機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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外伝 ヅダる

 第046独立部隊が、ヨーロッパの片隅でオールスターと戦闘に興じていた頃。

 遥か空の彼方、大宇宙(大空)の只中にぽつんと浮かぶ宇宙要塞ア・バオア・クー。

 同宇宙要塞を拠点に活動を行っている第100技術試験隊。

 

 同隊の面々、特に軍団長を務めるスバル少佐は、今日も専用ロビーで、新たな新規加入者が現れない事を嘆いていた。

 

「むぅ……。今日も、駄目か」

 

 ソファーに腰を下ろし、手にしたタブレット端末の画面を目にしながら、スバル少佐は本日何度目かのため息を漏らした。

 タブレット端末の画面に表示されていたのは、第100技術試験隊への新規加入者の加入状況確認画面だが。

 その画面内の、加入希望者募集覧の数字は、今日も変わらず"ゼロ"のままであった。

 

「やはり……、ヅダの素晴らしさを長々と語るだけでは、他のプレイヤー達の心に突き刺さらぬか」

 

 タブレット端末を見るのを止めると、スバル少佐は、どうやればこの状況を劇的に変化させられるのかを考え始める。

 

「おぉ、そうだ。人々の心に強烈なインパクトを残すパワーワードとやらを使って、プレイヤー達の注目を集めてみるか!」

 

 そして、一つの具体案を思いつくと、早速募集要項の改訂用の原文の作成に取り掛かるスバル少佐。

 それから暫くして、スバル少佐はタブレット端末を操作していた手を止めた。

 どうやら、とりあえず下書きが完成したようだ。

 

「スバル少佐。さっきから何の作業をしてたんです?」

 

「おぉ、ヒトデ軍曹、聞いてくれ! プレイヤー達に強烈なインパクトを残し、我らが第100技術試験隊の名を広める為のパワーワードを使った募集要項の下書きが完成したのだ!」

 

「パワーワード、ですか? それって、どんな言葉なんです?」

 

「"ヅダる"、だ」

 

 ふと、スバル少佐の作業が気になり声をかけたヒトデ軍曹は、スバル少佐の口から飛び出したパワーワードに、どう反応していいか、困惑の表情を浮かべる。

 

「そ、それはどういう意味の言葉なんですか?」

 

「一歩先ゆく、とか、他社より早い! とか、速さが足りてる!! というポジティブな意味だ!!」

 

「そ、それはいい意味、ですね」

 

 スバル少佐からヅダるの意味を聞き、ヒトデ軍曹はとりあえず愛想笑いを浮かべながら称賛の言葉を述べる。

 しかしその実、内心では、"使い過ぎるとオーバーヒートを起こして炎上(空中分解)する"、という不吉な意味を連想し、不安を覚えずにはいられなかった。

 

「で、ですがスバル少佐。その……」

 

「ん? あぁ、そうだな、いやヒトデ軍曹、言葉にせずとも分かっている」

 

 最も、言葉の意味は兎も角。

 ヒトデ軍曹は、そんなパワーワードを使う事は、恥ずかしくて恥の上塗りになるのではと危惧し、スバル少佐に忠告しようとしたが。

 スバル少佐はヒトデ軍曹の言葉を遮る。

 

 その瞬間、ヒトデ軍曹は、やっぱりスバル少佐も内心では分かっていた、と安心したが。

 

「確かに、このヅダるだけではまだインパクトが足りないだろう。なのでもう一つ、秘策を用意している。そう、記念日だ! ヅダ記念日を制定し、ヅダるとセットで、ヅダの人気促進を更に図ろうではないか!! ……あぁ、勿論記念日の日付は十一月九日だ!」

 

 それも、一瞬の事。

 スバル少佐の口から更に語られた話の内容に、ヒトデ軍曹は愛想笑いを浮かべつつ、内心涙を流すのであった。

 

「ヒトデ軍曹! 言うならハッキリ言わなきゃ駄目よ! 変に気を使うとスバル少佐のためにもならないわ!」

 

 と、それまでスバル少佐とヒトデ軍曹の一連のやり取りを黙って見ていたモナカ曹長が、遂に口火を切った。

 

「あー、でも、曹長……」

 

「いいわ、軍曹が言い難いのなら、私がハッキリと言います!」

 

 そして、スバル少佐に気を使い、本当のことを言えないヒトデ軍曹に代わり、モナカ曹長はスバル少佐が考案したヅダの人気促進案の感想を述べ始めた。

 

「スバル少佐、"ヅダる"や"ヅダ記念日"の案についてですが、ハッキリ言って恥ずかしすぎます! それでは、人が集まるどころか、ますます敬遠されて逆効果です!!」

 

「う……」

 

「大体ヅダは、公式の設定からしてマイナススタートなんです! それを、小手先のイメージアップ戦略でどうこうできるものではありません!!」

 

 モナカ曹長の口から飛び出した耳の痛い言葉の数々に、スバル少佐は胸を押さえた。

 

「あの、ちょっと言い過ぎじゃ……」

 

「いいのよ、少佐にはあれ位ハッキリ言わないと分からないんだから」

 

 そして、分かり易いほどに肩を落として落ち込むスバル少佐。

 

 だが程なく、少し立ち直ったのか、先ほどのモナカ曹長の指摘に対する返答を弱弱しい声で伸べ始めた。

 

「確かに、モナカ曹長の言う通りだ。……あれでは、むしろ逆効果だな」

 

 どうやら、スバル少佐自身も薄々は感じていたようで。

 モナカ曹長にハッキリと指摘され、断念する事を決めたようだ。

 

「モナカ曹長、君に言われて目が覚めたよ。そうだ、迷う事はない! 我らの行うべきは単純明快! ヅダの素晴らしさを広めるのに言葉は不要だ! この手で戦果を上げ、勝利の栄光を掴み、ヅダは厳然と存在しているのだと証明すればいいのだ!!」

 

 モナカ曹長の指摘を受けて、迷走を続けていた自分自身に気が付いたのか。

 スバル少佐は、原点回帰、ヅダで戦果を上げ、ヅダの素晴らしさを他のプレイヤー達に訴える事を改めて誓うのであった。

 

「ではスバル少佐! 早速連邦の上級プレイヤーを撃破すべく出撃しますか!?」

 

「いや、そうしたいのは山々だが……」

 

 早速出撃に取り掛かるものと思っていたヒトデ軍曹に対し、スバル少佐は待ったを掛けた。

 

「君も知っての通り、エマージェンシー・オブ・オデッサの開始日が間近に迫っている。その為、連邦はもとよりジオンにおいても、宇宙で活動しているプレイヤーの多くが地上に降りているのだ。故に、現状では、以前の様に上級プレイヤーと遭遇できる確率は低いと言わざるを得ない」

 

 どうやら、イベント開催の影響により、宇宙で活動するプレイヤーの活動エリアに変化が生じているようだ。

 その為、全員ではないようだが、ガンダムタイプ等を使用する上級プレイヤーとの遭遇の確率が低下しているとの事。

 

「加えて。……私のヅダがあの様な状態では」

 

 しかし、スバル少佐の話しぶりから察するに、この変化が出撃に二の足を踏ませる最大の原因ではないようだ。

 どうやら、最大の原因は、スバル少佐の使用する相棒のヅダにあるようだ。

 

「でも、Dr.Fも言っていたじゃないですか、機動性と攻撃力は大幅にパワーアップしていると。あの機体なら、どんな相手でも今まで以上に戦えますよ!」

 

「だが! その代償として! あのヅダは、最早私の愛したヅダではなくなってしまった……」

 

「まぁ確かに、Dr.Fの改良を受けたスバル少佐のヅダは、私達の知るヅダとは外見が大きく異なりますが。しかし、基になったのはヅダである事に変わりはないので、あれもまたヅダです」

 

「だがな……」

 

 そう、実はスバル少佐の相棒のヅダ。

 以前、Dr.Fからヅダの改良と引き換えにSIN・ZOCKなる改造モビルスーツ、否、モビルアーマーの実戦テストを引き受けた際に、約束通りDr.Fの手により改良が行われたのだが。

 どうやら、スバル少佐にはその改良がお気に召さなかったようで、それが、出撃に二の足を踏ませる最大の原因となっていた。

 

「だが、脚部を変更した上、各部にスラスターノズルを増設、極めつけはあの美しい土星エンジンを、サブ・アームを装備した高速機動姿勢制御用の大型バックパックに換装させられ! そこにプロペラントタンク兼用の巨大ロケットブースターを取り付け、更に更に各武装を搭載させられているのだぞ! もはやこれでは、ヅダの皮を被ったサイコ・ザクではないか!!」

 

 スバル少佐の説明の通り、Dr.Fが改良した彼のヅダは、まさにヅダをベースとしたサイコ・ザクと呼ぶに相応しい、機動力と火力の可能な限りの強化に重きが置かれた改良が施されていた。

 その為、その外見はまさにサイコ・ザクならぬサイコ・ヅダと呼ぶに相応しいものとなっており。

 

 それを踏まえてか、Dr.Fはこの改良機に、ヅダ・サイコー、との名称を与えている。

 

 因みに、名称の由来は参考元となったサイコ・ザクの"サイコ"と"最高"をかけているものと思われる。

 なお、操縦方法は参考元となったサイコ・ザクのような四肢を義肢化し直接機体と接続し操縦する、リユース・サイコ・デバイスではなく、通常の操縦桿を使用する操縦方法である。

 

「あんな、ヅダの皮を被っただけのサイコ・ザクに乗って戦果を上げるのは、私の本意ではない」

 

「ですがスバル少佐。代わりのヅダを再度購入する為のゴールドが足りない現状、少佐にはあのヅダ・サイコーで出撃してもらうしかありません」

 

「あ! だったら、少佐のヅダ・サイコーと僕のヅダ、交換しますか? それならノーマルな外見のヅダになりますから」

 

「駄目だ! ヒトデ軍曹、君のヅダには角が付いていないではないか!」

 

「えぇ……」

 

 自身の提案を、角が付いていないという謎のこだわりを理由に一蹴され、困惑するヒトデ軍曹。

 そんなヒトデ軍曹を他所に、スバル少佐は腕を組み暫し目を閉じ黙考すると。

 

 程なく、腹をくくったかのように、目を見開いた。

 

「不本意ではあるが、背に腹は変えられん。今回はヅダ・サイコーで出撃しよう」

 

 こうして、スバル少佐本人にすれば一大決心を決めた所で、第100技術試験隊はヘルヘイムと共に宇宙要塞ア・バオア・クーを出航した。

 

 

 

 

 

 

 宇宙要塞ア・バオア・クーを出航したヘルヘイムは、特に当てもなく航海を続けていた。

 

「スバル少佐。出撃したのはよろしいですが、今回はどのような相手を探しているのですか?」

 

「今回はゴールド稼ぎが目的の為、戦うのはNPC部隊でも構わん」

 

 どうやら、宣伝効果である本来の目的は、あくまでもノーマルなヅダで成し遂げたいらしく。

 今回の出撃は、ヅダを再び購入する為の準備に当てるようだ。

 

 こうして、ゴールド稼ぎの為にNPC部隊を探し回る事十数分。

 何故か出てきてほしい時に限って直ぐに現れない、という状況に、若干イライラを募らせていた矢先。

 

 不意に、艦橋乗組員から急を告げる報告が告げられる。

 

「司令! 友軍の救援要請を受信しました!」

 

「救援要請だと!?」

 

 報告によれば、救援要請はコマンダープレイヤーから近隣の友軍部隊に発せられたものらしく。

 その内容は、隷下の部隊が輸送部隊を護衛の最中、連邦軍の艦隊から攻撃を受け苦戦中、との事。

 

「司令、いかがしますか? 救援を求めている部隊と本艦との距離はさほど離れておりませんが?」

 

「艦長、尋ねるまでもあるまい。我々は、友軍の危機を決して見過ごす事はない!」

 

「アイ・サー! 進路変更、方位0-9-0(まる・きゅう・まる)、前進強速!」

 

「方位0-9-0(まる・きゅう・まる)、前進強速、ヨーソロー!」

 

 艦長の号令と共に、艦橋内に一瞬揺れが起こると。

 刹那、ヘルヘイムは艦首を東へと向けると、エンジンが唸りを上げ、救援を求めている友軍部隊のいる宙域に向け、大宇宙(大空)を進む。

 

 

 

 それから更に十数分後。

 ヘルヘイムは、救援要請を出した友軍部隊のいる宙域に到着した。

 

「トウバンジャン・リック・スバル! ヅダ・サイコー、出るぞ!!」

 

 ヘルヘイムの左舷コンテナ式格納庫から、ハッチが開かれグリーンのランプが灯ると同時に大宇宙(大空)へと放たれるヅダ・サイコー。

 それに続き、右舷コンテナ式格納庫から、モナカ曹長とヒトデ軍曹のヅダが続く。

 

「スバル少佐、どうです? ヅダ・サイコーの乗り心地は?」

 

「ん、まぁ、悪くはないな……」

 

 改良以降、今回初めてヅダ・サイコーを操縦したスバル少佐は、以前のヅダと比べても遜色ない、否、むしろ操縦性が向上している事を素直に認めた。

 案外、勝手に食わず嫌いしていただけで、ヅダ・サイコーは本当はその名の通り自分にとって最高のモビルスーツなのではないか。

 スバル少佐の中に、そんな感情が芽生え始めていた。

 

「だが本当に最高かどうかは、実際に戦ってみなければ分からん」

 

「スバル少佐、何か仰いましたか?」

 

「いや、ただの独り言だ。……それより、突入するぞ、気を引き締めろ、二人とも!」

 

 しかし、今は目の前の戦闘に集中せねばと気持ちを切り替えると。

 ヅダ・サイコーを先頭に、三機のヅダタイプは、幾つもの光線や火線が飛び交い、光球が生まれては消える、そんな戦場の只中へと飛び込んでいった。

 

「こちら第100技術試験隊、要請に基づき、これより貴隊の援護に入る!」

 

「おい、今第100技術試験隊って言ったか!?」

 

「えぇ、間違いなく言ってましたよ、先輩」

 

「第100技術試験隊って、あのヅダしか使わない連中だろ、大丈夫なのか?」

 

「でも先輩、今はないものねだりしても仕方がないですよ。欠陥だろうと変態だろうと、救援に来てくれただけでも有難いと思わないと」

 

「むぅ、そうだな……」

 

 要請受諾の一報を入れるや、何やら救援要請を出したコマンダープレイヤーとその隷下のプレイヤーから、耳の痛い本音が漏れ聞こえてくるも。

 スバル少佐はそんな彼らの本音を聞き流すと、直ぐに気持ちを切り替え。

 眼前に迫るジム目掛けて、照準を合わせると、右腕と右側のサブ・アームに装備したザクマシンガンを発砲させた。

 

 一二〇ミリ弾の火線を浴びて、程なく光球に包み込まれたジムを尻目に、スバル少佐は新たな獲物を探しつつ、コクピット内で小さく独り言ちた。

 

「この火力、この機動性。……素晴らしい」

 

 刹那、ヅダ・サイコーのプロペラントタンク兼用の巨大ロケットブースターが更に唸りを上げた。

 

「ならばもっと、お前の素晴らしさを見せてくれ!!」

 

「し、少佐! ま、待ってください!」

 

「凄い、このヅダの加速性をもってしても追いつけないなんて」

 

 その加速性でモナカ曹長とヒトデ軍曹のヅダを引き離すと、ヅダ・サイコーは単機で戦場を駆け回り始める。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「ジオンの新型か!?」

 

 弾幕を掻い潜り、速度を落とす事なく、本体の両腕とサブ・アームに装備した武装の火力をもって、一撃離脱でジムやボールを葬っていくヅダ・サイコー。

 その姿に、対峙する連邦軍の将兵達は恐れ戦く。

 

「素晴らしい加速性、それでいてこの操縦性! 最高だ! Dr.F、貴方の改良したこのヅダは、ヅダ・サイコーは最高のモビルスーツだ!!」

 

 出撃前とは一転。

 ヅダ・サイコーの性能に魅入られ、その素晴らしさに感動したスバル少佐。

 

「ではそろそろ、大物を仕留めにかかるとするか」

 

 そして、一度戦場から距離をとったヅダ・サイコーのコクピット内で、スバル少佐は、ヅダ・サイコーのモノアイが捉えた大物。

 連邦宇宙軍の主力戦艦であるマゼラン級宇宙戦艦を撃沈するべく、今一度、操縦桿を握り直した。

 

「ゆくぞ!!」

 

 刹那、スバル少佐の声と共に、ヅダ・サイコーはターゲットであるマゼラン級宇宙戦艦目掛け突撃を開始する。

 

「艦長、本艦上方より敵機、急速接近!」

 

「弾幕を張って撃ち落とせ!」

 

 と、ヅダ・サイコーの接近に気付いたマゼラン級宇宙戦艦から、ヅダ・サイコー目掛けて多数の火線が伸び始める。

 船体の各所に装備された連装対空機銃より放たれる多数の銃弾を、減速する事無く掻い潜りながら、ヅダ・サイコーはターゲットのマゼラン級宇宙戦艦を射程内に収めるべく更に接近を続ける。

 

「この一撃、受けてみろ!」

 

 そして、ターゲットのマゼラン級宇宙戦艦を両腕と左右のサブ・アームに装備したジャイアント・バズの射程内に捉えた刹那。

 四つの発射口から、三六〇ミリのロケット弾がマゼラン級宇宙戦艦に向けて放たれた。

 

 程なく。

 ヅダ・サイコーが脇を抜け通り過ぎるのと同時に、四発もの三六〇ミリロケット弾が直撃したマゼラン級宇宙戦艦は、轟音と共に巨大な光の中へと消えた。

 

 そして、まるでその巨大な光が退却の合図となったかのように。

 マゼラン級宇宙戦艦の轟沈と共に、残存していた連邦軍艦隊が次々と戦闘を中止し、宙域から退却を始めた。

 

「やりましたね! スバル少佐!」

 

「まさに一騎当千のご活躍でした」

 

「ありがとう。だが、この勝利は、このヅダ・サイコーのお陰だよ」

 

 程なく。宙域に、再び静寂が戻った。

 そんな中、モナカ曹長とヒトデ軍曹のヅダと再び合流を果たしたスバル少佐は、勝利の余韻を分かち合うのであった。

 

「あー、こちら指揮官のカルクル大佐だ。第100技術試験隊、今回の貴隊の援護、誠に感謝申し上げる」

 

 と、そんな三機に近づく一隻のムサイ級。

 軍団長であるカルクルが座乗する、エムデンII(ツヴァイ)である。

 

「いやー、まさかこんなに予想以上に活躍するな……、いやいや、本当にありがとう!」

 

「先輩、本音がダダ漏れですよ」

 

「いやだって、全然期待してなかったのにここまで活躍されちゃ、驚かずにはいられないでしょ」

 

「それでも、もう少し本音は隠しておきましょうよ」

 

 救援要請に応じて援護してくれた礼を述べる為に通信を入れたようだが、後半からは、カルクルとルーターによるただの本音の言い合いになってしまっていた。

 

「では、安全も確認できたので、我々はこれで失礼させていただく」

 

「あ、あぁ。また共闘する事があれば、その時はよろしく」

 

 そんな自分勝手な二人のやり取りに少々辟易しつつも。

 文句を言う事なく最後に一声かけると、三機のヅダタイプは、機体を翻し、ヘルヘイムへの帰還の途に就くのであった。

 

 

 

 

 

 無事にヘルヘイムへの帰還を果たし、更には宇宙要塞ア・バオア・クーへの帰港を果たした第100技術試験隊。

 帰港と同時に自身の自室へとやって来たスバル少佐は、今回の大戦果とも呼べる勝利の余韻を噛みしめつつ、手にしたタブレット端末で、今回の戦闘の結果を確かめていた。

 

「……な!?」

 

 今回の戦闘で自らが撃破した内容を改めて確認している間は、笑みがこぼれていたスバル少佐であったが。

 弾薬や推進剤等の支出項目を目にするや、その先ほどまでの喜びは雲散霧消した。

 

 と言うのも、それら支出が以前のヅダに比べ、想像以上に割高となっていたからだ。

 

「ま、まぁ、致し方ない、か……」

 

 あの性能故、この支出は致し方ないと、まるで自分自身に言い聞かせるように独り言ちるスバル少佐。

 そして、結果を確かめ終えると、自室から第100技術試験隊専用ロビーへと足を運ぶ。

 

「少佐! 大変ですよ!」

 

 専用ロビーへと足を運ぶと、一足先に着ていたヒトデ軍曹が、何やら慌てた様子で近づいてきた。

 

「ん? 一体どうしたんだ?」

 

「実は、さっきの戦闘の様子がもう広まったのか、多数のプレイヤーから問い合わせが殺到してるんです!」

 

「何だと!?」

 

 ヒトデ軍曹の言葉を聞いた瞬間、スバル少佐は、待ち焦がれた瞬間が漸く訪れたのだと確信した。

 苦節数週間、長く辛い日々を乗り越え、漸く希望の光が差し込み始めた。

 そう、我々の野望は、ここからが始まりなのだ。

 

 と、ヒトデ軍曹の目も気にせず、スバル少佐は歓喜のあまり目に涙を浮かべたが

 

「……あの、それが。言い難いんですが。……問い合わせは、加入希望ではなく、ヅダ・サイコーは誰が造ったのか教えてほしい、との問い合わせで」

 

 刹那、浮かべていた涙は、何処かへと消えてしまった。

 

「……、そ、そうか」

 

 そして、明らかに意気消沈した様子で、ソファーに腰を下ろすのであった。

 

「スバル少佐、そう気を落とす事もありませんよ。確かに今回は、狙い通りにはいきませんでしたが。今後もこの調子で続ければ、何れ加入希望者も現れますよ」

 

「そ、そうですよ! 頑張りましょう!」

 

 スバル少佐のそんな姿を見ているのが辛くなったモナカ曹長とヒトデ軍曹は、直ぐに彼を励ますべく言葉をかける。

 しかし、スバル少佐は小声で呟き続けるだけで、二人の言葉が耳に入っている様子はなかった。

 

 なので、ここは暫くそっとしておくのがよいか、とモナカ曹長とヒトデ軍曹が判断した、刹那。

 

「そうだ! やはりヅダはヅダでヅダでなければならんのだ!!」

 

 突如立ち上がると、気落ちした様子も見せず、力強く、意味不明な言葉を口にした。

 

「やはりヅダの素晴らしさを伝えるには、手を加えず、ありのままのヅダを使わなければならない!! よって、ヅダ再購入のゴールドを得た今、ヅダ・サイコーは封印する事とする!」

 

 そして、先の戦闘で称賛していた筈のヅダ・サイコーを、今回限りで使用を禁止する旨を宣言するのであった。

 

「でも少佐。それだと今までと変わりなく……」

 

「安心したまえ、勿論、手は考えている。今度、料理のコラボ企画第二段に向けて、新メニューのアイデア募集が行われるので、そこで! ヅダを模した料理のアイデアを出してみようと思う!」

 

「もう料理のアイデアは考えてたりするんですか?」

 

「一応今考えているのは、ヅダの色合いにかけてソーダ味のゼリーだ。因みに商品名は、ヅダとゼリーを掛け合わせて、"ヅリー"、だ」

 

 名前は兎も角、料理としてはいい線いっていると感じたモナカ曹長とヒトデ軍曹。

 

「因みに、このヅリーにピッタリなキャッチコピーも考えている! "食べた瞬間、お口の中が空中分解"、だ! どうだ、なかなかいいキャッチコピーだろう!!」

 

 自信満々に、これは入賞間違いなしと信じてやまないスバル少佐。

 一方、キャッチコピーを聞いたモナカ曹長とヒトデ軍曹の二人は、先程までとは一転、入賞どころか不採用間違いなし、と、見通しが暗い事を確信するのであった。

 

 どうやら、彼らの苦節の日々は、まだまだ続きそうである。




ご愛読いただき、本当にありがとうございます。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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