戦姫絶唱シンフォギア Nameless   作:717

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まさか二ヶ月も放置してしまうとは・・・
待っていただいた方、本当に申し訳ありません。



EP5「Stop that Nois!」

「これで何とか・・・グッ!?」

 

僅かなしかないコンテナの中で痛みから漏れる声が反響する。

天羽々斬の一閃を貰った右太ももに新しい包帯を巻きなおす。

何度もやってきた作業であるため時間はかからないが、痛みだけは慣れない。

たまらず鎮痛剤を打ち、壁に身をゆだねる。

天羽々斬との戦闘から数日が経った。

想定外の戦闘と傷を負った私は、港のコンテナの中で傷を癒している。

ここ最近は市街地を中心に小規模なノイズの反応とイチイバル、稀にガングニールの反応を確認した。

ノイズの規模やイチイバルがギアを纏う場所やタイミングから推察するに、彼女は操られたノイズによって追われているのだろう。

よりにもよって雇い主に。

自らが信じたモノに裏切られ、命まで狙われる。

あの少女がどこまで手を染めたかは分からないが、一般人を巻き込んだことは確かだろう。

どんな理由があろうとも許されることではない。

だが、同時に彼女の気持ちもよくわかる。

林の中で叫んでいた言葉。

呪いというのがよくわからないが、彼女が本気で争いを憎み、無くそうと躍起になっているのは感じられた。

最小限の犠牲で最大限の平和をもたらす。

信じて疑わないその姿はまるで・・・

 

「私と同じだな・・・」

 

私は願いを叶えるため多くの者を傷つけ続けるだろう。

だが、その行為を子供がするのは見ていられない。

それが敵対する者であっても・・・

心を落ち着かせるため瞼を閉じるが一向に収まる気配はなかった。

 

 

 

 

 

嘘か真か第六感というものが存在するという。

そんな存在があやふやなものが、仮眠を取ってた私に働いた。

目に映るものは乱雑に投げ捨てられた空の医療品と僅かな明かりのみ。

だが、この手の感覚は外れたためしがない。

警戒し続けているとノイズセンサーが危険度5を示す警告音を発する。

危険度5はノイズがすぐそばにいることを表す。

コンテナの中では逃げ道が少ない。

急いで扉を開け、外の様子を確認する。

 

「なによ・・・これ・・・」

 

周りにはノイズ、ノイズ、ノイズ・・・

コンビナートを埋め尽くすほどのノイズがこちらに気付き、迫ってくる。

逃げたいところだが、包囲され逃げ道はない。

本調子とは程遠いがやるしかない。

 

「無人兵器ごときが、私を殺せると思うなよッ!」

♪~Tear flood Failnought tron~♪

 

フェイルノートを纏い、ハッキリと認識できるようになったノイズを弓で打ち抜いていく。

近くにいるヤツ、急速接近してくるヤツを優先的に素早く確実に仕留めていく。が、如何せん数が多い。

そこでアームドギアをルイス軽機関銃に変形させ、狙いは程々に引き金を引く。

特徴的なパンマガジンが回転しながらノイズを薙ぎ払い、5秒ほどで空となる。

それを素早く交換し、再度弾幕を張る。

できるだけ絶え間ない攻撃を行い近づけさせないようにする。

それでもリロードの隙と圧倒的な物量の前に徐々に接近を許し、体術を繰り出す回数が増えていく。

疲労と怪我も重なりいつもより体力の消耗が激しい。

数百体は倒したはずだが、ノイズの数は減ってないようにすら思える。

 

「それがどうしたッ!私はここで止まるわけにはいかないんだッ!」

 

そのとき、周囲にいたノイズが爆ぜる。

驚く私の目の前に深紅のギアを纏ったイチイバルが降り立つ。

 

「派手な登場だね。でも助かった」

「別に助けたわけじゃねぇ。ただ、ミサイルがこっちに飛んで行っただけだ」

「なら貴方のギアに感謝するよ。正直、この数を一人で相手するのはキツイから」

「ハッ!イギリスの装者様は大したことねぇなッ!」

(何故そのことを知っている!?)

 

再び驚いた顔をしている私にイチイバルは、何もかもお見通しと言わんばかりの勝ち誇った顔をしている。

 

(まさか、フィーネの正体は・・・いや、今はそれどころではない)

「貴方にいろいろと聞きたいことはあるけど、今は目の前の騒音を黙らせましょう」

「アタシを踏み台にした奴と協力すると思うか?」

「協力じゃない、どちらが最後の一体を倒せるかの勝負よ。それに理由はどうあれ貴方が自ら戦いに参加したってことは何か思うことがあるのでしょ?」

「・・・気に食わねぇ。アンタがアタシを知ってるかのようなその口調ッ!」

「気に食わなくて結構。それで乗るの?乗らないの?」

「乗ってやるよ、その勝負ッ!」

 

二人の装者は背中を合わせる。

空気を読んだのか、はたまた二人相手にどう立ち回るか練っていたのか先程まで膠着していたノイズが滲みよる。

 

「Three count!」

 

気持ちが切り替わる。

 

「「Three!!」」

「「Two!!」」

「「One!!」」

「「Fire!!」」

 

二つの銃声()が重なり鳴り響く。

戦場(ライブ会場)に舞うのは鉛玉と空薬莢と炭。

華々しさも客もいない。

ただ生き延びるための野外ライブは敵同士であるはずの二人組により、盛り上がりを見せる。

高まる歌声は新たな(アームドギア)を作り、さらに盛り上がる。

あるときは片方が担当し、またあるときは片方のミスをカバーずる。

掛け声などいらない。

なぜなら、仲間ではなく敵なのだから。

カンとノリとテンションだけで調律し、戦う原動力となる。

だが、ペースを乱す者はいつも突然現れる。

突如、戦場に響いた砲撃音。

驚いたのも束の間、私たちは爆炎に飲まれる。

 

「「グワァァァッ!!」」

 

砲撃音は海の方向から。

見れば要塞型ノイズが港に上陸してくる。

その光景は昔観た日本の怪獣映画そのもの。

 

「クソッ、これでも喰らいやがれッ!」

≪MEGA DETH PARTY≫

 

イチイバルが腰部のアーマーを展開し、マイクロミサイルを要塞型に放つ。

だが、目立った効果はない。

それどころか私たちに砲身を向けてくる。

 

「散開ッ!」

 

叫びと共に鳴り響く砲撃。

直撃は避けたものの、爆風からは逃れられず吹き飛ばされ、倉庫の壁に叩きつけられる。

衝撃に意識が飛びそうになるのを堪え、立ち上がるが、再び砲撃が行われる。

迫りくる砲弾が目に映る。

弾道は直撃コース、避けることは不可能。

私は覚悟した。

 

「はあッ!!」

 

雄たけびと共にガングニールが空から舞い込み、迫りくる砲弾を粉砕する。

唖然とする私をよそに地面を割りながら着地する彼女は、一呼吸整え次の攻撃に移る。

なんとノイズの群れの中を駆け抜けた!

残像を残しながら!

彼女が駆け抜けたところには大量の炭が出来上がる。

 

「これが・・・ガングニールの力・・・」

 

二人で戦っても厳しかったあの数を彼女はたった一人で蹴散らした。

装者になって数ヶ月しかたっていない少女が・・・

 

「ッ!、危ないッ!」

 

あらかたノイズを倒し、立ち止まった彼女に要塞型が砲撃する。

咄嗟に私はルイスで、イチイバルはガトリングガンで砲弾を迎撃する。

 

「勘違いするなッ!これで貸し借りはナシだッ!」

 

イチイバルは捨て台詞を吐き、戦闘に戻る。

 

「助けてくれてありがとうガングニール」

「間に合ってよかったです!えっと・・・」

「名前は無い。好きに呼んで」

「じゃあエックスさん、私と一緒に戦ってください!」

 

ガングニールは真剣で敵意が一切籠っていない目で私に頼み込む。

人手が多いことに越したことはない。

だが私は彼女の厚意を利用し、仲間を傷つけた。

それでもなお、わざわざ私に頼む意図が分からない。

 

「いいわよ。でも、貴方の戦う理由を教えて」

「・・・私は翼さんの夢を守りたい。翼さんは今、一人で戦っています。私は拳で殴ることしかできないけど、今はそれで守れる!だから私は戦うッ!」

「貴方は・・・とても歪な人ね・・・」

「え・・・」

「合格ってこと。やるわよ、ガングニールッ!」

「ッ、はいッ!あ、あと私の名前はガングニールではないですッ!立花響ですッ!」

「了解よヒビキッ!」

 

私たちはイチイバルの加勢に向かう。

彼女がガトリングガンで薙ぎ払い、撃ち漏らしをヒビキと私が処理する。

近距離も遠距離も揃ったチームの前にノイズは消え去っていく。

もちろんノイズたちも黙ってやられる訳でも無く、要塞型含め必死に抵抗するが、私たちは容易く躱す。

要塞型の一撃を躱した響は空中で腕のパイルバンカーを引き延ばし、力を籠める。

そして重力も追加した一撃を地面に叩きつけた。

衝撃波は真っ直ぐ要塞型に向かい足場を破壊、動きを封じる。

 

「チャンス!トリは任せたッ!」

「了解ですッ!」

 

私とヒビキは、貯まったエネルギーをアームドギアにまわす。

私が形作るは装甲をもブチ破る貫通力をもつ武器。

上部に付いたマガジンに特徴的なT字単脚、全長1.5m以上ある巨体なライフル-ボーイズ対戦車ライフルを形成する。

ヒビキはできる限りパイルバンカーを引き延ばし、一直線に駆ける。

私はすぐさま初弾を叩き込み、狙いを定める。

狙うはヤツの砲身。

 

(そこッ!)

 

≪.55 TANK STOPPER≫

 

最期のあがきに向けられる4門の砲を的確かつ素早く潰す。

マガジンに残った最後の一発は、本体の中心に突き立てる。

意図を読んだヒビキは、突き立てた銃弾目掛けて鉄拳を叩き込み、間髪入れずにパイルバンカーが作動する。

鉄拳で無理やり体内に入れられた弾丸は、圧縮されたエネルギーによって爆発・粉砕した。

結果、ノイズの体内で破片が飛び散り、内部と外部の両方から形を崩していった。

 

 

 

 

 

 

「やりましたよエックスさんッ!って、あれ?クリスちゃんは?」

 

ヒビキが満点の笑みで私に駆け寄ってくる。

 

「イチイバルなら先に帰ったわよっと」

 

私はボーイズを杖代わりにし、立ち上がる。

 

「もしかして何処か怪我を!?って、よく見れば肩や足に血が!止血止血、止血の方法はえぇっと・・・」

 

言われて気付いたが、天羽々斬に付けられた傷口が開きインナーから血が滲んでいる。

 

(そういえばギアを纏うと包帯も取れるんだった)

「傷口が開いただけだから大丈夫よ」

「えぇッ!それ全然大丈夫じゃないですよッ!早く病院に」

「本当に大丈夫。あとで治しとくから」

「・・・わかりました。でも、無理だけはしないでくださいね!」

(全く・・・本当に変わった奴だ)

 

敵であるはずの私を心配する彼女の姿がどうしようもなく眩しい。

戦う覚悟を決め、武術を習得した彼女ならすぐにでも私を組み伏せることができるはずだ。

何より、私の身体はここ数日の疲労と傷の影響で抵抗すらもままならないだろう。

だが、彼女はその気すらを見せない。

本気で私の事を思ってくれている。

その気持ちだけで十分だ。

 

「それでその・・・」

 

先程と打って変わって彼女は歯切れ悪く口を開く。

 

「エックスさんデュランダルが欲しいのですよね。訳を聞かせてくれませんか?」

 

緩んでいた空気が張り詰める。

 

「無理にとは言いませんし私なんかが役に立てるかどうかはわからないです。けど、誰かを助けるためなら私も師匠にお願いします。だからッ!」

「どうしてそこまで加担する?私は貴方の仲間を傷つけたのよ」

「それは・・・そうですけど・・・でも、翼さんは言っていました。気を失っていた私を翼さんと一緒にノイズから守ってくれたって。さっきだって私を守ってくれたじゃないですか」

「両方とも状況が状況だっただけよ」

「それに私たちは同じ人間です!言葉で通じ合えます!なら、「ガングニールッ!」ッ!」

 

思わず叫んでしまい気まずくなる。

だが、これだけは彼女に伝えなくてはならない。

 

「ごめんなさい。貴方の気持ちは嬉しい。でも、これは私個人の問題、他人が、特に貴方達に関わって欲しくないの」

 

暗くなるガングニールの顔が、私の胸を締め付ける。

しかし、こればかりは私がケジメを付けなくてはならない。

例え、

 

「私たちと戦っても・・・ですか?」

「戦っても、よ・・・」

「協力し合えたのに・・・」

「それでも、よ・・・」

 

ガングニールが俯き、地面が濡れる。

戦場に立つにはあまりに優しすぎる。

余計に巻き込みたくない。

だが、自ら踏み込んだ者にそれを言うのは無礼だ。

だから、

 

「だから、貴方は全力でデュランダルを護りなさい。アレがどれほど危険か貴方は知っている。あんなモノが、何しでかすか分からない奴に取られないように護ることが貴方の使命であり、誰かを護ることに繋がるはずよ。タチバナヒビキ」

「・・・そう、ですよね」

 

彼女は乱暴に涙をぬぐい、顔をあげる。

 

「約束しますッ!私が、いえ、私たち二課がデュランダルを誰にも奪わせない、護ってみせるとッ!」

 

彼女は宣言した。

なら、返答は一つ。

 

「その約束、私が破ってあげるわッ!」

 

宣戦布告と共にヒビキに背を向け、夜の街へと向かう。

だが、闇に消える前に一言

 

「助けてくれてありがとう、ヒビキ」

 




用語解説

・ルイス軽機関銃
第一次世界大戦期にイギリスで生産された軽機関銃。
パンマガジンと銃身に覆われた冷却筒が特徴。
故障は多かったが、同時期の機関銃と比べ軽量かつある程度の信頼性があったため幅広く使われた。

・ボーイズ対戦車ライフル
1937年にイギリス軍で採用されたボルトアクション式対戦車ライフル。
36インチ(914.44mm)の銃身から発射される13.9mm弾は、通常の小銃と比べ破格の貫通力と破壊力を持つ。

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