玄関を抜け、リビングに戻る。
「遅かったじゃん」
ヴィータとシグナムがケーキを食べながらこちらに視線を向ける。
「はやては?」
「シャマルと一緒に部屋で勉強してる」
「そうですか。先程、時空管理局の高町なのはとフェイト・テスタロッサの両名と接触しました」
「え!?」
「なんだって!?」
2人はケーキを食べる手を止めこちらに視線を向ける。
ザフィーラもオオカミ状態で顔を向ける。
「すずかが紹介したいと言っていた友人達のうち二人が彼女達であり、訪ね先の翠屋と言う喫茶店の従業員でした」
「恐らく、高町なのはの両親が経営していると思われます」
「へぇ……結構旨いじゃねぇか」
ヴィータは再びケーキを口に運ぶ。
「それで、どうなったんだ?」
シグナムがこちらに視線を向ける。
「対話を希望していましたので、可能な限りお話ししました」
「それは、どこまで話したんだ?」
「開示しても問題の無いレベルです」
「そうか。主の事は聞かれたか?」
「聞かれましたが、お話しする前に仮面の人物達に襲撃されました」
「大丈夫……だったんだろうな」
「はい、迎撃しました」
「そうか。2人はどうなった?」
「戦闘中一人が気絶したために、不利と判断したのか。二人めが気絶した方を回収し撤退しました」
「そうか……」
シグナムは再びケーキを口に運ぶ。
「厄介だな……!」
「このまま行けば、予定通りクリスマスまでには終了するはずです」
「そうだな。やるしかあるまい!」
シグナムは最後の一かけらを口に放り込んだ。
撤退したなのはとフェイトは司令部へと帰還する。
「なのは。どうしたの?」
なのはの暗い表情を見たユーノが問いかける。
「実は……」
なのはが先程2人と接触した事を告げる。
「え? 例の2人と接触しただって!?」
「それは本当か!?」
ユーノの声を聞きクロノも姿を現す。
「うん」
「どうだったの!?」
「ただ、お話を──」
「話? 一体どんな?」
「どうして、闇の書を完成させようとしているのか?と、世界と主を破滅させる事は知っているのか? を┄」
フェイトが答え、全員が息を飲む。
「それで、答えは?」
「闇の書の力を手に入れる事が目的じゃないらしいの……」
「じゃあ……」
「それに、闇の書にはバグがあって、そのせいで力が暴走して、壊滅が起こって居るって言ってた」
「そうだったのか……それならば、尚の事封印しなければ」
「でも、あの2人はそのバグを取り除くつもりで居るらしい」
「バグを取り除く? そんな事時空管理局の本部ですら不可能なはず……」
「でも、あの人達はそれが出来るって……」
なのはが呟くと、全員が息を呑む。
「しかし……一体何の為にバグを取り除くつもりだ?」
「闇の書の主を助ける為だって言っていた」
「助けるだって?」
「バグを取り除けば主を巻き込む事も、世界の崩壊も防げるはずだから、て」
「だから、全員で主を助ける為に蒐集をしているんじゃないかな?」
「それに……」
「それに? なに?」
リンディがフェイトの顔を覗き込む。
「大勢を救うために、1人を犠牲にするのか……ってあの2人が」
「……」
その場の全員が言葉を失う。
確かに、闇の書を主と共に封印すれば、被害は最小に抑える事が出来る。
たった1人の犠牲で済むのだ。
「だが、主が闇の書を悪用する為に蒐集しているのならば」
「それは……違うと思う」
クロノの言葉をフェイトが遮る。
「どう言う事だ?」
「闇の書の力を悪用するのが目的なら、あんなに必死に成って主を助けるなんて言葉は出ないと思うから」
「それに、力を手に入れたいなら、邪魔をしている私達を……殺していてもおかしくないよ」
「それは……」
なのはとフェイトの2人が顔を俯かせる。
「だとしても、管理局としては見逃す事は出来ない」
クロノが立ち上がる。
「何とかして闇の書の起動を防ぐんだ。出来なければ……大勢が死ぬ」
「わかってる……でもあの二人は、私達を助けてくれた」
「どう言う事?」
「二人と話している時に仮面の人物に襲われたの……」
「なんだって!?」
クロノが驚愕する。
「結局、あの2人に撤退するように言われて、私達……」
「そうか、その仮面の人物の映像はあるか?」
「バルディッシュ」
バルディッシュが記憶した映像が投影される。
仮面の人物がしっかりと映し出されていた。
「コイツらが……」
「でも、一体何が目的なんだ?」
「分からない……でも、敵はあの2人じゃ無くて、この仮面の男達だと思う」
「何故そう言い切れる?」
「それは……」
フェイトは何かを言おうとしたが、その言葉を飲み込む。
「まぁいい、取り敢えずこの仮面の人物達についても引き続き警戒する必要があるな……」
クロノが呟くと、その場の全員が頷く。
その後、誰も口を開く事は無く、重い空気だけが場を支配した。
数日後。
蒐集のペースも予定通りであり、前回の戦闘以降時空管理局による妨害工作なども見受けられない。
「あと少しだ」
「予定通り進んでおります」
「この調子ならば、明後日のクリスマスには蒐集が終わるでしょう」
「あぁ、あと少しなのだな!」
ソファーに座ったシグナムは小さな笑みを浮かべる。
「キャァア!!」
その時、キッチンの方からシャマルの悲鳴と、食器などが破損する音が響く。
「はやてちゃん!!?」
「はやて!?」
その場の全員がキッチンへ移動する。
そこには、はやてが倒れており、シャマルが回復魔法を試みている。
「診察開始」
倒れ込んだはやてをスキャンする。
下半身のマヒが心臓部にまで達し、心肺機能が停止している様だ。
「心停止を確認」
「心停止って……」
「おい! 大丈夫なのかよ!」
「シグナムは救急車の手配を」
デルフィが指示を出し、シグナムが電話を手にする。
「応急処置を開始します」
私は、医療用ナノマシンが入った針の長いペン型の注射器を取り出す。
「おい、それをどうするんだ?」
「心臓部に直接注射します」
「心臓に直接注射だと!?。だ、大丈夫なのかよそんなことして!?」
ヴィータが心配そうに見守る中、私ははやての胸部に注射器を押し付ける。
心臓部に達した針からナノマシンが注入される。
ナノマシンは心臓に電気信号を送り心肺機能を回復させる。
「心肺機能の回復を確認、心拍数も安定しつつ有ります。応急処置完了です」
処置から数分後、救急車が到着し、はやては病院へと搬送された。
病院に到着後精密な検査が行われる。
翌日の昼過ぎにはやては病室で意識を取り戻す。
「よし、もう大丈夫ね」
「感謝します」
主治医である石田医師による検査が終わる。
はやても軽く頭を下げる。
「今の所は正常ね。多分だけど突発的な発作ね」
「アハハ……最近色々あって」
「だからって無茶しちゃダメよ!」
はやてが小さく笑うと、ヴォルケンリッター全員が胸を撫で下ろす。
ちなみにザフィーラは自宅の警備も兼ねて待機している。
数日間はやてが入院するという事はシグナムが先程電話で伝えた様だ。
「よかった……本当に良かった!」
「大袈裟やね。ちょっと意識が無くなっただけやん!」
「心配するには十分すぎる理由です」
「せやね」
「は゛や゛て゛~」
ヴィータは目に涙を浮かべながらはやてに抱き着く。
はやてはヴィータの頭を軽く撫でる。
「さて、もう少し検査が有るから数日は入院して貰うけど良いわね?」
「あ、わかりました」
「うん。それと、シグナムさん。シャマルさん。少し良いですか?」
「はい」
シグナムとシャマルの2人が石田医師に呼ばれ退出する。
シグナムとシャマルは一室に通される。
「お二人にはお伝えしようかと思います」
「はい…」
「はやてちゃんは……」
石田医師はカルテを手に神妙な面持ちになる。
「はっきり言って、はやてちゃんは……今生きているのが不思議な状況です……」
「っ……」
「心臓は完全にマヒしている状態です……ですがどういう訳か心臓は正常に動いている……意識が戻ったのは奇跡や魔法に近いです……しかしそれでも……」
「それは……」
「……覚悟をしておいてください」
「そ……そんな……」
シャマルは感極まり、シグナムは俯き下唇を噛む。
「残された時間は少ないです。少しでも多くはやてちゃんの傍にいてください」
石田医師は一言告げると、部屋を後にした。
シグナム達が退出後。
はやてに抱き着いたヴィータから寝息が聞こえ始める。
「あれ? 寝ちゃったんか?」
「昨日は一睡もしていませんでしたので、無理も有りません」
「そうか……心配かけちゃったなぁ……」
はやては数回ヴィータの頭を撫でる。
「失礼します」
私はヴィータを起さない様に抱きかかえると、病室内のソファーに横たえる。
「ありがとう」
「いえ」
「それにしても……皆大袈裟やね……ちょっと倒れただけやって言うのに……」
「スキャンの結果ですが、病状はかなり進行しています」
「知っとるよ」
はやては小さく呟く。
「自分の体の事は……私が一番よく知っている……」
その時、はやてのメンタルコンデションレベルが急速に低下する。
目にも、涙が溜まり始める。
しかし、はやては涙をこらえる様に目を拭う。
「ご無理はなさらないでください」
「あはは……2人にはお見通しやね……」
「この場には我々しかいません」
「ッ!」
次の瞬間、はやての目から大粒の涙が溢れ出す。
「わ、私……まだ……まだ死にたくない……生きたい! 死ぬなんて絶対に嫌や……!」
はやてはデルフィに抱き着き、胸に顔を沈め、体を震わせる。
涙を流し続けているが、寝ているヴィータを気遣ってか声を抑えながらでは有るが嗚咽を漏らす。
「皆が……折角皆に会えたのに……家族になれたと思ったのに……これじゃあ……また私は……一人ぼっちに……!」
「ご安心を」
「私達が必ずお助けします」
「うぅ……ひっぐ……う……!」
はやては依然として嗚咽を漏らし続ける。
その時、病室の扉の前に二つの生態反応を検知する。
しかし、その人物達は扉を開けようとはしなかった。
「嫌や……皆と離れたくない……!」
はやてが小さく呟く。
「闇の書なんて欲しくない……強い力なんていらん!……私の願いは……皆で暮らしていきたいだけなのに……それだけやのに……どうして……どうして私ばっかりぃ……!?」
「作戦は最終段階に移行しています。明日のクリスマスには作戦が完了するでしょう」
「作戦が成功すれば、皆で暮らす事が出来ます」
「で、でも……失敗したら……!」
「ご安心を」
「私達を信じてください」
「┄グズ┄う、うんっ! 二人ともおねがいな!」
はやては涙を拭い笑顔を見せる。
涙を流した影響により、メンタルコンデションレベルも向上する。
その時、病室の扉が数回ノックされる。
「あ。はい!」
はやてが返事し私が扉を開けると、花束を手にしたなのはとフェイトが立っていた。
「あの……」
「あっ、なのはちゃんにフェイトちゃん!?。来てくれたんやね!」
はやてがハンカチで涙を拭った後、軽く手を振る。
「あっ、この病室だよ!」
「もう、2人とも先に行くなんて!」
少し遅れて、すずかとアリサが入室する。
「すずかちゃんにアリサちゃんも!?。来てくれたんやね!」
「心配したよ!。お家に電話したら、おじさんが出て、病院に入院することになったって言うから!」
恐らく、電話に出たザフィーラがそう答えたのだろう。
「アハハ……ちょっと体調崩してもうてな!」
「でも、元気そうでよかった」
すずかが花瓶に花を生ける。
「う……うぅん……」
その時、ヴィータが目を覚ます。
「あれ?」
「あっ……!?」
ヴィータとなのはの目が合う。
「うぁ!?」
ヴィータが驚愕し、ソファーから落ちる。
「どうし──!?」
ヴィータの前にデルフィが立つ。
「病室ではお静かに」
「あ、あぁ!」
ヴィータは数回頷く。
「えっと……」
「お騒がせしました」
デルフィが会釈すると4人も軽く会釈する。
数分程4人は他愛も無い会話を行う。
「そろそろ、面会時間も終わりね」
「また来るね!」
「うん! 皆ありがとぉな! また来てな!」
私は扉を開けると、4人が一礼する。
病室の外でシグナムは腕を組み壁にもたれ掛かっており、シャマルは手を前に組んでいた。
「お見舞いに来ました!」
「皆ありがとう!」
シャマルが一礼する。
その後、4人はロビーへと移動した。
乗って来たであろう車が病院から離れて行く。
しかし、車にはすずかとアリサの姿しかなかった。
ロビーへと移動すると、なのはとフェイトがソファーに座っていた。
「ご用でしょうか?」
「その……もう少し詳しくお話ししたいなって思って」
「この場では人目に付きます。屋上へ移動しましょう」
「うん」
私達は屋上へと移動する。
来年もよろしくお願いします。