機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第三十話 兵器庫のドン亀

 その日、遂に以前より予想されていたイベントの正式アナウンスが発表された。

 その内容は両勢力のプレイヤー達が予想していた通り、一年戦争における転換期を代表する一大反攻作戦、オデッサ作戦をモデルとしたもの。

 その名を『エマージェンシー・オブ・オデッサ』

 

 このイベントが正式にアナウンスがなされた直後から、オデッサ周辺における両勢力の活動はさらに活発化していく事となる。

 来るべき、イベント開始日に備えて。

 

 

 そして当然ながら、第046独立部隊も、エマージェンシー・オブ・オデッサに向けての準備の為に、更に勢力的に活動を行っていた。

 

「どうも初めまして、私の名前はDr.F(ドクター・エフ)、アーキテクト活動をメインに行う『有限会社如月重工』の軍団長を務めております」

 

 軍服の上から白衣を重ね着、その黒髪を見事なまでに七三分けにした壮年男性プレイヤー。

 Dr.Fと名乗った彼は、自己紹介を終えると、雰囲気だけですが何か飲み物でも頼みますかと尋ねる。

 

 第046独立部隊一行とDr.Fが今いる場所は、オデッサのロビーから、以前の大型アップデートで新たに移動できるようになった場所。

 その名も、酒場(BAR)

 勿論、実際に飲食はできないので雰囲気を楽しむだけの場所ではあるが、店内に流れるジャズの音色と相まって、そこにいるだけでも十二分に楽しめる場所だ。

 

「じゃ俺、バターライス・ミルク」

 

「おいおい、だからそれはお前が口から出まかせで……」

 

「お待たせいたしました。バターライス・ミルクでございます」

 

「え? あるの?」

 

 そんな酒場のカウンター席に腰を下ろした第046独立部隊一行は、Dr.Fの勧めで各々飲み物を注文する。

 そんな中、ランドニーは冗談なのか本気だったのか、以前その場しのぎででっち上げた造語を注文した。

 すると、何と注文がすんなりと通り、本当に、カクテルグラスに白乳色の液体が注がれたものが出されたのだ。

 

 これには、シモンはもとより、注文した本人も目を点にしていた。

 

 そして他の面々も各々注文した飲み物が出揃った所で、乾杯の儀礼を終えると、早速ランドニーが口を開いた。

 

「所で、Dr.Fさんが……」

 

「さん付けはしなくて構いません。呼び捨てで結構です」

 

「では。Dr.Fが俺達に頼みたい個人的な依頼っていうのは、一体なんですか?」

 

「以前より、貴方方第046独立部隊のご活躍は拝見させていただいておりました。そこで、今回の私の個人的な依頼を頼むには、貴方方しかいないと判断しました」

 

「それは光栄です」

 

「それで、私の個人的な依頼の前に。今回の個人的な依頼を行うに至った経緯を、お話しておこうと思います」

 

 Dr.Fは自身の頼んだカクテルを一口、口にすると、静かに語り始める。

 

「私は、俺の野望が正規サービスを開始して以来、不満を抱いていました」

 

「それは一体?」

 

「それは……、そう、ゾック! ゾックです! 俺の野望で用意されていたゾックのモデルはアニメ版と同じ逆三角形の二本脚のみ! 何故、何故あの素晴らしい四本脚は用意されていないのか! 私はそれが納得できずに仕方がなかった!!」

 

 それまでの冷静な口調が一変。

 ゾックのモデルに不満を漏らすその口調は、明らかに激高していた。

 

「ごほん、失礼」

 

 しかし、やがて落ち着きを取り戻し、咳払いして仕切り直すと、先ほどと同じくその口調は冷静さを取り戻していた。

 

「そしてある時、私はふと思ったのです。……そうだ、無いなら作ればいいじゃないか、と。──そして、その日から私は四本脚の制作に取り掛かり。そして、先日遂に、私はあの素晴らしい四本脚ゾックの製造に成功したのです!」

 

 目を輝かせ、満ち足りた様子で成果を報告するDr.F。

 それ程、彼の四本脚ゾックに対する情熱は深かったという事なのだろう。

 

「ですが、私は完成した四本脚ゾックを、単なる自己満足の産物(置物)にしたくはない! そう、立派な戦力として活躍してこそ、真に完成されたと言っても過言ではない! そこで、第046独立部隊の皆さんの腕前を見込んで、私の個人的な依頼を受けていただきたく、連絡した次第なのです」

 

「成程。つまり、Dr.Fが制作した四本脚ゾックが立派な戦力足り得ると証明するために、俺達に力を貸して欲しいと」

 

「そうです! 私の四本脚ゾックを使用して戦果を上げていただきたい。戦果を上げ、無事に生還を果たした暁には、使用した四本脚ゾックは貴方方にお渡しします。なに、設計図があれば、後は資材とゴールドでまた作れますので、気にせずお使いください」

 

「戦果は、どれ位で?」

 

「できれば上級プレイヤー、と言いたい所ですが、そこまで高望みはしません。出撃して、可能な限り戦果を上げていただければ十分です。……あぁ、そうだ。最近はエマージェンシー・オブ・オデッサが近い影響もあって、ボスポラス海峡が大変賑わいていると聞きます」

 

「黒海の堰、ですね」

 

「あそこならば、獲物に困る事はないでしょう」

 

 四本脚ゾックのデビュー、その舞台として相応しいと二人の口から漏れた場所。

 それが、通称"黒海の堰"と呼ばれている、黒海とマルマラ海をつなぐボスポラス海峡、その黒海側海峡口である。

 

 同海峡口は、今、連邦海軍とジオンの海洋戦力部隊との間で押し合いが続いていた。

 十月以降の攻勢により、地中海の大部分とエーゲ海、更にはマルマラ海までその活動範囲を広げてきた連邦海軍。

 ジオンの海洋戦力部隊も、何とか押しとどめようと善処したが、いかんせその活動可能な数の差から、一気に黒海まで押し返されてしまった。

 

 しかしながら、オデッサに直接攻撃可能な黒海にまで侵出はさせまいと、黒海側海峡口を最終防衛ライン()として、連邦海軍の侵入を日々防いでいるの、といいう状況である。

 

 ただし、この侵入防止に割いている戦力も、決して十全とは言えず。

 万が一最終防衛ライン()を突破された際の迎撃戦力も温存しておかなければならない為、ただでさえ少ない戦力から、堰き止めるための戦力を抽出しているのが実情であり。

 数の差を地の利を生かして補うこの堰き止めも、何時までも続かないであろう事は、誰の目にも明白であった。

 そんな黒海の堰は、連邦とジオンのマンパワー差を如実に表している戦場と言っても過言ではなかった。

 

 上記のように両軍の海洋戦力が激突している黒海の堰。

 そこは、狩場と言う観点からすれば、獲物を探すに困らないまさに絶好の場であった。

 

「パイロットの人選は、貴方方にお任せします。ただし、必ず機体共々生還してくださいね。それが、依頼の達成条件です」

 

「分かりました」

 

「では、契約成立、という事で」

 

 ランドニーとDr.Fが握手を交わすと、機体の受け渡し場所などを確認し、最後に、依頼の成功を祈って再度乾杯する。

 こうして、第046独立部隊がDr.Fからの個人的な依頼を受託し終えた時であった。

 

「テメェ! ガキが! モビルスーツのパイロットだからって粋がってんじゃねぇぞ!」

 

 不意に、店内の一角から激しい口論と共に、何やら喧嘩していると思しき物音が聞こえてくる。

 

「喧嘩、止めてきます」

 

「え? あ、おう」

 

 すると、不意にロッシュが喧嘩の仲裁に行くと告げ、喧嘩の現場へと向かっていく。

 ロッシュが向かった先には、軍服を着崩した男性軍人と、軍服をきっちりと着こなした、あどけなさの残る学徒志願兵らしき少年が、取っ組み合いの喧嘩を繰り広げていた。

 

「俺達歩兵はな、この身一つで砲弾飛び交う戦場で戦ってんだ! テメェみたいな、頑丈な巨人の鎧に乗ってヌクヌクと戦ってるテメェなんかとは違うんだよ!」

 

「言ったなっ!!」

 

 そんな二人の周囲には、二人の喧嘩を煽る、歩兵の同僚と思しき一団。

 その一団をかき分けて、ロッシュは二人の喧嘩する現場へと足を踏み入れた。

 

「喧嘩は、駄目です」

 

「な!? 何だよ、テメェ……」

 

「え?」

 

「兵科は違っても、共に戦う仲間、です。仲良くしましょう」

 

 強引に間に割り込み喧嘩を止めたロッシュに対して、歩兵の男性は、喧嘩の邪魔をされ、更に気が立ちロッシュにまで手を出そうかとした。

 だが、ロッシュの体格を見て、握った拳を振りかざす事を躊躇してしまう。

 

「君も、少し頭を冷やしたほうがいい」

 

「だ、誰か知らないけど、邪魔しないでください!」

 

「おい! ブラウン!」

 

 と、不意に少年の上官らしき男性が、彼の名を呼びながら血相を変えて近づいてきた。

 

「貴様、何をしている!?」

 

「は、ハウンズマン曹長! 何って、こいつがぼく達モビルスーツ乗りの事を馬鹿にしたから……」

 

「馬鹿者! 頭を冷やせ!」

 

 刹那、ハウンズマン曹長と呼ばれた男性は、ブラウンに強烈な右フックを叩き込む。

 それを受けたブラウンは、気絶し、床に倒れ込む。

 

 それを見た歩兵の男性は、少し冷静さを取り戻したのか、拳を収めた。

 

「ふん、所詮モビルスーツのパイロットなんざ、生身じゃ何もできないくせによ」

 

 しかし、吐き捨てるように放った一言が癪に障ったのか。

 歩兵の男性の顔面目掛けて、ハウンズマン曹長の拳が飛んだ。

 

「っ!」

 

「確かに生身じゃ非力だがな、モビルスーツは俺達にとって棺桶だ! その棺桶に乗って、ブラウンはルウム戦役で敵艦の主砲の直撃を受けたんだ! お前に一人で戦艦に突っ込む度胸があるか!? ん?」

 

「……あの、もうその辺で」

 

 ロッシュがハウンズマン曹長にもう十分だと声をかけると。

 歩兵の男性は殴られた箇所をさすりながら、静かにその場を去っていく。それに続くように、同僚の歩兵達も散り散りになる。

 

 一方、残った三人はと言えば。

 

「あぁ、俺の部下が迷惑をかけたな」

 

「いえ、僕はただ、仲裁に入っただけですから」

 

 ハウンズマン曹長はロッシュに礼を述べると、気絶したブラウンを背負って酒場を後にしていった。

 

「おーいロッシュ、大丈夫だったか?」

 

「はい」

 

「そっか。ま、トラブルに巻き込まれなくて何よりだ」

 

 こうして喧嘩騒動も解決し。

 第046独立部隊一行は、Dr.Fの依頼遂行の為、酒場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「"ゾック・アーセナル"、深度三〇〇、速度二〇ノット、順調に南下中です。このままならば、海域には予定時刻に到着予定」

 

「了解」

 

 オデッサの沖合、ジオン側が設定した安全海域と呼ばれる海域の一角に、一隻の水上艦艇の姿があった。

 元連邦海軍の駆逐艦を、自軍戦力として改装し運用している内の一隻であるその艦は、今回の依頼に際してランドニーがレンタルしたものだ。

 

 そんな駆逐艦内の戦闘情報中枢こと戦闘指揮所(CIC)の一角に佇むランドニーは、CIC要員からの報告に短く返事を返した。

 

 CICに設けられている大型ディスプレイが示す情報に目を移しながら、ランドニーは皆の無事を祈る。

 

「いや、あの魔改造ゾックなら……心配ないか」

 

 しかし、ふとDr.Fから受け取った機体の事を思い出し、心配無用と改まる。

 

 

 Dr.Fから今回の依頼の為に受け取ったゾックは、ランドニーが想像していたものとは、少々異なっていた。

 と言うのも、ランドニーが事前に想像していたのは、ガンダム戦記 Lost War Chroniclesに登場する、四本脚化し大型化された両腹部のフェアリングシェルが特徴的なアレンジ版と思っていたのだが。

 実際には、機動戦士ガンダム サンダーボルトと呼ばれる漫画作品内に登場する、モビル・フォートレスという分類の母艦機能を有するゾックをベースとした機体で。

 大型化した四本脚には、モビルスーツを収容できない代わりに、地対空攻撃可能な七五ミリガトリング砲をそれぞれ一基、合計四基収納し。更にはミサイルランチャーも収納している等。

 文字通りアーセナル(兵器庫)の名に恥じぬ大火力を手に入れ。

 ゾックのコンセプトである大火力による砲撃を、更に昇華させた機体であった。

 

 

「司令、間もなく三機が海域に到着します」

 

 と、ランドニーがゾック・アーセナルの諸元を一頻思い返していた間に、CIC要員から報告が上がる。

 ゾック・アーセナル、そして護衛として同行している二機のアッガイが、海域に到着する寸前であるとの内容であった。

 

「よし。ユーリアン、曳航ワイヤーを切り離し、浮上を開始。沙亜とメノは海中からユーリアンの援護」

 

「了解」

 

「了解だ」

 

「りょうかーい」

 

 ゾック・アーセナルのコクピット内、操縦者であるユーリアンの操作と共に、沙亜とメノが操る二機のアッガイを曳航していたワイヤーが切断される。

 刹那、オデッサ出発から自由を奪われていた二機のアッガイは、自由を取り戻すと、深海の中赤いモノアイを左右に動かすや、脚部のポンプジェット推進を使用し、暗い深海の中へとその姿を消す。

 

 一方、二機の分離を確認したゾック・アーセナルは、その巨体を海面目掛けて上昇していく。

 

 上昇と共に深度計の数値が小さくなっていく。

 そして、遂に。

 黒海の海面を突き破る様に、頭頂部のフォノンメーザー砲の砲口部から水しぶきをまき散らしながら、ゾック・アーセナルはその巨体を黒海海面に現した。

 

 程なく、ちょっとした小島を彷彿とさせるその全容を曝け出すと、機体の表面から滑り落ちた水が、海面に幾つもの波紋を広げた。

 

「浮上完了。これより、攻撃に移行します」

 

 そして、ゾック・アーセナルのモノアイが一際輝きを放つと、その巨体で巨大な航跡を描きながら、更に前進を続けた。

 

 

 

 霧が立ち込める中、悠然とその巨体を進むゾック・アーセナル。

 そのコクピット内で、ユーリアンはレーダー画面に表示された光点を見つめていた。

 

 これは、上空のルッグンからデータリンクを通じて送られてきた、ターゲットなる連邦海軍の艦隊を示していた。

 名前の通り、中央部に大型艦を配置し、その周囲を円形に護衛の艦を配置する。所謂輪陣形。

 画面上に映し出された連邦海軍の艦隊は、見事なまでの輪陣形で、黒海の堰を突破すべく進行を続けていた。

 

「対艦ミサイル、一番、二番、発射!」

 

 ゾック・アーセナルの左右前脚ハッチが開かれると、その姿を現したミサイルランチャーから、そんな連邦海軍艦隊目掛け、二本の槍が放たれ、飛翔を始める。

 更に一拍置いて、第二射となる二発も発射され、合計四発の槍が放たれた。

 

「方位0-0-6(まる・まる・ろく)よりミサイルと思しき飛翔体! 四発接近中!」

 

「何だと!? くそ、迎撃しろ! 全兵装使用自由( オールウェポンズフリー)! てぇ!!」

 

 連邦海軍艦隊において輪陣形の先頭を航行する、駆逐艦。

 ジオン側により区別の為チャーリー・ワンと命名された同艦は、艦長の号令と共に、艦橋前方に備えたVLS(垂直発射装置)が開き、そして火を噴いた。

 迫る対艦ミサイルを迎撃すべく、艦対空ミサイルが轟音と共に発射される。

 さらに輪陣形の前方を航行するチャーリー・ツー、チャーリー・スリーからも、同様に艦対空ミサイルが発射される。

 

 だが、迎撃はそれだけでは終わらない。

 次いで、VLSの前方、前甲板に設けられた単装速射砲が吠え始める。

 

 黒海に響き渡る轟音。

 

 しかし、そんな音に交じって、甲高い音が混じり始める。

 それは、艦を脅威から守る最後の障壁、近接防御火器システムCIWS(シウス)の発砲音であった。

 

「ECMとECCMはちゃんと作動してるんだろうな!?」

 

 チャーリー・ワンのCICに詰めていた誰かが、悲鳴に似た声を挙げた刹那。

 チャーリー・ワンを、耳を劈かんばかりの轟音と共に、激しい衝撃が襲った。

 そして、CICに緊急事態を示す赤いランプが点滅すると、けたたましい警報が鳴り響き始める。

 

「ダメコン急げ!!」

 

 大型ディスプレイに表示された艦の被害状況は、音と衝撃に違わぬ酷いものであった。

 

「く! 何とか復旧を急がせろ! でないと第三──」

 

 そんな状況下にあってもチャーリー・ワンの艦長は善処しようと矢継ぎ早に命令を下そうとするも。

 彼の努力は、結局報われる頃はなかった。

 

 新たな命令を言い終わる前に、激しい炎によりその居所を照らし出したチャーリー・ワンの船体を、霧の向こうから二筋の光が飛来し、貫いた。

 刹那、チャーリー・ワンは閃光と轟音と共に、巨大な炎と水飛沫を上げ、黒海の海面から姿を消した。

 

「駆逐艦ハーヴィ、轟沈!」

 

「駆逐艦チャイルズ、なおも炎上中!」

 

「駆逐艦シャーキー、航行不能!」

 

「えぇっい! ここのジオンの連中は水中から襲うのが定石ではなかったのか!?」

 

「と、仰いましても……」

 

 輪陣形の中央、今回の艦隊の旗艦を任された全通飛行甲板型の輸送艦、ティトンのCICで、艦隊司令官の男性は報告される内容を耳にし、隣に佇むティトン艦長に噛みついた。

 艦隊司令官からの理不尽な声に耐えながら、ティトン艦長は彼に正気を取り戻してもらうべく言葉を選んで対応していく。

 

「敵の数は分からんのか!?」

 

「攻撃を行っているのは小型艇と思しき反応のみですが、水中にも反応があり……」

 

「えぇぃ! ならファンファンを飛ばせ!! それから、"水ヨーヨー"も全機発進させろ!!」

 

「全機ですか!?」

 

「そうだ、艦長、全機出撃だ!!」

 

 ただ、どうやらティトン艦長の望みは、既に絶たれていた様だ。

 艦隊司令官の男性の目は血走り、鼻息も荒い。

 もはや、正気は完全に失われていた。

 

 そのような状態で艦隊の指揮を執る事は、ティトン艦長にとっては不安でしかない。

 だが、彼が艦隊において最上位の存在である以上、その命令は絶対である。

 

「ファンファンSRO、及びフィッシュアイ、発進スタンバイ!」

 

 ティトンの飛行甲板に並べられた、その名の通りファンを装備し飛行可能なミサイル・ホバークラフト。

 その対潜哨戒機型であるファンファンSROが、左右に装備したファンを高速回転させ、次々と飛行甲板から発進していく。

 

 一方。

 ティトンの艦底部に設けられた格納庫内では、今まさに注水作業が行われていた。

 格納庫内の拘束用土台に拘束されていたのは、モビルポッドのボール。をベースに水中専用に改造した機体。

 作業用マニピュレーターを、火器の使用が制限される水中でも攻撃に最適化すべく巨大なクロー・アームに換装し、主砲を水中で使用可能な連装式ロング・スピアに変更。

 そして背部に主推進装置である大型スクリューを装備した。

 形式番号RB-79N、フィッシュアイである。

 

 ただ、このフィッシュアイ、兵器としての完成度は高いとは言えず。

 航続距離が短いという欠点の為、一部ではゴム紐が付けられたように短時間に出撃と帰還を繰り返す光景や、その外見をなぞらえて、"水ヨーヨー"と揶揄されていた。

 

「ハッチ開放! ハッチ開放!! 発進、どうぞ」

 

「野郎ども! 行くぞ!」

 

 だが、不名誉な名で揶揄されようとも、フィッシュアイ達は命令に従い、艦隊を守るべく行動を開始する。

 注水作業が完了し、艦底部のハッチが開かれると、拘束を解き、丸く凶暴な魚達は黒海へと解き放たれた。

 

「くそ、ソナーが拾うのは味方の嫌な音ばかりかよ……」

 

 丸く凶暴な魚達を束ねる隊長は、乗機のコクピット内で苦虫を噛み潰した。

 

「隊長、敵モビルスーツをキャッチ!」

 

「よーし、散々遊んでくれたお礼だ。奴らにきっちり払わせてやるぞ!!」

 

 だが、部下からの報告に、彼は吠えると、操縦桿を倒し、スクリューの回転数を上げた。

 

「っ! 新手か!?」

 

「もらった!!」

 

 隊長は、捉えた沙亜のアッガイ目掛けてロング・スピアを発射する。

 誘導性はないものの、水中をその名に恥じぬ速さで突き進むそれは、確実に沙亜のアッガイ目掛けて水中を走る。

 

 だが、沙亜は寸での所でロング・スピアを躱すと、一転反撃に出る。

 

「フィッシュアイか、だが、その程度では私は倒せんよ!」

 

「隊長! こいつ動きが違う! データとは比べ物にならない!!」

 

 アッガイのデータを熟知していた隊員達ではあったが、いかんせそれは、平均的なパイロットが操縦した際のデータであった。

 沙亜のアッガイは、放たれるロング・スピアを掻い潜り、振り下ろされる巨大なクロー・アームを華麗に躱すと、腕部のアイアン・ネイルで果敢に格闘戦を挑んだフィッシュアイのキャノピーを貫いた。

 

「隊長! 魚雷走行音! 方位1-6-4(ひと・ろく・よん)! 数二!」

 

「何だと!? デコイを──」

 

 刹那、隊長の乗ったフィッシュアイに、後方から襲い掛かった魚雷が直撃。

 彼の意識は背後より襲い来る衝撃と共に、文字通り海の藻屑と化した。

 

「いえーい! 命中!」

 

 隊長機を海の藻屑へと変貌させた下手人。

 それは、沙亜のアッガイが敵の目を引き付けている隙に、背後に回り込んだメノのアッガイであった。

 

 隊長を失い、指揮系統がマヒしたフィッシュアイ達は、その後次々に討ち取られ。

 その一部を、暗い黒海の海底へと沈めていった。

 

 

 

 こうして水中での雌雄が決しようとしていた頃。

 海上での雌雄も、決しようとしていた。

 

タリホー!(目標視認!)って、おいおい、何だよありゃ!?」

 

「あれは……、モビルスーツなのか!?」

 

 水飛沫と弾幕をあげながら、霧の中、波立つ海面を移動する巨大モビルスーツ、ゾック・アーセナルの姿を目にしたファンファンSROのパイロット達は、一様に息をのんだ。

 だが、意を決すると、ゾック・アーセナルを胴体下部に搭載したミサイルの有効射程内に収めるべく接近を開始する。

 

 しかし、それは既にゾック・アーセナルの知る所であった。

 

「航空機か」

 

 モニターに映し出されたファンファンSROの編隊を確認したユーリアンは、直ちに敵艦隊からのミサイル攻撃の迎撃にも使用した七五ミリガトリング砲の砲口をファンファンSROの編隊へと向ける。

 刹那、指向可能な三基の七五ミリガトリング砲が唸りを上げた。

 

「うわぁぁ!?」

 

「た、助けてくれ!?」

 

 その弾幕の壁を前に、一機、また一機と、蜂の巣と化したファンファンSROが海面へと墜ちてゆく。

 そんな中、何とかミサイルの有効射程内にまで近づいた一機が、撃墜直後にミサイルを放つも。

 狙いを定めきれなかったのか、放たれたミサイルは、ゾック・アーセナルの手前の海面に突っ込んで、水飛沫をあげた。

 

「さて、残りを片付けるか……」

 

 手近な脅威を排除したゾック・アーセナルは、残存する連邦海軍艦隊に向けて、再び攻撃を再開した。

 既に輪陣形を解維持しきれず、陣を解いて戦闘を行っていた連邦海軍艦隊の残存艦だったが、最早既に満身創痍なのは明らかであった。

 

「何故だ! 何故だ! 何故だぁぁぁぁぁっ──」

 

 次々ともたらされる報告の数々に、頭を抱えて叫ぶ艦隊司令官の男性の叫びは、最後まで叫ばれる事はなった。

 何故なら、ゾック・アーセナルより放たれた四本の光に貫かれ、彼を含むティトンの多くの乗員達の意識は、瞬く間に、巨大な炎と水飛沫と共に消え去ったからである。

 

 

 

 

 こうして、黒海の堰での戦闘を終え、沙亜とメノが操る二機のアッガイを引き連れ悠然と帰還を果たしたゾック・アーセナル。

 万が一の為の援護にと、レンタルしたMS揚陸用ホバークラフトと共に待機していたシモンに、俺の分も残しておいて欲しかったと愚痴を聞かされながらオデッサへと帰還した一行は、その足でDr.Fに今回の戦果の報告に赴いた。

 

「素晴らしい! やはり君達に頼んだのは正解だったよ!!」

 

 どうやら大満足の戦果だったらしく、Dr.Fは満面の笑みと共に、今回パイロットを務めたユーリアンに握手と共に感謝の念を示した。

 

 そして、ゾック・アーセナルは正式に譲渡され、第046独立部隊の新たな一員となった。

 

「では、また是非とも貴方方に実戦テストしてほしい機体が出来たら連絡するので、その時はどうぞよろしく。──あぁ、次は何を作ろうか。──そうだ! ザクレロだ! 思い返せば、あの素晴らしきVer.Kaがモデルになっていないではないか! こうしてはいられない、早速取り掛からねば!!」

 

 因みに、Dr.Fの野望にも、新たな目標が追加されたようだ。




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