「刃以て、血に染めよ」
女性が手を振り下ろすと私達の周囲を取り囲むようにエネルギーの塊が現れ、総てが短剣へと変形し、雨のように襲い掛かる。
その中を私達はシールドを展開しながら、女性に歩み寄る。
「攻撃開始」
デルフィがウアスロッドを振り上げ、女性に向け振り下ろす。
女性が手を上げ、シールドを展開するが、そのシールドはウアスロッドにより容易く打ち砕かれる。
「なっ?」
唖然として居る女性と距離を詰めた私はグラブで腕を掴む。
「デリート開始」
闇の書にハッキングを行う。
その瞬間、はやての声が通信に割り込む。
『待って……この子を傷つけないで……』
私はグラブを解除し距離を取る。
『ご無事ですか?』
『なん……とか……でも……凄く……眠い……』
恐らく、以前注射したナノマシンの作用により無線と、意識の確保が行えたようだ。
『これより、デリートを行います。すぐに救助します』
『待って……まだ……手は……』
再びはやてとの通信が途切れる。
「貴女達を少し見くびっていました」
女性は杖を手に取ると、その杖の先端にエネルギーが収束する。
「咎人達に……滅びの光を」
「該当データ確認。スターライトブレイカーです」
「恐らく、蒐集したデーターを利用できるものと思われます」
「星よ、集え……全てを撃ち抜く光となれ……」
杖の先端からスターライトブレイカーが私達に向け放たれる。
「シールドを展開」
なのはが使用したスターライトブレイカーとほぼ同程度の威力だ。
その為、シールドで防ぐことは容易だ。
スターライトブレイカーを防ぎ切ると、なのは達から通信が入る。
『民間人の避難が終わりました』
『了解』
『それと、クロノ君が闇の書に投降を呼びかけて欲しいって』
『多分、何か手があるんだと思います』
『了解、試みます』
私達は女性に向き合う。
「これ以上の戦闘は無意味です」
「貴女では我々には勝てません」
「だとしても、私は、主の望みを叶える」
「主と言うのははやての事ですか?」
「主は……自分の愛するものを奪い去ったこの世界を、悪い夢であったと願っている。我はただ、その願いをかなえる。主には、穏やかな夢の中で、永久の眠りを……」
「はやてはそのようなこと望んでなど居ません」
「貴様らに何がわかる」
「少なくとも間違いであると言うことは分かります」
「ウィスプ起動」
私は女性をウィスプにより引き寄せ、グラブで掴む。
「ハッキング開始」
ハッキングを行い、はやてのナノマシンの活性化を促す。
『ん……んん……』
『気が付きましたか?』
『うん……何とか……』
「主の眠りを妨げる者は許さん」
女性は手にした杖を私に突き刺す。
しかし、SSAを貫く事は出来ず、杖が粉砕する。
女性が唖然とする中、ハッキングを続ける。
ハッキングの作用によりはやての意識が徐々に覚醒する。
『もう……いいんや……こんな事……』
はやての意識が戻り、無線による声が響く。
「私はただの道具です。貴女の指示に従う。貴女の本当の望みを叶えるための……」
『私の……本当の望み……』
「そうです」
『私の本当の望みは……皆で幸せに暮らす事や……』
「主……」
次の瞬間、女性の体からエネルギーが溢れ出す。
「離れろ」
女性はそう言うと、私達から距離を取る。
「早いな……もう崩壊が始まったか……」
地面から火柱が上がり、エネルギーの暴走が開始する。
「私は……すぐに意識を無くし暴走を始める。そうなる前に……意識のある内に……私は主の望みを叶えたい」
女性は手を振り上げる。
「この……駄々っ子!!」
フェイトが飛び出し、女性に接近する。
「危険です」
デルフィが制止するが、フェイトは聞く耳を持たず、女性にバルディッシュを振りかざす。
「てぇりゃああ!!」
バルディッシュは女性が展開したシールドにより阻まれる。
「なっ……」
「お前も……眠るといい」
女性は闇の書を構えると、フェイトの体が拘束される。
「危険です」
デルフィがゼロシフトでフェイトに接近すると、拘束を解除すると同時に、フェイトを安全圏へと投げ飛ばす。
しかし、デルフィは闇の書から発せられる白い光にのまれて行く。
「危ない!!」
フェイトは唖然とする。
「バーストモード移行」
デルフィはその場でバーストモードへ移行し、光を吹き飛ばす。
「ぐぅ……」
光を吹き飛ばすと、女性が膝を付き、表情を曇らせる。
「何故……」
女性はデルフィを見据える
「何故拒むのです? あの光の中に貴女の望む物総てが……」
「我々は人間ではなくAIです」
「え?」
「AI……」
なのはとフェイトが唖然とする。
「生憎と、願望を持つようにはプログラムされていません」
「だとしても……」
『私は……』
再びはやてから通信が入る。
『私が……欲しかった幸せ……』
「健康な体、愛する者達とのずっと続いて行く暮らし……眠ってください、そうすれば夢の中でずっと……」
『いやや……』
「何故ですか?」
『とても魅力的な内容やけど……現実的やない……それはただの夢や……』
「何をおっしゃって……」
『私は……こんなん……望んでいない……それは貴女も同じはずや、違う?』
「私の心は騎士達との感情と深くリンクしています。だから騎士達と同じように、私も貴女を愛おしく思います……だからこそ、貴女を殺してしまう自分自身を許せない」
『せやけど……』
「最早、自分ではどうにもならない……力の暴走……それは、貴女を侵食し、喰らい尽くしてしまう事も……止められない……」
『覚醒の時に、今までの事……少しは分かったんよ……望むように生きられへん悲しさ……私にも少しは分かる。皆と一緒や、ずっと寂しい思い、悲しい思いをしてきた』
「もうそのような思いは……」
『せやけど、忘れたらあかん。今の貴女の主は私や。主の言う事は聞かなあかんよ』
「何を……言って……」
『せや……名前をあげよう』
「え?」
『闇の書なんて辛気臭い名前はもう呼ばせへん』
女性が涙を流し始める。
『私は管理者や。今ならそれが出来る』
「無理です……防御プログラムが止まりません……このままでは……貴女まで……」
『大丈夫や……今プログラムを切り離すで』
「いくら管理者と言えど、防御プログラムの切り離しは……」
『大丈夫や、心強い味方がおる。頼めるか?』
「了解」
「防衛プログラムの切り離し作業を行います」
私達は女性に触れ、防御プログラムを切り離す。
「防御プログラムの切り離し、終了」
女性がその場で崩れ落ちる。
私達は、女性を受け止め、横たえる。
『夜天の主の名の元、新たな名を授ける。強く支える者。幸運の風。リインフォース』
はやてが名付けた瞬間、エネルギーが解放され、はやての体が宙に浮く。
『防御プログラムは切り離されました。しかし、切り離されたことにより制御を失い暴走を開始しています……このままでは……』
「まぁ、それはなんとかなるやろ。さぁ、行くで」
『了解です』
リインフォースの体が光に包まれる。
それと同時に光から逃れるように分離した黒い物体が高速で飛翔し、海へと落下する。
その光は眩い閃光を放ちつつ緩やかに収束していく。
収束した場所には、バリアジャケットを身にまとったはやてが立っていた。
「ただいま。2人とも」
「「おかえりなさいませ」」
はやては落ち着いた笑みを浮かべていた。
無事、分離作業完了です。
後は、残りを処理するだけですね…