機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第六話 そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?

 ユーリアンのザクIIF型が再び基地内を全力疾走し暫くした頃。

 ユーリアンのザクIIF型は、目的地付近に差し掛かっていた。

 しかし、周辺はミノフスキー粒子の散布濃度が濃く、救助目標である難読彗星の沙亜の機体を発見する為には、目視で見つけ出すしかなかった。

 

 警戒しつつ、モノアイを左右に動かし、捜索に努めていると。

 不意に、モビルスーツ用の火器と思しき発砲音を、機体の外部マイクが拾う。

 

「あっちか」

 

 発砲音のする方へと乗機を走らせ、穴だらけとなった建築物の角を曲がると。

 その先には、ユーリアンが目を見張る光景が広がっていた。

 

 格納庫を盾にしつつ、手にしたザクマシンガンを発砲しているのは、救助目標である難読彗星の沙亜が操縦する赤い改造ザク。

 その外見は、ガンダムシリーズのアニメ作品において、ガンプラを題材とした作品、ガンダムビルドファイターズに登場したモビルスーツ、ザクアメイジングを彷彿とさせた。

 両肩と脚部に追加された増加装甲に、背部に追加された二基の五連装ロケットランチャー、両腰部には武装用の予備弾を収納できるコンテナが取り付けられている。

 

 その鈍重な外見に反して、その動きは、ベースとなったS型と何ら遜色のない動きをしている。

 機体の改造のレベルの高さ故なのか、それとも難読彗星の沙亜の操縦技術の高さの賜物か。

 何れにせよ、その動きは、対峙している連邦のモビルスーツ達とは別次元である事だけは確かであった。

 

 そして、そんな別次元な動きの赤い改造ザクと対峙しているのは、三機のザニー。

 コンテナ等を盾とし、手にした九〇ミリ口径のモビルスーツ用マシンガン、形式番号HWF GMG・MG79-90mm、通称ジムマシンガンとも呼ばれる、バレルの短いブルパップ型マシンガンを発砲している。

 だが、放たれた九〇ミリ弾は、赤い改造ザクの装甲を叩く事無く、空虚に飛来していくのみ。

 

 しかし、そんな戦闘風景よりもユーリアンの目に留まったのは、戦闘している足元であった。

 そこには、モビルスーツの残骸が転がっており。しかも、その残骸の全てが、連邦のモビルスーツの物であった。

 つまり、赤い改造ザクは、既に相当数の連邦モビルスーツを撃破しているという事だ。

 

「……これって、助け、いらないんじゃ」

 

 ユーリアンが小さく呟いた刹那、一機のザニーが赤い改造ザクの凶弾に倒れ、残るは二機となる。

 ユーリアンの呟きが現実のものへと一歩近づき、ユーリアンが出ていくタイミングを見失いかけていた、その時であった。

 

 ふと、近くの建築物の影に、動くものを捉えたのは。

 

「あれは……」

 

 それは、一機のガンキャノン最初期型の姿であった。

 ゆっくりとした動きで、まるで赤い改造ザクに自身の存在を気付かれないように動くガンキャノン最初期型は、やがて、装備している低反動キャノン砲の砲口を、赤い改造ザクへと向けた。

 

「危ないっ!!」

 

 ザニーに意識が向けられ、自身を狙っているガンキャノン最初期型の存在に、赤い改造ザクが気付いていないと察するや。

 ユーリアンは、両手に装備したザクマシンガンを発砲しながら、ガンキャノン最初期型目掛け、乗機を突撃させた。

 

「ぬぁぁぁっ!?」

 

 まさか、ユーリアンという伏兵がいたとは知らなかったガンキャノン最初期型のパイロットは。

 断末魔と共に、乗機共々爆炎の中へと消えていった。

 

「くそっ! 失敗かよ!」

 

「あと少しだったのに!」

 

 刹那、二機のザニーのパイロットは、ガンキャノン最初期型による奇襲が失敗した事を知るや、バーニアを噴かし、その場から離脱していく。

 一方、追撃する事無くその場に残った赤い改造ザクは、そのモノアイを、ユーリアンのザクIIF型へと向ける。

 

「誰だ? お前は?」

 

「あ、えっと。俺は、ユーリアン・ルクと言います。沙亜 阿頭那武婁さん、ですよね。敵陣の中で孤立していると聞いたので、救助に来ました」

 

 ユーリアンの返答を聞いた筈だが、難読彗星の沙亜は音声通信を切ってしまう。

 この行動に、ユーリアンは一瞬唖然としたが、どうやら、癪に障って切った訳ではなかった様だ。

 その証拠に、次の瞬間、メインモニターの端に、赤い改造ザクのコクピット内の映像が映し出された。

 

「私の事を存じているのなら、自己紹介は不要だな。しかし、こんな奥深くまで助けに来るとは、相当なお節介ものだな、お前は。……だが、助けてもらった事には、感謝する」

 

 映像に映し出されたのは、パイロットスーツに身を包みコクピットシートに座る、一人の女性プレイヤーの姿であった。

 ヘルメットは脱いでおり、曝け出されたその顔は、名前のモデルとなったキャラクターの如く、仮面によってそのご尊顔を拝む事は叶わなかった。

 しかし、仮面で隠されぬ部分は、透き通るような肌に流れるような金色ロングヘアー。そして、凛として透き通るような声。

 それだけでも、彼女が素晴らしい女性であることが伺えた。

 

 因みに、映像が映し出された際、ユーリアンの視線が一瞬、彼女の胸部に集中された事は、ここだけの話だ。

 

「それで、阿頭那武婁さん。まだここは敵陣の中ですし、一旦友軍のいる安全圏まで後退したいんですけど……」

 

「あぁ、構わない。丁度、残弾も心許なくなってきた頃だからな。……それと、私の事は沙亜と呼んでもらって構わん」

 

「わ、分かりました。沙亜さん」

 

「さんはいらん」

 

 離脱したザニーを追撃するかとも思っていたユーリアンではあったが、それは、杞憂であった。

 また、ソロでの活動を好むプレイヤーである為、とっつきにくい人であるかもと勝手に想像していたユーリアンであったが。

 話してみると、どうやら、それも勝手な思い込みであったようだ。

 

「では、後退するとしようか、ユーリアン」

 

「はい!」

 

 こうして、安全圏まで後退を始めようとした、その時であった。

 

 

 

 大口径と思しき発砲音が周囲に響き、ユーリアンと沙亜は各々身構える。

 だが、二人の乗機には、被弾を知らせ得るような異常も、衝撃もなく、互いに不思議に周囲を見渡していると。

 次の瞬間、二人の乗機の背後にある格納庫の影から、一機のザニーが崩れる様に倒れこみ、その姿を曝け出す。

 倒れたザニーの手には、ジムマシンガンが握られていた。

 

「安心するのは、安全圏まで脱出してからじゃないですかね、お二人さん」

 

「あ!?」

 

「む?」

 

 倒れたザニーを確認している二人のもとへ、音声通信が入る。

 そして、音声通信を入れた張本人が操る機体が、二人のもとへと近づいてきた。

 

 その機体に、ユーリアンは見覚えがあった。

 そう、近づいてきたのは、HLVの降下時に援護を買って出た、MS用対艦ライフル持ちのザクIであったからだ。

 

「有名プレイヤーを助けられて浮かれるのはいいが、ここはまだ戦場の真っただ中だぜ。ここでの気の緩みは、即、死につながる、だぜ、F型さん」

 

「HLVから降下した時の、あの時の方、ですよね」

 

「縁があったな、F型さん」

 

「ん? 二人は知り合いなのか?」

 

「いやー、知り合いって程でもないんですが、ま、ちょっとしたご縁ってやつで。……っと、縁あって再会したって言うのに、何時までも声だけってのは、味気ないよな」

 

 MS用対艦ライフル持ちのザクIのパイロットは、音声通信からモニター通信へと切り替える。

 

「顔合わせて話すのは初めてだよな。俺の名前はシモン・ヘイチェフ。見ての通りのスナイパーさ」

 

 ヘルメットを脱ぎ露わになったその素顔は、栗色のボサボサ頭をした、ユーリアンと同年代と思しき青年であった。

 

「スナイパー、と言う割には、随分と口が軽く、とても寡黙で職人気質とは思えないが?」

 

「あ! それ偏見! いくら難読彗星の沙亜のあだ名を持つ貴女とは言え、あえて言わせてもらいますけどね! スナイパーが寡黙で職人気質って固定概念は、サーティーンの呪いですよ! 口が軽くてお調子者のスナイパーだって世の中にはいるんですよ!」

 

「そ、そうなのか。それはすまん」

 

 シモンは沙亜が漏らした意見に、臆する事無く異議を唱えると、改めて、自らの自己紹介を始める。

 

「それで、俺はベータテストの参加者で、今の階級は曹長。と言う訳で、改めてよろしく、お二人さん」

 

「俺と同じベータテストの参加者だったんだ。……それにしても、ザクIを使ってるって事は、ザクIにこだわりが?」

 

「ん? あぁ、違う違う。こいつを手に入れるのにゴールドがかかって、機体に使える分のゴールドが少ないだけさ。生憎、俺は課金戦士になれる程、リアルマネーも余裕がないんでね」

 

 シモンがMS用対艦ライフルを示しながら、自身の愛機の事情について説明すると、ユーリアンは納得した。

 

 武装は、性能が高くなればなるほど、比例して販売価格も高くなっていく。

 故に、ゲームを始めて間もない頃に強力な武装を手に入れようと思えば、時間をかけるか、課金をするか、の何れかしかない。

 そしてシモンは、前者を選択したようだ。

 ゲーム内で時間をかけてゴールドを稼ぎ、他を後回しにして、念願の武装を手に入れたのだ。

 

「しかしまぁ、今後出てくる連邦のモビルスーツの事を考えると、スナイパーとはいえ、機体の乗り換えは、早いうちに行っておきたいんだよなぁ」

 

「何故そんな自身の事情を、他人である我々に話すのだ?」

 

「お! やっぱ気づいちゃいました。それじゃ、単刀直入にお二人さんに言いますけど。どうでしょ、俺と小隊組みません?」

 

 シモンの口から飛び出した提案に、ユーリアンと沙亜は、モニター越しに互いの顔を見合わせる。

 

「今回のイベントに参加してみて分かったんですよ。やっぱイベントの時に稼ぐには、チーム組んでた方がいいって。ま、イベント時以外でも、今後NPC部隊が強化されていく事を考えても、何時までもソロプレイじゃ厳しいかもって思ったのもありますけどね」

 

「小隊を組みたいなら、プレイヤーでなくとも、NPCを雇えばいいだろう?」

 

「あの、さっきの俺の話、聞いてました? 俺、MS用対艦ライフルを買うのに苦労して、手持ちのゴールドがかつかつなんですよ。それに、NPCを戦力とするには、NPCを雇うだけじゃなく、NPCが搭乗する機体の調達までしなきゃならないから。俺みたいな金欠野郎に、その選択肢は不可能ってもんです!」

 

「成程、それで資金面での負担が少ないプレイヤーの勧誘をしているのだな」

 

「そういう事です!」

 

 NPCは、人付き合いの煩わしさもなく、現実で生活を考慮したプレイの時間帯のズレもないので、一見メリットが多いようにも感じられる。

 だが、雇う為の人件費、搭乗させる機体の購入費、その他諸経費等。何かと、ゴールドが必要となるデメリットがある。

 それに対して、プレイヤーを勧誘してチームを組めば、費用面での負担はNPCよりも断然軽くなる。

 

 費用面で苦しんでいるシモンにとっては、この差は、かなり重要であった。

 

「だが生憎と、私は誰かとチームを組むことを考えてはいないんでね。他を当たってくれ。では、先に失礼する」

 

 だが残念ながら、沙亜はチームを組むことを考えていないようで、沙亜の赤い改造ザクはバーニアを噴かせ、安全圏へと後退していった。

 

「ま、確率低いと思ってたけど、仕方ないか」

 

 誘いを断られたシモンではあったが、そこまで落胆している様子はなかった。

 むしろ、本命は別にいる感じである。

 

「さてと、それじゃ、本命のF型さん。そっちの返事を聞かせてもらいましょうか」

 

「え? 俺が本命!?」

 

「そ。見た所チーム組んでるように見えないし、HLVから降下した時の動きを見て、ある程度の腕前を持ってるなって確信してたからさ。同じソロプレイヤー同士、チームを組むには最適だろ!」

 

「……悪いけど、俺、今友達の軍団に加入してるんだ」

 

「な!? マジか!」

 

 ユーリアンがソロプレイヤーだと思っていたら、既に別のチームの一員だったと知り、驚きを隠せないシモン。

 だがシモンは、諦める様子もなく、何かを考え始めた。

 そして、考えがまとまったのか、再び口を開き始める。

 

「それじゃぁさ! 俺を、F型さんの入ってる軍団に入れてくれよ!」

 

「え? ヘイチェフさんを?」

 

「そうそう、俺とチーム組むのも、F型さんの入ってる軍団に俺が加わるのも、結局どちらも同じことだしさ。だから、お願いします!」

 

 モニター越しに頭を下げられ困惑するユーリアン。

 シモンを第046独立部隊の一員として迎えるかどうかは、ランドニーに決定権があるので、自身では判断しかねる。

 

「決めるのは、俺じゃなくてリーダーのランドニーだから……」

 

「じゃ、このイベントが終わったら、そのリーダーのランドニーって人に、俺を紹介してくれ!」

 

「それならいいけど」

 

「それじゃ、その為のフレンド登録、よろしく」

 

「分かった」

 

 ユーリアンはコクピットの機材に接続しているタブレット端末を操作し、シモンとフレンド登録を交わす。

 すると、フレンド登録した事により、ユーリアンの現在までの簡単な戦績などを確認したのだろう。

 シモンが驚きの声を上げた。

 

「F型さん、じゃなかった。ユーリアン・ルクって、あの"レイヴン"の異名を持つ、あの!?」

 

「まぁ、そう呼ばれてる本人です」

 

「ほぇー、成程。それなら、あの動きも納得だ」

 

 どうやらシモンは、ユーリアンがレイヴンの異名で呼ばれている事を知っていた様だ。

 そして、HLV降下時の動きを思い出し、一人納得したように頷くのであった。

 

「っと、納得してる場合じゃなかった! 先ずは、安全圏まで脱出しないと。行きましょう、ルクさん!」

 

「ユーリアンでいいよ。見た感じ、歳だってあまり離れてなさそうだし。その代わり、俺もシモンって呼び捨てでいいかな?」

 

「おう、いいぞ、いいぞ。それじゃユーリアン、さっさと安全圏に脱出するか」

 

「了解だ、シモン」

 

 こうして互いに打ち解けた二人は、安全圏まで後退すべく移動を開始したが。

 その矢先、モニターに、"バイコヌール制圧作戦完了"の文字が流れる。

 どうやら、他のプレイヤー達の活躍もあり、無事に作戦成功の要であるバイコヌール宇宙基地を制圧できたようだ。

 

 こうして、ジオンの地球侵攻の為の足掛かりを得る重力戦線の初戦は、ジオンの勝利で幕を下ろした。

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