機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第三十五話 野望形アイドル

 勝者の証として、参加者達の参加費を総取りにし、ランドニーの表情がその日一番に破願した、バトリング・アリーナでの試合から一夜明けた次の日。

 第046独立部隊一行は、今日も俺の野望を楽しんでいた。

 

 そして、一旦小休止をとるべく、酒場へと足を運ぶ一行。

 

 カウンター席に腰を下ろした一行は、小洒落た店内にマッチするジャズの音色を肴に、カクテルを堪能する。

 

「沙愛、昨日調べてみたら! コラボ企画の開始日、今度の金曜日からだったよ!」

 

「それは是非、足を運ばねばならんな」

 

「んでよー、バイト先の先輩がさ……」

 

「そうなんだ、それは災難だね」

 

「ほうほう、つまりロッシュはドムも気になると?」

 

「はい。ドムって、よく見ると……、あのボディビル世界大会九連覇を果たした伝説のボディビルダー! ロニー・J・オリバー氏に似ていると気づいたんです!! これはもう、僕としては乗らない訳にはいかないと思いまして!!」

 

「お、おう……」

 

 各々が雑談を交えながら雰囲気を堪能していると。

 不意に、流れていたジャズの音色がぴたりと止んだ。

 

 そして、店内の照明も徐々に落とされ、店内を暗闇が包み始める。

 

 一体何事かと、第046独立部隊一行は雑談を中断し、原因を探るべく店内を見回す。

 すると、店内の一角にある、生演奏用のステージに不意に照明が灯された。

 

「みんなーっ! 今日は私達、ポップ★ソーダのステージを見に来てくれて、ありがとーっ!」

 

 すると、ステージ上に、三人の女性が姿を現した。

 フリルの付いたスカートに、長いマントに煌びやかな肩章に飾緒、そして、リボンのついた制帽。

 明らかに軍服を改造した衣服を身に纏った若い三人の女性。

 

 そのセンターを務める女性は、マイクを片手に、自分達の自己紹介を始めた。

 

「もう皆知ってると思うけど、初めての人もいるから、そんな人達の為に自己紹介するよー! 先ずは、ルルちゃん!」

 

「みんにゃー! みんなのハートにラブにゃんにゃん! ルルだにゃん!」

 

「「ルルちゅわーーんっ!!!」」

 

 そして、両手でハートの形を作り、ポーズを決めて自己紹介を行ったスタイルの良いベージュの髪を靡かせたルルに対し。

 いつの間にか、気付けばステージの前にごった返していた、彼女達ポップ★ソーダのファンと思しき人達から、声援が飛ぶ。

 

「それじゃ次は、ユイちゃん!」

 

「ユイです、よろしく」

 

「「ユイちゃぁぁぁん! 今日もクールだぁぁぁっ!!」」

 

 一方、一見すると中学生、下手をすれば小学生にも見えなくもない体型の、ダークネイビーな髪をツインテールにしたユイと名乗った女性は、淡々とえ笑顔も見せず簡潔に自己紹介を行い、軽くお辞儀をして締めくくる。

 それに対して、ファンの方々からは、その不愛想ぶりも魅力に感じていたようで、文句ではなく声援が飛び交う。

 

「それじゃ、最後は私! 上から読んでも"カノカ"、下から読んでも"カノカ"、ポップ★ソーダの不動のセンター、皆のエンジェル、カノカでーす!!」

 

「「「カノカーーーっ!!」」」

 

「「「カノかっち!!」」」

 

「「「マイラブリーエンジーーーェルッ!!」」」

 

 そして、最後にセンターを務める、モデル体型の水色の髪を靡かせたカノカと名乗った女性が、ポーズと共に締めのウィンクを行うと。

 ファンの熱気は、最高潮に達した。

 それまでにない声量で、彼女に声援を送るファンの方々。

 

 もはや、酒場の一部は、完全にアイドルのコンサート会場と化していた。

 

「それじゃ、先ずは一曲、聞いてください! ポップ★ソーダで『軍服とモビルスーツ』!」

 

 そして、曲名紹介と共に、ステージに音楽が流れ始める。

 それに合わせて、ポップ★ソーダの三人はリズムを取り、ダンスと共に歌を歌う。

 

 それに呼応して、ファン達も、持参したサイリウムを振るう。

 

 

 

 

 数分後。

 締めの決めポーズと共に、熱気渦巻くステージは終わりを告げた。

 

「みんなー! ありがとー!」

 

「ありがとにゃー!」

 

「ありがとうございます」

 

 最後に、手を振りステージを去るポップ★ソーダの三人。

 こうして、照明も戻り、ジャズも再び流れ始め、嵐のようなポップ★ソーダの騒動は終わりを告げた、と思われたが。

 

 何故か、ポップ★ソーダの三人はステージ裏に戻る事無く、ステージを降りると、そのままカウンター席の方へと足を運ぶ三人。

 

 そして、何と三人は第046独立部隊一行の前で足を止めた。

 

「ふふ、カノカ達ポップ★ソーダのステージはいかがだったかなぁ?」

 

「え? えっと、良かった、です」

 

 すると、不意にユーリアンに先ほどのステージの感想を求めるカノカ。

 それに対して、ユーリアンは三人の後ろに控えるファンの方々の圧を受けつつ、無難な感想を返す。

 

「ありがと、ふふ」

 

 アイドルスマイルを浮かべ、お礼を述べるカノカ。

 

「所で、君は、私達の事、知ってくれてたのかな?」

 

 刹那、その笑みがいたずらな笑みに変わると、カノカは自分達ポップ★ソーダの事を知っているかどうかを尋ねる。

 ユーリアンは一瞬、知っていると嘘をつこうかとも思ったが、それは彼女達に失礼と思い、素直に知らないと答えるのであった。

 

「あ、因みに俺も知らなかった」

 

「あ、実はあたしも」

 

「私もだ」

 

「僕も……」

 

 と、堰を切ったように、他の面々からも知らないとの回答が零れる。

 

「何だお前ら! ポップ★ソーダ知らねぇのか!?」

 

「俺達の天使を知らないって! どういう生活してんだよ!」

 

「そーだそーだ!!」

 

 すると、その回答にファンの方々から怒りの声が零れた。

 

「皆止めて! 喧嘩しないで!」

 

 刹那、カノカの制止の声が、ファンたちの怒りの声を止めた。

 

「この人達がポップ★ソーダの事を知らなかったのは、この人達が悪い訳じゃない。私達ポップ★ソーダの頑張りが、まだまだ足りないのが悪いの。……だから、ファンの皆、私達の名前が、老若男女、誰でも知ってもらえる程の知名度になるように、これからも、応援よろしくね!」

 

「「うぉぉぉっ! 流石我らが天使だぁぁ!!」」

 

 そして、目を潤ませながら訴えたカノカの言葉に、ファンたちの怒りは吹き飛び、これからも応援を続けていく事を約束するかの如く、カノカコールが乱れ飛ぶのであった。

 

「ねぇ、ランドニー」

 

「ん? 何だ?」

 

「ポップ★ソーダって、そんなに有名なアイドルグループなの?」

 

「いや~、俺に聞かれても……」

 

 一方、ユーリアンはランドニーにポップ★ソーダの知名度を尋ねるも、その方面に詳しくないランドニーは困惑の表情を見せる。

 すると不意に、先ほど一人だけポップ★ソーダの認知についての回答を控えていたシモンが、切り出した。

 

「そこそこ有名なんじゃないか? 少し前、俺、警備のバイトで彼女たちのライブの警備した事あったけど、会場、結構埋まってたし」

 

「おいシモン、お前何でさっき言わなかったんだよ」

 

「いや、今思い出したんだよ」

 

 シモン曰く、どうやらポップ★ソーダはそれなりに有名なアイドルグループの様だ。

 と、ポップ★ソーダについて少しばかり知見を広げた所で、再びカノカが口火を切った。

 

「さてと。実はね、君達に声をかけたのは、ステージの感想を聞きたかったからじゃないの。……ねぇ、君」

 

「え? 俺?」

 

 そして、不意にユーリアンを指さすと、指をさされ困惑する本人を他所に、カノカは話を続けた。

 

「君、昨日のバトリング・アリーナの試合で勝った子でしょ。あの試合、私達も見てたの。……君、すっごく強いんだね」

 

「いや、そんな事は。あれは機体の性能もあっての事で」

 

「ふふ、謙遜しちゃって、その謙虚さ、すっごく気に入っちゃった! でね、ここからが本題なんだけど。君、私達の親衛隊に入らない?」

 

「え?」

 

 突然の提案に、ユーリアンは動揺を隠せなかった。

 まさか、勧誘されるとは思いもしていなかったからだ。

 

「あのー、横から失礼しますけど。ユーリアンは俺達の大事な軍団の一員で……」

 

 そんな動揺したユーリアンに代わり、話を付けようと横槍を入れたランドニー。

 

「あら。もしかして君が、軍団長?」

 

「えぇ、そうですけど?」

 

「なら、美波さん。お話よろしく」

 

「はい」

 

 すると、栗色の髪をまとめ眼鏡をかけた、スーツ姿の、いかにもキャリアウーマンという風貌の三十歳前後の女性が一人、すっと姿を現した。

 

「はじめまして、(わたくし)、ポップ★ソーダの担当マネージャーを務めております、美波と申します」

 

「ど、どうも」

 

 そして、自己紹介した彼女は、慣れた動作でランドニーに名刺を渡した。

 そこには確かに、782プロダクション所属のアイドルグループ、ポップ★ソーダの担当マネージャーである事が記載されていた。

 

「えっと、すいません。名刺ないんで、口頭ですけど。第046独立部隊の軍団長を務めてます、ランドニー・ハートです」

 

「これはご丁寧にありがとうございます。では、お互いに自己紹介も終わった所で、早速本題に参りますが。ランドニー様、どうか貴方様の軍団の一員であるユーリアン様を、是非とも、ポップ★ソーダの親衛隊の一員として移籍を許可してはもらえないでしょうか? 勿論、それに際して、必要な額はお支払いいたします」

 

「ちょ! ちょっと待ってください! いきなり何ですか、それ!? 急に現れて、藪から棒にユーリアンを引き抜きたいって!?」

 

「失礼しました。では、簡単にご説明いたします」

 

 困惑するランドニーに対して、美波は、事の成り行きを説明し始めた。

 

 そもそもポップ★ソーダとは、芸能事務所である782プロダクション所属のアイドルグループで。

 そのキャッチコピーは『歌って・踊れて・戦うアイドル』というもの。

 俺の野望内で芸能活動を行っているのも、キャッチコピーにかけた芸能活動の一環である。

 

 ただし、事務所の意向で俺の野望内で芸能活動をしているとはいえ、彼女達自身にガンダム作品に対する造詣が全くない訳ではなく。

 特にリーダーであるカノカは、かなり造詣が深いとの事。

 

「へぇー、カノカさんってガンダムに詳しいんですね」

 

「それはもう、学生時代に学校から帰って宿題や習い事を済ませたら新機動戦記ガンダムWを欠かさず視聴して……」

 

「え……? それって、まさかリアルタイム……」

 

「……そそ、そんな訳ないでしょ!! ビデオよ! ビデオにろく──」

 

「え、ビデオで録画って、まさかVHSなんかじゃ……」

 

「ちちち! 違う! どど、動画配信サービスに決まってるじゃない! わ、私そのサービスの事"ビデオ"って呼んでるの!! 別にテープが擦り切れるぐらい見たとか、テープが絡まって大変だったとか、そんなのじゃなくて!!」

 

「カノカ"さん"、それ以上の私語は慎んだ方が賢明かと」

 

「そ、そうね。……もう、現役アイドルのプライベートを誘導して聞き出そうだなんて、ランドニー君ってば悪い子ね!」

 

 美波の言葉に正気を取り戻し、最後はいつもと変わらぬ様子で可愛く締めくくっていたものの。

 まるで墓穴を掘ったかのようなカノカの慌てように、年上と思っていた美波からさん付けで呼ばれる等。

 何やらカノカの年齢に関しては、深い闇が存在している様に感じずにはいられないランドニーであった。

 

「申し訳ありません。話が脱線してしまいましたね。では、改めて説明の続きを……」

 

 そんなポップ★ソーダ。

 俺の野望内でも、カノカを小隊長として同名の小隊名で活躍しているのだが。

 

 流石に、小隊規模ではこの群雄割拠の俺の野望内では活躍するのは難しい。

 

 そこで、そんな彼女達をサポートする、ポップ★ソーダ後援隊、通称親衛隊と呼ばれる軍団を設立し、俺の野望内で彼女たちの活躍をサポートしているのだ。

 

「それで、その親衛隊の一員として、是非とも腕利きのユーリアン様を加えたく、こうして足を運んだ次第です」

 

「それってつまり、ユーリアンにポップ★ソーダのファンクラブの会員になってほしいって事ですか?」

 

「まぁ、簡単に言えば。……因みに、こちらから勧誘させていただきましたので、入会費や年会費等の諸経費は一切必要ありません。加えて、会員特典は勿論の事、ご希望とあれば、"三桁"会員番号の会員証もご用意もいたします」

 

 三桁会員番号の会員証との提示が美波の口から漏れるや否や、事の推移を見守っていたファン達からは妬み嫉みの声が漏れ聞こえる。

 

「羨ましいね、兄さん」

 

「全くだな、オルノスよ。我らでさえ四桁番号だというのに、何という好待遇だ! 流石はレイヴン(イレギュラー)という所か……」

 

 その中に、昨日バトリング・アリーナで戦った兄弟の姿もあったのだが、ユーリアン他、第046独立部隊の面々は誰も気づいてはいなかった。

 

 程なく、そんなファン達からは妬み嫉みの声も収まると、美波はユーリアンに返答を迫った。

 

「いかがでしょうかユーリアン様。是非とも、そのお力を、ポップ★ソーダの為にお貸ししていただけないでしょうか? 勿論、ユーリアン様が抜けた際は、ランドニー様の軍団に対し、可能な限りアフターフォローをさせていただく所存でございます」

 

「ねぇ、お願いユーリアン君。君の力、私達に是非とも貸して欲しいの!」

 

「お願いだにゃ」

 

「おねがいします……」

 

 更に、ポップ★ソーダの三人が頭を下げると、次いで、潤んだ瞳をユーリアンに向けた。

 まるでそこからキラキラと輝く何かが放射されているかの如く。

 

 三人の視線を受けて、困惑するユーリアン。

 心優しい彼は、どうやって彼女達をなるべく傷つけない様にどう断ろうかと断り文句で悩んでいるのだろう。

 

 すると、黙って事態の推移を見守っていた沙亜が不意に席から立ち上がると、ユーリアンとポップ★ソーダの三人の間に割って入った。

 

「あら?」

 

「悪いが、ユーリアンはアイドルの手伝いをする為に俺の野望を遊んでいる訳ではない。悪いが、他を当たってもらおう」

 

 そして、単刀直入に断りを入れるのであった。

 

「貴女は確か……、沙亜 阿頭那武婁、よね」

 

「アイドルに名を覚えていただけるとは光栄だな。だが、それとこれとは話が別だ。ユーリアンは私達の大事な仲間だ、悪いが、この話は断らせてもらう」

 

「最終的に決めるのは本人の意思じゃないの?」

 

「彼は優しい男だ、故に、君達に気を使い言い辛いので、私が代わりに彼の意思を伝えているだけだ」

 

「ふーん。随分彼の事について詳しいのね、貴女……」

 

「仲間なのだから、それ位の当然だ」

 

「仲間、ねぇ」

 

 気付けば互いに顔を近づけ、互いの顔を睨みつけるかの如く眼差しで一触即発の雰囲気を醸し出し始める沙亜とカノカ。

 二人の醸し出す雰囲気を前に、他の面々は、圧倒され、声をかける事も出来ない。

 

「ねぇ、貴女」

 

「ん? 何だ?」

 

 と、不意にカノカが先ほどまでの可愛い声色から、何処か冷たい声色の小声で、周囲に聞かれないように話を始めた。

 

「貴女、もしかして彼に惚れてるの?」

 

「な!?」

 

「ふーん、図星か。ならさ、その自慢の胸使って、ちょっとその気があるって素振りでもみせたら、彼、落ちるんじゃない? どうせ男なんて、可愛い顔してその気があるって思わせれば、コロッといく単純な生物なんだし」

 

「彼はそんな獣などではない!! 大体何なんだ! 先ほどから失礼だな!」

 

「アイドルってね、客商売なの。それも究極の。……だから、どんな嫌いな奴の前でも、笑顔を絶やさず振りまく、それがアイドル。心が強くなきゃできないのよ。……今の貴女は相当私に怒ってる筈。なら、そんな私に笑顔を作って見せてあげられる?」

 

「そんな事……」

 

「無理よね。心が弱くて仮面を被った貴女には」

 

「っ!!」

 

「シャアの真似だ何だと託けて、それは本当は自分の弱い心を守るフィルターなんでしょ? そして、フィルターがないと話す勇気が出ない、だから仮面をつけている。そんな仮面を被った貴女に、彼の本当の気持ちが理解できてるのかしら?」

 

「そ、そんな事は……」

 

 と、否定しようとした沙亜は、途中で言葉を詰まらせた。

 何故なら、カノカの指摘は間違いではないから。

 

 確かに、俺の野望内では、仮面をつけシャア・アズナブルというキャラクターを憑依させる事により、現実での引っ込み思案な性格を払拭させていた。

 だが、そんな仮面で偽りの、もう一人の自分である沙亜 阿頭那武婁を演じていても、ユーリアンは本当の自分である佐久良 沙愛としても接してくれる。

 

 仮面の無い現実でだって、講義の合間や昼休憩には、彼とガンダム談義や他愛もない会話で盛り上がっている。

 仮面を被っていたって関係ない、私達の信頼関係は、他人が軽々と測れるものではない。

 

 刹那、沙亜は心揺さぶられたカノカの言葉を振り払うかのように小さく首を振るうと、再び彼女の瞳を見つめた。

 仮面の奥に光る瞳には、確かに、自身に満ち溢れていた。

 

「あら? 開き直ったの?」

 

「ふ、危うく誑かされる所だったよ。確かにアイドル業で培った人を見る目は確かなようだが、私達の信頼関係は一目見ただけで軽々に測れるものではない」

 

「何それ、強者の余裕ってやつ? ……ムカつく」

 

 鋭い眼差しへと変化していくカノカ。

 しかし、ふとその変化も途中で止まると、今度はいたずらなものへと変化していく。

 

「なら、こういうのはどう?」

 

「?」

 

「ここは俺の野望、そして私達はモビルスーツのパイロット。なら、パイロットらしく白黒はっきりさせない?」

 

「具体的には?」

 

「フィールドエリアに出て、出現した敵をどちらが多く撃破したか、その戦績で勝敗を競うの、私と貴女の一対一でね」

 

「ほぉ、それは面白そうだ。だが、私のランキングの順位は知っていよう。何なら、ハンデとして、そちらは三人でも構わんが?」

 

「ッ! なめんじゃないわよ! これでも私、戦績ランキングの四十位に名を連ねてるんだからね」

 

「成程、『歌って・踊れて・戦うアイドル』を標榜しているだけの実力はあるという事か。いいだろう、その勝負、受けて立とう」

 

「私が勝利した場合は、彼を貰うわ。でも、貴女が勝った場合は、彼の事は諦める。それでいい?」

 

「異論はない」

 

「それじゃ、早速準備していくわよ」

 

 こうして、ユーリアンをかけた二人の女の戦いの幕が、本人の与り知らぬ所で切って落とされるのであった。

 

 

 

 

 

 

 そして、とんとん拍子に準備が整い。

 現在、ヨーロッパ方面の最前線の一角。

 比較的大きな都市の一角に、沙亜とカノカが操る二体の巨人の姿はあった。

 

「沈め!」

 

 ザク・アライヴが装備したザクマシンガンが火を噴き、放たれた一二〇ミリ弾が狙いを定めたジムを襲い、その命を奪う。

 

「アイドル、なめんなぁー!」

 

 一方、カノカが操る、自身のパーソナルカラーである水色に染めた、何処か西洋甲冑を思わせる外見のモビルスーツ。

 ジオン公国軍初のモビルスーツ用携帯型ビーム兵器を標準装備し、原作では公国の総力を結集して完成されたモビルスーツ。

 ガンダムに勝るとも劣らない性能を誇ると言われるそのモビルスーツの名は、形式番号MS-14A ゲルググ。

 

 決戦用モビルスーツとも呼ばれたそんな同機にも、幾つかの派生型は存在しており。

 

 今回、カノカが操っているのは、地上用に背部バックパックの換装やスラスターの調整、それに防塵処理等々を施した、陸戦型ゲルググ。

 形式番号のMS-14Gから、G型とも称される機体である。

 

 そんな陸戦型ゲルググが装備した、遠距離での使用も可能な試作大型ビームライフルから放たれた光線は。

 咄嗟に身を隠した建物ごと、ターゲットとなったジムの胴体を貫き。

 程なく、勝利の爆発音を轟かせた。

 

「ほぉ、なかなかやる」

 

「そっちも、流石はランキング九位、鮮やかね。でも、私だって、伊達に芸歴積んでないわよ!!」

 

 そんな、ザク・アライヴと陸戦型ゲルググが暴れる市内から離れた郊外の一角。

 そこに、二人の戦闘の様子を観戦すべく、第046独立部隊とポップ★ソーダの残りの面々の姿があった。

 

「うーん、今の所、撃破数は互角かな?」

 

「沙亜ーっ! 頑張れー!」

 

「カノカさーん! 頑張れにゃー!」

 

 ギャロップの艦橋内で、共にモニターに映し出された戦闘の様子を観戦する中、メノとルルからは声援が飛ばされる。

 

「何だか……、沙亜、いつもより焦っている様に見えるけど、大丈夫かな」

 

「ん? そうか? いつもと同じに見えるけどな?」

 

 そんな中、ユーリアンはぽつりと沙亜の違和感について呟いた。

 ただ、隣でそれを聞いたランドニーには、その違和感については分からない様であった。

 

「それに、カノカさんも。何だか機体に振り回されているようにも感じるし」

 

「あー、それは確かに、俺もちょっとそう思う。ランキングの割に、何だか戦い慣れしてないような感じが……」

 

 しかし、カノカに対する指摘には、同意を示す。

 

「それは、仕方ない」

 

「うおっ!? ゆ、ユイさん!?」

 

 と、そんな二人の背後から不意に声がしたので振り返ってみると。

 そこには、表情の変化に乏しいユイが立っていた。

 

「それって、どういうこと?」

 

「私達に親衛隊がいる事は既にご存知ですよね。彼らの仕事は、私達のサポート、つまり、そこには戦績のお手伝いも含まれるんです」

 

「あー、それってつまり、親衛隊に相手を瀕死まで弱らせて、トドメは自分達で。って事」

 

「はい」

 

「成程。それなら確かに、ランキング四十位であの動きってのも、何となく納得だ」

 

「確かに、私達はガンダム作品に対する造詣は深いですが、造詣が深いのとパイロットとしての技量は別物ですから。足りない分は、ファンの方々に補ってもらっているんです」

 

「アイドルも、大変なんだね」

 

「お気遣い、ありがとうございます」

 

 ユイの暴露話によると、どうやらカノカ自身の技量は、ランキングの数字には不相応な程度のもののようだ。

 それでも、ユイ曰くカノカの名誉の為に付け加えた補足によると、カノカ自身も技量向上の為の特訓は行っているとの事。

 

 

 

 そんなカノカと沙亜の対決も、いよいよ佳境を迎える。

 

「はぁぁっ!」

 

「だぁぁぁっ!」

 

 二人の気迫の籠った叫びと共に、対峙していたジムが、それぞれ没し。

 ここに、二人のいるエリア内の敵は掃討されるのであった。

 

「どうやら先ほどのもので最後のようだな」

 

「ふふ、そうみたね。それじゃ、戻って集計結果を確かめましょう」

 

 そして、各所で黒煙が立ち上る市内から立ち去ろうとした、刹那。

 

「きゃぁぁっ!!?」

 

 突如、陸戦型ゲルググの周囲に、幾つもの爆炎が発生した。

 突然襲い掛かった衝撃に、カノカの悲鳴と共に、陸戦型ゲルググはその場に倒れ込む。

 

「何だ!? 一体!?」

 

 その様子を見ていた沙亜は、咄嗟に原因を探し始める。

 すると、上空のルッグンから、郊外にミニ・トレーの存在を確認したとの情報が送られてくる。

 

 どうやら、先ほどの陸戦型ゲルググを襲った砲撃は、このミニ・トレーの仕業で間違いないようだ。

 

「っ!?」

 

 と、ザク・アライヴのコクピット内に、ミニ・トレーからの再度の砲撃と思しき砲撃音が響く。

 刹那、沙亜はフットペダルを踏み込み、バーニアを噴かせザク・アライヴを跳躍させると、未だに起き上がれない陸戦型ゲルググ目掛けて突っ込んだ。

 

「間に合えぇぇっ!」

 

 そして、陸戦型ゲルググの目の前で、一つの爆発が沸き起こる。

 爆炎に交じり、周囲に赤い破片をまき散らせる中。陸戦型ゲルググのモノアイは、その姿を捉えていた。

 

「っ! ぐ!」

 

 その身を挺して、陸戦型ゲルググを直撃弾から守ったザク・アライヴの姿を。

 

 右肩の増加装甲で防ぐ事により、直撃弾が陸戦型ゲルググに直撃する事は避けられたが。

 代わりに、ザク・アライヴの右腕は完全に吹き飛び、痛々しい姿に成り果てると共に、コクピット内も大きく揺さぶられる。

 

「っ、ヘルメットが、くそ」

 

 揺さぶられ、その際にぶつけたのが原因か、バイザー部分にヒビが入った為、直ぐにヘルメットを脱ぎ捨てる沙亜。

 直後、コクピットにカノカからの通信を告げる音が鳴り響く。

 

「あ、貴女、一体どうし……え?」

 

「何だ?」

 

 通信を繋げると、カノカは一瞬目を見張ったものの。

 すぐに我に返ると、用件を伝え始める。

 

「どうして、どうして助けたの!? あのまま私を見殺しにしてれば、貴女の勝ちはほぼ確実に……」

 

「たしかに、貴女は私のライバルだ。だが、それ以前に、貴女は私と共にジオン公国の一員として戦う戦士であり戦友! 私怨で戦友を見殺しにしたとあっては、ジオンの戦士として失格だからな」

 

「貴女……」

 

 刹那、陸戦型ゲルググが立ち上がると、近くで膝を付いているザク・アライヴに近寄り、手を差し伸べた。

 

「立てる?」

 

「あ、あぁ」

 

「ふふ、何だか私、貴女の事勘違いしてたみたい。……ねぇ、最後は協力しない?」

 

「ふ、よかろう」

 

 陸戦型ゲルググの手を借り立ち上がったザク・アライヴ。

 そして、互いにモノアイでアイコンタクトを取ると、両機はミニ・トレー目掛け、地を駆け始める。

 

「私が援護する、トドメは任せたぞ!」

 

「分かったわ!」

 

 二機目掛け、ミニ・トレーの単装砲が火を噴き続けるも。

 両機はその砲撃を掻い潜りながら、ミニ・トレーへと接近。

 

 そして、跳躍したザク・アライヴが五連装ロケットランチャーが火を噴くと、ミニ・トレーの単装砲を破壊していく。

 こうして攻撃手段を失った所に、ビームナギナタを手にした陸戦型ゲルググが突撃し。

 最後は、その光の刀身を、艦橋目掛けて振り下ろし、見事に撃破するのであった。

 

 

 

 ミニ・トレー撃破の後、互いの健闘を称えるべく、握手を交わす両機。

 すると、その最中。

 

「所で貴女って、素顔は可愛い顔してるのね」

 

「え?」

 

 不意に、カノカが刹那の素顔について話し始めた。

 それはまるで、刹那の素顔を見ているかのように。

 

「折角可愛い顔してるんだから、仮面なんて被ってたら、勿体ないわよ?」

 

「な、何を、言って……」

 

「あれ? 仮面取れてるの、気付いてないの?」

 

 そこで刹那は、自身の顔に手を当て、仮面が取れている事に気が付くのであった。

 どうやら、ヘルメットを脱ぎ捨てた際に、仮面も取れてしまったようだ。

 

「ぴゃぁぁぁっ!? どどど、どうしよう! わた、私、仮面がないと、ないと……」

 

 モニター越しに、人が変わったように慌てふためく刹那の様子を目にし。

 カノカは、ぷっと吹き出し始めた。

 

「ふふふ、面白いわね、貴女」

 

「あ、あった……。あ、あまり笑わないでほしいな」

 

「あら、兵は見てないわよ?」

 

 そして、再び仮面を見つけ装着した刹那の言葉に対するカノカの返しに、今度は刹那がぷっと吹き出した。

 こうして、お互いに笑い合った二人の間には、いつの間にか、打ち解けた感情が芽生えていた。

 

「ふふ、何だか、貴女とはいいお友達になれそう」

 

「それは光栄だな。私も、ポップ★ソーダのリーダーである貴女と友達になれるのは鼻が高い」

 

「それじゃ、友情の証に、彼の事は諦めるわ。友達を泣かせるなんて、友達失格だから、ね」

 

「ありがとう」

 

「あ、そうだ。友達序にアドバイスしておくと、彼の様なタイプは、ハッキリと気持ちを伝えなきゃ駄目よ。……折角素顔が可愛いんだから、もっと積極的にいかなきゃ、ね」

 

「う、うむ……」

 

 最後に、ウィンクと共にカノカから勇気を受け取る刹那。

 こうして、ユーリアンをかけた二人の女の戦いの幕は閉じられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 騒動終結後。

 ポップ★ソーダの三人は専用ロビーで疲れを癒していた。

 

「あ゛ーっ、づかれだ」

 

「カノカさん、誰も見ていないからと言って、少しリラックスのし過ぎです」

 

 ソファーに大股を開いて座るカノカ。

 もはやファンが見たら絶句する事間違いない、そんな緊張感を解き放った姿を注意する美波。

 

「にゃはは、カノカさん、いくら現実と違って倦怠感や筋肉痛を気にしなくていいからって、気、抜き過ぎにゃ」

 

「うるさいな~」

 

「流石、十九歳と二四〇か月。心身の緩急について熟知していらっしゃる」

 

「ユイ、貴女、今日も毒舌絶好調ね」

 

「それほどでも……」

 

 そして、そんな様子を別のソファーから眺めていたルルとユイ。

 

「所でカノカさーん。どうしてあの子(刹那)にあんなにちょっかい出してたにゃ?」

 

「どうしてって。……何て言うか、似てたから、かな。自信が無くて、勇気が持てなかったあの頃の私にさ」

 

「あ、それって、にじゅうね──」

 

「あらあら~、余計な事を喋っちゃうのは、このお口かしら~?」

 

「にゃぁぁぁっ!? ごめんにゃさいぃぃぃっ!!」

 

 お餅を引っ張るかの如く、黒い笑みを浮かべながらルルの頬を引っ張るカノカ。

 その威力に、ルルは目に涙を浮かべていた。

 

「でも。あの子は私みたいに弱くない、本当は強い子だって分かったし。……それに、あの子の直ぐ近くには、手を差し伸べて支えてくれる沢山の人がいるから大丈夫だって分かったから。だから、ちょっかい出すのは止めたの」

 

「にぁ~、流石はカノカさん。伊達に芸歴"二十"年もある大ベテランの言う事は重みがちがう──、に゛ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「あらあら~、本当によく動くお口ね~。こんなに動いていたら、さぞ凝ってるでしょうに。だから、私がたーっぷり、ほぐしてあ・げ・る」

 

「に゛ぁぁひぃぃぃっ!!」

 

 こうして今日も、アイドルは疲れを癒し、次のステージに挑むのであった。




カノカちゃんは芸歴二十年だけど、十九歳。いいね?
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