機動戦士ガンダム 俺の野望   作:ダルマ

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第八話 オデッサの地

 黒海周辺、及びアラビア半島での雌雄が決し、同地の主権が連邦からジオンへと移り変わって間もない頃。

 既に、北米の大地では、ジオンと連邦の、同地の主権をかけた新たな戦いの火蓋が切って落とされていた。

 そう、第二次降下作戦の幕開けである。

 

 そんな北米大陸での戦いの火蓋が切って落とされたと同じ頃。

 激戦地のキャリフォルニアから、約九九〇〇キロメートル離れたオデッサの地に、第046独立部隊の面々はいた。

 

「オーライ、オーライ!!」

 

 その地で彼らが何をしているのかと言えば。

 占領したオデッサの再整備、その為のモビルスーツ用の塹壕や道路の補修等、文字通り建築工兵としての任務(ミッション)に励んでいた。

 

「よーし、コンクリートの投入はその辺でいいだろう」

 

「了解」

 

 黒海沿岸、旧ウクライナ南部に位置するこの地は、ジオンにとって、まさに地球上でしか産出できぬ鉱物資源の重要な供給地であった。

 その為、発掘場や製錬施設が数多く存在する鉱山エリアを守護すべく、鉱山エリア周辺には、占領後の再整備によって設けられた塹壕やトーチカが、数多くその姿を見せている。

 

 そんな鉱山エリア周辺の一角で、第046独立部隊の面々は作業に勤しんでいた。

 

「だぁぁっ! 第二次降下作戦が始まってるって言うのに! 俺達なんで、こんな所(オデッサ)で土遊びなんてしてるんだよ!!」

 

 そんな中、作業に飽き飽きして耐えられなくなったのか、シモンがコクピット内で叫ぶ。

 すると、通信のスイッチが入ったままだったのか、現場監督を務めるNPCから注意が飛ぶ。

 

「そこのお前! ベラベラと口を動かしている暇があったら、もっと手を動かせ! 手を!!」

 

「は、はい!!」

 

 無精髭を生やし、ニット帽を被ったいぶし銀の雰囲気を醸し出す壮年の男性NPC。

 実は彼は、一年戦争を題材とした漫画作品、機動戦士ガンダム MS BOYS -ボクたちのジオン独立戦争-、の作中に登場するキャラクターの一人、名前をオレグ・オルロフと言うのだが。

 原作である漫画を知らないシモンにとっては、口うるさい親父NPC程度の認識でしかなかった。

 

「くそ、大体階級だって同じじゃねぇか……、なんでNPCに口酸っぱく言われ──」

 

「何か言ったか!?」

 

「あぁいえ! なんでもありません親方!! ……やべ、通信切るの忘れてた」

 

 通信を切ってオープン回線をオフにすると、シモンは、操縦桿を握り直し、言われた通り再び作業に集中し始めるのであった。

 

「はぁ……、なんで俺達、こんな非戦闘系ミッションやってるんだろうな」

 

 愚痴を零しつつも、シモンが操縦する作業用のザクタンクは、前面に取り付けられたブレード(排土板)を使い、塹壕を掘って出た土砂を押し出していく。

 

 現在、第046独立部隊は、ミッションと呼ばれる、所謂RPGゲームにおけるクエストとも呼ばれるものを受けていた。

 ミッションは、戦闘系と非戦闘系の大きく分けて二種類に部類され、俺の野望の世界観に沿った数々のミッションが存在する中で、現在第046独立部隊が受けているのは非戦闘系のミッションの一つであった。

 そして、ミッションを受けるにあたり、シモンとユーリアンの二人には、作業に必要な作業用モビルスーツが一時的に貸し出されていた。

 

 そのモビルスーツとは、形式番号MS-06V、ザクタンクと呼ばれるモビルスーツである。

 ザクタンクは、戦闘等で損傷したモビルスーツの上半身と、マゼラアタックと呼ばれる大型戦車の車体部、マゼラベースを組み合わせて開発された、所謂リサイクル兵器だ。

 リサイクル兵器だけあり、上半身のベースとなるモビルスーツは、ザクIやザクIIなど、個体によって様々となっており。

 今回、シモンとユーリアンの二人が使用しているのは、ザクIの上半身を上半身として使用し、車体部前面にブレード(排土板)を取り付け、背部にケーブル等のリールを装備した、作業仕様のザクタンクである。

 

「親方! 終わりました!」

 

「おう、早いな!」

 

 シモンの操る作業仕様のザクタンクが、手際よく作業をこなしていく中。

 ランドニーは、作業風景を見渡せる場所に止めてある指揮車内で、椅子に腰を下ろして、設置されているモニター越しに作業風景を眺めていた。

 

「何だかんだ文句言いつつ、シモンの奴、結局ちゃんと作業するんだな」

 

 シモンの働きっぷりに感心しつつ、ランドニーはふと、手前の機材を操作する。

 すると、近くのNPC達の通信を傍受し、装着したヘッドセットから会話の内容が聞こえてくる。

 

「おい、聞いたか?」

 

「何が?」

 

「例の部隊がこのオデッサにやって来るらしいぜ」

 

「何処の部隊だ?」

 

「特別義勇兵部隊さ、"MS特務遊撃隊"なんて御大層な名前の付いてるな」

 

「あぁ、"外人部隊"の連中か。しかし、よくこのオデッサにやって来れるな。ここには地球方面軍の司令部もあるし、何より、方面軍司令のマ・クベ中将は、キシリア閣下の懐刀と言われてるお方だろう?」

 

「そんなの俺に言われても知るかよ。でもま、上は、使えるもんはどんなものであれ、使えるうちは使い潰すつもりなんじゃねぇか?」

 

「ははは、そりゃそうか。ま、万が一の時は、弾避けぐらいにはなるかもな」

 

(MS特務遊撃隊……、外人部隊……。あぁ、彼らの事か)

 

 ヘッドセットから聞こえる会話の内容に耳を傾けつつ、ランドニーは、彼らの会話の中に出てきたとある部隊の正体を、自身の記憶の中から探り出していた。

 機動戦士ガンダムの世界観を再現し、プレイヤーはモビルスーツの小隊長として数々のミッションをこなす、3Dアクションゲーム。

 機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles。原作のゲームを基に、漫画や小説など、メディアミックスを展開した同作品内において、ジオン側のプレイヤーが属する部隊。

 それが、ジオン公国軍内部で"外人部隊"の通称で知られた、MS特務遊撃隊であった。

 

 原作の設定では、親ダイクン派でザビ家の覚えめでたくない、同隊の司令官であるダグラス・ローデン大佐が組織した部隊で。

 同隊の隊員達は、ザビ家の国家方針等に賛同せぬ人間で固められ。にもかかわらず、ザビ家の思惑も相まって生かされ、ザビ家が指揮するジオン公国の為に戦っている為。

 ジオン公国軍内部でも、その通称からも分かる通り、浮いた存在として認識されていた。

 

(まさかガンダム戦記 Lost War Chroniclesのネームドご一行がオデッサにやって来るとは……。は! これは、ユウキちゃんやメイちゃんやジェーンさんを生で見られるチャンスではないか!!)

 

 車内に自身以外の人がいない事を、ランドニーは感謝すべきだろう。

 何故なら、原作キャラをこの目で見られると想像しているランドニーの表情は、折角の端正な顔つきが台無しになるほど、欲望に正直な残念な顔になっていたからだ。

 

「おーい、ランドニー! 我らが軍団長、聞こえてるか!?」

 

「……ん? おー、聞こえてる聞こえてる、どうした?」

 

 と、シモンから突然の通信が入り、ランドニーの顔がいつもの端正な顔つきへと戻っていく。

 

「あのさ、今更こんな事言うのも何だけど、何で第二次降下作戦に参加しなかったんだよ」

 

「前にも説明したと思うけどさ。今、我らが第046独立部隊の財政状況は非常に厳しい。故に、実入りも良いが、その分、多数のプレイヤーが参加する為撃破の危険も高く、そうなった場合出費もバカにならない第二次降下作戦への参加は見送った訳だ」

 

「そりゃ聞いたけどさ。だったら、何も非戦闘系のミッション受けなくても、イベント程じゃないが非戦闘系よりは稼げる戦闘系ミッションでもよかったんじゃ?」

 

「戦闘系ミッションでも出費は出るんだよ。だから、出費がほぼない非戦闘系の方が、今の俺達には合ってるんだよ」

 

 戦闘系ミッションは、その名の通り戦闘を行わざるを得ないミッションである。

 ミッション故に、相手はNPCながらも、そのレベルは、フィールドに出現するNPC部隊よりも高く設定されている。

 フィールドでの遭遇戦と異なり、強制的に戦う為、勝てないと判断し逃げる事は、ミッションの失敗を意味する。

 しかしその分、ミッションを成功させた場合の成功報酬は、フィールドで遭遇するNPC部隊を撃破するよりも高い。

 

 一方、非戦闘系ミッションは、所謂兵站業務を行うミッションである。

 その内容上、前線ではなく安全な後方で作業する為、戦闘は苦手だが宇宙世紀の世界観を体験したい、そんなプレイヤーの為に用意されたものだ。

 また、非戦闘系ミッションは、今回の第046独立部隊のように、必要な機材などをプレイヤーに貸し出してくれる為。

 戦闘系ミッションに比べプレイヤー側への負担が少なく、資金に余裕のないプレイヤーに対しての、救済策という一面もある。

 

 しかしながら、負担が少ない分、その成功報酬も、戦闘系ミッションに比べると劣ってしまう。

 

「ならさ、出費する以上に第二次降下作戦に参加して稼げばいいんじゃねぇのか? それじゃダメなのか?」

 

「あのな。第二次降下作戦が行われるのは北米大陸だ、現在のジオンの地球上の領土からは陸続きじゃないし、空路も繋がってない。必然、侵攻ルートはHLVによるものになる。そうなると、折角買ったギャロップが無駄になるだろ? HLVにはギャロップは搭載できないんだぜ。……それに、北米はジャブローからも近いし、アイツが出てくるかも知れないからな」

 

「え? アイツって誰だよ? ──ハッ! まさか! 彼女か!? 実は連邦側でプレイしているとかそんな所なのか!!? 現実世界じゃ、いつもベッドの上でガンダムファイトを繰り広げているのに、こっち(俺の野望)じゃ愛する彼女と戦いたくないってか! 畜生! リア充が! 贅沢な事言ってんじゃねぇぞこの野郎!!」

 

「おい、勝手に変な妄想するなよ……」

 

 今にも血涙を流さんと言わんばかりの表情を浮かべるシモンに、ランドニーは変な誤解をするなと諭すと、シモンが落ち着くのを待って再び話を再開する。

 

「そもそも、第046独立部隊の財政状況が芳しくなくなったのは、シモン! お前にだって原因の一端はあるんだぞ!」

 

「えぇ! なんだよ急に!?」

 

「お前の使うMS用対艦ライフル ASR-78の弾薬費は割高なんだ。それに加え、お前が自身の腕前を更に発揮できるようにと直訴して、スポッター用に買い揃えたルッグンとその乗員のNPCの購入費用、これも財政状況の悪化に影響しない訳がなくだな──」

 

「そんじゃ言わせてもらうけどさ。その言い草で言えば、一番財政状況にダメージ与えたの、ランドニーじゃないのか? 買えるからってノリノリで母艦のギャロップに、火力支援用のマゼラアタック一個小隊まで買い揃えてさ」

 

 シモンの反論に、ランドニーは即座に反論する事無く。

 静かに椅子から立ち上がると。何処か遠くの方を見つめながら、呟き始めた。

 

「認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ち(散財)というものを……」

 

「いやいや、何カッコよく締めてんだよ」

 

「……ま、まぁ、誰にだって過ち(散財)の一つぐらい犯してしまうものさ。という訳で、この件はもう忘れよう! 偉い人も言っていただろ、若さとは何か? それは、振り向かない事さ、と」

 

 そして、ランドニーは無理やり財政状況の話題を締めくくるのであった。

 

「と、所で、俺と話してて大丈夫なのか? 無駄話していると、またオルロフ曹長に注意されるぞ」

 

「あぁ、大丈夫だって。ほら」

 

 モニターに映し出されていたのは、話しながらも、与えられた作業をこなす、シモンの操る作業仕様のザクタンクの姿であった。

 

「ふふふ、俺を誰だと思ってるんだ? 一〇〇の現場を渡り歩いた男、シモン様だぜ」

 

「うわぁ……、なんか、凄いのか凄くないのか分かんねぇな、おい」

 

 現実世界で渡り歩いた現場での経験を存分に生かし、自慢するシモン。

 一方のランドニーは、そんなシモンの自慢に、微妙な反応を示すのであった。

 

 そしてその頃、ユーリアンはと言えば、黙々と作業に勤しんでいた。

 

 

 

 今回受けたミッションを無事に終え、第046独立部隊用のロビーに集まった面々は、ミッション成功を労いながら次の予定について話し合っていた。

 

「やっぱり次は戦闘系のミッションをやりたい!」

 

「ユーリアンはどうだ?」

 

「俺も、裏方は裏方の楽しさがあるけれど、やっぱり、モビルスーツは戦う為に作られたものだから、本来の用途で使って楽しみたい」

 

「つまり戦闘したいって事か……」

 

「勿論、軍団の財政状況も理解しているつもりだから、無理にとは言わないけど」

 

「流石は第046独立部隊が誇るエース様、フォローの言葉も忘れないとは。うぅ、何処かの狙撃野郎に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい」

 

「おい! それ俺の事だろ!」

 

「あ、分かった?」

 

「分かるわ!!」

 

 と、ちょっとしたおふざけを交えつつ。

 とりあえずは、戦闘系ミッションを受ける方向は決まった。

 

「で、どんな戦闘系ミッションを受けたいんだ?」

 

「え? どんなって? そりゃ、戦えれば、なんでも」

 

「おいおい、漠然としてんなぁ。仕方ない」

 

 具体例を示せないシモンに、ランドニーは短いため息を吐きつつ、椅子から立ち上がると。

 近くのテーブルの上に置かれていた、一枚の紙を手に取り、二人に提示する。

 

「それは?」

 

「ふふふ、これぞ! 俺が他のプレイヤー達との競争に勝ち、苦労して手に入れたミッション、その名も、『新型機運用テスト』のミッションに必要な書類なのだぁぁぁっ!!」

 

「「おぉー」」

 

 胸を張り説明するランドニーに、感動する二人。

 

 運用テストのミッションとは、プレイヤー側が条件を満たした場合のみ受けられる、特殊なミッションの一種である。

 内容により必要とされる条件はさまざまで、プレイヤーの階級が一定の階級以上であったり、戦績が一定数を必要としたり。またミッションを受理できる拠点も限定されていたり。

 また、受理できる人数や期間にも限りがあるなど、通常のミッションとは異なる事がよく分かる。

 

 しかし、その特殊性故に、成功した場合などの報酬は通常のミッションよりも高く。

 特に、運用テストのミッションは、成功報酬としてテストした機体を手に入れる事が出来る為、同様のミッションは競争率も高く。

 ランドニーの言う通り、セールやバーゲンの奪い合いの現場の如くプレイヤー達の熾烈な争奪戦が繰り広げられるのだ。

 

「……本当は大気圏内用大型航空機(ガウ)の運用テストが欲しかったんだが、母艦はモビルスーツよりも競争率が激しくて、流石の俺でも無理だったよ」

 

「おいおい、本音漏れてるぞ」

 

「っと、それでは。早速、この新型機の受領書にサインをいただきに行くとするか」

 

「え? 何だよそれ?」

 

「ふふふ、このミッションは特殊故、雰囲気を大事にすべく、こうしたお役所的な部分も兼ね備えているのだ!」

 

 そんな手続きまでリアルに作りこまなくてもと呆れるシモンを他所に。

 ランドニーは、責任者のサインをもらうべく、第046独立部隊用のロビーを後にする。

 

 そして、ユーリアンに促され、シモンもランドニーの後を追うのであった。

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