瑠璃が姫家の隠れ里、紅山に放り出されて悠玉と出会ってからちょうど30日が経っていた。
「うーん。随分長居しちゃっているわねえ、私。」
「別に構わないわよ。瑠璃さえよければずっといてちょうだい。」
姫一族は、肉親の情が果てしなく薄い。
肉親の情が薄いにも関わらず、瑠璃は悠玉に気に入られて引き止められるまでになっていた。
短くも濃厚な付き合いをしてきたせいか、今や瑠璃と悠玉は十年来の友人といっても誰もが信じるだろうというくらい親しくなっていた。―――同い年、というのもあるかもしれないが。
「でも、もう30日よ?」
「まだ30日よ。」
「まったく・・・こう言えばああ言うんだから。」
苦笑しながらも、瑠璃は楽しげだった。
何しろ、縹家では同い年の友人などいなかったのだ。英姫はいたが、彼女は友人というより姉のような存在だったし。
それは悠玉も同じで、“鳳麟”でありながら姫家らしくない異端の人間であったからか、ほとんど人との関わりを持つことがなかった彼女にとっても初めての友人だった。
「ねえ、悠玉。貴女には、婚約者とかいるの?」
「たぶんいるんじゃない?」
「・・・何、他人事みたいに言っているのよ。」
「そういう瑠璃はどうだったの?」
「・・・私?」
「ええ。」
「・・・そう、ね。うーん・・・たぶんいたんじゃないかしら?」
「ほら、瑠璃だって他人事みたいじゃない。」
「だって・・・他人事みたいだったもの。私は、大巫女の娘でしかなかった。体の良い政略の駒だったわよ。」
「・・・そうだったのね。」
「悠玉が羨ましいわ、異端とはいっても“鳳麟”として認められているもの。」
「・・・でも、所詮私は“鳳麟”でしかないわ。私を、悠玉を見てくれたのは瑠璃が初めてだもの。」
母も、祖母も、自分を“鳳麟”としてしか扱わない中で、初めて個人としての、ただの人間としての、“悠玉”を見つめてくれたのよ。
そう言ってくすぐったそうに笑う悠玉を見て、瑠璃も微笑んだ。
「私たち、似たもの同士ね、悠玉。」
「えっ?・・・あ、そういえばそうかもしれない、わね?」
瑠璃の言葉に、今気づいたというような顔をして―――悠玉は、吹き出した。次いで、堰を切ったように笑いだす。
「・・・何笑っているの、いきなり。―――不気味だわ。」
「ふふっ・・・あら仮にも友人に対して不気味なんてひどいわねえ、瑠璃。・・・ふふふっ。」
笑いつづける友人を見て、瑠璃はこれを不気味と言わずに何というのだろうか、などということを考えてしまった。
悠玉に言わせたら、また『・・・さらにひどい。』とか言われるんだろうけど。
「それにしても悠玉・・・貴女、表情豊かになったわね。」
最初は読めない、穏やかな笑みだけしか見せたことがなかったのに。この一カ月で、悠玉は驚くほど表情が豊かになっていた。
くるくると動く表情はいきいきとしていて可愛らしく、まるで姉のような心境になったりもする。
「・・・姉って何なのよ。」
「・・・悠玉って読心術持ってたっけ。」
「読唇術は持っているけど読心術なんて持った覚えはないわ。」
「・・・嘘つき。」
「言いがかりよ。さっきのは、心の声ダダ漏れだったからよ。“最初は読めない、穏やかな笑みは~”のくだりからずっと聞いているわ。」
「ええっ!?嘘っ?!本当?!もう、何なのよー!」
縹家にいた頃は心の声が漏れないように細心の注意を払っていたのに、悠玉の前ではつい気を抜いてしまう。
でも、そんなのも良いか、と思って瑠璃は唇に笑みを刻んだ。
瑠璃にも一応婚約者はいましたが彼女が紅家を出奔した時に瑠花が白紙にしてます。
悠玉と瑠璃を書くのが楽しいので姫家にはもう少し滞在しそうです。