「・・・もう行くの、瑠璃?」
「うん。」
「寂しくなるわ。」
そんなこと言われたら行けなくなるでしょ、と瑠璃は苦笑した。
悠玉もそれに微笑を返す。
「ねえ、瑠璃。二か月だったけど、楽しかった。」
「うん、私も。」
「本当?」
「本当よ。縹家を出てからはじめに飛ばされたのがここで良かったって思うくらいにはね。」
「瑠璃、これからどこに行くの?」
「うーん・・・。全国津々浦々点心修行?」
「なんで点心・・・。」
後に義息子の養い子が言うことになる言葉とは知らずに、瑠璃は何となくそう言ってみた。
実際のところ、別にこれといった目的はなかったのだが―――悠玉の反応が面白そうで。
「確かに、どうして点心なのかしら・・・。」
「じゃあ点心修行が終わったらここに来て私につくり方を教えてちょうだい。」
「・・・悠玉。」
「何?」
「点心修行って冗談だったのだけれど・・・。」
「・・・あ、そうなの。」
真面目に受け止めて真面目に返答していた悠玉は間の抜けた返事をした。
「悠玉って、本当冗談通じないわねー・・・。」
「だってほぼほぼ人との交流なんてないもの。」
「うん、それは知ってる。」
瑠璃は二カ月ほどに滞在していたが、悠玉以外に人に会ったことはない。二か月もあれば一人くらい来訪者がいてもおかしくないものを、悠玉の庵には誰一人として来なかった。
「二か月とも他人と共同生活したのなんて本当に初めてだわ。・・・楽しかったから良いんだけど。」
「悠玉。」
「ん?」
「文、書くわね。」
「・・・どうやって届ける気なのよ。」
「・・・あ゛。」
「・・・『あ゛』じゃないわよ!まったく瑠璃ってば変なところで抜けてるんだから。」
「・・・たぶんどうにかなるわ、だから大丈夫よ―――たぶん。」
「“たぶん”って何よ。あーもう、瑠璃が抜けてるっていうのはわかった。だからまたここに来なさい。」
「えっ?!何その脈絡ない文章?!」
「一刻も早く私に会いにくるためにさっさと全国津々浦々点心修行に行きなさい。」
「だから点心修行行かないってば!」
本気とも冗談とも判別のつかない悠玉の言葉に、瑠璃は顔をひきつらせた。
しかも悠玉は真顔だ。
―――さっき彼女は瑠璃を抜けているといったが、悠玉もかなり抜けているのではないだろうか。
「・・・うん・・・。じゃ、行ってくるわね、悠玉・・・。」
「行ってらっしゃい。あ、仕掛け頑張ってね。」
「・・・下山する分には大丈夫よね?」
「たぶん。下りたことないけれど。」
「・・・頑張るわ。」
「応援しているわよ。」
「うん、じゃ・・・さよならは言わないわ、悠玉。」
「ええ、瑠璃。・・・またね。」
瑠璃は悠玉に手を振り、二か月過ごした庵をあとにした。
全国津々浦々点心修行!
絳攸のボケ(?)を遣ってみたかったのです!
絳攸が瑠璃にとって『義息子の養い子』になる日はまだだいぶ遠そうですが。(何気にちょっとネタバレしてしまいましたね。)