戦姫絶唱シンフォギア Nameless   作:717

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2019/9/24
後書きに用語解説を追加しました。


EP1「Order」

地下特有の暗さと冷たさ、それと錆びた鉄の匂いが広がる廊下に響く足音が、来客者の到来を知らせる。

音から察するに一人。つまり組織内であっても知られたくない仕事が来たということだ。

私は読書を中断し、使い込まれたベッドに潜り込む。

こんなことをしても意味がないのはわかっているが、これが私にできる最大限の抵抗。この住み慣れた部屋から出たくない。他の人はプライバシーなどないこの部屋を嫌がるだろうが、誰もが自らの行いを正当化し、何もかもが理不尽な仕事場よりかマシだ。そして、それ以上にあの場に立つ私という存在が大嫌いだ。

自害を選びたいところだが、世界はいつも私の願いなど聞いてくれない。今日だってそうなのだろう・・・

 

「仕事だUD。寝たふりは辞めろ」

 

今回も私の小さな抵抗は意味をなさなかった。

 

「アポイントも取らず来たくせに随分と勝手だね。王様」

 

私はのっそりとベッドから起き上がり鉄格子の前に立つ無精髭を生やした男に吐きつける。

 

「無駄話はよして貰おう。それと私は少佐だ。『王様(キング)』などと呼ばないでくれ」

 

彼は鉄格子の隙間からファイルを渡してくる。

受け取ったそれには「TOP SECRET」とスタンプが押され、数十枚の書類と数枚の写真が挟まれている。写真の多くは盗撮したであろう人物像であるが、いくつかは物体であった。その中でも興味を惹かれたのが、

 

「十字架?」

「剣だ。完全聖遺物『デュランダル』。かつてEU連合の経済破綻に伴い日本に渡った『不滅の刃』と称されるそれをパヴァリアに対抗する兵器として上層部が目を付けたとのことだ」

「その言い方だと正規の手続きは踏めないってことね」

「そうだ。さらに言えば今回は単独任務だ」

 

私はため息をつき男を睨む。睨まれた本人は少し申し訳なさそうに立ち続けている。

こいつは上からの指示で動いている私の世話係。そして私はYES WOMAN。

どれだけ彼に愚痴っても仕方ないので話を戻す。

 

「経済破綻って随分前の出来事でしょ。今更どうして」

「情報部の話では、デュランダルはある組織の最重要区画に保管されているとのことだ。だが、アメリカが何度も引き渡しを要求しており、その対抗策としてより厳重な場所に移す計画がされているらしい」

「成程。つまりは引越し中のデュランダルを襲って、奪う。強引過ぎる作戦ね」

「方法は君に任せる。どのようにするかは自由だ」

「そんなこと言ってるけど、この方法しかないから私にやらせるんでしょ。存分にやらせて頂きますよ。にしても、お友達にイチャモンを付けられるなんて日本も可哀想だね。要求の理由は・・・これか」

 

手に取ったのは、デュランダルとは別の写真。

そこには蒼のSFチックな戦闘服を身に纏い、刀を振るう少女が映っている。

 

「シンフォギア」

 

私自身、装者だからこの力はよく知っている。

人類共通の脅威とされている認定特異災害ノイズに対し、数少ない対抗手段であり、使用者が限られるという兵器として重大な欠陥を持つコイツは、その特異性故に極秘扱いされている。

 

「アメリカが独占してるとばかり思っていたけど日本も持っていたなんてね。デュランダルはそのパテント料って感じかしら。それでこんなものを扱っているのだから相手はまともな奴らじゃないんでしょ?」

「察しが良くて助かる。相手は特異災害対策機動部二課。公式には存在しない組織で、前身はあの『風鳴機関』だ」

「ナチスと組んでたあそこか、また面倒な」

 

私は任務の理不尽さに頭を抱え、男はそれに構うことなく淡々と告げる。

 

「出発は明後日の深夜、潜水艦『ドゥ・スタリオン』にて日本に向かう。詳細はレポートに書いてあるからしっかり読んでおけ。わかっていると思うが今回も」

「軍も政府も関与しない。つまり、私は存在しないことになっている。でしょ。聞き飽きたし言い飽きた」

「わかっているならいい。成果を期待しているぞ」

 

男は背を向ける。

 

「一つ質問してもいいかしら少佐?」

「なんだ?」

「今回の任務は本当にこれだけ?」

 

彼はしばしの沈黙の後、「そうだ」と答え足早に去っていく。

「『成果を期待している』ねぇ・・・もう少しマシな言葉を送れないのかしらアイツ」

ぼやきは廊下に響くことなく消え去る。

私はやけくそに再びベッドに倒れ込み、思考に耽る。

完全聖遺物に関する任務、それも伝説のデュランダルと来た。

いくらギアがあるといえたった一人で遂行するにはあまりに無理難題過ぎる。

相手はあの風鳴機関。もしかするとアメリカをも敵に回すかもしれない。

それに彼の最後の言葉から察するに私はもう・・・

だが、

(アレは私の願いを叶えてくれるかもしれない)

ただそれだけが、最後の任務に挑む私の原動力だ。

 

 

 

一ヶ月後、私は極東の地で動き出す。

 





用語解説

・UD
本作の主人公。
シンフォギア「*******」の装者。
なお、「UD」は仮の名である。

・パヴァリア光明結社
経済破綻で国力を失った欧州を中心に暗躍する秘密結社。
その構成員の多くが錬金術師と呼ばれる異端技術の行使者である。

・特異災害対策機動部二課
認定特異災害ノイズが出現した際に出動する政府機関。
ノイズに対抗できるシンフォギアシステムを所有しているが、憲法などの関係で存在は秘匿されている。

・風鳴機関
前大戦時に旧日本陸軍が組織した特務室。
聖遺物の研究を行ってきた。

・潜水艦「ドゥ・スタリオン」
1年前に就航したドゥ・スタリオン級強襲揚陸潜水艦1番艦。
パヴァリア光明結社との全面戦争に備えて建造された最新鋭艦であり、高い隠密性と輸送能力が特徴。
艦名はアーサー王の愛馬から。

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