「おはようございます、栗花落さん。」
「おはよう、瑠璃。―――今日、戩華に会いに行こうか。早ければ早いほどいいだろう?」
「はい。」
「それと。」
「何ですか?」
「私に敬語や敬称はいらないよ。それは君の素ではないだろう。」
まったく―――縹家を出てから、どうしてこうも素の自分を見破られるようになったのか。
ため息を吐いてから、瑠璃は口調を変えた。
「わかったわ、栗花落。戩華公子にはどうすればいいの?」
「不満があればヤツが勝手に言ってくるさ。」
「まあ、そうでしょうね。・・・それで栗花落、聞きたいのだけれど?」
「何か?」
「私は、“風の狼”でどのように見られているか。」
「そうだね・・・。あれだけの強さを誇る君のことだ、一日でもう次期“黒狼”と目されているよ。」
「実力主義なのね。」
実力があればいくらでものし上がれる―――。
瑠璃は、それが別に嫌いなわけではなかった。
「一応礼はした方がいいの?」
周りに誰もいないのを見て、瑠璃は栗花落にそう聞いた。
「・・・っは、やっぱり君は面白いね、瑠璃。」
「・・・“風の狼”に引き入れる気か?」
「その前に。この子が君に話があるっていうから連れてきたんだよ、戩華。」
栗花落はそう言って楽しそうに笑う。
彼女に促されて、瑠璃は戩華に目を向けた。
「知っていると思いますけれど、私は縹家の出です。もう勘当された身ですが・・・。それで、不思議な話なのですが勘当されてからなぜか異能が顕現しまして・・・。“先見”と呼ばれる類のものですわね。」
淡々と続ける瑠璃に、戩華は面白そうに先を促す。
「それで?」
「昨日も言いましたが、見返りは求めませんわ。私は貴方を支えましょう。・・・そもそも、私は縹家が大嫌いなのですし。」
姉のように慕った英姫がいなければ、縹家で瑠璃は壊れていただろう。
それほどに、瑠璃にとって縹家は窮屈で、―――嫌いな場所だった。
「母へのささやかな反抗にもなりますわ。それに、腐敗しきった朝廷を貴方が建て直すというのならばなおさら協力しようと思います。」
最初から最後まで、まったく表情を変えずに瑠璃は言い切った。
ただただ、硝子のような瞳で。
「・・・見返りは求めない、とな。」
「ええ。」
「面白い。・・・そうだな。・・・瑠璃。」
「何でしょう。」
「敬称も敬語もいらない。」
「・・・栗花落と同じことを、言いますのね。」
「敬語はいらないと言ったはずだが。」
「さて。どうしてでしょうか、戩華相手だと私は敬語の方が自然体になる気がするのですわ。そう思わないかしら、栗花落。」
「・・・確かにそうかもしれないね。」
「ほら、栗花落もこう言っていますわ。これが私の自然体ですの。ですから私に敬語を外すことは求めないでくださいませ?」
「・・・わかった。」
面白い、もう一度口の中で呟くと戩華は頬杖を突いて口を開いた。
「軍師でもやるか?」
やっぱり瑠璃ちゃんの居場所は縹家じゃないと書いてる本人ながら再確認。
瑠璃ちゃんは縹家を飛び出せば規格外です。