本文の一部を変更しました。
2019/9/24
用語解説を追加しました。
ホワイト・ガールの介入から二週間近くがたった今日、静かであった状況が大きく動く。
ヒロキ防衛大臣が、何者かにより殺害されたとニュースで報じられた。
それは、アメリカ軍特殊部隊が非公式に日本入りした数日後のことだ。
様々な革命派グループから犯行声明が出ているとのことだが、奴らが関与しているとみて間違いないだろう。
そしてすぐに二課にも動きがあり、彼らの協力のもと至る所で検問が引かれ、外出禁止令が出された。
街は完全封鎖されたゴーストタウンと化した。
この様子だと、今夜にも引越しが行われてもおかしくない。
封鎖範囲と防衛設備の規模から考えて、目的地は永田町の特別電算室。
移送方法は陸路だろう。
ヘリによる空路の可能性も考えたが、ヘリは移動速度が遅く、障害物のない空では狙い撃ちされるため「ない」と判断した。
陸路はヘリよりも遅いとはいえ、小回りが利き、人の動きがない状態であれば移送にかかる時間は最小限となる。
また、自分たち以外の動くものは「敵」と判断し対処もしやすく、建物は長距離からの攻撃を防ぐ障害物にもなる。
マニュアル通りだが、合理的な作戦だ。
私は思考をまとめ、最後の準備へと取り掛かる。
何重にもロックがかかった金庫から2本の矢じりのような宝石を取り出す。
一本はポケットに仕舞い、もう一本は手に握りしめる。
こちらの準備は整った。
戦いに向けて神経を集中させる。
翌日の明朝に始まり、開始早々ホワイト・ガール側が攻撃を仕掛けた。
移送は私の読み通り陸路であり、4台の護衛車がピンクの車を囲って守る。
ありとあらゆる場所に配備させた偵察ドローンは、次々に護衛車がやられていく移送集団を捉え続ける。
かれらは薬品工場に侵入。爆発によるデュランダルの破損を恐れて攻撃してこないと踏んだようだが、ホワイト・ガールはノイズを上手く操り最後の護送車を破壊、メインターゲットであるピンクの車をほぼ無傷のまま転倒させることに成功した。
ここで決着がつくッ!
そう確信した私は、軍から支給された「行き」のテレポートジェムを床に叩きつけた。
「♪~絶対に・・・離さないこの繋いだ手はッ!~♪」
休業中の薬品工場に少女の歌と衝撃音が響き渡る。
立花響はガングニールを纏い、襲い掛かるノイズを冷静かつ的確に体術で潰していく。その動きは、数週間前まで逃げることしかできなかった少女とは違う。
「こいつ、戦えるようになっているのかッ!?」
『ネフシュタンの鎧』を纏い、薬品タンクの上で戦いを眺める少女―雪音クリスは驚く。
「・・・だが、それがどうしたッ!今度はあたしが相手だッ!」
クリスは響に向かって鞭を振るう。
響はその攻撃に気付き、ジャンプで避ける。空振りに終わった攻撃は地面を抉り、土の臭いがより一層濃くなる。
(掛かったッ!)
「今日こそはモノにしてやるッ!」
空中で身動きの取れない響に、クリスのライダーキックが炸裂する。
「くうぅ・・・ッ!」
(まだシンフォギアを使いこなせていないッ!どうすればアームドギアを・・・ッ!)
顔面に重い一撃をもらった響は地面に叩き落され、軽く意識が飛ぶ。
それと同時にデュランダルがケースを突き破り、鈍い光を放ちながら取ってくれと言わんばかりに宙に浮く。
「響ちゃんの『フォニックゲイン』に反応し、覚醒したというのッ!?」
二課の聖遺物研究者であり、先ほどまでデュランダルを載せていたピンクの車の運転手―櫻井了子は驚く。
驚く彼女に目もくれず、クリスはデュランダルを睨む。
「こいつがデュランダル・・・ッ!そいつは、あたしがもらうッ!」
クリスはデュランダル目掛けて飛ぶ。
人では届かない高さに浮いているが、完全聖遺物を纏った彼女には関係ない。
距離が縮まりあと一歩。勝利を確信し笑みが零れるが、
「♪~♪~~♪」
「詠唱だとッ!?一体誰ガッ!?」
独特の発砲音と微かな琴の音と共に彼女は姿勢を崩し、立て続けに何者かに顔を踏まれる。
痛みに耐えながら顔を踏みつける不届き者に目をやる。
身長は女性にしては高く褐色肌にベリーショートの銀髪、アジア系の顔に紅の眼を持つそいつは、カーキ色のギアを纏い右手には独特の形をした銃剣が付いた古いライフル銃を、伸ばした左手はデュランダルを掴もうとしている。
(奪われるッ!)
そう確信したが、
「渡すものかぁッ!」
本日三度目の衝撃がクリスを襲う。
復活した響による渾身のタックルは、クリスと乱入者の両方に当たり、彼女たちをあらぬ方向に弾き飛ばす。
結果、道を切り開いた響がデュランダルを勝ち取った。
同時に、世界が変わった。
テレポートジェムで薬品工場に転移した私は、ギアを纏い跳躍、今まさにデュランダルを手にしようとしているホワイト・ガールを『マルティニ・ヘンリー』で狙撃、ついでに踏み台として利用させともらった。
手が届くッ!
そう思ったのもつかの間、ガングニールの妨害により、手に取るどころか逆に取られてしまう。
しかも当たり所が悪かったのか、背中がかなり痛い。
おかげで着地もままならず地面を転がる羽目になった。追い打ちに「帰り」のテレポートジェムが破損する失態までしてしまった。
だが、奪うチャンスはあるはず。テレポートジェムが壊れることも想定内で、予備の逃走路も考えてある。
再びデュランダルを奪おうとガングニールに目を向けるが、事態が急変していることに気付く。
「・・・U、UUUUUUUUUUUッ!AAAAAAAAAAAAAAッ!」
彼女の叫びと共にデュランダルは、必死に抑え込まれていたエネルギーが爆発したかのように光線が空へと伸び、形状が変化する。
先程まで錆びだらけのみすぼらしい剣が、今や神聖な光を放ち完全聖遺物としての格の違いを見せつける。
私の本能が「今すぐ逃げろッ!」と騒いでいる!
だが、同時に美しいとも感じてしまう。
これほどの力を有するのだ。これなら私の願いだって叶えられるはず!
パヴァリアに対抗するだのデュランダルを奪ってこいだのそんなことはどうでもいい!
『願いが叶う』
今の私には、それだけしか頭にない。
恐怖、もしくは興奮によるものなのか身体が動かず、ただ聖なる見つめることしかできない。
だからお願いだ、デュランダルッ!
その刃で私をッ・・・私をッ!
「k「そんな力を見せびらかすなッ!」
私の願いは一瞬にして砕け散る。あろうことか隣の
「UAAAAAAAAAAAAAAッ!」
ガングニールは挑発に答え、ノイズと薬品工場の一掃という形で完全聖遺物の本気を私たちに見せつけた。
「ゲホッゲホッ、オエェェッ!とんだ
息が絶え絶えになりながら岸に這い上がる。
振り降ろされた一撃は私にかすりもしなかったが、衝撃波と薬品の爆発で遠く離れた海まで吹き飛ばされ、今に至る。
作戦は失敗。それどころか、私という装者の存在をバラしてしまった。次、ギアを纏えば波形で特定されるため無暗に使えない。
顔も見られているかもしれず、防犯カメラに引っかかる可能性すらある。
虎の子のテレポートジェムはもうない。
下手に動くことができなくなった以上、今すぐに対処する必要がある。
私は傷ついた身体を引きずりながら、海岸近くのセーフハウスへと向かった。
用語解説
・テレポートジェム
距離に関係なく空間をゼロ移動するアイテム。
低確率であるが、転送事故を起こす。
・マルティニ・ヘンリーライフル
「*******」のアームドギア。
モデルは19世紀にイギリスで採用された、後装式・レバーアクション式の軍用小銃。
ズールー戦争・ボーア戦争で用いられ、少数ながら第一次世界大戦でも使用された。
単発かつ黒色火薬と古さが目立つが、威力は絶大。
本銃に装着されている銃剣には、鋸のような刃が付いている。