「えっと・・・あの、その、ね?栗花落。」
「うん?どうしたんだい、瑠璃。」
「櫂喩殿って・・・。」
「櫂喩殿がどうかしたかい?」
「・・・その・・・色男というものなの?」
「・・・うん、まったく否定はできないね。」
「へぇ!色男って、ああいうのを言うのね!」
「そうだよ。」
「そっかぁ。」
胸の前で両手を組む瑠璃を見て、栗花落は首を傾げた。
「・・・まさか、瑠璃。」
「栗花落?」
「・・・櫂喩殿に恋でもした?」
「へっ?恋?」
「すごく瞳がキラキラしている・・・。」
「あっ、あのね。縹家じゃ色男っていうの、単語と定義しか知らなかったから実物を見れてすごく新鮮で嬉しいのよ。」
「・・・そう、かい。」
相変わらず瞳をキラキラさせている瑠璃を見て、栗花落は溜息を吐いた。
これが恋じゃないというか。
・・・いや、本当に恋ではないのだろう。だって瑠璃なのだから。
「瑠璃。」
「うん?」
「色男の定義って?」
「1.〔女性から好かれる〕美男子。2.情夫。いろ。・・・これが色男、の定義だよ。櫂喩殿が当てはまるのは1の意味の方ね。2の意味の情夫ってどういうことなのかしら?」
きょとんと首を傾げる瑠璃に栗花落は本日何度目かわからない溜息を吐いた。
こんなに小さな少女の口から無邪気に“情夫”なんて言葉が出るとは思わなかった。
「それをどこで知ったんだい?」
「えっ?あ、ちょっと辞書暗唱してた時に覚えたの。」
さらっと言われた内容に栗花落は呆れたような息を吐いた。
一に、辞書とは読むものなのか。二に、辞書とは覚えるものなのか。
目の前の少女のあまりの規格外ぶりはわかっていたがと、栗花落は肩を落とした。本当にこの子を自分の補佐として使っていけるのだろうか、だいぶ心配になってきた。
・・・そりゃ、戩華に命じられた以上、補佐として使ってはみせるが。
「栗花落、一つ聞いてもいい?」
「私に答えられることならね。」
「栗花落は・・・どういう暗器、使う?」
「・・・暗器?」
「うん。だって栗花落、白兵戦より暗殺の方が専門でしょ?」
「よくわかったね。」
苦笑する栗花落を瑠璃はじっと見つめた。
「・・・私もね、暗殺の方が専門なんだ。そりゃ白兵戦だって得意だし策謀も得意だけど、専門は暗殺分野。戩華も栗花落もそれを見抜いて、私を栗花落の下に付けたんでしょ?」
やっぱり見抜いていたか、と栗花落は笑みを浮かべた。
初めて会った時から彼女の聡明さには気づいていたが、今また再確認させられる。
「鋼糸もクナイも使うよ。使えるものは何でも使う。」
「・・・そっか。」
辞書を読んで暗唱してたような子です。瑠璃ちゃんは。
そして、世間知らずなのが少し・・・出せた、かな?