機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第四十一話 HELLDIVERS For You

 地上で連邦側が無人電車爆弾という奇策を用いた作戦を展開している同じ頃。

 地上より遥か上空、オデッサを遥か眼下に望む衛星軌道上周辺の宙域は、今や、ジオン艦隊と連邦艦隊による大規模な艦隊戦の舞台と化していた。

 本来であればイベント時は降下阻止の為の攻撃は不可能なのだが、ジオン側は、攻撃制限の設けられている宙域に進入する以前の段階で迎撃を行う事により、降下を阻止する腹積もりであった。

 

 光り輝く光球の数々、その間を飛び交う光の軌跡。

 そして、舞台を彩るジオン・連邦、両陣営の戦士達。

 

 その中に、この日の為にコツコツと準備してイベント開始直前に漸く新調した後期生産型ムサイ級、個艦名エムデンII(ツヴァイ)に座乗するカルクルとルーターの姿があった。

 

「ははは! コイツはいいぞ! 何処を向いても敵艦ばかりだ、撃てば当たるぞ!」

 

 巨大スクリーンに映し出される映像を目にし、司令席に座るカルクルは愉快な様子で叫んだ。

 

「先輩、これって単に、我々が突出し過ぎているだけでは?」

 

「……あ、し、しまった! 後退、全速後退!」

 

 しかし、脇に佇んでいたルーターの冷静な一言に、カルクルは直ぐに顔を青ざめると、直ちに後退を指示するのであった。

 折角新調したエムデンII(ツヴァイ)を失わない為に。

 

 

 

 

 この様に、大規模な艦隊戦が展開されている周辺宙域の中。

 主戦場となっている周辺宙域を迂回するような進路で航行を続ける、護衛のサラミス級数隻に護られた、一隻のコロンブス級宇宙輸送艦の姿があった。

 ジオン側からの目を避けるように、航行を続けるこの艦艇群が目指す先は、当然、攻撃制限が設けられた宙域である。

 

「間もなく本艦は降下ポイントに到着する、パイロット各員は直ちに降下準備を開始せよ! 繰り返す、間もなく本艦は──」

 

 艦艇群の中心であるコロンブス級の艦内にアナウンスが響き渡る中、広々とした格納庫を見渡せるパイロット達の待機室内では、パイロットスーツに身を包んだパイロット達が慌ただしく準備の為に待機室から格納庫にへと向かっていた。

 

「にしても、艦隊組はよくやってるよな」

 

「そりゃ、久々の大規模イベントだ。張り切るのは当然だろ」

 

 そんな中、待機室内に残っていた数人が、室内の壁に設けられた戦況モニターを見つめながら談笑を行っていた。

 戦況モニターには、自分達降下組の宙域到達を援護すべく奮戦する友軍艦隊の状況が映し出されている。

 

「何をしてるんだ。お楽しみのダンスの時間だぞ、さっさと準備しろ」

 

 すると、待機室内の自動ドアが開かれ、二人の人影が待機室内に入室する。

 片方の人影である壮年男性は、談笑を行っているパイロットを見るなり、彼らに準備に取り掛かるように促した。

 

「あぁ、バッカスさん。これはあれですよ、俺達の為に頑張ってる艦隊組に、敬意を払ってたんです」

 

 あまり聞き訳がいいとは言えない態度のパイロットだが、バッカスと呼ばれた壮年男性は慣れた様子で受け流すと、再び準備に取り掛かるように促すのであった。

 

「りょーかいです。っと、ヴェロニアさん、今日も相変わらず美しいっすね。どうです、このイベントが終わったら、俺と個人的な楽しいダンスを──」

 

「あらグレイン。私は無駄なお喋りで口がよく動く男より、黙って降下準備を行うような男が好きなの。分かったらさっさと行って」

 

「へいへい」

 

 グレインと呼ばれたパイロットは適当な返事を返すと、バッカスと共に待機室に入室してきた壮年女性、ヴェロニアと呼ばれた彼女に鼻の下を伸ばしながら口説き文句をかけるも。

 当のヴェロニアはあしらう様な返事と共に、催促の言葉を零すのであった。

 

「起きろ、ルーキー! 出撃準備だ、モタモタするな!」

 

 二人から催促され、内心ご機嫌斜めだったのだろう。

 グレインは、近くの椅子でヘルメットを被ったまま転寝していたパイロットのヘルメットを叩き乱暴にそのパイロットを起こすと、苛立った声で呼びかけるのであった。

 

「気にするな、アイツはああいう奴だ、さ、行くぞ」

 

「……うっす」

 

 待機室を後にするグレインに続くように、ルーキーと呼ばれた者も含め、他のパイロット達も待機室を後にする。

 こうして室内に残ったバッカスとヴェロニアは、邪魔者がいなくなったのを確認すると、言葉を交わし始めた。

 

「ヴェロニア。今回の攻撃、どう思う?」

 

「どうも何も、私達はいつも通りやるだけよ。なによバッカス、いつもの貴方らしくないわね」

 

「そりゃそうだろ。今回は今までの様な前線基地や補給拠点とは訳が違う、ジオンの地球方面軍の司令部だぞ、ガードの固さはこれまでの比じゃない」

 

「それでも、あえて"地獄に飛び込む"のが、私達"O.D.S.T."でしょ?」

 

 今回の降下に不安を抱いていたバッカスに諭すかのように、ヴェロニアは語り始めた。

 Orbit Divers Specialist Team(O.D.S.T.)、軌道降下専門チーム。別名、ヘル・ジャンパー。

 その名の通り、敵地の背後、或いはど真ん中へと軌道上から降下し攻撃を仕掛ける事を専任とするプレイヤー・ギルドである。

 

 使用する戦法から、所属するプレイヤーは荒くれ者など、態度に難のある者が多いが、その分、技術面に関しては平均して高い。

 最もその分、機体の損耗率に関しても、平均して高い傾向にある。

 

「そうだったな。俺達はヘル・ジャンパー。例え飛び込む先が本当の地獄でも、喜んで飛び込むのが俺達だ」

 

 ヴェロニアの言葉を聞いて、或いは彼女に自身の不安をぶつけた事によってか。

 バッカスは不安が拭い去った様だ。

 

 そして二人も、程なく自らの準備を進めるべく格納庫へと向かうのであった。

 

 

 

 O.D.S.T.を乗せたコロンブス級は、やがて降下ポイントである軌道上の宙域の到着すると、両弦に設けられた側面ハッチを開放し降下用ポッドの降下準備に取り掛かる。

 

「姿勢制御開始、O.D.S.T.各員は、最終確認を実行。フライングコフィン、降下カウントダウン開始──」

 

「全員よく聞いてくれ。今回の我々の役目は事前のブリーフィングで話した通り、後続の降下部隊の本隊に先立ち降下、本隊の安全を確保するべくジオンの対空砲火を可能な限り無力化する事にある。故に、我々の担う役割は大変重要である。命知らずの諸君! 力の限り戦い尽くし、使命を果たせ!」

 

 所属するプレイヤー達が薄暗いコクピット内で聞いたのは、O.D.S.T.の軍団長である男性からの有難い訓示であった。

 軍団長は一旦言葉を切ると、程なく、再び口火を切った。

 

「地獄に自ら飛び込む命知らずども、準備はいいか!!?」

 

「「We are O.D.S.T.!!!!」」

 

 軍団長からの檄にプレイヤー達のやる気が最高潮を迎えた所で、降下開始を告げるカウントダウンがゼロへと近づく。

 

「ツー、ワン、ゼロ! フライングコフィン、パージ開始!」

 

 降下開始を告げる声と共に、側面ハッチからせり出したハンガーに降下用ポッドを固定していたボルトが外れ、衝撃と共に降下用ポッドは大気圏に吸い込まれていく。

 

「よぉ、ルーキー! 初めてのダンスは楽しんでるか!?」

 

「う、……うっ、す」

 

「そいつはよかった。ハハハハッ!!」

 

 大気を突き破る振動に揺れるポッド内。

 同じ降下用ポッドに同乗する事になったルーキーに、グレインは楽し気に言葉を交わす。

 一方、ルーキーと呼ばれた、まだO.D.S.T.に加入して間もない彼は、楽しむ余裕もあまりなく、大気の重圧に押しつぶされて動かせないかの如くその表情は固い。

 

 流星群の如く、ダミー用の物を含め轟音と共に澄み渡る濃紺色の空を切り裂くその降下ポッド群は、HLVとは形状も大きさも異なるO.D.S.T.専用のポッドである。

 卵と言うよりも弾丸に似た形状の外見を有するこの降下ポッドは、その見た目通りHLVよりも空気抵抗が少なく、その為降下速度もHLVよりも早い。

 また、大きさもHLVよりも小さい為、搭載可能なモビルスーツの機数も二機と、HLVよりも少ない。

 

 そして、そんな専用降下ポッドは、対空砲火による被害を最小限に抑える為、高度一万付近まで一切の減速を行う事無く、地上目掛けて世界で最も早くてスリル満点なダンス(大気圏突入)を行うのである。

 

 故に、そんな専用降下ポッドの事を、所属するプレイヤー達は空飛ぶ棺桶(フライングコフィン)と呼んだ。

 

「高度一万! ルーキー!! さぁ、フィナーレだ!! 舌噛むなよ!! もっとも、舌噛んでもゲームだから死なねぇけどな!」

 

「う、うっす!」

 

 やがて、地上からの激しい対空砲火が周囲の青空を赤黒く照らす中、専用降下ポッドは減速用のロケットを噴射させる。

 刹那、ポッド内のパイロット達にシートにのめり込むのではないかと思わせる程の圧力が襲い掛かる。

 

「ヒャッーーーホォォォォォォォォォッッウ!! ヤッハァァーーーー―ーッ!!!!」

 

 だが、それを乗り越えれば、次に訪れるのは圧倒的な解放感。

 減速中も止まる事無く降下を続ける専用降下ポッドは、やがて高度三千に到達すると共に、その大気圏突入にも耐えうる強固な殻を弾け飛ばした。

 

 そして、己を包んでいた圧倒的な閉塞感から解放され、メインモニターを通じて地平線の先まで広がる圧倒的な大地の光景を目にし。

 グレインは、痛快な心の声を叫んだ。

 

「ルーキー!! 楽しんでるかぁっ!!? 楽し過ぎてちびってねぇよな!?」

 

「ち、ちびってないっす!」

 

「まぁ、ゲームだからどっちでもいいけどな!」

 

 高度三千で次々とその殻を弾け飛ばし分解する専用降下ポッドから次々と姿を現したのは、原作において一年戦争末期に、空挺降下作戦用に胸部とバックパックにスラスターとプロペラントタンクを増設する等の改修を施されたジム。

 形式番号RGM-79V、ジム・ナイトシーカーであった。

 

 O.D.S.T.所属を意味するインディゴブルーに塗装されたジム・ナイトシーカー達は。

 分離後に再加速用のロケットを点火させ、降下地点の安全確保の為の露払いとして運動エネルギー兵器と化した専用降下ポッドを見送りながら、味方の反応を確認していた。

 

「バッカスよりヘル・ジャンパーズへ、全員欠けずに揃ってるな! これより最終降下ポイントをSB2に設定、ポイント到着後は、直ちに周囲の対空砲火を破壊する!」

 

「「了解!!」」

 

 威勢のいい返事が聞こえ、バッカスは自然と口角を上げた。

 しかし、それも一瞬の事。次の瞬間には、険しい表情へと再び切り替わるのであった。

 

 そう、本当の地獄は、これから始まるのだから。

 

 

 

 

 O.D.S.T.は一機も欠ける事無く全機無事に最終降下ポイントへと到着。

 その後予定通り、周囲の対空砲火に対する攻撃を敢行した。

 

 しかしながら、肝心の降下部隊本隊は、ジオン艦隊の猛攻の前に降下宙域に辿り着けず、あえなく降下を断念する事となった。

 

 そして、敵地のど真ん中に取り残される事となったO.D.S.T.も、孤軍奮闘したものの、その後無事に友軍と合流を果たす事はなかった。




ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。大変励みになります。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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