遂に斬った。炭治郎が岩を斬った。
出会って半年、任務の合間に稽古をつけた彼は着実に強く、呼吸を自分のものにしていった。その成果が今日、でた。
誰もなにも言葉を発しない静かな世界にザクザクと雪を踏む音がする。
その音の主、鱗滝さんは岩に触れると炭治郎を抱きしめた。
岩を斬った当の本人はポカンとしていた顔からポロポロと涙を流しそれに答える。
髪も伸びきりボサボサで服も汚れていないところを探す方が難しいくらいの状態の炭治郎。
よくやった。よく頑張った。お前はまた一歩前へ進んだんだ。
抱擁を交わす2人を私と真菰は微笑みながらその光景を眺めていた。
「炭治郎、最終選別にあたり1つ伝えておかなければならない事がある。」
「?…はい」
その夜禰豆子がいる部屋で鱗滝さんから貰った厄除の面を見る炭治郎に声をかける。
真剣な表情の私にそれまでの和やかな空気が消え、炭治郎も背筋を自然と伸ばした。
鱗滝さんは今所用でここにはいない。言うなら今がいいだろう。
「試験は毎回同じ内容、同じ場所で行われるから鬼と対面する事になるだろう。その中で1体、手を複数もつ鬼には気をつけてくれ」
「手を複数もつ鬼、ですか?」
「そう、体が手でできてるってくらいの多さで大きい鬼だよ」
私の隣にちょこんと座る真菰は途端に不機嫌な顔になりあの鬼の頸、硬いんだよね、と呟く。
「え…真菰さんでもその鬼の頸は斬れなかったんですか⁉︎」
「うん、あの時は今より体力も力もなにもかもまだまだだったから」
「因みに私も対面したが奴の頸を斬ることはできなかった」
「ええぇえ⁉︎」
二段階に分けてギョッと目を見開いて驚く炭治郎。今まで稽古や指導をしてくれた相手が敵わなかった相手と対面する…とても怖いだろうが私もこれだけは伝えておきたい。少しでも炭治郎の生き残る確率が上がるように…
「錆兎のは鬼を斬りすぎて刃こぼれしてたからあいつの頸を斬れなかったんだよ」
「いや、刃こぼれ自体恥ずかしい事だからそこは言わなくていい。なんで対抗するんだ真菰」
「だってー」
「はぁ…それでだ、その手鬼は鱗滝さんを逆恨みしている。」
「‼︎」
「だから私達弟子を執拗に狙い襲ってくる…鱗滝さんが作ってくれた厄除の面を目印に…奴は覚えているんだ、鱗滝さんの面と同じ掘り方をしたこの面を」
今度は静かに息を呑む炭治郎。面を持つ手に力が入っている。
「鱗滝さんには私が試験を合格した時にその事は伝えている。そのせいで鱗滝さんは心を痛め面を作るのをやめると言われていたが私はやめてほしくなかった。鱗滝さんが作った面は災いを呼ぶ面ではなく私達を守り力を与えてくれる面だ。」
「錆兎さん…」
「最終的には持つ本人の気持ちに任せようと鱗滝さんと決めた。だから炭治郎、こんな話をして決めづらいかもしれないがその面を持っていくかいかないかは炭治郎が決めろ。」
ほんとこんな空気で断るなんて気まずいにもほどがあるよな。
持って行くしか選択権ない、て感じだ。
「…俺、この厄除の面持って行きます。」
「ああ」
やっぱり…すまないな、炭治郎。こんな選択させて…
「正直手鬼は怖いけれど話をきいてこの面には鱗滝さんだけじゃない…錆兎さんや真菰さんの気持ちも入ってると思いました。」
「‼︎」
「‼︎」
「俺が無事帰って来られるよう、怪我がないよう…いろんな気持ちが…だから俺、この面をつけて絶対に最終選別に行きたい‼︎」
この面からは皆の優しい匂いがするから‼︎
そう続けた炭治郎はとても眩しい笑顔で笑った。
鱗滝さんだけじゃなくて私達の事も…本当に優しすぎる子供だ…
目元が熱を持ち視界が少しボヤけたが弟弟子に恥ずかしい姿は見せられないと目をつぶり誤魔化す…真菰には気付かれているようだが炭治郎に気付かれてないなら今はいい。
「ありがとう、炭治郎。最終選別、絶対に生き残れ。鱗滝さんと禰豆子の元へ帰ってくるんだ」
「はい‼︎」
元気よく返事をした彼の肩を叩き湿っぽい空気を飛ばす。
そして後日最終選別が始まったと鱗滝さんから連絡がきて真菰と2人、炭治郎の無事を祈りつつ任務に明け暮れた。
炭治郎との話では錆兎は涙脆くなってますね。これも長男パワー
陰ながら見守り続けた鱗滝さんは3人が仲良くしていて終始ホワホワしてます。弟子達がいい子過ぎて幸せ。
早く錆兎と禰豆子を対面させたい。