戦姫絶唱シンフォギア Nameless   作:717

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どんどんと伸びる投稿期間・・・
本当に申し訳ないです。


EP6「Adult」

 人里離れた森の中にそびえたつ大きな洋館。

湖の傍に立てられたその立派な建物の大広間は、

 

「うッ、酷いな・・・」

 

胴体に大きな穴を開けた死体がいくつも転がり、血と硝煙の匂いが充満した地獄と化していた。

割れたガラスや壁に残る数えきれないほどの銃痕が、ここで起きた戦いの激しさを、そして死体は一方的であった事を物語る。

私は死体を踏まないよう奥へと進む。

ここに来たのは死体を見るためではない。

彼女に関する情報を得るためだ。

ことの始まりは今朝。

返信不可能なデバイスに届いたメッセージには、この地で暗躍する米軍特殊部隊の行き先が綴られていた。

そこは衛星写真では湖しかない森の中。

だが、実際には違った。

どうやら世界中の衛星を乗っ取り、巧妙に隠していたようだ。

 

(流石としか言えないわね)

 

ここまで徹底している彼女の事だから情報は消されているだろう。

それでも傷だらけの身体に鞭打って来たのだ。

タダで帰るのは割に合わない。

少しでも情報が残っていることを祈りながらボロボロのコンソールにデバイスを繋げようとしたとき、廊下に足音が響く。

私はすぐさま物陰に隠れ、隙間から様子を窺う。

 

「はぁッ、はぁッ・・・なッ!」

 

部屋に駆け込んで来たのはイチイバルだった。

 

「何が、どうなってやがるんだ・・・?」

 

彼女は惨劇を前に戸惑いながらゆっくりと部屋を進む。

そしてもう一人、赤シャツの大男が現れ、彼女を見据える。

アイツは資料に載っていた。確か、二課の総司令のゲンジュウロウ・カザナリだ。

 

「あ、ち、違うッ!あたしじゃないッ!やったのは―」

 

狼狽える彼女が言い終える前に銃を手にした黒服(二課捜査員)が部屋になだれ込む。

イチイバルは身構えるが、彼らは彼女の横を通り過ぎ、死体やコンソールの操作を行う。

 

「誰もお前がやったなどと、疑ってはいない。すべては、君や俺たちの傍にいた彼女の仕業だ。・・・隠れてないで出てきたらどうだ『エックス』」

「なッ!?アイツがッ!」

 

彼の鋭い視線が私を射抜き、思わず身を隠す。

同時に黒服たちの銃口が私に向く。

 

「よせ、銃を降ろせ」

 

赤シャツが一人の黒服の銃を降ろす。

他の黒服も渋々納得したようでこちらに向けられていた殺気が消えた。

ここは下手に逃げない方がいい。

無意識に握りしめていた銃を離し、両手を上げながら姿を見せる。

 

「よく見つけたわね。隠れるのには自信があったのだけど」

「前の職が職だったものでな。人の気配には敏感なのさ」

「流石、カザナリの血が流れてるだけあるわね」

「ほう、随分と詳しいようだな」

「まあね。貴方も元気そうで何よりよイチイバル」

「お、おう・・・」

 

さて、挨拶は済ませた。

 

「それで」

 

こちらに争う気がないことが伝わり、

 

「お前さんはどこまで知っているんだ?」

 

赤シャツが本題に移す。

 

「せいぜい彼女の正体、あとはそこに転がっている死体についてぐらいわ」

「彼らの仲間だと思っていたが」

「寧ろ追われている身よ」

 

私は死体に目をやる。

 

「彼らは公に存在しない部隊の者たち。名前も、家族も、魂でさえも米国に捧げた人間よ」

「やはり一連の事件、米国政府が手を引いていたか。そして彼女も―」

「繋がっていた、それも何年も前からね」

 

真実を告げられた彼の表情は変わらなかった。それでも何処か悲しそうで、悔しそうだ。

今はこれ以上、彼女について語るのはやめておこう。

 

「まぁあの国が相手なんだ。寧ろよくここまで拗れずに持ったと思うよ」

「それはどういう―「風鳴司令、これをッ!」

 

一人の黒服が何かを見つけたらしく声をかける。

見れば死体に置かれたメッセージカードに手を掛けようとしていた。

 

「よせッ!」

 

私は止めに入るが、遅かった。

カードに仕込まれたワイヤーが引っ張られ、起爆装置が作動、部屋の至る場所に仕込まれた爆弾が一斉に爆発する。

私たちは爆炎に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

「う、くッ・・・まだ耳鳴りがする」

 

爆発でやられた聴覚が大方治り、頭が無事であることを実感すると各部位の確認に移る。

 

(足もよし、痛みもないし立っている。腕は・・・ん?)

 

ふと、妙な事に気付いた。

あれ程の爆発を喰らったのに立った状態で無傷、というより私の周りだけやたら被害が少ない。

そして私は何かに抱き着いている。

まさかッと思い、ゆっくり視線を上げると

 

「すまないがそろそろ離れてくれると助かる。これを置きたいのでな」

 

そのまさか、片手で巨大な瓦礫を持つ赤シャツがいた。

 

「えっと・・・その手で支えているモノって・・・」

「さっきので落ちてきたヤツだ。衝撃波は発頸で掻き消したが、これだけはどうにもならんくてな」

 

・・・何言ってるのこの人・・・・・

 

「?何を驚いているか知らんがそろそろ離れてくれ。彼女も苦しがっている」

 

彼の視線は私の胸元に向けられる。

その視線を追うと

 

「~~~~~ッ!~~~ッ!」

 

苦しそうな声を上げるイチイバルの姿があった。

 

「ッ!?ご、ごめんなさいッ!」

 

すぐさま拘束を解き、彼女を開放する。

 

「プハッ、危うくサンドイッチになるとこだったぞッ!」

 

解放された飛び退くように私たちから距離を開け、睨む。

 

「その様子だと怪我はなさそうだな」

「そういう問題じゃねえッ!どうしてギアを纏えない奴がアタシを護ってんだよッ!お前もだッ!ギアを纏える奴がなんで使わねえんだッ!」

「俺がお前を守るのはギアの有る無しじゃなくてお前よりか少しばかり大人だからだ」

「確かにギアを纏えば私は助かった。でも、それだと貴方を見殺しにしてしまう。それは大人として恥ずべき行為よ」

「大人・・・?」

 

私たちを睨む目がより一層きつくなる。

 

「アタシは大人が嫌いだッ!死んだパパとママも大嫌いだッ!」

 

彼女の叫びが私の奥底で木霊する。

 

「とんだ夢想家で臆病者ッ!あたしはあいつらとは違うッ!戦地で難民救済?歌で世界を救う?いい大人が夢なんか見てるんじゃねーよッ!本当に戦争をなくしたいなら、戦う意思と力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰せばいいッ!それが一番合理的で現実的だッ!」

 

違う。

それで平和と思えるのはほんの一瞬、憎しみや悲しみに目を背けられる間だけ。そこで生まれた負の感情はやがて新たな戦争の火種となる。屍を積み上げて築いた仮染めの平和は誰も笑顔にしない。

そう言おうとした。だが、

 

『分かっていながら何故銃を持つ?』

 

声に出す前に誰かが頭の中で囁いた。

 

「そいつがお前の流儀か。なら聞くが、そのやり方で、お前は戦いをなくせたか?」

 

赤シャツがイチイバルに尋ねる。

 

「―ッ!?それは・・・」

「いい大人は夢を見ない、と言ったな。そうじゃない。大人だからこそ夢を見るんだ」

 

『血で染まりきったお前が彼女に説教とはな』

殺したくて殺したんじゃない、仲間のために仕方なくッ!

 

「大人になったら背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだってちっとは増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親は、ただ夢を見に戦場に行ったのか?・・・違うな。歌で世界を平和にするって夢を叶えるため、自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんじゃないか?」

「なんで、そんなこと・・・」

「お前に見せたかったんだろう。夢は叶えられるという揺るがない現実をな」

「あ・・・」

 

『助からないことは分かっていたッ!解放されたかったッ!なのにどうして地獄を見せ続けたッ!』

死んでほしくなかったッ!生きるのを諦めてほしくなかったッ!だからッ・・・

 

「お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親は、きっとお前のことを大切に思ってたんだろうな」

 

彼はイチイバルをやさしく抱きしめ、

 

「う、うう・・・ああ・・・うッ、ひぐ・・・ッ!う、うわあああんッ!あああ、あああああッ!」

 

彼女は腕の中で泣きじゃくる。

 

『お母さんとは大違い』

お願いだ、やめてくれ・・・そんなこと言わないでくれ・・・・・

 

私は逃げるように他の部屋の調査に向かった。

 

 

 

 

 

調査も終わり館から出ればイチイバルと赤シャツが話し合っている。

イチイバルは申し訳なさそうな顔をし、赤シャツはやれやれっといった感じだが、何処か嬉しそうな顔で何かを手渡した。

一瞬だったが小型の機械のようだった。おそらく通信機だろう。

彼は私に気付くと歩み寄ってきた。

 

「お前さんも調査が終わったか。収穫は・・・その顔では無かったようだな」

「元から期待してなかったけどね」

 

同じく調査を終えたのでだろう、私たちの横を黒服たちが通り過ぎ、車へと乗りこんでいく。

 

「あの子は」

 

私はイチイバルに目を向ける。

 

「まだ俺たちとは来れないとのことだ」

「そう・・・」

「何、いずれ道は交わる。その時まで陰から護ってやるよ」

 

彼の自信にほっとした。

同時に逃げ出した自分が情けなくて悔しい。

子供を守りたい、助けたい。なのに目の前の一人すら救えない私が―

 

「お前さんもな」

「え・・・?」

「大人といえども所詮俺たちは人の子、限界だってある。だからこそ、あまり無理はするなよ」

「ハハッ、生身でトンデモを見せつけた貴方がそれを言う?」

 

全く、敵対しているのに

ヒビキといい、この男といい二課にはおかしな奴が多い。

だが、

 

「ありがとう。少し楽になったよ」

 

誰かに気にかけてもらえると救われる。

 

「そういえば」

 

唐突に、彼は何かを思い出したらしい。

 

「爆発する前に米国との関係がどうこう言っていたがあれはどういう意味だ?」

「どうもこうも米国からシンフォギアを借りる代わりにデュランダルを譲るのでしょ?あの国は親譲りのあくどい外交だし、こっちはこっちで貴方の爺さんがいるから揉めるのはわかるけど、もうちょっt」

「待ってくれッ!米国もシンフォギアを保持しているだとッ!?あれは我々が極秘裏に開発したものだぞ。それにギアを作れるのは彼女しか・・・ッ!」

 

彼のこの反応、想像以上に面倒な事になってしまったようだ。

 

「そういうことか。だが、これで君のギアの説明もつく」

「私も随分といいように使われてたみたい」

 

情報戦が十八番な上層部がこのことを知らないはずがない。

以前にも偽情報を渡され、作戦行動したことはあるが、今回は理解不能だ。

 

「なあ、深刻な顔してるとこ悪いがちょっといいか?」

「あ、ああ」

 

いつの間にやら、すぐ傍まで近づいていたイチイバルが私たちに声をかける。

 

「フィーネが言ってたんだ『カ・ディンギル』って。それがなんだかわからないけど、そいつはもう完成しているみたいなことを・・・」

「『カ・ディンギル』・・・」

 

二人の視線がこちらに向くが私も分からず首を横に振る。

謎ではあるが、収穫がまた一つ増えた。

期待してなかった分、嬉しい限りだ。

私は二課の面々を見送り、イチイバルとも別れた後『カ・ディンギル』について調べる。

 

(『カ・ディンギル』・・・シュメール語で『高みの存在』。転じて、『天を仰ぐほどの塔』を意味しているとも伝えられる)

 

この近辺で最も高い建物と言えば東京スカイタワーがある。

日本で最も新しい電波塔で、日本政府の非公開組織が情報統制に使っている場所でもある。

『カ・ディンギル』の正体の可能性はある。

だが、

 

(そう易々と察せられるようなものなのか?)

 

この名からまず思いつくのはそこだろう。

それは本人も分かるはずだ。

イチイバルに漏らしたこと、仮に口が滑っただけだとしても分かりやすい名を付けていることを考えると、よほど隠し場所に自信があるのか、ブラフの可能性がある。

それに『完成しているみたいなこと』と言っていた。

つまり完成したのは最近で、それまで作っていた可能性がある。

誰にも気付かれず、巨大な物を作る。

そんなことが可能なのは、

 

(地下か水中ッ!)

 

確かに、この街で一番高い建物は東京スカイタワーだ。

だが、地下を含めると話は別。

本当にこの街で一番長い建物は、

 

「特異災害対策機動部二課本部、それ自体が『カ・ディンギル』だというのかッ!」

 

しかも、その奥底には無尽蔵のエネルギーを有するデュランダルが奮起状態で保管されている。

 

(『カ・ディンギル』の正体って、まさかッ!)

 

それが答えと言わんばかりにノイズセンサーが鳴る。

観れば空母型ノイズ4体が東京スカイタワーに向かって真っ直ぐ、何も攻撃せずに進んでいるとのこと。

空母型がノイズも放出せずにただ直進するだけでも怪しいのに、それが4体同時、しかもこのタイミングで場所が場所。

間違いなく陽動だ。

そしてここまでお膳立てしたのだ。フィーネが動かないわけがない。

 

(攻めるなら今しかないッ!)

 

私は二課本部がある私立リディアン音楽院高等科に向かって走る。

英国の思惑がどうであれ、私にはデュランダルが必要だ。

それに読みが当たっているならフィーネに渡すことも使わすことも出来ない。

何としてでも奴より早く、刺し違えてでもデュランダルを奪わなければッ!

 


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