機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第三十四話 回るモノアイから、熱い視線が突き刺さる

 次の試合に備えて、会場内の整備作業が行われる。

 その間、観客達はトイレを済ませたり小腹を満たしたりと、次の試合に備えて各々英気を養っていく。

 

「いや~、それにしても凄かったな、あのグフ複合試験型の改造機。パフォーマンス性もあって実力もある、あれは名うてだな、うんうん」

 

 そんなインターバルを利用して、手続きを済ませ、観戦していた四人と合流したランドニーとユーリアン。

 再び全員揃った一行は、バトリング・アリーナ内の一角に設けられているグルメスペースで、雑談しながら時間を潰していた。

 

「と言うか、ランドニー。お前試合見てたのか?」

 

「あぁ、受付の所に試合の様子を映し出しているモニターがあったから、それで見てた」

 

「僕としては……、その前の試合の、選手が気になります」

 

「おー、あのザクでボクシングしてた奴らな。確かに、あいつらと宇宙世紀のガンダムファイター、ククルス・ドアンとはどっちが強いんだろうな」

 

「それは夢の対決だね」

 

 円形テーブルを囲みながら話に花を咲かせる面々。

 その一方、女性陣は、真剣な表情でテーブルに置かれたある物を凝視していた。

 

「うぅ、恨めしい。実際に味わえず、雰囲気だけなんて」

 

「全くだ」

 

 そして、ぽつりと、恨み節を零す。

 

 二人が恨み節を零した理由、それは、彼女たちの目の前に置かれた、とある料理が原因であった。

 お皿に綺麗に盛り付けられたその料理は、ただの料理ではなかった。

 

 それは、モビルスーツを模したもので、所謂キャラクター料理と呼ばれるものであった。

 

 因みに二人の注文した料理は。

 メノが、モビルポッドのオッゴを模した、ベリー等でセンサー類を表現した切り株ケーキで。

 沙亜は、シャア専用ザクIIの頭部を模した、イチゴのケーキである。

 

 なお、この他メニューには。

 ノーマルザクIIの頭部を模した抹茶味のケーキに、アッグガイの頭部を模した、レモンジュレがアクセントのクロワッサン。

 アプサラスをイメージした大福に、メロンとイチゴでザクIIをイメージしたゼリー等々。

 

 勿論、デザートのみならず。

 ザクレロをイメージしたオムライスに、アッザムをイメージした特注タジン鍋の野菜蒸しなどもあり。

 見た目にも楽しいものが充実している。

 

 なお、ザクIIをイメージしたゼリーには、角付きの他、シークレットとして、レモン味のゼリーに食紅で"百"と書かれたものも存在している。

 

 

 そんな見た目に楽しい料理の数々だが。

 残念ながら、俺の野望内で出てくるそれらの料理は実際に食すことは出来ず、単に雰囲気を味わえるだけ。

 故に、二人は恨み節を零していたのである。

 

「あー、そういえば」

 

 と、そんな恨み節を呟きながらも、フォークで小分けにして口に運んでいく、そんな二人の様子を見ていたランドニーが。

 不意に、何かを思い出したかのように語り始めた。

 

「俺の野望内で出てくる料理を実際に食べる事の出来るコラボ企画があって、確か、近々提供開始って、何処かで見た様な……」

 

「ランドニー君! それ本当!?」

 

「で、何処の店で提供されるんだ?」

 

 刹那、メノと沙亜の顔がランドニーに迫る。

 二人の顔から放たれる威圧感に若干腰が引けながらも、ランドニーは急いで自身の記憶の中から該当するものを探し出す。

 

「え、えっと……確か、全国チェーンのカフェで……。名前は……」

 

 そして、何とか店の名前を記憶の海から捻り出し、二人に伝える。

 

「そのお店なら、大学の最寄り駅の駅前にも確かあったよね!」

 

「よし、では期間を確かめて行くとしよう」

 

 ランドニーからコラボ企画を実施する店の名前を聞き出した二人は、目を輝かせ、企画の開始日を待ち望むのであった。

 

 こうしてランドニーも、女性陣二人の威圧感から解放されたその時。

 不意に、試合出場選手の招集を呼びかけるアナウンスが流れ始める。

 

「っと、ユーリアン、お呼びだ」

 

「分かった、それじゃ、いってくる」

 

 アナウンスに応じて、ユーリアンは立ち上がると、準備を行うべく移動を始める。

 

「頑張れよ」

 

「頑張って、ください」

 

「頑張ってねー!」

 

「頼んだぞ」

 

「ユーリアン、あ、あの、気を付けて、な」

 

「うん、ありがとう」

 

 皆からの声援に笑顔で応えると、ユーリアンはその場を後にした。

 

「さてと、それじゃ俺達も観戦する為に、移動しますか」

 

「って言っても、また立ち見だろ?」

 

「ふふふ、所が、今回は違うんだな~」

 

 シモンの言葉に、ランドニーは意味深な言葉を返す。

 

「何だよ、それ?」

 

「実は今回は、関係者って事で、VIPルームで観戦できちゃうんだなぁ、これが!」

 

 得意そうな顔つきで、VIPルームの入室に必要な入室パスを見せびらかすランドニー。

 その顔に、若干シモンは苛立ちながらも、VIPルームに案内すべく先導するランドニーの後に付いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 着替えの為に、出場選手用にあてがわれたロッカールームでパイロットスーツへと着替えたユーリアンは、ヘルメットを小脇に抱えると、ロッカールームを後にする。

 そして、試合で使用する相棒が運び込まれている格納庫へと向かうべく、通路を歩いていた。

 

 他の選手の姿もなく、一人静かに通路を歩くユーリアン。

 すると、不意に進行方向の先に、人影を一つ見つける。

 

「よ!」

 

 その人影の正体は、誰であろうランドニーであった。

 

「あれ? 観戦するのにVIPルームに行ったんじゃ?」

 

「あぁ、まだ始まるまで少し時間があるからな。お前が試合前で緊張してると思って、気を紛らわしてやろうと思ってな」

 

「それはありがとう」

 

 壁にもたれかかり、気さくに声をかけたランドニー。

 それに応えるように、ユーリアンも彼に近づくと、その歩みを止めた。

 

「にしても、このバトリング・アリーナの雰囲気、思い出すよな……。お前と俺とを引き合わせてくれた、あのゲームの雰囲気にさ」

 

「はは、そうかもね」

 

「それにしても、今思えば、初めて会った時より、大分丸くなったよな、お前」

 

「そうかな? そういうランドニーは、初めて会った時とあまり変わってないかも」

 

「ははは、そういやそうだな」

 

 二人の笑い声が、通路に木霊する。

 そんな二人の声をかき消すかのように、再度、選手の招集を告げるアナウンスが流れる。

 

「っと、流石にこれ以上話し込むと遅刻させちまうな。じゃ、俺はVIPルームに戻るわ」

 

「ありがとう、ランドニー。お陰で少し緊張が取れたよ」

 

「そりゃよかった」

 

 そして、別れ際。

 不意にランドニーは、ユーリアンに対して自身の手のひらを自身の頭よりも高く掲げた。

 

 その意味する所を瞬時に理解したユーリアンは、自身の手のひらを、掲げたランドニーの手のひら目掛けて叩いた。

 

「頑張れよ、相棒」

 

「了解」

 

 互いに背を向け、歩き出す二人。

 その表情には、互いを信頼した証のようなものが、滲み出ていた。

 

 

 

 ランドニーの激励を受けユーリアンは、通路の先にある巨大な空間へと足を踏み入れた。

 そこは、機械音や整備士達の怒号が飛び交う、格納庫であった。

 

「選手の皆さんは搭乗してください! 搭乗後は、誘導に従って移動を開始してください!!」

 

 雑音に負けぬ大声で誘導を行うスタッフの指示に従い、ユーリアンはヘルメットを被ると、自身の搭乗する機体のもとへと駆けていく。

 そして、足を運んだ先のハンガーに固定されていたのは、黒い機体。

 だが、それはグフ・インフェルノではなかった。

 

 巨大な四本脚に火器を満載したその巨体は、黒く塗装されたゾック・アーセナルであった。

 

 ゾック・アーセナルへと搭乗したユーリアンは、誘導に従い、その巨体を会場に向けて移動させていく。

 

 

 

 

 一方、VIPルームに戻ったランドニーは、占領される心配のない、一般座席よりも上質でゆったり広々な座席に腰を下ろした。

 

「所でランドニー」

 

「ん? 何だ?」

 

 すると、座席に腰を下ろした途端、沙亜が質問を投げかけてきた。

 

「ユーリアンの対戦相手は、如何程のプレイヤーなのだ?」

 

「あぁ、それな。いや、実はさ、今回ユーリアンの出る試合、一対一のタイマンじゃないんだよ」

 

「どういう事だ?」

 

「それが、俺達みたいな初めての奴らじゃ、名うてのプレイヤーに挑戦する権利はないって言われてさ。挑戦したきゃ、バトリング・アリーナである程度戦績を残さなきゃならないんだと」

 

 肩を竦めながら、ランドニーは上位クラスの選手との挑戦権を手に入れるのは、バトリング・アリーナで一定の対戦戦績を稼がなければならないと語った。

 

「では、下位の相手か?」

 

「いやそれが、俺達みたいなぽっと出でも、上位の奴と戦えて、しかも、一度の試合で大金を手に入れられる試合形式を見つけたんだよ! で、ユーリアンはその試合に出る事になった」

 

「その試合とは?」

 

「リアルバトル・バトルロワイヤル。ルールは簡単、自分以外の全員を倒して、最後まで生き残れば勝ち。そうすれば、参加者全員の参加料を総取りできるのさ。どうだ、いい試合だろ?」

 

「成程、それでタイマンではない、か」

 

「ま、肝心なのは参加者がどれだけ集まるかって事だが……、その点は、ちゃんと抜かりなく対策しといたから、多分十分すぎるぐらい集まるだろ」

 

「その対策とは何だ?」

 

「あぁ、呼び込み効果も兼ねて、ユーリアンには今回、ゾック・アーセナルで出場してもらった。……ちょっとした話題になってる黒海の怪物が相手とあっちゃ、ここ(バトリング・アリーナ)の連中は座視するはずないからな」

 

 不敵な笑みを浮かべるランドニーを他所に、選手入場を告げるアナウンスが流れ。

 程なく、遮蔽物や障害物となる壁などが整備された試合会場に、入場ゲートから続々とモビルスーツが入場してくる。

 

「ひー、ふー、みー……。くくく、二十、いや三十近くか。十機位と予想してたが、まさか三倍近くも集まるとは」

 

 そして、その数を数えるランドニーの口角が、数を数えるにしたがってどんどん上がり。

 やがて、数え終える頃には、白い歯が見えてしまう程にランドニーの表情は破願していた。

 

 一方、最後に入場したモビルスーツの姿に、VIPルーム内にいた他の観客の間からは、ざわめきが沸き起こる。

 その正体は、言わずもがな、ゾック・アーセナルだ。

 おそらくVIPルーム内でも沸き起こっているのだから、一般座席の方でも、更なるざわめきが沸き起こっているだろう。

 

「選手の入場が完了いたしました! さぁ、果たして! この中から、最後までこのステージに経ち続けられる、今回のリアルバトル・バトルロワイヤルの勝者は誰なのかぁーっ! 間もなく、試合開始のゴングです!」

 

 だが、そんなざわめきも、実況者の実況と共に試合開始が迫る中で盛り上がる熱気の中で、次第に消えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 観客達の熱気が高まる中、実際に試合を戦う選手たちも。

 各々のコクピット内で、高揚感を感じていた。

 

「よぉ、そこのデカいの。見た所、ゾックの改造機らしいが、お前、新顔だろ? は、まさか新顔のくせに、そんな機体で勝負する気とは。なめられたものだ」

 

 その高揚感を抑えられずに、両手にザク・バズーカを持ち、脚部に三連装ミサイルポッドを装備した陸戦型ザクIIのパイロットのように、言葉にする者もいれば。

 

「……」

 

 陸戦型ザクIIのパイロットの挑発的な言葉を受けても、微動だにせず、静かに試合開始のゴングを待つユーリアンの様な者もいた。

 

「ふん、モアーの奴、相変わらずだな」

 

「そうだね、兄さん」

 

 一方、各々の定位置で試合開始のゴングを待つ選手達の中。

 ユーリアンを挑発した陸戦型ザクIIのパイロット、モアーと呼ばれた選手の様子を見て、隣り合う二機のグフタイプのモビルスーツのパイロットは、モアーの行動を憐れむかのような感想を零した。

 

「しかし、あの新顔の乗るモビルスーツ。確か黒海の怪物と呼ばれ噂になったものだったか、確か、あのDr.Fが作ったと言われている」

 

「名前は、ゾック・アーセナル。だったね、兄さん」

 

「そう、その名だ。……そして、その機体をパーソナルカラーの黒に染めてくるとは。なかなか、優秀なプロデューサーが付いているようだな」

 

「鴉は賢い動物だからね。それを飼う程なら、飼い主も相当賢いんだろうね」

 

「ふふふ、だろうな。……いずれにせよ、これだけ演出してくれたんだ、その礼は、きっちりと返さないと、なぁ、オルノスよ」

 

「そうだね、ジャギュア兄さん」

 

 示し合わせたかのように不敵な笑みを浮かべる両者。

 その会話からして、二人は兄弟なのだろう。

 

 ジャギュアと呼ばれた兄の方は、グフを基に、機動性を維持しつつ火力向上を図った改修機。

 バックパックの側面に一二〇ミリ口径のロングバレルガトリング砲を装備し、左腕の七五ミリ五連装フィンガーバルカンを、四種のそれぞれ異なる火器で構成された大型ガンパックに換装。

 勿論、これら火力向上の為の装備追加による機動力低下を抑える為、機体構造の再設計による脚部のスラスター増設により、基となったグフと同等の機動性の確保に成功している。

 その機体の名は、形式番号MS-07G-2、グフ戦術強攻型と呼ばれるモビルスーツである。

 

 一方、オルノスと呼ばれた弟の方は。

 グフ戦術強攻型の兄弟機とも呼ばれる、形式番号MS-07G-1、グフ・ヴィジャンタと呼ばれるモビルスーツに搭乗していた。

 同機は、機動力向上を重点に置いて改修された機体で、その武装は、右腕のシザー・ワイヤーや左腕の独立ユニットに内臓されたマインズ・ロッドや、先端に爆薬を仕込んだリムーヴァル・メイスと呼ばれる特殊棍棒等々。近接戦闘用の特殊な装備を搭載している。

 これは、兄弟機であるグフ戦術強攻型と二機一組で作戦行動することを前提として開発されたからである。

 

 なお、この二種のG型と呼ばれるグフは、戦闘工兵の異名で呼ばれる事もある。

 

「でも兄さん、僕達二人で倒せるかな?」

 

「ふ、案ずるなオルノスよ。その点は考えてある」

 

 そんなG型に乗る兄弟は、ゾック・アーセナルを打倒すべく何やら策を弄し始める。

 

「聞こえるか、ザルドボック?」

 

「? 何の用だ、ジャギュア?」

 

 その為に必要な準備の為、ジャギュアは不意に、同じく試合に参加している選手に通信を入れる。

 

「一つ提案があるのだが。どうだ、あの新顔を倒す為に、一時的に共闘しないか?」

 

「共闘だと?」

 

「そうだ。新顔のくせにあそこまで観客の注目をかっさらい、尚且つ参加料まで総取りにされたとあっては、貴様とて癪だろう?」

 

「だからお前たちと共闘しろと?」

 

「そうだ。勿論、我々三人だけではあの怪物相手を相手にするには分が悪い。そこで、他の奴らにも共闘を呼び掛ける」

 

「それはつまり、新顔を俺達全員でリンチするっていうのか!?」

 

「まぁ、分かり易く言えばそうだ」

 

 ジャギュアの策。

 それは、ユーリアン以外の参加選手全員で共闘し、ゾック・アーセナルを打倒するというものであった。

 

「だが、それで奴を倒しても、勝者は一人のみだぞ」

 

「では、こういうのはどうだ。もし共闘してくれれば、その後この試合で私とオルノスのどちらかが勝者となった場合、協力してくれた礼として、一定の金額を支払おう。これでいかがかな?」

 

「……」

 

「出来れば返事は急いでほしい。では、私は他の選手に呼び掛けておくので、また改めて通信をした際は返事を聞かせてもらおう」

 

 そして、ジャギュアは他の参加選手にも声をかけ、ゾック・アーセナルを打倒すべく共闘を呼びかけていく。

 すると、他の参加選手からは、次々に共闘を確約する返事が返ってくる。

 

「さぁ、ザルドボック、改めて返事を聞かせてもらおうか?」

 

 そして、最後の一人となったザルドボックに、改めて返事を尋ねる。

 

「……、本当に、金は支払うんだよな」

 

「約束しよう」

 

「……いいだろう、共闘してやるよ。新顔にあそこまでされて、負けるわけにはいかないからな。この際、プライドは抜きだ」

 

 こうして、ジャギュアが仕掛けた、対ゾック・アーセナルの包囲網は完成した。

 

 そして、その発動を告げるカウントダウンが、会場内に響き渡る。

 

 スリー、ツー、ワン──。

 

「さぁ、ショータイムだ!」

 

 Ready GO! の掛け声と共に、試合開始を告げるゴングが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 ──メインシステム、戦闘モード、起動します。

 

 ゴングと同時に、三十機近いモビルスーツが、一斉にゾック・アーセナルに襲い掛かる。

 ある機体は砲口を向け、またある機体は手にした大型ヒートホークの刃の錆とすべく。

 その殺意を、たった一体のモビルスーツに向けて。

 

 だが、刹那。

 

「なんだ!?」

 

 一番槍となるべく最接近していた陸戦高機動型ザクのパイロットは、驚きと共に乗機の足を止めた。

 何故なら、ゾック・アーセナルの巨体が、ゾック・アーセナルの発煙弾発射機より散布された煙幕により隠れてしまったからだ。

 

「それで隠れたつもりかよ!」

 

 だが、直ぐに殺意をむき出しにすると、煙幕の中にいるゾック・アーセナル目掛け、陸戦高機動型ザクは足を動かし始めた。

 しかし、次の瞬間。

 

「な──」

 

 煙幕の向うで何かが光ったと思った次の瞬間には、陸戦高機動型ザクの上半身は、パイロットの意識共々、嵐の如く襲い来る七五ミリ弾の暴力に引き千切られるのであった。

 

「くそ、飛べ!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

「み、ミサイル!? ばか──」

 

「おい、マジかよ、夢ならさめ──」

 

 それを皮切りに、煙幕の中より、次々に放たれる破壊を告げる火線と音速の槍の数々。

 その圧倒的な弾幕を前に、一機、また一機と、モビルスーツが無残な残骸と化していく。

 

 開始前、あれ程余裕を持った挑発を行っていたモアーの陸戦型ザクIIも、飛来したミサイルの直撃により、轟音と共に無残にも巨大な炎の中に消えた。

 

「ははは! 成程、その名に違わぬ火力よ!! だが、吾輩の巨砲を受けても、まだ動いていられるかな!?」

 

 そんな光景を他所に。

 離れた場所で、見通しの良いコンテナの上に立ちながら、両手に持った巨砲、マゼラアタックの主砲をモビルスーツ用の武装とした火砲、マゼラ・トップ砲。

 その砲口を、煙幕に向けるザクIIF型。

 

「これで終い(しまい)だ。……ハラショォォォォォォォォォオッ!!!」

 

 パイロットの雄叫びと共に、マゼラ・トップ砲が火を噴く。

 放たれた一七五ミリの砲弾は、煙幕目掛け飛来し、煙幕を切り裂きながら目標目掛けて突き進む。

 

 だが、一七五ミリの砲弾は、煙幕を切り裂きその姿を垣間見せたゾック・アーセナルを、捉える事無く、最後は壁に着弾しその役割を終えた。

 

「ハラショォォォォォォォォォォォォオッッ!!!?」

 

 刹那、煙幕を切り裂く四つの光線が、コンテナ上のザクIIF型を襲った。

 そして、パイロットの断末魔と共に、爆発と言う最後の輝きを放ち、彼の試合は幕を閉じた。

 

「は、話が、違うっすよ……、全員でやれば、簡単だって、……やだ、死にたく──」

 

「イヤん!」

 

 煙幕を切り裂き、その姿を再び現したゾック・アーセナルは。

 その四本の脚部のハッチを開き収納した火器を放ちながら、その圧倒的な巨体に秘められた暴力と共に、会場内を文字通り蹂躙していく。

 

「たかがMS一機じゃないかぁっ!!?」

 

「ユージーン! 逃げて!」

 

「姉さん!?」

 

 その暴力から逃れようと身を隠した遮蔽物ごと、ゾック・アーセナルは容赦なく薙ぎ払っていく。

 

「よくも、よくも姉さんを……。死ねよ!!」

 

 そんな暴力の犠牲となった姉の敵討ちと、片腕となったグフがヒート・サーベルを手に弾幕を掻い潜り果敢に飛び掛かるも。

 無情にも、アイアン・ネイルにコクピットごと胴体部を貫かれ、敵討ちは達成できなかった。

 

 

 それから、程なくして。

 会場内に、静寂が訪れる。

 

「兄さん……」

 

「あぁ、どうやら、相手は私達の想像以上の化け物の様だ」

 

 だがそれは、ゾック・アーセナルの勝利を告げるものではなかった。

 あの暴力から辛くも生き残った、数機のモビルスーツを探し出すべく、ゾック・アーセナルが一時的に攻撃の手を止めたに過ぎない。

 

 巨体を動かし、その赤く光るモノアイを動かし、会場内に隠れている新たな獲物を探し求めるゾック・アーセナル。

 

「おい! ジャギュア! 貴様ぁっ!!」

 

「ん?」

 

 そんなゾック・アーセナルの暴力から身を隠している兄弟のもとに、左腕を損傷したドムが一機、近づいてくる。

 そのドムを操っていたのは、ザルドボックであった。

 

「貴様! なにが共闘すれば倒せるだ! 倒せるどころか、傷一つ付けられねぇじゃねぇか!」

 

「私は倒せるとは断言していない、倒せる確率を上げるために共闘を呼び掛けただけだ」

 

「だが、こっちは三十機近くもいたんだぞ! それがどうだ! こんなの事なら、貴様の呼びかけに乗るんじゃなかった!!」

 

「私の呼びかけに応じなくとも、結果は変わらんと思うが。……兎に角、先ずは落ち着く事だ」

 

「落ち着けだ!? 貴様! こんな状況で落ち着いてなどいられるか!」

 

「あまり喚き散らすと奴に見つかるぞ」

 

「だから!!」

 

 落ち着かせるつもりが、ジャギュアの言葉に逆に神経を逆撫でされ語気を強めるザルドボック。

 刹那、ゾック・アーセナルの巨体が動きを止めると、そのモノアイが、三人の隠れている方に向けられる。

 

「兄さん!?」

 

「だから言ったのだ」

 

 直ぐに物陰から逃げ出す兄弟、一方、ザルドボックのドムは反応が遅れてしまう。

 刹那、ゾック・アーセナルの上半身がザルドボックのドムが隠れている方へと向けられ、そして、光が走った。

 

「な、何故だ……」

 

 身を隠し、盾としても機能する筈の壁ごと、その強力なメガ粒子砲の前に貫かれたザルドボックのドム。

 最後まで事実を認められない主と共に、爆発四散し、試合を終えるのであった。

 

 

 こうして、勝利にまた一歩近づいたゾック・アーセナルだが。

 その足元に、まさかの刺客が潜んでいた。

 

「ははは! 懐に飛び込めばこっちのもんよ! じゃけんその巨体が仇となるんじゃ!!」

 

 突如、ゾック・アーセナルの足元に広がっていた残骸の中から、一機のモビルスーツが飛び出し、ゾック・アーセナルの上半身目掛けバーニアを噴かせる。

 残骸に潜み、死んだふりをして待ち伏せをしていたと思しきそのモビルスーツは、右腕に装備した特注と思しき大型射突型ブレード、通称パイルバンカーを装備したグフカスタム。

 

「えぐらせてもらうで! ズィーエー(ゾック・アーセナル)!!」

 

 振りかぶった右腕のパイルバンカーで、ゾック・アーセナルの上半身を貫くつもりなのだろう。

 だが、勇ましい台詞を放った次の瞬間、そんなグフカスタムの胴体を、ゾック・アーセナルのアイアン・ネイルが捉える。

 

「な、なんじゃと!?」

 

 掴まれ、身動きが取れなくなったグフカスタム。

 刹那、グフカスタムを掴んだアイアン・ネイルが振りかぶり始め勢いをつけると。

 

「のわぁぁぁっ!!」

 

 次の瞬間、天井目掛け、掴んでいたグフカスタムを放り投げた。

 勿論、それで終わりではない。

 

 放り投げられたグフカスタム目掛け、指向された七五ミリガトリング砲が唸りを上げた。

 

 回避行動も取れず、蜂の巣となったグフカスタムは、程なく、空中で最後の一花を咲かせ試合を終えた。

 

 

 

 

「やはりここ(バトリング・アリーナ)で共闘等というのは、どだい無理な話だったか。……腕自慢のくせにあっさり全滅とはな、使えない連中だ」

 

「全くだね、兄さん」

 

 会場内に広がるのは、死屍累々の数々。

 そして、そんなステージに未だ立つ、三機のモビルスーツ。

 

「だが、連中のお陰でパイロットの疲労はかなり蓄積している筈だ」

 

「それじゃ兄さん?」

 

「あぁ、仕掛けるぞ、オルノスよ」

 

「了解だよ、兄さん!」

 

 そして、雌雄を決するべく、兄弟が遂に自ら動き出す。

 

「よくぞここまで生き残った。だが、勝利するのは貴様ではない! 我々兄弟だ!」

 

 物陰から飛び出したグフ戦術強攻型は、自慢の火力をゾック・アーセナル目掛けて放つ。

 飛来する火線を幾分受けながら、ゾック・アーセナルもグフ戦術強攻型を仕留めるべく、その火力を叩き込む。

 

 単体としては十二分すぎる火力を誇るグフ戦術強攻型だが、やはりゾック・アーセナルの火力と比較すると、劣勢なのは否めない。

 しかし、ゾック・アーセナルにはない高い機動性を生かし、また壁などの遮蔽物を有効に利用するなどして、互角に撃ち合いを続ける。

 

 

 一方、オルノスのグフ・ヴィジャンタはと言えば。

 ゾック・アーセナルの意識が兄のグフ戦術強攻型に向いている事を確認するや、大回りで身を隠しながらゾック・アーセナルへと接近を試みる。

 

 幾ら互角に撃ち合っていても、それも長くは続かない。

 

 そんな焦りを抑えつつ、慎重に、ゾック・アーセナルへと接近を続けるグフ・ヴィジャンタ。

 

 やがて同機は、ゾック・アーセナルの死角に入り込むことに成功した。

 ここまでくれば、後はその持ち前の機動力を生かして、一気に懐に飛び込むのみ。

 

「もらった!」

 

 地を蹴り、バーニアを噴かせ、一気にゾック・アーセナルの懐に飛び込もうとするグフ・ヴィジャンタ。

 その存在に一拍遅れて気付いたゾック・アーセナルは、慌ててアイアン・ネイルを使って迎撃を試みるも。

 

「無駄だ!」

 

 そんなアイアン・ネイル目掛け、グフ・ヴィジャンタの左腕に装備した独立ユニットからマインズ・ロッドが射出され。

 アイアン・ネイルに巻き付いたそれは、次の瞬間、内包した爆薬を爆発させ、アイアン・ネイルを使用不可能にする。

 

「いけ、オルノスよ!」

 

「これで終わりだぁ!!」

 

 もはやゾック・アーセナルに、グフ・ヴィジャンタが構えたリムーヴァル・メイスの一撃を防ぐ術はない。

 兄弟は、勝利を確信した。

 

 だが、次の瞬間、その確信が無情にも打ち破られる事となる。

 

 ゾック・アーセナルの股関節部分の小さなハッチが開かれると、そこから、勢いよく何かが射出された。

 錨を連想させる形状のそれは、ロケット推進を有するロケット・アンカーであった。

 

「な!?」

 

 指向可能な二か所から射出されたロケット・アンカーは、その推進力をもって打ち込まれたグフ・ヴィジャンタの巨体を、天高く持ち上げていく。

 

「オルノス!!」

 

 刹那、天高く持ち上げられたグフ・ヴィジャンタ目掛け、二発の音速の槍が飛来し。

 そして、周囲に破片をまき散らしながら、グフ・ヴィジャンタは爆煙の中にその姿を消した。

 

「ふふふ、ははは!」

 

 弟が倒され、残るは自分一人となったジャギュアは、不意に自嘲じみた笑みを零した。

 

「……認めよう、君の力を。君こそ、真のレイヴン(イレギュラー)だ!」

 

 そして、彼の意識と共に、グフ戦術強攻型の巨体は、ゾック・アーセナルから放たれた光に飲み込まれ。

 

 その瞬間、試合終了を告げるゴングが会場内に鳴り響いた。




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