「確か君は瑠璃姫、といったかな。」
「ええ。―――まあ、隠しても無駄なようなので言いますけど。私の姓は“縹”です。」
「なるほど。」
「もう勘当された身ですけれどね。」
「勘当されてもなお、これを身につけられるっていうことは・・・直系筋かな?」
「ええ、大巫女の娘です。」
「―――瑠璃。」
「はい?」
「私は、旺栗花落。―――旺などと名乗る資格はもうないのだろうけどね。“風の狼”を束ねる“黒狼”だ。」
「暗殺集団・・・ですか。では貴女は、私を“風の狼”に入れようと?」
「その前に、君の器量がどれくらいなのか見ておきたいと思ってね。」
「・・・言っておきます。自慢でも自惚れでもありませんけれど、私、武術方面の腕に関してはかなり自信ありますからね。」
瑠璃は自信満々にそう言い切った。その中に、自惚れや自慢の類は確かに見られない。自分に確固たる自信のある者の瞳だった。
「それはまた・・・随分、自信があるね。」
驚いたように少女―――栗花落は目をみはった。
「あります。疑うなら手合わせしますけど?」
直系筋の姫が武術など、縹家ではまるでいらないものだった。
縹家の女は異能の継承の道具に使われる。
かつて、瑠璃もそうだった。何の気まぐれか、“無能”であっても瑠花や璃桜が瑠璃を洗脳することはなかったが、幼い頃はほとんど幽閉に近い生活を送らされていた。
何の役にも立たなかったはずの武術。
―――もしそれが必要とされるのなら、縹家を出た甲斐があると思えた。
「それでは、手合わせをしようか。」
数合で宙を舞った剣に、栗花落は茫然とした。
あまりにも強い。
そして、あまりにも慣れている。
「―――瑠璃、をどこで身につけた?」
「縹家で。」
「・・・縹家。」
「・・・あの・・・。」
「瑠璃?」
「・・・いえ・・・。えっと、・・・あの、何とお呼びすれば?」
「栗花落で構わないよ。・・・鬼姫や黒狼とは、呼ばれているけれどね。」
「栗花落さん。」
「うん?」
「公子はどこにいらっしゃるんですか?」
「・・・会いに行くつもりかい?」
「ええ―――だって、まったく話す時間がとられなかったのですよ。話したいこともあるのに。」
「アレに話したいこと?」
「はい。まあ、人目を盗んで話した方がいいことなのであの場で話す時間がとられなかったのは良かったのかもしれませんけど。」
「・・・瑠璃。」
「何ですか?」
「聞きたい。―――君は、“何”を知っている?」
栗花落は、“知っている”と言った。
何もかもが見抜かれているような気がするのははじめてで、瑠璃はため息を吐く。
悠玉の姿が見えたことから始まって、何度か“先見”らしき幻影が瑠璃の前に現れている。
おそらく、この能力は“先見”。
間違いないだろう。
縹家で書物を読みあさっていた次期もあるし、慕っていた英姫が先見の巫女でもあったことからその力の制御法を瑠璃はよく知っていた。
だから救われた、とも言える。制御できなければ瑠花に見つかって連れ戻されるだろうから―――。
そう、だから瑠璃は先を“見抜く”のではなく、先を“知っている”のだ。
「戩華公子にすべてを話すつもりです。―――必要とあらば、戩華公子から栗花落さんに話が行くかと。」
「そうか―――わかった。じゃあ、戩華を訪ねるのは・・・明日でも良いかな?」
「・・・わかりました。」
瑠璃一人で行くのではなく、栗花落に連れて行ってもらった方が確実に早く面会できる。
そう考えた瑠璃は、栗花落に素直に従った。
異能が顕現。
縹家で書物を読み漁って英姫にひっついたのが功を奏して異能の操りかたはわかってます。