ストライク・ウィッチーズ -空駆ける日の丸- 作:エウクランテ
昭和20年8月6日ーーーーー
大東亜戦争が始まって4年が過ぎようとしているこの頃、次第に激化する戦局は俺達学生を学問の道から引き摺り下ろして戦争へと突き落とした。
殆どの大学は休校となり、学生達は『国を守る為』と唆されて軍へ徴兵されていった。かくいう俺もその一人だ。
大学で飛行機について研究していたという理由だけで予科練に入れられて、いつの間にか卒業させられて今では木更津の基地に配属されている。
そして今日も最新鋭機である『流星』攻撃機に乗って戦いに赴くのだった。
「今日も盛大なお出迎えだな!うわっち!!」
「全くだ、くそっ!!」
房総半島沖合の海域。そこで俺達はアメリカの機動艦隊を撃滅すべく魚雷を抱えて超低空飛行で敵艦隊へ突撃していた。
前からは高射砲や機銃の銃弾や砲弾が飛んできて、上からは直掩機の機銃掃射が降り注ぐ。全くもって最悪の状況だ。
銃弾が機体に何発か命中するが、この流星は防弾装備がしっかりしているので大した影響は出なかった。そして後部座席に座る工藤が備え付けられた機銃で反撃を始めている。
「くそっ!!さすがグラマン鉄工だ、くそっ!!」
そう悪態と吐きながら工藤は空になった弾倉を交換してまた銃撃を再開する。
そして敵機が俺達の機体に狙いを付けたタイミングを見計らってフットレバーを蹴って機体を横滑りさせて避ける。俺達のいた場所には銃撃で水柱が立っていた。
「工藤、大丈夫か!?」
「まだ大丈夫だ、それよりやべぇ、10機程がこっちに来てる!!」
くそったれ、と心の中で叫びながら操縦桿を強く握り締める。
もしかしたら生きて帰れないかもしれないな、そう思うも直ぐにそんな考えを振り払って生き残る方法を考える。
「距離1500、敵は追って来てる?」
「ああ、皆頑張って付いて来てるぜ!!っと、1機落ちた」
学校の引率みたいだ、と思いながら俺は更に高度を下げて飛行する。
艦砲で迎撃してくる駆逐艦の側を過ぎ去り、艦隊の中に入った俺達が狙うは敵の大型空母。一段と強まる弾幕の中で俺は撃墜されない事を祈りながら回避運動を続ける。
その時だった。
「秋月!上だ!!」
工藤の叫び声で初めて気付いた。
咄嗟に上を見上げると、上からは銃撃しながら突っ込んでくる敵機が視界に入った。
全てがスローモーションになる。操縦桿を右へ倒して咄嗟に取った回避運動、そしてそれすらも捉えた狙いで降り注ぐ機銃弾。ガンガンと被弾した音が響き、衝撃が俺達を襲う。
「工藤!!大丈夫か!?工藤!?」
そしてスローモーションが終わった時、機体は穴だらけで風防は後方が紅く染まっていた。
返事しない工藤と、飛び散った赤い液体。これだけで何が起こったかが分かってしまった。
それでも悲しむ暇は無かった。
尾翼をやられて動きが鈍くなったけど俺はなんとか雷撃態勢に機体を持っていって、投下スイッチを引いた。
カシャンと音を立てて九一式航空魚雷が切り離されて、その反動で機体が少し浮き上がった。
しかし直ぐに後方から銃弾が叩き込まれ、とうとう左主翼から燃料が漏れて引火してしまう。
「まだまだぁっ!!」
もう生還は出来ないと分かった俺は敵空母の艦橋に目掛けて機体を飛ばした。
何も考えられない。怒りなのか、哀しみなのか分からない感情が僕を突き動かして機体を操縦させ続けた。
そして翼内に装備された20mm機関銃を打ち続けながら俺は最後の時を迎えた。
記憶が走馬灯として脳裏に流れる。
俺と飛行機を結び付けてくれたのは父さんだった。まだ5歳の頃に海軍の攻撃機乗りだった父さんが魅せた訓練飛行。あの光景が全ての始まりだった。
あれから飛行機に関わりたいと猛勉強を続けて、飛行機について研究し始めたんだっけ。それから大学も航空関係の学科に進んで、そういや工藤ともここで出会ったんだっけ。
一緒に飛行機模型を作って飛ばして、教授の部屋に突っ込ませて怒られて。予科練に入った後もアイツと一緒に何とか頑張れて・・・・。
部隊に配属されて初めて『特攻』について知って、募集掛けられた時は二人で滅茶苦茶司令官に講義したな。『特攻すれば1隻ですが、生還すれば5隻くらいは沈めてみせます!!』って言って、その後上官不服という事で殴られたけど。
ああ、畜生・・・・・。
昭和20年8月6日
両名房総半島沖合にて戦死