早朝、瑠璃は悠玉を手伝って朝餉をつくっていた。
「瑠璃、手際が良いですね。」
悠玉に褒められて良い気分になった瑠璃は、パアッと顔を輝かせた。
「えへへ、ありがとう悠玉。実は当主様にお話しに行く時、絶対何か手料理つくっていかないと相手してもらえなかったんだ。」
「瑠璃の料理がそれだけ上手だったということですね。」
「ええっ、ちょっとやめてよ悠玉っ!恥ずかしい!それほどでもないからっ!」
そう言ってから、瑠璃はあることに気づき、ぐるんと悠玉の方に振り向いた。
「悠玉っ!」
「な・・・何ですか、瑠璃。」
若干瑠璃に気圧されながらも、悠玉は問う。
それを見て、瑠璃は不機嫌そうに顔をしかめた。
「忘れているんじゃないでしょうけど。悠玉、その口調は何なの?」
「・・・あっ。」
今気づいたというような顔をした悠玉に、瑠璃ははあっとため息をついた。
「まったく。わかる人相手につくったり飾ったりしても無駄だっていうことよ。」
「・・・そうね、そうだったわ。でもこれ、一回つくるとなかなか戻らないのよ。」
「でも一回崩してもなかなか戻らないわよね。」
「―――そうだけど。」
今度は悠玉が不機嫌そうに顔をしかめる。
瑠璃はくすりと笑い、それをなだめにかかった。
「・・・美味しいっ!」
「えへへ、ありがとう悠玉。でも悠玉の料理も美味しいわよ?」
「嫌味にしかならないから褒めてくれなくて結構。何、料理を美味しくする異能とかあるの?」
「あるわけないでしょ!だいたい、縹家直系が全員異能の持ち主なんて馬鹿なことないわよ。むしろ異能持ちの方が圧倒的に少ないし。私は“無能”よ。」
「・・・どこをどうしたら、瑠璃が“無能”になるのやら。」
一緒に過ごしたのはまだ一晩だけだが、悠玉は瑠璃の非凡さを嫌というほど見せられていた。瑠璃にその自覚はないが―――。
ためしに悠玉が漢詩を出してみたりすれば、それに簡単に乗っかって教養高さを見せられるし。楽器を弾いてといえば、彩雲国で一、二を争えるんじゃないかというくらいの腕を見せられるし。台所に立たせてみれば、王族でも食べられるかというくらいの高度な料理をつくるし。
「だって、縹家では“異能”がなければ意味がないのよ。」
「だからといってねえ・・・。瑠璃、その歳でそれだけの教養と料理と楽器の腕を持っている人がどれくらいいるか考えてみなさいよ。それに天つ才なんて普通は持っていないからね?天は二物を与えずっていうけど、二物も三物も与えるわよねえ。」
「えっ?天つ才って珍しいの?」
「・・・へ?」
瑠璃の突拍子もない発言に、悠玉は間抜けな声を出した。
すべてにおいて非凡、そう思っていたが常識まで非凡とはどういうことだ。
「そっか、天つ才って・・・珍しいんだ。」
「・・・そっか、環境が非凡だからすべてにおいて非凡なわけね、わかったわ。」
「何一人で勝手に納得しているのよ・・・。」
悠玉だって非凡じゃないくせに、と思って瑠璃は止めていた箸を動かしはじめた。
几帳面に切りそろえられた野菜とか、きっちり量って正確に入れられた調味料とか、悠玉の料理もじゅうぶん美味しい。自分は適当に目分量でつくっているのに美味しいなんていうのはお世辞なんじゃないのかな、などと思いながら。
悠玉の方がまだ世間一般的な常識はあります。
瑠璃は身の回りの世話は自分でやれますけどやっぱり常識がごそっと抜け落ちてる。