大業年間の最中、活気を失った街を瑠璃は歩いていた。とはいっても、街を歩くのはこれが初めてなので画期があるとかないとかはよくわからない。
店はあるものの、そこまで賑わっているわけではない。
これでも、他の州と比べてかなりいい方なのだろうが―――。それでも、紅家の力は行き届いていないと聞いた覚えがある。
考え事をしていてついとよそ見をした瞬間、何かにぶつかった感じがした。
ハッと我に返れば、ぶつかったとおぼしき人影が見える。
「大丈夫ですか?」
「・・・っ、はい・・・。」
優しく微笑んだ美青年に手を差し伸べられ、思わずその手をとって見惚れていた瑠璃は謝っていないことに気づき、姿勢を正した。
「すみません、よそ見をしていたようで・・・。」
「大丈夫ですよ。お嬢さん、怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です・・・。」
「道に迷われてしまいましたか?」
確かに、瑠璃の装いを見ればそう見えるかもしれない。かなりの高品質の布で仕立てられた上質そうな服に、高価な簪。簪をさしていたのは失敗だったかと、瑠璃は心の中で頭を抱えた。簪には縹家の家紋が描かれているのだ。
「いえ・・・。」
うつむいた拍子に揺れた簪に彫られた紋を目にすると、青年は目を細めた。
縹家の姫か―――。
「私は櫂喩といいます―――お嬢さんのお名前を教えてもらっても?」
「・・・瑠璃、といいます。」
あえて姓は省いた。そもそも、縹家を勘当された瑠璃にはその姓を名乗る権利があるかさえ怪しいのだから。
「瑠璃姫・・・ですね。」
「不躾ですみません。貴方はここで何をしているのですか?」
その問いに目を見開き、次いで櫂喩は甘く微笑んだ。
「瑠璃姫に会わせたい人がいます。」
「私に会わせたい人、ですか?」
「ええ。瑠璃姫に時間があればでよいのですが。」
「喜んで会わせていただきますわ。」
瑠璃は面白そうに笑みを浮かべた。
櫂喩に引きあわされたのは、緩く波打つ金色の髪の、青年と少年の狭間にいるような男性。
彼は、“紫戩華”と名乗った―――。
「・・・あー、もう、何か色々わかりました。」
「“色々”?」
片眉をあげた戩華に、瑠璃はため息を吐く。
「最終目的は朝廷でしょう?」
「何が言いたい?」
「・・・協力しましょうって話ですよ。」
「・・・どんな見返りを求めている。」
「何も求めていません。」
瑠璃の言葉に、戩華の傍らにいた女性がくすりと笑った。
「いいんじゃないの、戩華?私が責任もって面倒を見よう。」
「・・・わかった、お前に任せる。」
訪れた運命の出会いの先にあるのは、希望か絶望か―――。
面白そうだと、瑠璃はわずかに口の端をあげた。
櫂喩と出会ったのち、戩華に出会ってみる・・・。
瑠璃は無駄に運がいいです。(この話、前にもした気がしますが)