機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第四十話 オデッサ、怒りのデス・マーチ

 

 秒針が規則正しいリズムを刻みながら、頂点を目指して動き続ける。

 やがて、秒針が頂点である十二の地点へと到達した刹那。

 

 多くのプレイヤー達が待ちわびたイベント、エマージェンシー・オブ・オデッサ開始の大号令が下されるのであった。

 

 

 

 イベントの開始と同時に、地上と宇宙で、早速激しい砲火が交わり始める。

 この日の為に準備してきた両陣営の参加戦力は、平原で、市街地で、海で、軌道上で、持てる火力を敵に向かい投射していく。

 

 東ヨーロッパ地方に広がる連邦とジオンの連綿と連なる最前線においては、特に至る所で戦闘音が鳴り響き、一進一退の攻防戦が繰り広げられている。

 それはまさに、戦闘音の聞こえない場所を探す方が苦労する程であった。

 

 そんな東ヨーロッパ地方の最前線の一角である、旧ウクライナと旧ポーランドの国境の一角。

 周囲を地平線の彼方まで続く田畑や草原等で囲まれた中に、幾つかの民家が立ち並ぶ集落が存在する、そんなのどかな風景が広がる場所で、連邦軍の攻勢を押しとどめるジオン軍の部隊。

 陸戦高機動型ザクを操るジオン軍パイロットは、倒しても倒しても湧いてくる連邦軍部隊に対して、コクピットの中で堪らず毒づいた。

 

「くそ!! 連邦の連中はラッドローチかよ!! 一輌見つけりゃ百輌はいるってか!!」

 

 地平線を埋め尽くさんばかりの61式戦車に、その間を縫うように進む各種ジムの数々。

 装備したザクマシンガン中期生産型が幾ら火を噴いても、61式戦車を何輌も火達磨にしても、次から次へと後続が現れる。

 まさに、終わりの見えぬ地獄であった。

 

「増援はまだなのか!?」

 

「それがまだだ──」

 

「っ! くそが!!」

 

 近くで戦う味方の陸戦高機動型ザクと通信を行っていた刹那、味方の陸戦高機動型ザクが突如爆発と黒煙の中に消える。

 それは、上空を我が物顔で飛び去った、連邦の鋼鉄の怪鳥の仕業であった。

 

「空軍の連中は何しているんだよ!!」

 

 空軍の情けなさを嘆きながら、彼は必死に戦闘を継続する。

 すると、ふと、対峙している連邦軍の大部隊の動きが止まっている事に彼は気が付く。

 

「何だ?」

 

 この不可解な連邦軍の行動に、疑問を浮かべていると。

 刹那、彼はレーダー画面に、連邦軍の大部隊の後方から高速で接近する反応がある事に気が付く。

 やがて、モノアイの補足可能範囲にまで接近した反応の正体を目にして、彼は愕然とした。

 

「で、電車ぁっ!!?」

 

 風切り音を響かせ田畑の中をひた走るのは、何処かクラシカルな外見を有した電車であった。

 戦場のど真ん中に突如として現れた電車の姿に、彼のみならず、付近のジオン軍将兵達は動揺を隠せない。

 

 連邦軍の大部隊の後方から現れた所を鑑みるに、電車を差し向けたのは連邦軍である事は確実だが。

 それにしても、連邦軍側の意図が全くもってつかめない。

 

 そんなジオン側将兵達の心情を他所に、まるでここが戦場である事を忘れさせるかの如く、悠々と線路を走る電車。

 その姿に、遂に一人のパイロットの堪忍袋の緒が切れ、装備するザクマシンガンのトリガーを引いた。

 刹那、放たれた一二〇ミリ弾は電車に吸い込まれるように飛来すると、当然のことながら防弾を考慮していない車体を安々と貫いた。

 

「え──」

 

 次の瞬間であった。

 突如、電車の内部から強力な光が溢れたかと思えば、巨大な炎と衝撃波が周囲に襲い掛かっていた。

 もはや防御する事も逃げる事すらも許されぬ一瞬の間に、周囲は炎と黒煙の立ち上る地獄へと変貌し、彼を含む多くのジオン軍将兵達を焦土の養分へと変貌させた。

 

「前進!」

 

 目の前で巻き起こった一連の光景を目にしていた連邦軍の大部隊は、程なく、指揮官の号令と共に障害の取り除かれた大地を、再びオデッサを目指し前進を再開させるのであった。

 

 このように、奇抜な方法でジオン側の防衛線を突破する連邦側だが。

 実は、この様な光景は、東ヨーロッパ地方の最前線の各所で同様の光景が見られていた。

 そしていずれも、その肝となっていたのが、電車であった。

 

 

 そう、これこそ、今回のエマージェンシー・オブ・オデッサの開始に合わせて連邦側が用意したジオンの防衛線突破の為の秘策の一つ。

 その名も"無人電車爆弾"である。

 ミノフスキー粒子により、従来の長距離からの無人機を用いた複雑で繊細な攻撃が行えなくなった現状において、線路上と言う制約はあるものの、裏を返せば、線路が目的地までつながっていれば確実に到達することが出来る。

 また、電車と言う、兵器とは正反対な性質の物を用いる事により、ジオン側の警戒感を緩ませる。

 ヨーロッパ一円に整備された鉄道網を利用し、無人走行可能に改造した電車に、電車の持つ強力なペイロードを用いて大量の爆弾を満載しジオン側の防衛線にぶつけ、突破口を作り出す。

 

 この様に無人電車爆弾を用いて防衛線突破を図る作戦を、連邦側は、ローマ神話のワインの神様である"バックス"、日本では英語読みのバッカスとも呼ばれるそれにちなんで、"バックス作戦"と名付けていた。

 

「進めぇーーーっ!! ヒャッハーーーーーッ!!!」

 

 そして、バックス作戦は成功を収めていた。

 無人電車爆弾を用いて一時的に生じた突破口から、連邦軍の部隊が次々と進出していた。

 その中の一つに、奇妙な集団の姿があった。

 

「進めーーーーっ!! 我らが偉大なる61式戦車(ロクイチ)の素晴らしさをジオンのモビルスーツパイロット(異教徒)共に思い知らせてやるのだぁぁぁぁぁっ!!!」

 

61式戦車(ロクイチ)を讃えよ!! たたえよぉっ!!!」

 

「「「61式戦車(ロクイチ)!! 61式戦車(ロクイチ)ッ!!」」」

 

 見事なまでのパンツァーカイルを形成し、巨大な土埃を巻き上げながら草原を突き進むのは、61式戦車の集団。

 しかし、その集団の61式戦車は、他の61式戦車とは明らかに一線を画す見た目をしていた。

 

 まず目につくのは、車体の各部に取り付けられた棘状の突起物、鎖や槍に髑髏をあしらった物や、鉄板などの不釣り合いな追加装甲。

 極めつけは、連邦軍の軍服を着崩し、金属製のマスクや棘の付いた肩パッドやモヒカンヘアー、更には現実であれば懲戒処分の対象は確実な、顔に揃いのタトゥーを入れた者達がタンクデサントしている。

 

 その姿は、もはや規律と秩序を重んじる軍隊ではなく、ポストアポカリプスな世界からやって来た無法者たちそのものであった。

 

 だが、そんな世紀末然な姿をした彼らも、れっきとした地球連邦軍の一員である。

 厳密にいえば、地球連邦側でプレイしているプレイヤー・ギルドの一つ、その名を"チャイルド・オブ・ロクイチ"。

 通常兵器である61式戦車を愛する愛好家プレイヤー達により活動しているギルドである。

 

 そして、そんなギルドを束ねる首領を務める者の名は、アトム・ザ・ジョー。

 パンツァーカイルの中心を進む、車体前面に火炎放射器を設置し、ギルドのマークが描かれた旗を翳し、拡声器を取り付けた砲塔を有する改造61式戦車、別名ヌカ・ビクトリー号。

 その砲塔の上部、そこに取り付けた椅子に王座に座る王の如く腰を下ろしている、髑髏を彷彿とさせる独特のマスクを被ったその人である。

 

「友よ!! 同志達よ!! 進め! 61式戦車(ロクイチ)のお導きのもとに!!」

 

「敵だ! 新鮮な鉄屑()だ!!」

 

「ヒーロー気取りか、えぇ!?」

 

「ハッハーッ! やったぞ!」

 

「俺達はカッコイイ!!」

 

 チャイルド・オブ・ロクイチは草原を突き進む、道中彼らを止めようとしたマゼラアタックを何輌か火達磨と鉄屑に変え、歩兵達を薙ぎ払いながら。

 だが、そんな彼らの快進撃も、そう長くは続かなかった。

 

「何だ?」

 

 突如、何処からか聞こえた発射音と共に、前方に大量の煙幕が現れる。

 しかし、アトム・ザ・ジョーは大量の煙幕に臆する事無く、前進を命令。

 チャイルド・オブ・ロクイチは、程なく煙幕の中へと突入していく。

 

 煙幕の中は当然ながら視界は最悪で、アトム・ザ・ジョーの視界には自身が乗るヌカ・ビクトリー号以外、他の世紀末61式戦車の姿は全く見えない。

 しかし、前進を続けているので何れはこの鬱陶しい視界ともおさらばできる、と、思った矢先。

 

「ぬ!?」

 

 突如、発砲音が響くと共に、少し遅れて爆発音が張り響く。

 しかも、発砲音は61式戦車の主砲の発砲音ではなかった。それは彼らにとって忌むべき機械の巨人が持つ武器の発砲音。

 

「同志達よ! 敵だ! モビルスーツ(異教)の化身を排除せよ!!」

 

 刹那、アトム・ザ・ジョーはマイクを手に取ると、周囲の世紀末61式戦車に指示を飛ばす。

 拡声器により増幅した彼の声が響き渡るも、それをかき消すかの如く、爆発音が断続的に響き渡る。

 

「なに!?」

 

 と、直後に、彼は眼前を横切るそれを目にした。

 煙幕の中、うっすらと輪郭しか見えなかったが、吹き飛ばされるように眼前を横切ったのは、間違いなく彼が愛して止まない61式戦車であった。

 

 やがて、漸く視界を遮っていた煙幕が晴れ、視界が戻ると。

 そこで彼が目にしたのは、見事なまでにパンツァーカイルを形成していた筈の他の世紀末61式戦車が、何処にも見当たらず。

 代わりに、目の前の草原に立ちはだかる、一体の黒い機械巨人の姿であった。

 

モビルスーツパイロット(異教徒)よ、よく聞くがいい!! 例え我らの肉体を地獄の業火で焼き払ったとしても! 我らの魂は──」

 

 刹那、黒い機械巨人が手にしたMMP-80が火を噴き、彼の最後の言葉を言葉をかき消すと、彼の肉体をヌカ・ビクトリー号と共に炎と黒煙の中へと消し去るのであった。

 

 

「こちらユーリアン、最後の一輌を撃破」

 

「了解だ。ったく、それにしても、オデッサは本当に地獄だな……」

 

 黒い機械巨人のパイロットは、報告を終えると、ふと、眼前のメインモニターが映し出す光景に視線を移す。

 そこには、燃え盛るヌカ・ビクトリー号を先頭に、草原に広がるチャイルド・オブ・ロクイチの無残な有様と共に、下手人である仲間の機械巨人の姿が映し出されていた。

 そんな光景を目にして、黒い機械巨人のパイロットはその通りだと、心の中で頷くのであった。

 

 

 

 

 チャイルド・オブ・ロクイチの進出を止めたと言っても、それは全体の中のほんの僅かな勝利にしか過ぎない。

 

「くそ! 後方に待機させていた予備兵力を投入しろ! 急げ!」

 

 担当地域に無人電車爆弾を用いた攻撃を許してしまったマーコックは、後方にある基地の司令室で苦々しく指示を飛ばしていた。

 

 報告を受け取った当初は、まさか電車を無人自爆兵器として転用しているなど思いもしていなかったが。

 無人電車爆弾によって出来た突破口から、連邦軍の部隊が次々に突入を始めていると知るや、防衛線が総崩れになる前に何とか突破口を塞ぐべく、慌てて動き始めるのであった。

 

「ち! マーチ流しやがって!」

 

 指示を飛ばし終えたマーコックは、珍しく忌々しさを隠すことなく、その胸の内を吐き捨てた。

 だが、そう思っているのは、マーコックだけではなかった。

 

 今回の作戦の司令部であるオデッサ基地の司令部でも、各地から舞い込んでくる無人電車爆弾の被害と防衛線に開いた突破口の対応に苦慮するのであった。

 エマージェンシー・オブ・オデッサは、開始早々から、ジオン側にとって苦難の時となっていた。




ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。大変励みになります。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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