくって逃げるぞ」

 

「……温室育ちのパイロットばかりじゃないってか。いいぜ、いつか今回の借りは、返させてもらうとするよ!」

 

 敵の通信を拾ったのか、聞き覚えの無い会話がヴァイパー1の耳に入る。

 そして、再戦に闘志を燃やすのはそちらだけではない、と言わんばかりに、機体を水平に戻したヴァイパー1は、キャノピーの外へと視線を向けた。

 

 視線の先には、東の空が紅黄色に染まりつつある中、遠くなりゆく幾つかの機影が薄明かりの中映し出された光景が広がっていた。

 

 

 

 

 朝日を浴び、南西の空からオゼルネ飛行場へと戻ってくる大空の戦士達。

 幸い、一機の未帰還機もなくオゼルネ飛行場へと戻ってきた彼らに、警備を担当していた巨人達の出迎えが待ち構えていた。

 

 そして、程なくして、夜の大空での死闘を戦い終えた翼たちは、巨人達に見守られながら、滑走路へと降り立った。




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