例の総選挙のコメントについて話です。
注意:勝手な想像、妄想、解釈云々かつ拙い文章等で構成されています。
某月某ドーム。
大勢のファンやテレビ、マスコミ等が注目するとあるイベント、その結果が今日発表された。
346プロダクション、アイドル総選挙。
一月ほどの期間でファンがアイドル達に投票をして順位を競うこの選挙。
その結果発表が今日行われ、ある問題を除けば例年通り無事終わることが出来た。
さて、今はと言うと、事務所に戻って来ての打ち上げ・・・から抜け出して真っ暗な街をコンビニ袋ぶら下げながら歩いていた。
個人的には打ち上げで豪華料理とここ一週間飲めなかったアルコールを摂取したかったのだが、打ち上げを抜け出す所かそもそも来なかった担当に話があるのと、改めて打ち上げをしに行くために担当がいるだろう場所へと向かっていた。
事務所から歩いて十分程度の所にあるマンション。鍵がカードキーだから多分高級なマンションなんだろう。
ちょっとした訳で持ってるカードキーを使いとある階のとある部屋へ。
問答無用で部屋の中に入ると、部屋の中は真っ暗にだった。
手探りで部屋の電気を付け、ゴミが散乱する廊下を通りリビングらしき部屋へ行くと、案の定散らかった部屋の中にあるソファーに寝転がってスマホをジーっと見ている少女が一人。
「・・・はー・・・やむ」
スマホの明りに照らされて何やら呟いている顔は、明らかに泣いた後に見えた。
「何がだ」
こっちに気づいていない、そんな彼女に一言電気を付けながらいつも通りに声を掛ける。
「うぇっ!?Pサマ!?なんで、どうしふぎゃっ!」
俺の声を聞いたからなのか、突然電気が点いたからなのか、驚きの形相で起き上がったと思ったらソファーから脱ぎ散らかされた衣服の上に落っこちる。
「どうして入ってこれたの!?」
ガバッと持ち上がった頭にはシャツやら下着やら乗っけているが、なるべく気にしないようにしながら話をする。
「ホントはこんな所で使うつもり無かったんだけどな。お前が事務所入りした時に親
からもしもの時の為にって送ってくれたんだよ」
「なっ!あいつらなんでこういう時だけ親面するんだよぅ!!」
「こらこら、ダメだぞ。お前のこの部屋も生活も、その親のおかげなんだから」
こいつの過去は色々ありそうだからなんとも言えないけども。
しかし、本当に娘の為なら会った事も無い芸能界人に家の鍵渡すかね。普通。
「それよりも、お前せめて顔出せよ。みんな心配してたぞ」
立ち話も何だし、って俺が言うのはおかしいけど、立って話す事じゃないから勝手に適当な所に座って真面目に話をする。
「・・・心配、してたの?」
「あぁ。俺がなんとかしたから今頃は楽しくやってる。だから大丈夫だ」
というと、深刻な顔で沈黙してしまった。
これまで見たことのない顔に、こっちも返し方が分からなくなって目を泳がせる。
「・・・あ」
そして、さっきまで見ていた彼女のスマホ画面が目に入った。入ってしまった。
滝の如く下に流れるSNSの書き込みは、どれもとても穏やかとは言えない言葉の羅列で構成されていて、慣れたと思っていたのに見てるだけで精神がやられそうになる。
しかも、その上にあった検索欄には『りあむ』と打ち込まれていた。
「お前、これ・・・」
俯いたまま声は返ってこない。
目の前にいる少女は夢見りあむ。
歳は19で、俗にトランジスタグラマーと呼ばれる小さな背に豊満な身体をしており、髪は綺麗なピンク色に水色のメッシュが入っているミディアムヘア。
俺が初めてスカウトし、プロデュースしている346プロダクションのアイドルだ。
度たびSNSに書き込みをしては炎上をさせる問題児なんて言われていたが、ここ最近ではそれも彼女のアイドルとしての特徴だと思ってくれる人が増え、炎上するような発言があってもそこまで炎上し広がる事は少なくなり、元々のビジュアルの良さとりあむの一癖も二癖もあるキャラに惹かれたファンも増えてくれて遅くはあるものの、順調にアイドルとして売れていった。
これなら、うまく行けば総選挙には五十位内に入れるかも。
・・・そう、思っていた。
前述した総選挙、そこでりあむはなんと三位という順位を叩き出した。
それは実に喜ばしいものだったのだが、担当である俺ですら中間発表の時点で目を疑う程の人気の上がりよう。その状況を素直に喜べないでいた。そして、この結果に俺以上に素直に喜ばなかったのはりあむだった。
そして、普段から炎上させる程度には自分に素直なりあむは上位入賞者のコメントの時にやらかしたのだった。
他のアイドル達はファンの皆さんに向けて感謝のコメントを残す中、りあむだけは全く違う事を言っ放った。
『チョロいなオタク!!ぼく頑張ったか!?努力なんてムダムダの無じゃん!?アイドルってなんなんだよぅ!!はー・・・めっちゃやむ』
その時の会場の様子は・・・言うまでもないだろうが、一気に静まり悲惨この上なかった。
この状態を元に戻してくれた加蓮さんと未央さんは事務所にあるカフェで奢るって事で笑って許してくれたけど、頭をどれだけ下げても足りないと思っている。
体感時間十数分過ぎたように感じる静かな時間、どうしようか考える。
「・・・りあむ」
「・・・何、Pサまっ!?」
俺が袋から取り出して投げたペットボトルを、なんとかキャッチしたりあむは目を丸くしてこっちを見ていた。
「とりあえず、今日は打ち上げだ。キッチン借りるからなー。そこら辺、二人分と少し食べ物おけるくらいのスペース作って待っててな」
りあむの「Pサマ・・・?」という不思議そうな声を背に、袋の中のペットボトルと缶だけ取り出してキッチンへと向かう。
日頃使ってないのが分かる綺麗なキッチンでとりあえず大きめの皿を拝借し、買ってきたコンビニの冷凍食品等々を電子レンジで温めてから皿に盛り、適当なコップを二つ持ってリビングに戻る。
「待たせた・・・って、片付いてないじゃん」
戻るとさっきと何も変わってない散らかったリビングのままだった。りあむすらもさっきと変わってない姿表情。
仕方ないから、皿とコップを空間的に空いている場所に一旦置いてから片付け、というよりは物を移動させてスペースを作ってりあむの前にコップと皿を置く。
「ほれ。あ、飲み物は自分で注げよ」
って言いながら、俺もりあむの反対側に座りビールをコップに注ぐ。
うーん、約一週間ぶりの麦の香り。
「って、おいりあむ。さっきから何固まってんだよ」
「・・・なんで・・・」
と、我慢出来ずにコップに口を付けようとした矢先、りあむが何かを言った。
「なんで、ボクの事叱らないの・・・?」
見れば、いつの間にか目に涙を浮かべて顔はくしゃくしゃになっているりあむがこっちをみつめていた。
「・・・そりゃまぁ、社会人、芸能人としては色々言わなけゃいけない事はあるさ」
一旦コップを置いてから、りあむの目を見つめ返す。
俺はりあむに対して怒りの感情があるかといえば、はっきりと無いと言える。
言ったように確かに一社会人、一芸能界に関わる者としては言わなきゃいけない事とかある。お偉いさん方にも一言どころでは無いくらい叱られて、明日も顔を出せって言われたし。
「だけどな、俺はお前の担当なんだぞ?お前の事分かってる、なんて大層な事は言えないけど気持ちは分かっているつもりだ」
今にも零れそうな涙を溜めながら黙って話を聞くりあむ。
「初めて地下のステージで会った時言ってただろ?頑張ってるのが良いって。尊いって。そういうアイドルが好きなんだろ?お前、根っからのアイドルオタクだから、そういうこだわりみたいなものは強いんだろ」
「・・・うん」
「お前、いつも自分の活躍見てるとき絶対に自分として見ずに、アイドル『夢見りあ
む』を見る一般アイドルファンになってるじゃないか。今回みたいに、ステージ上とか仕事上でそっちを出す事は全く無かったから、多分怒りとかそういうので出ちゃったんだろうって。お前思った事直ぐに口に出すし、良くも悪くも素直かつ純粋だしな」
「・・・うん」
「アイドル『夢見りあむ』が、頑張りじゃなくて炎上とか見た目だけでのし上がったのが、一アイドルファンとして許せなかったんだろうって、なんせ他の上位陣って前からの努力家ばかりだったもんな」
「・・・ぐすゅ・・・うんっ」
声に嗚咽が混ざる。
「・・・許せなかったんだよな。色々」
夢見りあむは、何もやりたくて炎上してた訳じゃない。
ただ、思った事がそのまま何も変わらず思ったままに外に出してしまう、それが火種になってしまっているだけだった。
自分の感情にも素直、それでもって純粋。
ただ、それだけの普通の女の子なんだ。
「・・・でも、もう・・・」
そう言うりあむは目線をスマホに目をやる。
「ま、そりゃ何を思おうが、お前があの場を乱したのは事実だからな。ファンは離れるし、芸能界的にもしばらくは白い目で見られるだろうな」
だが、これはりあむが一番痛感してるはず。
アイドルのイベントでこんな事をして雰囲気を壊して、なんてりあむが一番許せない筈だ。
「・・・また、逃げようかな・・・」
そう言って、顔を伏せる。
また、か。
あんまり過去について深く聞いたことなかったけど、やっぱり昔何かあったらしい。
それに、今回は自分の嫌いなアイドル像と、自分の嫌いな行動、そのどちらもが自分なんていう状況だしな。
・・・って、おや?
「なーに諦めてるんだ。まだ終わってねぇぞ」
「ここまで炎上したらもう無理だよぅ。もう外も出歩けない・・・。それに、事務所のみんなだって・・・ぁいたぁ!?」
そうやって段々沈むりあむに一発チョップを入れて顔を上げさせる。
「何するんだよぅ!Pサマ!」
「うるさい。お前は確かにアイドルとしては変わっているさ。だけどな、それは日本にいるアイドル全体で見たらの話だ。言っとくけど、ウチの事務所の数多いイロモノアイドルの中ではまだまだだからな。見ろ、こいつらを」
そう言って、床に放置されていたりあむのスマホを勝手に弄って、りあむに送られてきた動画を流す。そこには、打ち上げの会場に集まったアイドル達が画面内に収まるように集まって窮屈にしている。そして、未央さんの『せーの!』の掛け声の後に
『りあむちゃん!三位おめでとー!!』
と、うるさい程の音量でそんな言葉が聞こえてきた。
「・・・え・・・」
続く動画には各々りあむに向けてメッセージを送っているが、いかんせん被りまくっ
てて何言ってるか分からない。
そして、そんなカオスな状態のまま数分経って、動画は終わった。
「お前が顔を伏せた時送られてきたんだよ。見ろこの笑顔。酔っ払いから小学生まで、全部お前に向けられた笑顔だぞ。全員、作り笑いで笑ってると思うか?」
そういうと、りあむは信じられないという顔をしながらも首を横に振った。
「だろ?お前が所属してるのは、常識なんて言葉が居座る場所の無い346プロダクションだ。このアイドル達、信じられないくらいお人好しで仲間思い、芸能界なんていう薄汚い場所が似合わない奴らだぞ?何かあると思ったから心配してくれたんだぞ。大体、三位なんて取っておいて逃げたら、それこそ外出歩けなくなるだろ」
「う・・・」
「それに、見た目だけで人気が出たアイドルが、必死に頑張って実力を付けて相応のアイドルになるってのは、アイドルファンりあむとしてはどう思う?」
「それは・・・うん、すっごく推せる」
「だろ?お前が自分自身を推せないのなら、自分自身が推せるまで、この順位が納得できるまでアイドルりあむを育てれば良い。自分をアイドルとして見て、ファンとして意見が出せるってのは、ウチのアイドルどころかどの事務所探してもそういないだろう」
そう言って「ほれ」とりあむ用に買ったコーラを開け、コップに注ぐ。
「・・・ごめんな」
「え?」
ぽろっと言葉が漏れ、自分でも驚く。
「あぁ、いや・・・。俺がもっと有能だったらさ、アイドルとしての良さを広められ
たのにさ。初めて立てた大舞台で、あんな事言わせちゃってさ」
「ち、違うよPサマ!あれはボクが・・・」
「違わないよ。だから、約束するよ。りあむ」
一つ呼吸をおいて、しっかりとりあむの目を見る。
「お前が笑顔で笑ってファンにありがとうって言えるアイドルに絶対してやる。りあむが『りあむ』を見て、推せるくらいのアイドルにしてやる!」
何かが頬を伝っている感覚がするが、気にしない。
「だから、付いてきてくれるか?」
結論から言えば、俺も悔しかったんだろう。
初めての担当アイドルが出来た、なんていう事に舞い上がって、必死にやっていた筈なのに気づけば先にファン、いや、もしかしたらファンでも無いただのSNS民に表の良さを見つけられて拡散されて、勝手に人気者にされて。だから、この順位を喜べたかっていえば、全くもって喜べなかった。
そんな俺の質問に、りあむはゆっくりと口を開いた。
「・・・Pサマ、ボクね、少しだけ夢、見たんだ。キラキラなステージ、みんながボクの為にペンラ降ってくれて・・・。でも、夢なんて直ぐに覚めて、なんで『こいつ』がこんなトコに立ってんだって・・・」
涙が零れているのも気にせずりあむは言葉を紡ぐ。
「気づいたら、真っ暗な中で炎上、なんて優しいものじゃない程の罵詈雑言を見てて、あぁ、本当に夢だったんだって・・・。でも、すごく綺麗で、すごく・・・ひぐっ・・・だからっ、だからPサマ・・・っ・・・ボクに、もう一度あの夢を見せてっっ!!」
「っ・・・あぁ、もちろんだッッ!!」
気づけば、二人抱き合って泣いていた。
年甲斐もなく、子供みたいに。青春、なんてもうとっくに卒業したのに、敗退した部活みたいに。
結局、乾杯も打ち上げも遅くなって、温い飲み物、冷めた食べ物、そんな悲惨な打ち上げだったけど、それらも含めて「次こそは」って胸に秘めながら、俺たちは笑いながら打ち上げをした。
次の日、俺たちはそろって事務所に行き、そろってお偉いさんに怒られた。
りあむの評価は元々のキャラもあってか、そこまで下に下がってこそいなかったが、今一度選挙をしたら五十位にすら入れないレベルだというのは明確だった。
だが、俺はりあむに夢を見せて、と言われた。ならば、一先ず評価を戻す、いや、それ以上まで上げなければいけない。りあむも、なんだかんだで三位としていやいやながらもやる決心がついたのか重い脚を雪見ちゃん、こずえちゃんに引っ張られながら仕事に行った。
そう、俺もりあむも三位から始めるんだ。
りあむは、もう一度
俺は、もう一度
一度見た夢を、もう一度この目で起きて見るために。
・・・と、いう決意から数か月経った夏。
「・・・は?」
「だから!ここ最近、大人気じゃん?ボク!だからだから、最高の夏をボクにちょうだい!もちろんタダで!!」
うだるような暑さ。
なんだかんだ頑張ってくれているお陰で忙しい中、アイドル人生絶好調なりあむは唐突かつ上機嫌に、数か月前の涙などどこへやらそんな事を言い出した。
りあむのキラキラした目を前に、俺はどうしようもなく一言呟くのだった。
「・・・やむ」
==>to be continued