休暇最終日。
私達がトレーニングルームの前に移動すると内部には既にスバルとティアナがウォーキングアップを行っていた。
「最終日だけあって気合が入っているようだな」
トレーニングルームの入り口に立っていたシグナムが口を開く。
「お前達が鍛えただけあってかなり強くなっただろうな」
「戦力の増強は見込めます。現在の2人ならシグナムにも引けを取らないでしょう」
「ほぉ……それは楽しみだ。そうだな。ところで今日はどうするつもりだ? 決まっていないなら私が試してやろう」
シグナムは笑みを浮かべて肩を回す。
「いえ。最終日なので我々と模擬戦を行う予定です」
「そ、そうか……一方的になりそうだな……」
シグナムは小さく呟いた。
「それでは私達はこれで」
「あぁ」
私達がトレーニングルームに入室すると2人が駆け寄る。
「おはようございます!」
「お願いします」
「「よろしくお願いします」」
「それで、今日は何をするんですか?」
「本日は──」
「ねぇ、これはどういう事かな?」
本日のトレーニングメニューを伝えようとした矢先、なのはの怒りを孕んだ声が響く。
「な、なのはさん!」
「ねぇ……2人共……どういうことか説明してくれるかな?」
「ちょっと、なのは……」
フェイトの静止を振り切りなのはが接近する。
「ねぇ? 説明して欲しいな」
「えっと……その……」
「2人の戦力増強トレーニングを──」
「あなた達には聞いていない」
なのはが私達を一瞥する。
「2人の教育に関しては私が全部責任もってやっていたはずだよね。なんで勝手なことをしたのかな?」
「えっと……それは……」
「ねぇ、答えてくれないかな?」
なのはが俯いている2人を見据える。
「2人のトレーニングに関しては私が許可を出してあるで」
その時、はやてとアインスがトレーニングルームに入室する。
「はやて……」
「はやてちゃん……」
なのはが振り返るとはやてを睨みつける。
「それはどういうこと?」
「スバルとティアナの2人が自分で考えてエイダとデルフィにトレーニングを依頼したんや。それを私が許可を出した。それだけの事や」
「2人の教育担当は私だよね」
「確かに知らせるべきやったかもしれんなぁ。でも休暇中に連絡するのもおかしな話やろ」
「それが理由だと言うの? 私は2人の事を考えてトレーニングメニューを組んていたんだよ」
「まぁ大まかにいえばそうやな。それに2人のトレーニングのおかげで確実に強くはなっとるで。それは不服なんか?」
なのははスバルとティアナを見据える。
「へぇ……そうなんだ」
なのはは表情を変えることなく続ける。
「なら、どれくらい強くなったか試させてもらうよ」
「え?」
そういうと、なのはが戦闘態勢を整える。
「私と模擬戦だよ」
「で、でも」
「もし2人が勝てたら今後……何をしようと何も言わない」
「え?」
「負けたら……その時は2人には管理局を辞めてもらうよ」
「え?」
「なのは!」
「なのはちゃん! それは言い過ぎや! そもそもそんな権限──」
「そうかな? 2人は教官である私の意見を無視して暴走しているんだよ。これは十分に厳罰に値するよね」
「でも」
「これ以上無駄話をするつもりはないよ。実戦だと思ってかかっておいで。私も実戦のつもりで行くから」
なのはがはやてを一瞥する。
「さぁ、部外者は出て行って」
「ですが!」
不安そうにスバルが声を上げる。
「現在のお二人ならば勝率は十分にあると思われます」
私達は退室する際に2人に近寄る。
「でも……」
「自信を持ってください」
「無理ですよ……なのはさんは私達よりも何倍も……」
「ですが、人数的には優位です」
「ですが……」
「奇襲でもない限り人数的優位を覆すには相当の実力が必要になります」
「それでも……実力差が……」
「実力差を埋める方法は複数ありますが、有効的な方法は相手の想像や想定を超えた行動をすることです」
「想像や想定を超えた……」
「はい」
「行動分析の結果ですがなのはは左方向からの攻撃に際し無意識に避けている傾向があります」
「え?」
「それでは健闘をお祈りしております」
「あっ! ちょっと!」
私達はトレーニングルームを後にし、それに続くようにはやて達も退室し、部屋には3人だけが残された。
「全く! なのはちゃんはどういうつもりや!」
「言い分は分かりますが、いくらなんでも横暴では……」
はやては激高しシグナムが宥めている。
私達は見学スペースに到着しトレーニングルーム全体を見据える。
「もう……こうなったら行く末を見据えるしかないな」
「そうですね」
はやてが椅子に座るとその隣にフェイトが腰を掛ける。
その時、トレーニングルームからなのはの声が響く。
「さぁ、行くよ」
なのはの周囲に浮いた魔力弾が2人目掛け飛翔する。
「くっ!」
2人はその場から横に飛び退く。
2人が居た地点に魔力弾が着弾し地面が抉れる。
「うわぁ、とんでもない威力やな」
「それだけ本気という事なんでしょう」
「2人は大丈夫かな……」
ティアナはなのはと逆方向へ、スバルはなのはとの距離を詰めるように土煙から飛び出す。
「てあああああ!!」
スバルは拳を掲げなのはとの距離を詰める。
「無策に突っ込むのは良くないね」
なのはが手を掲げると魔力弾がスバルに直撃する。
「うわっ! 直撃やんか!」
「これは……」
はやてとシグナムは状況を見据え困惑している。
「待って!」
フェイトが着弾地点を指さす。
そこには全身にエネルギーフィールドを展開し腕を前面でクロスし攻撃を防ぎ切ったスバルが立っていた。
「へぇ……今のを防いだんだ。面白いものを使っているね。アレからもらったのかな?」
「お二人からいただきました」
スバルが頷くとなのはが真顔で口を開く。
「未認可のデバイス使用。また1つ罪状が増えたね」
なのはがレイジングハートを構え前面に魔法陣が形成される。
「少しお説教が必要かな」
魔法陣から強力なエネルギーが検出される。
「流石にこれは防げないんじゃ──」
次の瞬間なのははレイジングハートの魔法陣を解き周囲にシールドを展開する。
その直後、シールドに弾丸が直撃した。
「何が起こったんや?」
「ティアナによる狙撃です」
「狙撃……ティアナだね」
『防がれた!』
『くっ!』
スバル達の無線が混線する。
ティアナは引き続き狙撃を続けるが、弾丸がすべてシールドで防がれる。
「へぇ、面白いことするね」
なのははシールドを展開したまま手を掲げる。
次の瞬間、魔力弾がティアナの狙撃ポイントに着弾する。
「ティア!」
着弾地点からは土煙が巻き起こる。
「よそ見はだめだよ」
なのはが魔力弾を放つ。
「くっ!」
スバルは体を屈め魔力弾を回避するとなのはと距離を取る。
「良く避けれたね。少しは強くなったみたいだね」
「……」
なのはの問いに対しスバルは沈黙で答えた。
その沈黙を破るように銃声が響き、なのはの足元に着弾する。
「ティア!!」
「ちっ!」
引き続き銃声が響きなのはは舌打ちしつつシールドを展開し数歩後ずさる。
『ティア! 無事だったんだ!』
『何とか直撃だけは……でも』
『どうしたの?』
『足を怪我しちゃって……ここからあまり動けないかもしれない……』
『分かった!』
なのはが手を掲げティアナを狙う。
その時、スバルがなのはに攻撃を仕掛ける。
「くっ!」
なのはは攻撃を中断し防御の体制を取る。
スバルは1発攻撃を与えると左側からなのはの背後に回り込もうとする。
「ちょこまかと!」
なのはが飛び上がると周囲に複数の魔力弾が展開される。
「シュート!」
放たれた魔力弾はスバルを追跡する。
スバルは高速で移動しながらなのはとの距離を取る。
「くっ!」
スバルは移動しながら木々や岩陰などに身を潜め魔力弾の数を減らす。
しかし、1発がスバルの背後に迫る。
「避けられない!」
魔力弾がスバルに最接近した瞬間、銃声が響きスバルの背後で爆発が起こる。
炸裂弾によりなのはの魔力弾が相殺されたようだ。
「うぉ!」
爆風に煽られスバルが吹き飛ばされる。
「いてて……」
『大丈夫!』
『もう少し優しく……』
『直撃してないんだから』
『まぁね……』
スバルは体制を整えるとなのはに接近する。
「もう近付けさせないよ」
滞空したなのはの周囲に大量の魔力弾が展開される。
高速でなのはへの接近を試みるスバルだが周囲に展開した魔力弾がスバルの進行先に着弾し行く手を阻む。
『駄目だ……近付けない……』
『こっちに気を引いてみる』
ティアナが狙撃を試みるが、弾丸はなのはに届くことなく魔力弾で相殺される。
『駄目だ……こっちの攻撃が通じない……キャ!』
『ティア!!』
なのはから放たれた魔力弾がティアナの付近に着弾する。
『危なかった……これじゃあこっちからも攻撃が……』
『くっ!』
スバルはなのはの周囲を移動しながら攻撃のタイミングを窺う。
しかし、スバルの周囲に魔力弾が着弾し、回避で精いっぱいと言った状況だ。
『これじゃあ……』
空ではなのはが無表情で2人を見下ろしていた。
『このままじゃいずれやられる……何とかしないと……』
ティアナが小さく呟く。
『そうだ……』
スバルが呟く。
『どうしたの?』
『相手の想像や想定を超えた行動をすれば……』
『でも……そんなのどうやって?』
『作戦は──』
スバルがティアナに作戦を伝える。
『そんな! 危険すぎる!』
『でも、これしか方法はないよ』
『わかった……チャンスは1回だけ。やるからには絶対成功させるよ!』
『うん!』
2人は作戦を開始した。
スバルが全身にエネルギーフィールドを展開するとなのはに急速で接近する。
「諦めて突っ込んでくるなんてね。確かにうまく抜けられれば勝機はあるかもしれないね」
なのはがそう言うとスバル目掛けて複数の魔力弾を発射する。
「くっ!」
なのはが手を振り下ろすと魔力弾がスバルに迫る。
「1つ!」
スバルは走りながら体を屈め1発目を避ける。
「2つ!」
再度迫りくる魔法弾を近くの廃材を盾に受け流す。
「ちょこまかと!」
距離が迫ったことに焦りだしたなのはが魔力弾を更にスバルに放つ。
「3つ目!」
スバルは飛び上がると空中で体を捻る。
魔力弾はスバルのバリアジャケットを焦がしながらスバルの後方へと抜けていく。
スバルは着地と同時に受け身を取ると勢いそのままなのはに迫る。
「届けぇえええ!」
スバルが更に速度を上げる。
しかし、なのはが不敵な笑みを浮かべる。
「猪突猛進しかできないなんてね。これで終わりだよ」
なのはが手を振り上げるとスバル目掛け大量の魔力弾が背後から迫りくる。
「ティア!!」
「分かってる!」
次の瞬間スバルが居た地点に魔力弾が集中し爆発が起こり、土煙が満たす。
「これは……」
はやてが唖然とする。
しかし、次の瞬間なのはの左前方にスバルが姿を現した。
「なっ!」
「あぁああああ!!」
スバルが拳を振り上げる。
「くっ!」
なのはが瞬時にシールドを展開する。
しかし、突然の事に対処しきれなかったのかシールドは打ち砕かれる。
「くっ!」
「取った!」
スバルがなのはに掴み掛ると馬乗り状態になり自由落下する。
「ぐあっ!」
地面に叩きつけられたなのはが嗚咽をもらす。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
地面に倒れたなのはを見つめながらスバルが立ちあがる。
「はは……まさかここまでとは、油断しちゃたよ」
「あっ! その! 大丈夫ですか?」
スバルが差し出した手を受け取らずなのはがゆっくりと立ち上がる。
「結構強くなったね」
「え、あ、ありがとうございます」
「はは……でもね」
なのはが手を掲げるとスバルの体がバインドにより拘束される。
「スバル! きゃ!」
同時にティアナの体もバインドにより拘束される。
「え? ちょ!」
「私言ったよね、実戦のつもりだって」
バインドで拘束された2人の体が宙へと浮く。
それに伴い、なのはも同様の高さに浮き上がる。
「なのは!」
「なのはちゃん!」
はやてとフェイトがスピーカ越しになのはに話しかける。
「もう終わったはずや! なにしてんのや!」
「実戦はもっと危険なんだよ」
「これは訓練や! そこまで──」
「うるさい!!」
なのはが横に手を振ると小型の魔力弾がティアナの右腕を掠める。
「きゃあ!」
「ティア!」
魔力弾が掠めたティアナの右腕から流血を確認する。
「まさか……非殺傷じゃ……」
「実戦じゃ非殺傷の魔法とは限らない」
なのはが掲げた手の平に魔力が収束する。
「やめるんや!」
「なのは!」
見学スペースではやてとフェイトが声を荒らげる。
しかし、収束は止まらない
「少し、頭冷やそうか」
なのはが発射体制へ移行する。
「いや。頭を冷やすのはなのはちゃんの方や!」
はやてが手元のコンソールを力強く叩く。
その瞬間、トレーニングルームに警告音が鳴り響くと同時に高濃度のAMFが展開する。
「なっ!」
AMFにより収束していた魔力が霧散し2人のバインドが消滅する。
「っ!」
スバルは受け身を取り着地すると着地に失敗したなのはに駆け寄るとそのまま馬乗りになる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
腕を庇いながらスナイパーライフルを杖のように使い体重を支えながらティアナもなのはに接近する。
「くっ!」
スバルは拳を振り上げ、ティアナはスナイパーライフルをなのはの額に突き付ける。
トレーニングルームに緊張が走る。
「そこまでや!」
はやてが声を荒らげながらトレーニングルームに突入する。
「もうええ! もう終わったんや!」
未だに攻撃態勢を解かない2人に駆け寄りはやてが諭すように声をかける。
「はぁ……は……はい……」
スバルが立ちあがるとなのはも無言で立ちあがる。
「なのはちゃん! どういうつもりや!」
「……」
その時フェイトがなのはに駆け寄る。
「なのは……」
しかし、なのはは答えることなくトレーニングルームを後にした。
「一体……どうしたんや……なのはちゃん……」
「わからない……」
「はぁ……」
はやてを一度ため息を吐くと2人に向き合う。
「2人ともよく頑張ったなぁ。大したもんや」
「そう……なんですか?」
「そうやで。なぁ?」
はやてが私達に振り返る。
「損傷具合や作戦所要時間などにつきましては改善の余地がありますが、格上の相手に対し勝利した事は称賛に値します」
「総合評価はB+です」
「褒められている……でいいんですか?」
「まぁ、多分そうやろ」
「あはは……」
スバルとティアナは複雑な表情を浮かべる。
「それにしても、スバル。あの瞬間移動はどうやったんや? 予想外やったで」
「あれは、お二人が使っていたゼロシフトを真似して」
「真似してって……どうやったんや?」
「えっと……」
「魔力弾がスバルに直撃する寸前で、ティアナの炸裂弾により魔力弾を狙撃、炸裂弾と魔力弾の爆風をフォースフィールドで受け止め急加速」
私が先程の現象を説明するとスバルが小さく笑う。
「その通りです」
「本当……ヒヤヒヤしたわ……」
「な……」
2人の行動に対しはやてが絶句する。
「タイミングが少しでもズレれば危険でした」
「あまりお勧めできる戦い方ではありません」
「まぁ……そうなんですけど、なのはさんの予測を上回るとなると……それくらいしか思い浮かばなくて……」
「だとしても危険やで……」
「あはは……」
「はぁ……まぁええ。とにかく今日は疲れたやろ。ゆっくり休みや」
「はい。ですが……」
「なのはちゃんの事なら心配せんでええよ。私達が話しておくで」
「はい……」
「後でシャマルの所へ行って診てもらうんやで」
「わかりました」
スバルがティアナに肩を貸しながらトレーニングルームを後にした。
「はぁ……それにしても……なのはちゃん……一体どうしたんや……」
「私は……何となくだけどわかる気がする」
「え?」
はやての呟きに対しフェイトが答える。
「どういう事や?」
「その、言いにくいんだけどなのはは……その2人の事がまだ受け入れれらないんじゃないかな?」
「フェイトちゃんまで……」
「ううん、違うの。多分だけどなのはは2人の事を恐れているんだと思う」
「恐れてる?」
フェイトの回答に対しはやての顔が曇る。
「これは私の個人的な考えなんだけど。なのはは管理局員として自信と誇りを持っているんだと思う」
「それが……2人を恐れる事に?」
「9年前……2人に最初に会った時……私達は敵対していた」
「まぁ……それは……せやな」
2人はバツの悪そうな表情を浮かべる。
「最初に会った時……私は気絶したからよく覚えていないんだけど、なのははトラウマを植え付けられたのかもしれない」
「トラウマって……なにしたんや?」
はやてがこちらに顔を向ける。
「無力化するために行動しました」
「度合いにもよるけど、圧倒的な力量差の相手に追い詰められて10歳前後の女の子が大丈夫だと思う?」
「それは……」
はやてが顔をそむける。
「それだけじゃないよ……実はなのはは9年前に2人の封印を提案したこともある」
「え?」
「確か、2人は管理局では抑えられない存在だと……」
「だからって……」
「それだけなのはにとって2人は恐怖の対象なんだと思う」
「そうだったとしても……」
はやてが小さく呟く。
「そんな相手が自分の教え子に指導していた……多分なのははそれが耐えられなかったんだよ」
「だからって新人の2人に対して……」
「これは憶測だけど、なのはの中ではスバルとティアナを相手にしていたつもりはないと思う」
「え?」
「2人を教えた相手……つまり貴女達2人と戦っていたんだと思う」
「そんなこと……」
はやてが小さく呟く。
「どうすればええんや……」
「分からない……けど、今はそっとしておいてあげるのが一番だと思う」
「……そうやな……」
はやてがこちらに視線を向ける。
「そういう事や、その……悪いんやが極力なのはちゃんと顔を合わせんようにしてもらえるか?」
「了解」
「ごめんな」
メンタルコンディションの低いはやてが小さく笑う。
なのはさんは…少し頭冷やそうか…