機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第三十七話 舞台裏の亡霊たち

 エマージェンシー・オブ・オデッサの開始を明後日に控えたこの日。

 第046独立部隊は最後の追い込みとばかりに、この日もフィールドエリアに出て、戦闘に励んでいた。

 そして、戦闘を終えてオデッサの帰路についたその道中、彼らは、とある大物と遭遇する事となる。

 

「これで!」

 

 木々の間を突き進む、その黄色を基調とした迷彩塗装の巨体。

 進行方向上の木々をなぎ倒しながら進むその迷彩塗装の巨体には、巨大な艦首の連装砲の他、三連装砲塔や対空機銃が備えられている。

 

 熱核ジェット・エンジンによるホバー走行で陸のみならず水上での航行も可能なそれは、まさに移動司令基地と呼ぶに相応しい。

 その名を、ビッグ・トレー。

 地球連邦軍が運用する巨大陸戦艇である。

 

 そんなビッグ・トレーの誇る三連装砲塔や対空機銃からは、既に黒煙が立ち上り、砲身などは衝撃でひしゃげている。

 

 そして、自慢の火力を使用不能にした下手人である赤い巨人は、今まさに、自慢の機動でビッグ・トレーの艦橋に取りつくと、手にしたヒートホークの刀身でトドメを刺すべく、右腕を振り上げた。

 

「!? 何!?」

 

 所が、振り上げた右腕は、下ろされる事はなかった。

 何故なら、振り下ろす寸前、赤い巨人を操るパイロットのもとに、撤退を告げる命令が届いたからである。

 

「く……」

 

 赤い巨人のコクピット内、仮面の向こうの素顔が、苦虫を噛み潰したような顔になる中。

 程なく、赤い巨人は、トドメを刺す事なく、生き残った対空機銃の弾幕を避けつつビッグ・トレーから急速に離れていくのであった。

 

 

 

 

 

 そんな出来事が行われたのが、今から二時間程前の事。

 そして、現在。

 襲撃から辛くも生き残ったビッグ・トレーは、襲撃を受けた地点からそう遠くない場所にある、ヨーロッパのとある後方整備基地にその巨体を停泊させていた。

 

「で、あれが急遽俺達がお守りする事になったデカブツか」

 

「そういう事だ、ボマー」

 

「ふん、急に何をするのかと思えば護衛任務なんて、つまらん」

 

「そう言うな、リッパー。これも、我らがボスからの命令なんだからよ」

 

「ちょっとあんた達! もうすぐ共同で任務にあたる部隊と顔合わせるんだから、私語は慎みなさいよ!」

 

「はー。今日も騒がしい」

 

 そんな後方整備基地の一角。

 輸送機の離発着用に整備された滑走路脇のエプロンに駐機した一機のミデア輸送機。

 形状の一部変更にアビオニクスの改良、更にエンジンの換装等々。大規模な改修が施された、通称後期型と呼ばれる同機は。

 標準色である黄色塗装ではなく、グレーを基調とした塗装が施されている。

 

 この一見して通常とは異なるミデア輸送機後期型を使用する部隊こそ、連邦軍の新兵器実験部隊として設立された同軍所属の特殊部隊。

 第20機械化混成部隊、である。

 

 そして、ミデアのコクピットで好き勝手に言葉を零しているのが、第20機械化混成部隊の主要隊員達である。

 

「大体、他にも護衛の部隊がいるなら、俺達は必要ねぇんじゃないか?」

 

「そういうな、ボマー。あのデカブツは、近々始まる大反攻作戦で、我らがボスが敬愛するレビル将軍が乗艦される"バターン号"の影武者って、大事なお役目を仰せつかってるんだ。つまり、グレイヴにとっちゃ、俺達子飼いの連中以外に、そんな大役を仰せつかったデカブツの護衛を任せきりにするのは不安なんだよ」

 

「だったら、何も俺達じゃなくてもいいだろう。……護衛任務なんて、実に下らん」

 

「だがリッパー。考えようによっちゃ、あのデカブツに引き寄せられて、案外、お前さんの望む強者ってやつが現れるかも知れねぇぞ」

 

 そんな同部隊には、第20機械化混成部隊としての表の顔の他、もう一つ、裏の顔というものが存在している。

 それが、スレイヴ・レイス。

 

 実は、同部隊は"グレイヴ"と言う名のコードネームを使用する、地球連邦軍内のレビル将軍を頂点とする派閥、その中でも強硬派と呼ばれるものに属する高官の一人が、脛に傷を持つ者達の中から各方面のスペシャリストを選出して結成した、所謂私兵部隊である。

 その設立目的は、反レビル派の排除など、決して表に出来ない非合法な任務を行う秘匿懲罰部隊として運用する為である。

 

 隊長のトラヴィス・カークランド中尉、コードネーム・フィクサー。スパイ嫌疑。

 同隊モビルスーツパイロットの一人、フレッド・リーバー軍曹、コードネーム・リッパー。上官殺し。

 同上、マーヴィン・ヘリオット少尉、コードネーム・ボマー。敵を友軍ごと巻き込み爆弾で壊滅。

 同隊のミデア輸送機パイロットにして整備担当、エドワード・リー伍長、コードネーム・ハイヤー。上官に味方爆撃の濡れ衣を着せられ収監。

 同隊の紅一点でオペレーターにして情報のプロフェッショナル、そして、同隊で唯一グレイヴから直接指令を受け取る、ドリス・ブラント曹長、コードネーム・ダイバー。軍のサーバーにハッキング。

 

 と、隊員達は漏れなく脛に傷を持ち、一癖も二癖もある者ばかり。

 だがそれ故に、グレイヴからすれば御し易く、都合の良い存在であった。

 

「だぁ、もう! どうして揃いも揃って野蛮なんですか!? もっとビシッと出来ないんですか!?」

 

「なーに一人でムキになってるんだ、ハイヤー?」

 

「あら、分からない? 久々の"まとも"な任務だから、張り切ってるのよ」

 

「まとも、ね……」

 

 ダイバーの補足に、ボマーは少々腑に落ちないかのように声を漏らした。

 

 今回、彼らスレイヴ・レイス隊に上官(ボス)であるグレイヴが与えた指令は、現在この後方整備基地にて修理の完了を待っているビッグ・トレーの護衛であった。

 とはいえ、本来ならこのビッグ・トレーは、後方整備基地に立ち寄る予定はなかったのだ。

 それが立ち寄らざるを得なくなったのも、予期せぬアクシデント。即ち、ジオン軍部隊との遭遇戦の為。

 

 護衛対象のビッグ・トレーはバターン号の影武者と言う大役を担っていた為、護衛として同行していた戦力は極めて少数で、更に、その移動計画も機密性の高さ故、近隣の友軍に知らされず。

 それが遭遇戦では仇となり、あわや撃沈かと思われたものの、幸運に恵まれ、何とか後方整備基地に立ち寄ったのであった。

 

 所が、立ち寄った後方整備基地は、主に戦車などの車輛やモビルスーツ等の整備に用いられている基地の為、ビッグ・トレーの様な大型陸戦艇の修理に必要な設備や部品等は揃っておらず。

 この為、ここでは簡単な応急処置以外は施せないので、幸いビッグ・トレー自体は自走可能の為、更に後方に存在する設備や部品が整っている基地に向かう事となったのだが。

 そこでもまた問題が発生。

 

 それが、後方整備基地の防衛戦力が現在、所用で最低限を残し出払っている為。

 更に後方の基地までビッグ・トレーの護衛に同行できる戦力がない、という事情であった。

 更に付け加えれば、このビッグ・トレーは大役を担っている故、近隣の友軍から都合をつけて戦力を抽出し護衛させる訳にもいかず。

 かといって、単独で移動させる訳にもいかず。

 

 協議の結果、機密性の高い任務を任せられ、かつ早急に招集できる、そんな"都合のいい"部隊が招集され、護衛戦力として同行させる事が決定したのであった。

 

 そして、そんな都合のいい部隊の一つが、スレイヴ・レイス隊であった。

 

「考えても見ろ、ボマー。影武者とはいえ、栄えあるバターン号の同型艦のお守りだ。光栄な任務だろ?」

 

「しかし、幾ら何でも緊急招集をかけてデカブツのお守りをしろってのは、ちと人使いが荒いとは思わないか、フィクサー?」

 

「……ボマー。我らがボスが、俺達にいたわりの心や思いやりの精神でゆとりあるスケジュールを組んでくれた事があったか?」

 

「……あぁ、そうだったな」

 

 フィクサーの答えに、ボマーは納得したかのように大きなため息を吐いた。

 ボスであるグレイヴの無茶な指令にも忠実に従っているからこそ、スレイヴ・レイス隊の面々は表立って生きていける。

 本来、彼らは薄暗く自由などとは縁遠い独房で長年生活する事になっても不思議ではない、それが日の光を浴びていられるのも、グレイヴの忠実な駒として働いているからに他ならない。

 

「はーい。お喋りはそこまで、さ、支度しなさい、顔合わせに行くわよ!」

 

 刹那、ダイバーが手を叩き、他の面々の注意を引くと、さっさと準備をする旨を告げるのであった。

 

 

 

 

 部隊の性質上、あまり友軍と共同任務を行う事の少ないスレイヴ・レイス隊の面々は。

 顔合わせの為に、着慣れたいつものパイロットスーツから、編入の際に支給されて以来袖を通した回数など数える程しかない軍服に着替え、ミデアから顔合わせの場所に向かっていた。

 

「あー、何だかこう、動きづらいな」

 

「息が詰まる、もっと前を開けていいか?」

 

「二人とも文句言わない!」

 

「そーですよ、大事な顔合わせなんですよ! 第一印象は大事にしなきゃ!」

 

「って言ってもよー。どうせもう、顔合わせる事もないだろ?」

 

「あら、そうとも限らないわよ。今回共同する部隊の一つは、レビル将軍が直々に編成した独立機械化混成部隊の一部隊らしいから、もしかしたら、またどこかで会う事だって考えられるわよ。……それより、あんた達って、本当にパイロットスーツ以外似合わないわね」

 

 文句を垂れるボマーとリッパー、そしてそれをなだめるハイヤーと、面白がるダイバーを他所に。

 隊長であるフィクサーは、顔合わせ場所に佇む数人の人影を一心に見つめていた。

 

「お前ら、今だけはお行儀よくしとけよ」

 

 そして、後ろの面々に気を引き締める一言をかけると、顔合わせ場所である、基地の一角に設けられた天幕の影に足を踏み入れた。

 

「今回、共同でビッグ・トレーの護衛任務に当たる第20機械化混成部隊の隊長を務める、トラヴィス・カークランド中尉だ。よろしく」

 

 刹那、直立不動の敬礼と共に、顔を揃えていた面々に向かって官姓名を名乗る。

 それに続き、スレイヴ・レイス隊の他の面々も官姓名を名乗る。

 

 こうして、全員が名乗り終えると、次いで、先に待っていた部隊の面々が官姓名を名乗り始める。

 

「自分は、MS特殊部隊第三小隊、デルタチームの小隊長を務めますマット・ヒーリィ中尉であります!」

 

「同じく、MS特殊部隊第三小隊のラリー・ラドリー少尉であります」

 

「同じく、アニッシュ・ロフマン曹長であります!」

 

「MS特殊部隊第三小隊のオペレーターを務める、ノエル・アンダーソン伍長です!」

 

 そこにいたのは、MS特殊部隊第三小隊、通称デルタチームの主要隊員と。

 

「では次は僕達が。……アラン・アイルワード少尉です。広域特殊対応MS部隊の第1小隊、SRT-ユニット1(ワン)の小隊長を務めます!」

 

「同じく、SRT-ユニット1(ワン)のデニス・バロウ曹長、よろしく」

 

「同じく、リル・ソマーズ准尉、よろしく」

 

「SRT-ユニット1(ワン)のオペレーターを務めます、ホア・ブランシェット伍長です。よろしくおねがいしますね」

 

 地球上を駆け巡るミデアをイメージした部隊章の通り。

 地球上をその活動範囲として各地を転戦、そして現地の友軍を支援しつつ運用試験等を行う為に設立された部隊。

 広域特殊対応MS部隊の第1小隊、通称SRT-ユニット1(ワン)の面々であった。

 

「いや~、ノエルちゃんのみならず、ドリスさんのような綺麗な方ともご一緒に任務に当たれるなんて、俺、感激だなぁ~」

 

 こうして一通り名乗り終えた所で。

 早速、女性に目がないデニス曹長が口火を切った。

 

「あら、バロウ曹長だったからかしら。アタシの魅力に気が付くなんて、結構、いい目してるじゃない」

 

「いや~、気付かない方がおかしいですよ。ドリスさんの魅力は、隠したくても隠し切れないんですから」

 

「あらやだ」

 

「……、ぷっ!!」

 

「ぐ、ぐふふ……、ぼ、僕ももう、駄目!」

 

「お、俺もだ……」

 

 刹那、堪えきれなくなったのか、ボマー、リッパー、そしてハイヤーの三人が、一斉に腹を抱えて笑い始めた。

 

「だ……、いやドリスの奴が魅力的だって、だははははっ!!」

 

「ど、ドリスさんは魅力的と言うよりも、暴力的の間違いじゃ、あははは!!」

 

「くくく、っははは!!」

 

「あんたたちぃ……」

 

 と、そんな三人の様子を目にしたダイバーの背後から、目に見えぬ怒りの炎を噴出させると。

 デルタチームとSRT-ユニット1の手前、笑みを浮かべながらも、そこには青筋がくっきりと浮かび上がっていた。

 

「ちょっと後でツラかせよ」

 

 そして、ドスの聞いた声で、三人に恐怖の宣告を行うのであった。

 

「はぁ~、まったく。どうして20(フタマル)の連中は、揃いも揃ってお行儀よくできないもんかねぇ……」

 

 念押ししておいたにも関わらず、結局いつもの素顔が出てしまった部下達に、フィクサーは呆れた表情と共にため息を漏らす。

 

「何だか、部下でご苦労されてるみたいですね」

 

「いやまぁ」

 

 と、そんなフィクサーに、不意にヒーリィ中尉が声をかけた。

 それに対して、フィクサーはばつが悪そうに答える。

 

「そういうヒーリィ中尉は、部下でご苦労なさっていなさそうで羨ましい」

 

「いや、そうでもないですよ。優秀過ぎると、それはそれで、隊長の自分が色々と試されて大変ですから」

 

「成程、ね……」

 

 隊長と言う同じ立場の人間、手のかかる部下であってもかからない部下であっても、気苦労が絶えないのは同じ。

 同じ境遇を分かち合った二人の間にあった距離は、少しばかり縮まった気がするのであった。

 

「あのー、隊長同士の会話に、僕も入れてほしいのですが」

 

「ん? おぉ、そりゃすまなかったな、少尉」

 

 と、ここで、二人の会話にアラン少尉も加わる。

 

「所で、少尉」

 

「はい、何でしょうカークランド中尉?」

 

「失礼なことを聞くが……、少尉はその、ちゃんと軍に入隊してもいい歳なんだよな?」

 

「あ、あははは……。童顔だから、よく言われます。これでも一応、二十歳です」

 

 フィクサーの質問に、アラン少尉は苦笑いを浮かべながら答える。

 

「そりゃ悪かった。所で少尉、少尉は部下で気苦労が絶えない事はないのか?」

 

「僕ですか? ……僕はまだ任官して間もないんで、中尉達の様に経験も少なく、毎日気苦労が絶えません」

 

「ははは、そうかそうか。ま、若いうちは色々経験する期間だからな、今の内に存分に苦労しとけば、後々楽できるってもんさ」

 

「結局、三者三様でも、気苦労しているのは同じって事ですね」

 

 隊長と言う重責を分かち合う三人。

 こうして、各々の部下たち同様、三人も少なからず打ち解けてきた所で、三人の話の流れが、今回の任務において最重要の護衛対象であるビッグ・トレーについてのものに変わる。

 

「所で、あのビッグ・トレーについてだが」

 

「えぇ、報告によれば、移動の最中にジオンのモビルスーツと遭遇して損害を受けたと聞いています」

 

「その数は?」

 

「それが、相手は単機だったそうです」

 

 ヒーリィ中尉の言葉に、フィクサーとアラン少尉の表情に険しさが増す。

 

「単機で、ビッグ・トレー相手にあれだけの損害を!?」

 

「いや、ビッグ・トレーだけじゃない、少数とはいえ護衛も付いてたはずだ、それを考慮しても……」

 

「えぇ、護衛を容易く撃破し、ビッグ・トレーに単機で挑みあれだけの損害を与えた相手。……乗組員からの報告では、そのモビルスーツは"赤いザク"だったそうです」

 

 そして、ヒーリィ中尉の言葉に、フィクサーとアラン少尉は思わず息を呑んだ。

 何故なら、連邦軍将兵にとって赤いザクとは、畏怖すべき存在だからだ。

 

 その由来は勿論。

 緒戦の一大決戦であるルウム戦役において、シャア・アズナブルがパーソナルカラーの赤に染めたザクIIで、通常の三倍のスピードと恐れられる速さで大戦果を挙げたからに他ならない。

 

「だけど、確か赤い彗星は夏ごろには、ザクからスカート付き、リック・ドムと呼ばれるモビルスーツに乗り換えていた筈では?」

 

「そうだな。それに、最近じゃ、大西洋で赤く塗装されたジオンの水陸両用モビルスーツの目撃情報もある。赤い彗星本人の確率は低そうだな」

 

「えぇ、お二人の言った通り、下手人は赤い彗星ではないでしょう」

 

「なら、ヒーリィ中尉は赤いザクの正体は、一体何者だと考えてる?」

 

「おそらく、難読彗星の沙亜、ではないかと。その証拠に、乗組員からの報告では、赤いザクは通常のザクとは異なる改造型だったと報告されています」

 

「難読彗星の沙亜、あの赤い彗星の双子の兄弟だとかって噂されてる凄腕か。……そういえば奴さんは、ヨーロッパで精力的に活動してたんだったな」

 

「そのパイロットの事なら僕も知ってます。確か、地球侵攻の緒戦でヘビィ・フォークを単機で撃破したって言われている……」

 

 ただ、ヒーリィ中尉は、赤いザクの正体を、報告内容などからシャア・アズナブルではなく、沙亜 阿頭那武婁の方であると推測していた。

 

「ま、どっちのシャアにしても、再度襲ってこられたら、厄介な相手になる事は間違いはないがな」

 

 しかし、フィクサーの言葉通り。

 連邦軍将兵にとっては、どちらの赤であっても、難敵である事に違いはなかった。

 

「あの、その事で少し、思う所が」

 

「ん?」

 

「報告によれば、赤いザクはトドメを刺す寸前で撤退していった。難読彗星の沙亜程の腕のパイロットなら、確実にトドメは刺せた筈。それを寸前で撤退したのは、何かしらの思惑があるんじゃないかと」

 

「ヒーリィ中尉、その思惑と言うのは?」

 

「ここからは、自分の勝手な予測ですが。もしかしたら、俺達デルタチームが元々当たっていた任務に、関わってくるんじゃないかと思えるんです」

 

「その、任務ってのは?」

 

「モビルスーツ用の携帯可能なビーム兵器を標準装備した、ジオンの新型モビルスーツの調査です」

 

 ヒーリィ中尉の私見を聞き、フィクサーとアラン少尉は眉を顰める。

 二人も、その新型モビルスーツの情報は耳にしていたからだ。

 

 未だ対峙した事のない噂の新型モビルスーツと、今回の任務で対峙する事になるかもしれない。

 

 ビーム兵器が如何程の脅威となるか、そして、その脅威に対する対応策や経験が十二分にあるか。

 考えれば考える程、ヒーリィ中尉とアラン少尉の表情は、万全とは言い難い現状に、不安の色が濃くなる。

 

 そんな二人の様子を見ていた、最年長のフィクサーは、不意に、二人の肩にそれぞれ手を置き、不安を少しでも和らげるかのように語り始めた。

 

「ま、まだその新型がやって来るって決まった訳じゃねぇんだ。不確かな事なら、頭の隅に置いておいて、もう少し気楽にいこうや」

 

「カークランド中尉……」

 

「それに今は、目の前にある確実な問題を解決するのに尽力するのが、先決じゃねぇか?」

 

 そして、フィクサーが二人に対して視線で示した先には。

 

「わ、私はまだヒヨッコだって言うの!!」

 

「元オーガスタだか何だか知らないが、あんたからは、一人前の兵士としての自覚ってものが感じられないな」

 

「むっきー! ガンダムタイプに乗ってるからって、何よその余裕ぶった態度! 大体、私は准尉で! あんたよりも階級が上なんだから!」

 

「一人前の兵士に階級の優劣は関係ないだろ」

 

「何だ何だ、痴話喧嘩か? いいぞ! やれやれ!」

 

 火花を散らしていがみ合い、今にも手が出そうな程一触即発のリッパーとリル准尉。

 そして、そんな二人を煽るロフマン曹長の姿があった。

 

「あのじゃじゃ馬娘……」

 

「アニッシュの奴……」

 

「ははは! という訳で。先ずは目の前の問題を片付けるとしますか」

 

 余計な気苦労を増やしてくれる各々の部下達を注意すべく、三人の隊長は動き出すのであった。




いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。
そして、お気に入り登録、並びに評価や感想など、皆様からの温かな応援は、執筆の大いなる励みになりました。
更には、誤字報告や気になった箇所へのご指摘等、こちらも本当にありがとうございます。

最後に、今後とも、どうぞご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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