機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第四話 エントリィィィィィィッ!

 衛星軌道から地上、バイコヌールへと側面にジオン公国のマークが描かれたHLVが大気を突き破り降下していく。

 だが、そんなHLVを地上へ着地させまいと、地上からは激しい対空砲火が火を噴き続けている。

 地上目掛けて、重力に逆らう事無く降下し続けるHLVの周囲を、対空砲火の黒煙が彩り続けている。

 

 やがて、不幸にも対空砲火の直撃を受けた一台のHLVが火を噴き、周囲の他のHLVにぶつかるなど不安定な軌道を描くと、程なく空中で爆発し、内部のモビルスーツ共々空に散った。

 

「この命中率、プレイヤー操作か」

 

 乗機のコクピットから、搭乗HLVの外部カメラの映像を眺めていたユーリアンは、感想を漏らす。

 NPCの命中率は、レベルに応じた差はあれど、基本的には高い訳ではない。

 にもかかわらず、今回迎撃として火を噴き続けている対空砲火の命中率は、NPCが操作するよりも高く感じる。

 プレイヤーは、モビルスーツや母艦のみならず、拠点に設けられている各種兵器も操作が可能となっている。

 故に、今回のような侵攻進路が限定されている場面では、拠点の兵器を操作し戦うのも、プレイヤーにとっては立派な戦術の一つであった。

 

「こんな所でいつまでも待ってられるかぁ!! 俺はもう降りるぞ!」

 

 激しい対空砲火の轟音が響き、振動が内部を揺らす中。

 同乗者であるプレイヤーの一人が、痺れを切らしたかのように、HLVのハッチを操作し、機体を開いたハッチの縁へと移動させていく。

 

「やっはぁーっ!!」

 

 そして、一機のザクIは、ハッチから飛び降り地上目掛けて降下していく。

 

「っ!! うそだ──」

 

 だが、地上から放たれた一発の対空ミサイルが、防御する間もなくザクIに命中すると。

 対空ミサイルが命中したザクIは、黒煙をあげ、錐揉みしながら地上へとその姿を消した。

 

「まだ焦る時間じゃないだろう」

 

 事の顛末を見届けたユーリアンは、小さく独り言ちる。

 しかし、そんなユーリアンの考えとは裏腹に、周囲のHLVからは、まるで端を切ったかのように、次々とモビルスーツが飛び降りていく。

 HLV共々撃墜されるかもしれない、そんな恐怖が勝っているのだろう。

 

「ヒャッーーーホォォォォォォォォォッッウ!! エントリィィィーーーーーーーッ!!」

 

 中には、恐怖をかき消すかのように、機体の外部スピーカーがハウリングする程の大声で叫びながら飛び降りるプレイヤーの姿もあった。

 

「HLVの耐久は……、まだ大丈夫か」

 

 自身以外の同乗者たちは、既に全員飛び降りてしまっている。

 それでもユーリアンは、メインモニターの端に表示された、HLVの耐久値と現在の高度を目にしながら、飛び降りるタイミングを見定めていた。

 

 内から湧き上がる衝動を抑えながらも、タイミングを見定めていたユーリアン。

 やがて、HLVの耐久値が危険水域に近づくや、遂に、ユーリアンは動き始める。

 

 HLVのハッチの縁へと、乗機のザクIIF型へと移動させると、対空砲火の隙を見て、機体をHLVから飛び降ろすだけとなった。

 

「そこのF型さん。飛び降りるなら、援護しようか?」

 

「ん?」

 

 ふと、音声通信が入り、男性プレイヤーの声がコクピット内に響く。

 レーダー画面で音声通信の発信者を探すと、メインカメラのモノアイが、近くを降下中のHLVのハッチに立つ、一機のザクIの姿を捉えた。

 特段、機体本体に目立った改造も塗装も施されていないザクIではあったが、その両手には、目を引く長大なライフルが抱えられていた。

 

「MS用対艦ライフル ASR-78……」

 

 MS用対艦ライフルこと形式番号ASR-78は、THE ORIGINにてザクの武装の一つとして新たに設定された武装である。

 原作では、全長二二・三メートル以外、口径等は記載されていなかったが。俺の野望では、口径一三五ミリと設定がなされている。

 

「お、見えてるか? こいつで援護してやるから、安心して飛び降りな!」

 

「ありがとうございます! でも、そちらは?」

 

「なーに、こっちは見ての通り後衛型なんでな。一人でも多く前衛に出てもらって、安全を確保してほしいのさ。だから、遠慮せずに飛び降りてくれて構わないぞ」

 

「分かりました」

 

 リアルに近づけていても、これは本物の戦争ではなくゲーム、遊びである。

 故に、チームならば兎も角、全くの赤の他人同士、突然協力するのは躊躇いも生まれる。

 

 だが、その協力が互いにとって利益になると判れば、躊躇いも消えるだろう。

 

「俺がカウントダウンしたら飛び降りろ、いいか、F型さん?」

 

「了解です」

 

「じゃ、カウントいくぞ。スリー、ツー、ワン──、ゴーゴー!!」

 

 地上目掛けて銃口を向けたMS用対艦ライフルが火を噴き、それと同時に、ユーリアンのザクIIF型は地上目掛けて降下していく。

 

「縁があったら、また会おうぜ、F型さん」

 

 既に通信が切れたコクピット内で、ザクIのパイロットは、再会を楽しむかのように独り言ちるのであった。

 

 

 

 搭乗していたHLVから地上目掛けて飛び降りたユーリアンのザクIIF型は、着地点付近をメインカメラに捉えていた。

 

「っち」

 

 メインモニターに映し出された着地点付近の映像に、ユーリアンは軽く舌打ちする。

 その原因は、着地点付近にその姿を晒している、一機のモビルスーツの存在であった。

 

 ジムを思わせる頭部、ザクを思わせる胴体部に足回りの動力パイプ、実戦での運用を考慮していない、前面以外駆動部が丸見えな肩や腰。

 一見して未完成な見た目をしたモビルスーツ、形式番号RRf-06、ザニーの名称を持つ、連邦のモビルスーツだ。

 

 ザニーは、降下してくるユーリアンのザクIIF型に気が付くと、携帯している一二〇ミリ低反動キャノン砲を構えると、その銃口をユーリアンのザクIIF型に定める。

 そして、次の瞬間、一二〇ミリ低反動キャノン砲が火を噴き、放たれた一二〇ミリの砲弾がユーリアンのザクIIF型目掛けて飛来した。

 

「っ! の!」

 

 自身が狙われていると判断した瞬間、ユーリアンは一二〇ミリ低反動キャノン砲が火を噴くよりもコンマ数秒早く、乗機を左へ避けるべくスラスターを噴かせる。

 刹那、飛来した一二〇ミリの砲弾はザクIIF型の脇をかすめると、何処かへと飛んでいった。

 

「ぐっ!」

 

 一二〇ミリの砲弾を回避するためにスラスターを噴かせた結果、着地の姿勢が崩れ、振動がコクピットを襲う。

 しかし、ユーリアンは奥歯を食いしばりそれに耐えると、すかさず操縦桿を操作し、乗機の手にしたザクマシンガンの銃口を、ザニーに向ける。

 

 あの攻撃がかわされるとは思ってもいなかったのか、ザニーのパイロットは、逆に狙われる事となった事態への反応が遅れていた。

 気が付き、回避を試みようとした時には、既にザクマシンガンから放たれた一二〇ミリ弾が襲い掛かっていた。

 刹那、一二〇ミリ弾が命中し、残弾に引火し爆発する一二〇ミリ低反動キャノン砲と共に、ザニーの上半身も、爆炎と黒煙の中へと消えていた。

 

「……ふぅ」

 

 レーダー画面にも、カメラの映像にも、周囲に敵の存在が確認されない事を確認すると。

 ユーリアンは、徐にヘルメットを脱ぎ、パイロットスーツも上半身を脱ぐとアンダーウェアのみの状態となる。

 それはまるで、息苦しさや熱さから解放されたように見えた。

 

 自律神経の乱れから汗をかく、幾ら仮想現実とはいえ、そこまでの再現はなされない筈だが。

 ユーリアンは、解放された自身の額の汗を拭うかのような仕草をすると、深い息を吐いた。

 そして、ふと、モニターに映し出された周囲の光景を目にする。

 

 そこに映し出されていたのは、まさに、地平線の彼方まで広がる荒野であった。

 現実世界でも、同地域は広大な荒野が広がっており、その再現度の高さが伺える。

 

 しかし、ユーリアンは観光を楽しむためにこのゲームを楽しんでいるのではない。

 ジオン公国のパイロットプレイヤーの一人として、プレイヤーならば誰しもは考えている、自勢力の勝利を目指す為に、ここにいるのだ。

 それを思い出したかのように操縦桿を握り直すと、乗機であるザクIIF型を移動させ始める。

 

 

 降下するHLVが、次々にパラシュートを開きながら地上へと着地を決めていく。

 そして、開かれたハッチから、次々にモビルスーツが荒野に降り立ち、バイコヌール地方の要、バイコヌール宇宙基地を目指し進撃を開始する。

 

 そんな様子を、ユーリアンは、少し離れた場所で確認していた。

 何故彼がそんな場所にいるのかと言えば、それは、HLVの着地の安全確保の為であった。

 降下集団の先頭後半部分のHLVに搭乗していたユーリアンは、後続のHLVの安全な着地の為、周囲の対空ミサイルや火砲、更にはレーダー施設を破壊して回っていたのだ。

 因みに、その最中、ユーリアンの破壊活動を止めようと、連邦の主力戦車である数輌の61式戦車が姿を現したが、綿密な連携も取れない動きでは、ザクIIF型の前に鉄塊と成り果てるだけであった。

 

 なお、本陣のバイコヌール宇宙基地を守護するように、周囲の各所に設けられた防衛用の陣地だが。

 やはり、本陣であるバイコヌール宇宙基地が一番火力が充実しており。

 ユーリアンの破壊活動後も、後続のHLV群目掛けて放たれる対空砲火の勢いは、あまり衰えていないように感じられた。

 

 それでも、ユーリアンは自身の行動で一台でも多くのHLVが着地出来たと信じ、進撃を開始した集団を追いかけるのであった。

 

 

 

 ユーリアンが後続の集団と共にバイコヌール宇宙基地へと進撃を開始した頃。

 ランドニーは一体何処にいるのかと言えば。

 彼は、とある室内の一角にいた。

 

「後続集団、バイコヌール宇宙基地の外縁に到達」

 

「先頭集団の開けた突破口から、後続集団が基地内に侵入します」

 

「支援車輛、現在展開率は四割です。歩兵隊はまだ三割前後」

 

「そうか……。補給コンテナの投下状況は?」

 

「補給コンテナ、予定地点に無事投下完了しています」

 

「これで継戦能力も問題ないな……」

 

 室内はある程度の広さを有していたが、設けられた多数のモニター、更には機材やテーブルなどで、元の広さを感じさせぬ程、手狭な空間へと生まれ変わっていた。

 そこは、まさに作戦司令部。

 現在の戦況を事細かく表示したモニターに、機材を操作するNPCのオペレーター達。

 そして、オペレーター達の報告を聞き、中央の座席から指示を飛ばすのは、今回の作戦指揮官であるマーコックであった。

 

 そんなマーコックの後ろに用意されたテーブルで、作戦の推移を見守っているのは、今回の作戦に参加している他のコマンダープレイヤー達。

 その中に、ランドニーの姿もあった。

 

 因みに、そんな作戦司令部となっているこの場所は、HLVと共に降下したコムサイの内の一台、その貨物室内に設けられている。

 このコムサイは、現在戦場であるバイコヌール宇宙基地から離れた安全地帯に着陸し、護衛と共に後方に陣を張っている。

 

「現在の我が方の被害状況は?」

 

「現在、我が軍の被害は一割を超えました。その殆どは、降下中によるものです」

 

「むぅ、ある程度は覚悟していたが、やはり降下中は無防備になりがちだな」

 

 オペレーターからの報告を聞き、マーコックは渋い顔になる。

 後ろで聞いてたいランドニーもまた、マーコックの心情に同情を禁じ得なかった。

 

 戦闘能力を持った大気圏突入可能な母艦がない現状では、どうしても、地上への降下中は無防備にならざるを得ない。

 別の地域からの支援があれば、また違ったのだろうが。

 生憎と、現在ジオンは地球上に領土を有していない為、それも叶わぬ事だ。

 

「だが、この犠牲を無駄にせぬ為にも、この作戦、必ずや成功させるぞ! バイコヌール宇宙基地の侵攻状況は?」

 

「シカクコシアス隊、闇夜のオオカミ隊。両隊の突破力が功を奏し、順調に侵攻中」

 

「む、しかしあまり突出するのも敵中孤立の恐れがあるな。両隊に侵攻速度を落として、後続に合わせる様に連絡を」

 

「了解しました」

 

 一部プレイヤー達の活躍のお陰で順調にバイコヌール宇宙基地を制圧できている事に、満足そうな笑みを浮かべるマーコック。

 一方ランドニーは、自身の目の前にある機材を操作し、ユーリアンの生存を確認すると、他の、有力なプレイヤー達の情報を閲覧し始める。

 

(やっぱ戦績上位者はベータテストでも聞いたことのあるプレイヤー名ばかりだな)

 

 特に目を引いたのは、戦績の最上位に名を連ねているプレイヤー。

 『沙亜 阿頭那武婁』の名を持つ、一見して難読漢字の羅列のような名前のプレイヤー。

 機動戦士ガンダムの二大巨頭、主人公アムロ・レイのライバルであるシャア・アズナブルを漢字の当て字として使用している。

 

 そんな名前の付け方から、誰が付けたか、ついたあだ名が『難読彗星の沙亜』である。

 

 ベータテスト時に、その特徴的なプレイヤー名から、ランドニーはそのプレイヤーについて覚えていた。

 

(確かこの人、ソロプレイスタイルだったよな……。こんな人が自分の軍団の一員だったら、そりゃ心強いだろうな)

 

 一通り現在の戦績上位者の情報を閲覧し終えると、ランドニーは再びユーリアンの情報を表示する。

 モビルスーツの撃破数こそ少ないものの、それ以外の車輛や施設など、総合的にはかなりの戦績を残している。

 

(期待してるぜ、"レイヴン"さん)

 

 口元に笑みを浮かべながら、ランドニーは、ユーリアンのベータテスト時に名付けられた異名を心の中で呼ぶ。

 スラスター等を巧みに操り、まるで某3Dロボットアクションゲームの機体を彷彿とさせるその動きから、誰が付けたか、レイヴンという異名。

 イベント時など、自主的に裏方などに回る事からも、本来のワタリガラスを意味するものではなく、"傭兵"を意味するレイヴンが最適とばかりに名付けられた。

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