機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第三十一話 Vulture

「隊長、見つけましたよ。次のターゲットを」

 

「おぉ、そうか……」

 

 東ヨーロッパ地方の一角。

 現在の所、ジオンの勢力圏として認識されている、幹線道路から外れたとある原生林の中。

 空からの監視の目を誤魔化すべく、周囲の原生林に偽装する様に、偽装網がかけられた三機の巨人。

 その内の一機の足元で折り畳み式の椅子に腰かけていた男性は、足早に駆け寄ってきた部下からの報告に、短く反応を示した。

 

「おい、ボロゴロフ! ホバーの調子はどうだ!?」

 

「もう少し待ってください隊長!」

 

 そして、偽装網がかけられた三機の巨人の内の一機。

 右脚の装甲の一部が取り外され、装甲に隠れていた熱核ジェットエンジンの一部が剥き出しとなっている。

 そこに、上半身を突っ込んだ巨漢の男性の姿があった。

 

 上半身を突っ込み、その熱核ジェットエンジンをいじっていた、上半身をアンダーウェアにし、その手にスパナを持ったボロゴロフと呼ばれたスキンヘッドの強面の男性は。

 上半身を引き出すと、その顔をオイルで汚しながら、隊長である男性の質問に振り向きながら答え終える。

 そして答え終えると、再びその上半身を装甲内に突っ込み、整備を再開する。

 

「隊長、何でザクじゃダメなんっすか? そりゃあの"ドム"っていうモビルスーツはいい機体っすけど、ありゃ十分な整備体制が整ってるからこそ生きるってもんで。まともな重機もない、設備のせの字もないこんな手前整備じゃ、明日にでも使い物にならなくなっちまいますよ。あぁ、ザクが無理ならもう少し整備が簡単なグフでもいいですけど……」

 

「文句を垂れるな、ペンター。俺だって分かっちゃいるが、上からの命令だ」

 

 そんな様子を近くで見ていた、鋭い目つきに狐のような顔をした部下の一人、ペンターと呼ばれた不満を爆発させた男性を宥める隊長。

 隊長に宥められたペンターは、渋々といった様子で、文句を引っ込めた。

 

 

 さて、ここで疑問が生まれる事だろう。

 何故彼らは、ジオンの勢力圏内にいて、ジオン軍の制式採用陸戦用重モビルスーツ、形式番号MS-09、ドムを使用しているにもかかわらず、何故近隣の設備の整った場所で整備を受けようとしないのか。

 

 その答えは、単純明快。

 彼らの着ているグレー色の軍服からも分かる通り、彼らはジオン軍の軍人ではなく、"連邦軍"の軍人だからだ。

 その証拠に、偽装網がかけられた三機の巨人の他にも、二輌の61式戦車が偽装網によって、その姿を隠していた。

 そして、彼らの使用しているドムは、重力戦線において連邦軍が鹵獲したモビルスーツの内、リバースエンジニアリングを済ませた個体を一部電子機器を連邦製に変更したものを使用している。

 

 

 そんな彼らの名は、セモベンテ隊。

 左目に眼帯をし、悪魔のような腕を生やして、緑のベレー帽をかぶったドクロを象った部隊章を有する、連邦軍の特殊部隊の一つ。

 

 連邦軍が、本格的な対モビルスーツを想定したモビルスーツを配備する以前に創設した部隊の一つであり。

 その特徴は、何といっても部隊の使用するモビルスーツが鹵獲機である事だ。

 鹵獲機を使用するのは、連邦独自の対モビルスーツ戦術を確立する為であると同時に、その戦術に基づいた指揮を行える指揮官育成の為の、教導団的性格を有している為である。

 

 と言うのは、表向きの話で。

 本当は、鹵獲機を用いた奇襲や後方撹乱等を行う、極秘の作戦行動の為である。

 ただし、この作戦行動に関してはいささか問題がある。

 と言うのも、地球連邦軍と認識する為のマークなどの標識がない鹵獲機を用いての武力行使は、南極条約違反、即ち戦争犯罪に当たるからだ。

 

 現実の戦時国際法においても、標識の偽装は忌むべきもので。

 捕虜となれば当然ながら人道に基づかぬ処遇を受けても文句は言えず、作戦中に事情を知らぬ友軍から誤射される可能性もあるなど、大変危険なものだ。

 だが、それだけリスクがあるにも拘らず、敵側に対して味方に攻撃されるという混乱と不信を蔓延させ、それに対する調査による費用と、それに伴う予定してた作戦への遅延効果、等々。

 

 高いリスクを伴うだけの効果は期待できる為、現実においても、戦争犯罪と承知した上で標識の偽装を行い行動を起こした事例は、表面化したものやしていないものを含めても枚挙にいとまがない。

 

(俺は構わねぇ……、だがせめて、こいつらだけは)

 

 そんな危険な作戦行動を行うセモベンテ隊の隊長。

 左目に眼帯をかけ、顔に傷を負った強面のイタリア系男性、フェデリコ・ツァリアーノ中佐は、心の中で誓いを立てる。

 

 と言うのも、元々セモベンテ隊はモビルスーツ三機と61式戦車一輌で一個小隊を編成、それを二個小隊揃え、隊を形成していた。

 しかし、今日に至るまでの度重なる戦闘による損耗で、一個小隊分にまでその規模を縮小せざるを得なくなっていた。

 本来であれば、定数を満たせず戦力として不安を残す同隊には、補充を宛がうのが通常であるが。

 

 セモベンテ隊は、言うなれば戦争犯罪集団。そして、連邦の暗部の只中の一つ。

 その為、連邦上層部にとっては、利用できる内は利用し、価値がなくなれば捨てる。即ち、使い潰す魂胆であった。

 

 この為、機体や人員の補充も、補充が無理ならば、せめて作戦中の負担を減らし行動を円滑にすべく、専門知識を持った整備士の同行の許可を上申したが。

 何れも、全て却下されている。

 

 故に、現在のヨーロッパ戦線のジオン方面軍に対する後方撹乱の作戦においても。

 機体の整備は自分達で行わなければならず、整備に必要な部品等は、廃コンテナや襲った物資集積所等から調達しているのが現状。

 

 もはや何一つ満足できる状況にないが、それでも、彼らは与えられた命令に忠実に従うしかない。

 それが、敵からも味方からも銃口を向けられる道を選んだ、彼らが唯一生きる為の道なのだ。

 

(理不尽に死ぬのは、俺一人でいい……)

 

 それでも、フェデリコ中佐は、せめて部下だけは日の光は浴びれずとも生き続けてほしいと、胸の内で密かに願うと。

 その為に、自身を犠牲にする事も厭わないと、心に誓うのであった。

 

「隊長、何とかいけそうです!」

 

「よぉし、お前ら、出撃するぞ!」

 

 椅子から立ち上がり発せられたフェデリコ中の号令と共に、隊員達の手により偽装網が外され、機体に火が灯る。

 鋼鉄のハゲワシ達が、次なる獲物に群がる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 それは、遡る事数時間前。

 ランドニーは、最早何度目ともなるも、未だに緊張が抜けないマ・クベ中将の執務室にいた。

 部屋の主、マ・クベ中将は、いつもの如く淡々とした様子で彼に命令を伝える。

 

「中佐も知っての通り、連邦軍はヨーロッパの各地に戦力を集結しつつある。それに連動し、背後となる中央アジア方面でも、連邦軍の不穏な動きが確認されている」

 

「は!」

 

彼奴(きゃつら)の目標が、このオデッサである事は疑いようもない。……勿論、それを迎え撃つ為の準備を怠っている訳ではない」

 

「それは承知しております」

 

「だが、その準備も、実行する兵たちが実直に行うからこそ機能する。違うかね?」

 

「その通りです」

 

「では、もし実行する兵たちに疑念が生まれ、機能しなくなれば。……賢明な中佐ならば、言わずとも分かるだろう?」

 

「は!」

 

「では命令だ。現在、東ヨーロッパ地域において、連邦軍の特殊部隊と思しき部隊の襲撃が確認された。襲撃はこれまでに二度、被害は何れも後方に設けた物資集積所だ。しかも、その特殊部隊は、あろうことか我がジオン軍のモビルスーツを用いている。現在は情報統制を敷いて前線の将兵達の耳には入っていないが。このまま被害が拡大すれば……」

 

「ヨーロッパ戦線は瞬く間に混乱し、連邦に容易く蹂躙される。ですか?」

 

「その通りだ、中佐」

 

 そこでマ・クベ中将は執務机の上に置かれたティーカップを手に取ると、中に入った琥珀色の液体を、口の中に運んだ。

 こうして喉を潤すと、マ・クベ中将は再び語り始める。

 

「そこで、貴官の指揮する第046独立部隊には、次に彼奴(きゃつら)が襲撃すると思われる第4253物資集積所の警備を願いたい」

 

「失礼ですが、その第4253物資集積所が次のターゲットであるという根拠は?」

 

「襲撃された物資集積所には、ドムの予備部品などが保管されていた。そして、下手人である連邦軍の特殊部隊は、ドムを使用している事が確認されている。……ここまで言えば、納得するかね?」

 

「は! ありがとうございます!」

 

「勿論、他の物資集積所にも警備の強化は通達しているが。現状では、貴隊が警備を担当する第4253物資集積所が襲われる可能性が極めて高い」

 

「第046独立部隊! 第4253物資集積所の警備の任、拝命いたします!」

 

「よろしく頼むよ、中佐」

 

 こうしたやり取りが行われたのが、数時間前の事。

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 第046独立部隊は、第4253物資集積所の警備にあたっていた。

 

 旧ベラルーシの東側、主要地域を結ぶ幹線道路から少し離れた場所。

 周囲を田畑や草原等で囲まれたその場所にある、戦火により住民が疎開し、無人となった小さな村を利用して設けられた第4253物資集積所。

 

 警備対象でもある物資を満載したコンテナ等が並ぶ一角のすぐ近くに、二梃のギャロップが鎮座していた。

 

「司令、現在の所、第4253物資集積所に接近する反応はありません」

 

「了解ー」

 

 艦橋乗組員からの報告に、ランドニーは退屈そうに答えた。

 と言うのも、警備を開始して既に数十分。

 今の所、特に問題も起きずに過ごせている。

 

 連邦軍の特殊部隊の襲撃に備え、空中で待機している二機のルッグンからも、更に地上の早期警戒役として、愛機と共に周辺の歩哨を行っているロッシュと沙亜の二人からも。

 特に急を告げる連絡はない。

 

 周囲を起伏も殆どない平坦な土地に囲まれている第4253物資集積所の警備の為、ランドニーは二段構えの警戒態勢を敷いていた。

 連邦軍の特殊部隊は鹵獲したドムを利用している。起伏の激しい場所ならば、ドムの加速性能も生かしきれないが、平坦な場所となると、まさに水を得た魚だ。

 その為、上空のルッグンによる探知と共に、早期に察知した情報をもとに、歩哨の二人が前衛として接近して来る連邦軍の特殊部隊を足止めし、第4253物資集積所に待機している本隊が迎撃に動き出すまでの時間を稼ぐ。

 

 この二段構えの警戒態勢で挑んでいたが。

 いざ始まってみれば、怪しい部隊どころか、友軍部隊すらもやって来ず、ランドニーはギャロップ艦橋の司令席で、暇を持て余していた。

 

「はぁ……、相手がドム三機だからって気合れて挑んでみりゃ。何だよ、全然来ねぇじゃねぇか」

 

 推測は予知ではない。

 あくまで、それまでの情報を整合し、次に第4253物資集積所が襲われる可能性が高いと結論を出しただけで、百パーセント第4253物資集積所が襲われると決まった訳ではない。

 

 しかし、事前に意気込んで臨んだ分、実際には何も起きないと。

 その落差の大きさが起因して、やる気が損なわれてしまう。

 今のランドニーの様に。

 

「あー、早く出てきてくれねぇかな~」

 

「あはは、そんな事言ってると、本当に出てくるよ」

 

「あー、そういや前にもそんな事があったな」

 

 そんなやる気の損なったランドニーの様子に、ユーリアンは苦笑いを浮かべながら、暇つぶしになればと声をかける。

 

「でもまさか、そう何度も同じことが……」

 

「司令! ルッグン二号機より、北西方向より接近する反応を捉えたとの報告です!」

 

 だが、次の瞬間、ランドニーの言わんとしていた事が、現実味を増した。

 

「数は!? それと、IFF(敵味方識別装置)の反応は!?」

 

「機数は三、解析の結果、使用機種はドムと判明。IFF(敵味方識別装置)は味方を示しています」

 

 艦橋乗組員からの報告内容に、一瞬にしてランドニーの表情が緊張で強張る。

 接近してきた部隊は、事前に提示された連邦軍の特殊部隊の構成と合致している。

 

 しかし、まだ結論付けるには早い。

 もしかしたら、ドム三機で構成された本物の友軍部隊と言う可能性も、まだ残されているからだ。

 

「接近する部隊に一番近いのは?」

 

「ロッシュ兵長です」

 

「よし。直ちにロッシュに連絡!」

 

 その為、ランドニーは接近中の部隊に最も近いロッシュを、部隊に接触させる事にした。

 

「という訳で、接触して相手の素性を探って来てくれ」

 

「了解」

 

「他の皆も、警戒は続けてくれ」

 

 艦橋のモニターに、誘導に従って第4253物資集積所から離れていくロッシュの陸戦型ザクIIが映し出される中。

 現場の空気は、一気に緊張の度合いを増していった。

 

 

 

 

 

 

「すいません、そこで止まってください」

 

 ロッシュの呼びかけに、接近中の三機のドムは素直に従い、ロッシュの陸戦型ザクIIの前に、まさに重戦車の如く見た目の巨体を立ち止まらせた。

 

「おいおい、何だ、今日は随分と警備が厳重だな?」

 

「ちょっと、訳がありまして」

 

 三角形を構成する三機の中、先頭を務めるドムのパイロットと思しき男性の疑問に、ロッシュは答える。

 

「ほぉーそうかい。……所で、弾薬の補給を受けたいんだが? こいつの弾、あるか?」

 

 すると、ドムのパイロットは、右手に持っていたMMP-80を指して、同銃の弾薬があるかと尋ねてきた。

 

「あの、僕では分かりかねますので、直ぐに駐在の武器科員に確認してみますから、少し待ってくださいますか?」

 

「……そりゃ、すまねぇな」

 

 と、ロッシュがMMP-80の弾薬が第4253物資集積所に保管されているかどうかの確認を行い始めたと同じ頃。

 ロッシュ達とは、第4253物資集積所を挟んで反対側に位置していたザク・アライヴのコクピット内で、沙亜は胸騒ぎを覚えていた。

 

 そして、ふと何かを感じ取ると、彼女は操縦桿を操り、ロッシュ達の方へとザク・アライヴを駆け出す。

 

「ロッシュ! そいつらは敵だ! 早く離れろ!」

 

 そして、ロッシュに対し怒鳴るように警告を発すると。

 突然の警告に困惑するロッシュをはじめ、他の面々を他所に。

 ザク・アライヴを最短距離で向かうべく、大地を蹴り勢いをつけると、第4253物資集積所を飛び越えるかのようにバーニアを噴かせる。

 

「──ち! バレちゃ、しょうがねぇ」

 

 一方、困惑するロッシュを他所に、ドムのパイロットは何やら意味深な言葉を発すると。

 

「ならここから先は、言葉は不要……、だな」

 

 刹那、右手に持っていたMMP-80の銃口が、ロッシュの陸戦型ザクIIに向けられる。

 そして、次の瞬間。

 

「!!」

 

 躊躇いなくトリガーを引くと、放たれた九〇ミリ弾の雨が無防備なロッシュの陸戦型ザクIIに襲い掛かった。

 至近距離から放たれた九〇ミリ弾の雨を叩きつけられたロッシュの陸戦型ザクIIは、程なく、その巨体を大地に倒し、その後起き上がる事はなかった。

 

「くっ!!」

 

 ロッシュが撃破された様子を天高くから確認した沙亜は、悲しみに浸る間もなく、照準を合わせると、ザク・アライヴの背部に装備した二基の五連装ロケットランチャーを発射した。

 

「くるぞ! 散開!!」

 

 放たれたロケット弾は、爆音と共に着弾地点に炎と土煙を巻き上げるも、三機のドムを巻き込むことは叶わなかった。

 爆発を背に、三機のドムは各々の方向へと散り、各々攻撃を開始した。

 

「げ、迎撃! 迎撃開始!!」

 

 そして、ここに至り、ランドニーの指示により本隊が迎撃に動き出す。

 

 

 

「ミッチェル! フランシス! 俺達が敵の目を引き付ける、お前らは大回りで回り込んで物資集積所を襲え!」

 

 MMP-80の発砲音に負けぬ程の大声で、フェデリコ中佐は後方で待機していた二輌の61式戦車に対し指示を飛ばす。

 文字通り、地面を滑る様に走るドムの機動性を生かし、迫る火線を躱しつつ、まずは戦車の天敵である、先ほど第4253物資集積所から発進した戦闘ヘリを叩き落とす。

 

「ボロゴロフ! ペンター! 敵の目を引き付けつつ、引っ掻き回すぞ!」

 

「了解!」

 

「イエッサー!」

 

 部下からの威勢のいい返事を聞きつつ、フェデリコ中佐は彼我の戦闘距離を見極めながら、MMP-80の有効射程ギリギリで戦う。

 

「ほぉ、威勢のいいのは結構だな」

 

 すると、フェデリコ中佐のドム目掛けて向かってくる一機の黒いモビルスーツ。

 グフ・インフェルノの姿を、ドムのモノアイが捉えた。

 

「成程。蛮勇ではないか!!」

 

 自身に放たれる火線を、巧みなステップで回避し、間合いを詰めるグフ・インフェルノ。

 その姿を目にしたフェデリコ中佐は、不意に口角を吊り上げると、グフ・インフェルノとの対峙を始めた。

 

「隊長! 援護に……、ぬっ!?」

 

「させるか!」

 

 フェデリコ中佐のドムに迫るグフ・インフェルノの姿を確認したペンターは、自身のドムを向かわせようとするも。

 そんな彼のドムの行く手を、一二〇ミリ弾の火線が遮る。

 

 火線の出所にモノアイを向けると、そこにはザク・アライヴの姿があった。

 

「隊長! ペンター! ……! こっちもか!」

 

 最後の一人、ボロゴロフのドムの周囲にも、土煙が巻き上げられる。

 それは、メノのザクキャノンの一八〇ミリキャノン砲による曲射であった。

 

「っ! えぇい、厄介な!」

 

 更に、続けてコクピット内に振動が伝わる。

 機体状況を確認すると、どうやら左肩のアーマーを撃たれたようだ。

 ただ、幸い飛来した弾丸は弾かれたようで、致命弾とはならなかった。

 

 それでも、ボロゴロフに足を止めれば殺られると刻み込むには十分な効果であった。

 

「っち、早いな、おい……」

 

 そんな弾丸を放った下手人。

 ギャロップの上でMS用対艦ライフルを構えたザクIIF型を操るシモンは、コクピット内で恨めしそうに独り言ちた。

 

「おいランドニー! ビターチームの援護はどうしたんだよ!?」

 

「ビターチームは新たに確認された61式戦車の対処に向かわせた! 悪いが、あのドムはお前とメノで対処してくれ!」

 

「あのな! 幾ら二機でも俺達後衛なんだぞ!」

 

 ランドニーの割り当ては、ユーリアンと沙亜が一機ずつ、そしてシモンとメノで残りの一機を対処するというもの。

 曰く、後衛二人でも前衛一人に対してはトントンとの事。

 

「ま、他の二人が片付け終えるまで足止めするだけでもいいが。お前なら撃破してくれると信じてるぞ、シモン」

 

「はぁ、そう言われちゃ、やってやるっきゃねぇよな!」

 

「撃つよ!」

 

「おうよ!」

 

 初めこそ不満を漏らしていたシモンであったが、ランドニーからの鼓舞激励を受け、俄然やる気になるのであった。

 

 そんなシモンとメノの二人と対峙するボロゴロフのドム。

 周囲に爆音と共に立ち上る黒煙を避け、舞い上げられた土が装甲を叩く中、未だ戦闘を継続していた。

 

 ドムの機動性と、その装甲をもって、至近弾や多少の被弾を物ともせずに戦い続けていたが。

 

「っ!? 何だ!!」

 

 不意に、コクピット内を振動が襲った。

 そして、不意に機体のバランスが崩れ始めたので、慌ててバランスを保つべく操縦桿を引っ張る。

 

 ふと、機体状況を確認すれば、そこには右脚部の熱核ジェットエンジンの異常を知らせる表示が出ていた。

 

「くそ! こんな時に!!」

 

 急にそれまでの挙動と異なる動きを見せ始め、やがて進行上の木々をなぎ倒していくボロゴロフのドム。

 その様子を見ていたシモンとメノの二人は、このチャンスを見逃すはずはなかった。

 

 木々をなぎ倒した直後の硬直時を狙い、ザクキャノンの一八〇ミリキャノン砲が火を噴く。

 放物線を描き、飛来した一八〇ミリ榴弾は、見事にボロゴロフのドムの右脚を吹き飛ばした。

 

 そして、右脚を吹き飛ばされた衝撃で倒れ込んだ所を、シモンの放った鋭い一撃が襲う。

 

 

「ボロゴロフ! くそ」

 

 仲間の機体反応が消えた事を横目で確認したペンターは、この湧き上がる怒りを九〇ミリ弾にのせて、目の前の赤い巨人にぶつけるべく、装備したMMP-80を発砲した。

 しかし、放たれた九〇ミリ弾は、シールドの役割も果たす肩の増加装甲に弾かれる。

 

 そして、お返しに、一二〇ミリ弾の雨が飛来する。

 

 だが、ペンターのドムは飛来した一二〇ミリ弾の雨を軽々と躱してみせた。

 

(やはり一二〇ミリの弾速では、ドム相手に分が悪いか……)

 

 対峙するペンターのドムの機動を目にし、沙亜は心の中で独り言ちる。

 機動性の高いドム相手に一二〇ミリの弾速は遅く、またドムが重装甲という事もあり、当たってもなかなか致命傷にならない。

 

 ビームライフルのような、弾速も早く威力も高い火器なら、ドム相手でも容易く戦えるだろうが。

 生憎と、ザク・アライヴにビーム兵器は搭載していない。

 

(このままでは押し込まれる。何とか、相手の動きを止めるか、一瞬で高火力を叩き込む他ないが……)

 

 互いに決定打を与えられず撃ち合う中、沙亜は状況を打開する打開策を考えていると。

 不意に、シモンから通信が入る。

 

「こちらシモン、今から援護する。……合図と共に飛べるか?」

 

「ふ、無論だ」

 

 シモンの通信から、彼の意図を汲み取った沙亜は、一瞬、不敵な笑みを浮かべた。

 そして、相手に悟られぬよう、互いに行動を開始する。

 

「これでどうだ!」

 

「っ! なろう!!」

 

 偏差射撃により放たれた一二〇ミリ弾は、ペンターのドムが装備していたMMP-80に命中し、同銃を使用不能にする。

 刹那、ペンターのドムはすぐさまバックパックに装備した、グフタイプとは異なる棒状のヒート・サーベルを抜き、持ち替えると。

 白熱化した刀身でザク・アライヴを溶断すべく、ザク・アライヴ目掛けて突撃した。

 

 一方、ザク・アライヴは回避する素振りを見せず、空いた手でヒートホークを抜き構えると、迎え撃つ素振りを見せていた。

 だが、その一方で、ザク・アライヴのコクピット内ではカウントダウンが始まっていた。

 

 程なく、ヒート・サーベルの有効範囲まであと一歩にまで迫ろうとした所で、ザク・アライヴに新たな動きが現れる。

 

「今だ、飛べ!」

 

「何!?」

 

 不意に、バーニアを噴かせ天高く跳躍したザク・アライヴ。

 その突然の行動に、ペンターはザク・アライヴの姿を目で追ってしまう。

 

 その時、自身のいるコクピット目掛け、レティクルの中心が合わせられているとは気づかずに。

 

 ──刹那。

 空気を切り裂く発砲音と共に、空を切り裂き飛来した一三五ミリ弾は、吸い込まれる様にペンターのドムのコクピットに着弾した。

 

 そして、着弾によりすっ転んだドムと言う名の巨大な鉄塊は、地鳴りを響かせ、その巨体を地に倒した。

 

 

 

 

「ミッチェル、フランシス、ボロゴロフ、ペンター……。っち、全員先に行っちまいやがった!」

 

 部下の反応が全て消え、もはや、残っているのは自身の操るドムの反応のみ。

 最後の一人となった状況下で、フェデリコ中佐は、悔しさを滲ませた声で独り言ちた。

 

「だが安心しろ。お前らだけで地獄には行かせねぇ。……こいつも、道連れにしてやるよ」

 

 そして、睨んだモニターに映し出されているのは、距離を置き対峙するグフ・インフェルノ。

 その姿は、既にここまでの戦闘で、幾つかの被弾跡が見られる。

 もっとも、フェデリコ中佐のドムも、左肩の装甲が吹き飛んでいる他、既に各所に被弾跡を残しており。

 両機とも、激しい戦闘で損傷している事が分かる。

 

「てめぇなんざ……、これ一本ば十分だぁ!!」

 

 戦闘中に捨てたと思しきMMP-80に代わり、右手にヒート・サーベルを構えたフェデリコ中佐のドムは。

 彼の叫びと共に、その鈍重な巨体を一気に加速させ、対峙するグフ・インフェルノ目掛けて突っ込む。

 

 一方、グフ・インフェルノも、MMP-80こそ失っていたが、まだ二連装七五ミリガトリング砲は使用可能であった。

 

 モーター音と共に、二連装七五ミリガトリング砲が唸りを上げ、七五ミリ弾を撃ち出し始める。

 だが、フェデリコ中佐のドムは、そんな弾幕を避ける素振りも見せず、被弾覚悟で突っ込み続ける。

 

「っ!?」

 

 七五ミリ弾の弾幕を受けながら突っ込むフェデリコ中佐のドムは、やがて、腹部に設けた拡散ビーム砲を放った。

 本来、ビーム兵器用の経路として用意されていたが、十分な出力が得られず。結果、目くらまし等に用いる短距離用ビーム砲として運用されていた。

 

 そして、その拡散ビーム砲による光は、この時、ユーリアンの視界を確実に奪った。

 

「もらったーぁ!!」

 

 その瞬間、操縦桿のトリガーにかけていた指から力が抜け、七五ミリ弾の弾幕が一瞬途切れた瞬間を狙い、フェデリコ中佐のドムは、白熱化したヒート・サーベルを振るおうとした。

 だが、その時。

 

「っちぃ!!」

 

 そんな白熱化したヒート・サーベル目掛け、一発の一三五ミリ弾が飛来する。

 その弾道の先が自機唯一の武装たるヒート・サーベルだと、直感的に気付いたのか。

 一三五ミリ弾の直撃を避けるべく、寸での所で振り下ろした右腕を止めるや、一旦仕切り直すべく、そのまま直進し距離をとるフェデリコ中佐のドム。

 

「悪運の強いやろうだ……」

 

 旋回し、再びグフ・インフェルノと対峙するフェデリコ中佐のドム。

 一方、目くらましから立ち直り、再び対峙すべくフェデリコ中佐のドムの方へと正面を向けたグフ・インフェルノは、ガトリング・シールドからヒート・サーベルを抜き、右手に構えると、二連装七五ミリガトリング砲をパージした。

 

「面白い、一騎打ちか……」

 

 次の一撃で勝敗が決まる。

 互いにヒート・サーベルを構え、その瞬間を待つ、二体の巨人。

 

 他の者達も、何かを感じ取ってか、手出しをする気配はなく、行方を見守っている。

 

 それから一体どれ程の時間が流れたか。

 実際には大して経っていないだろうが、気付けば、周囲の緑を、夕焼けが徐々に染め始めていた。

 

「いくぞぉ!!」

 

「!」

 

 刹那、フェデリコ中佐のドムがその巨体を加速させる。

 それにつられる様に、グフ・インフェルノも駆け出し始める。

 

 急激に間合いを詰める二体の巨人。

 

 そして、程なく、互いの剣身が届く間合いにまで両機は間合いを詰めた。

 

「うぉぉぉっ!!」

 

「おおおっ!!」

 

 互いの雄叫びが鳴り響き、互いにヒート・サーベルを振るい斬撃を繰り出す。

 斜め上から斬り下げられるドムのヒート・サーベル。

 斜め下から斬り上げられるグフ・インフェルノのヒート・サーベル。

 

 

 一撃が終わり、夕焼けに染まる大地の中、互いに背を向け合う二体の巨人。

 一体どちらが勝者なのか。

 見守る誰もが、息をのんだ、その時。

 

 一筋の風が、二体の巨人の間を吹き抜けた。

 

「成程……、にせ、ものは……、俺の、方、か」

 

 刹那、まるでこと切れたように、フェデリコ中佐のドムは膝をつき。

 そして、その後再び動き出す事はなかった。

 

 

 一方、勝者たるグフ・インフェルノは。

 ゆっくりと振り返ると、その赤く光るモノアイが、暫し、フェデリコ中佐のドムを見つめた。

 

 それはまるで、生き残った者の権利と義務であるかのように。




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