依然としてリニアレールで行われた戦闘の動画がループしているモニターの前から動かないスカリエッティにウーノが背後から近寄る。
「ドクター」
「どうかしたか?」
「管理局から報告書が届きました」
「そうか。読み上げてくれ」
「はい。エースオブエースに関する報告ですが……」
「どうした?」
「あくまでも噂話程度の信憑性だとかで……」
「構わん。火の無いところに煙は立たない」
「はぁ……それでは。エースオブエース、高町なのはが模擬戦で新人に惨敗したと」
「ほぉ? 慢心でもしたのか?」
「それもあるでしょう。ですが手加減していたと言えどエースオブエースが負けるとは……」
「確かにガジェットに追い詰められるような腕の新人が簡単にエースオブエースに勝てるとは思えん。そうなると考えられるのは可能性は絞られるな」
スカリエッティはモニターから視線をずらすとウーノを見据える。
「そして、最も可能性が高いのはあの2人が関わっているという事だ」
「関わっている?」
「そうだ。憶測だがその新人の教育にあの2人が関わったとすれば可能性はある」
「なるほど……」
「その情報が本当ならばエースオブエースは相当ご立腹だろう。自身の教え子まで奪われた訳なのだからな」
スカリエッティが端末を操作するとモニターの画面が停止する。
画面には憎悪に満ちた表情で2人を睨みつけるなのはが映し出される。
「この状況はうまく利用すれば相当有利に動くだろう」
「有利に?」
「あぁ、管理局の知り合いにはそれなりに過激な思想を持っている人間もいてね。クーデターを計画している。彼等からすれば現行の管理局の生ぬるい支配体制に疑問を持っている者もいる」
「それが、エースオブエースとどのような関係が?」
「もし仮にエースオブエースが彼等側に着いたらどうなら?」
「それは……」
「彼等はエースオブエースという巨大な広告塔を手に入れる。そして彼等が表立って動けるようになれば、それだけ私も動きやすくなるという事さ」
「なるほど……」
「まずはエースオブエースと会う必要があるな」
スカリエッティは手元の端末を操作する。
モニターに1枚の資料が表示される。
「これは?」
「数か月後に行われるオークションの資料だ。ここではロストロギアの取引も行われる」
「ロストロギアの取引……機動六課が出動する可能性が高いという事ですね」
「その通りだ。そしてそこにガジェットが襲来すれば」
「エースオブエースが動くと」
「そうだ。運が良ければあの2人の資料が手に入るかもしれない」
スカリエッティは不敵な笑みを浮かべる
「忙しくなるぞ。ガジェットを大量に用意しろ! それと開発段階ではあるがメタトロンを利用した装置もしようする」
「わかりました」
ウーノは一礼するとスカリエッティに背を向け退室した。
数か月の月日が流れる。
この数か月間、なのははスバルがティアナの2人に対しての指導は一切行われず、代理としてエイダとデルフィが対応している。
その為、戦力バランスに影響が出始めている。
「はぁ……」
部隊長室で現状を鑑みてかはやてがため息を吐く。
「なのはちゃん……どうしたらええんやろうか……」
「こればかりは当人の問題だとしか……」
「はぁ……」
アインスが差し出した紅茶で唇を濡らしはやてがまた深いため息を吐き、手元の資料を確認する。
「この任務……全員出動させないと厳しいな……」
「どのような内容ですか?」
アインスが資料を覗き込む。
「ホテル・アグナスで行われる骨董品のオークションの警備任務? これを六課で?」
「せや、上からの命令や」
「はぁ……しかしなんで六課なんでしょうか? 取引許可の出てるロストロギアが出品されるからでしょうか?」
「うーん……表向きは普通のオークションやろうけど……まぁ、別の事もあるんやろうな」
「別の事とは?」
「六課、エース級を多数に保持する部隊。過剰な戦力を持つ部隊。そんな部隊やから成功させて当然。逆に言えば失敗したらそれを理由に上層部に付け入る隙が生まれるということやろうな」
「まぁ、六課はあまりいい噂聞きませんからね」
「悲しいがその通りや」
「しかし、一部の過激派からは現行の管理局事態に反発を持つ者もいるとか」
「過激派やな……まぁ、そういった連中は力を誇示したいだけやろう」
はやては苦笑いを浮かべため息を吐く。
「まぁ、これだけの任務や……全員参加させるしかないか……」
「では……」
「せや、まぁ……エイダとデルフィにも協力を仰ぐとして……問題はなのはちゃんやな」
「あまり良い顔はしないでしょうね」
「特にあの2人が一緒となると……まぁ……そこは任務や……」
はやては一抹の不安を胸に、それを飲み込むように残りの紅茶を流し込んだ。
数日後。
はやての指示により全員が会議室に集められる。
私達が会議室に入るとなのはのメンタルコンディションレベルが急激に低下する。
そんななのはの近寄りがたい雰囲気のせいか、スバルとティアナはなのはから距離を置くような位置に着席している。
「さて、全員揃ったようやね」
入室したはやてはそういいながら自身の席に着席する。
「さて……」
はやてはなのはを一瞥した後口を開いた。
「今回集まってもらったのは、数日後に行われる任務の説明をするからや」
アインスとリインが資料を配り始める。
リインはその体格故に手こずっていた。
「ふぅ……」
「お疲れさん。さて、まずは資料に目を通してもらいたいんや」
資料を配り終えたリインははやての方に着地する。
私達は資料を手に取り中身を確認する。
「ホテル・アグナスで行われる骨董品のオークションの警備任務? これが今回の任務?」
「せや」
「はやて、この任務は全員が出動する必要があるの?」
「まぁ、フェイトちゃんの疑問も最もな意見やな。まぁ普通のオークションなら六課ではなく普通の民間企業あたりが警備するはずや」
「普通の?」
「資料には書かれておらんが、恐らくロストロギアの取引もあるはずや」
「え?」
「まぁ、仮にも管理局が警備を行う会場で行われるオークションや。取引許可の出たものだけやと思うで」
「なるほど。ロストロギアを狙って……」
「その通りや、ガジェットが襲ってくる可能性もある。それだけやない。密輸や違法取引の隠れ蓑になる恐れもあるんや」
「それなら、私達全員が出撃する必要があるというわけだね」
「せや」
はやてはなのはに視線を向けるが、なのははつまらなそうに虚空を眺めている。
「さて、人員配置やが……シグナムとヴィータ、なのはちゃんはフォワードを連れてホテル周辺を警備。私とフェイちゃん。エイダとデルフィで内部の警備にあたるで」
「わかった」
なのははそういうと一人立ちあがる。
「あの! なのはさん!」
スバルが話しかけるがなのはは気に留めることなく退室する。
「あっ……」
「スバル……」
気まずい雰囲気の中フェイトがスバルの肩に手を置く。
「大丈夫。気にしないで」
「はい……」
「ま……まぁ、今回の任務は警備やけど、ガジェットとの戦闘も予想される。気を抜かんようにな」
「了解」
はやてが敬礼すると全員が返礼し作戦会議が終了した。
作戦遂行日。
ホテル・アグスタ。
ホテル外周はシグナム達に任せ私達ははやて達と共に会場内部の警備を行う。
「いやぁ……これは……」
「よく似合っているというか」
「似合いすぎや」
はやてとフェイトの2人が私達の姿を見ると頷いている。
現在私達はパーティー会場に溶け込む為にデータベースに存在する蒼色のパーティードレスを使用している。
対するデルフィは緋色のパーティードレスを着用している。
「なんや……私達が霞んでしまう気が……」
「はやても十分似合ってるから大丈夫だよ」
「せやろか……」
「お二人も十分魅力的です」
「それならええんやが……」
「まぁ、周囲の注目を集めるくらいにはね」
「まぁ、あまり目立てもしゃあないんやけどな」
はやては薄紫色のドレスを、フェイトは黒のドレスを着込んでいる。
その時、司会と思わしき男性がパーティーの開催を宣言する。
「さて、始まったね」
「せやね」
はやてが周辺防衛部隊に通信を繋ぐ。
『パーティーが始まったで。外の様子はどうや?』
『こちらは問題ありません』
『そか、指揮はシグナムに任すで』
『お任せください』
『ほな、状況が変わり次第連絡を』
『はい』
はやては通信を通信終了後私達に視線を向ける。
「さて、任務開始や」
「「「了解」」」
警備を開始してから数時間が経過する。
『定時報告。異常はありません』
私は全員のデバイスに通信を繋ぐ。
『こちらシグナム。会場周辺も異常は無い』
『了解や。今のところ順調やな』
『この調子なら問題なく終わりそうだね。取り越し苦労で済みそうだね』
『フェイトちゃん……それはフラグって言うんやで』
『え?』
その時、会場周辺に複数のメタトロン反応を検知する。
『警告。メタトロン反応を多数検知』
『え?』
『もぅ! フェイトちゃん!!』
『え? 私?』
『まぁええや。規模は?』
『スキャン完了。セラーを複数確認』
『セラー?』
『セラーとは転送装置の一種です』
『セラーから複数のガジェットの排出を確認』
『周辺防衛部との接触を確認』
『なんやって!』
はやてがシグナムに通信を繋ぐ。
『現状は!』
『複数のガジェットが攻め込んできています! すでに複数撃破したのですが……』
『クソッ! どれだけいるんだよ!』
『セラーと呼ばれる転送装置からガジェットが排出されています』
『セラーを破壊しない限り転送は止まりません』
「作戦開始や!」
はやてとフェイトが戦闘態勢を整える。
「エイダとデルフィは外へ出て周辺防衛部隊の援護とセラーの破壊を! 私とフェイトちゃんで避難指示を!」
「了解」
「わかった!」
2人が来賓客の避難誘導を開始した。
私達は、会場を抜け外部へと移動する。
扉を開けると、既に戦闘が行われており大量のガジェットによる高濃度AMFが充満していた。
その為、防衛部隊は劣勢であった。
「お待たせいたしました」
「来たか!」
「ったく! 遅いんだよ!」
既にフォアードは満身創痍で地面に膝をついていた。
「状況は?」
「何とか水際で防いでいるがAMFが濃すぎて……」
「あの! なのはさんが!」
スバルが足を引き摺りながらこちらに近寄る。
「どうかしたのか?」
「ガジェットを追跡して……一人孤立しているかもしれません!」
「そんな……場所は?」
「AMFが濃すぎて……追跡できません」
「仕方ない……今は周囲の安全を確保するのが最優先だ」
「ですが!」
「あいつなら一人でも大丈夫だ! とにかく今は身の安全を確保することだ!」
「了解。これより周囲のガジェットを撃破します」
「すまないが、頼む」
シグナムとヴィータが後退する。
それを機にガジェットが一挙に押し寄せる。
「「バーストモード移行」」
「バーストショット」
「戌笛」
「「発射」」
私達の2人のバーストショットが押し寄せたガジェット部隊に直撃する。
その直後、爆発が起き、余波によって周辺のガジェットを一掃する。
それにより、AMF濃度が低下する。
「周辺のガジェット数減少」
「AMF濃度の低下を確認しました」
AMFの濃度低下により活動が再開する。
「すまない。助かった」
「しかし、セラーを破壊しない限りガジェットは転送され続けます」
「あぁ、私達でここは死守する。お前達は転送装置の破壊を」
「了解」
私達はシグナム達を残し、バーニアで飛び上がった。
ガジェットを追跡して一人孤立したなのはが森の奥へと歩みを進める。
まるで眼前のガジェットに導かれるように。
『部隊から離れています』
レイジングハートが警告を出すがなのははそれを聞き入れようとしない。
「これでっ!」
なのはが放った魔力弾により眼前を飛翔していたガジェットが火を噴き撃墜する。
『撃破確認。戻りましょう』
「わかったよ」
なのはが軌道を変えようとした瞬間。
「流石はエースオブエース。お見事だ」
「誰!」
なのはが振り向きながらレイジングハートを構える。
なのはが構えたレイジングハートの先から白衣の男性が姿を現す。
「お初にお目にかかる。私はジェイル・スカリエッティ。科学者だ」
「時空犯罪者の間違いでは? ガジェットによる襲撃は貴方の仕業ですね」
なのはが答えるとスカリエッティは小さく笑う。
「まぁ、それは人の捉え方だ」
「そんな事よりどういうつもり……自首しに来た訳ではなさそうですが……」
「自首などしないさ。私が興味があるのは例の2人とその技術だ」
「例の2人……」
なのはの脳裏にエイダとデルフィがよぎる。
「あの2人が……どういうこと?」
「私は科学者として知りたいのだよ。あの2人がどういった存在で、どれほどの技術を持っているのかという事を」
「どうしてそれを私に?」
「私も管理局に知り合いがいてね……色々聞いているのさ。君が彼女達に対し不信感を持っているという事を」
「それは……」
「それに、君は自分の教え子にまけ──」
その時、レイジングハートから魔法弾が放たれスカリエッティに直撃する。
「私は!」
「全く……人の話は最後まで聞いてほしいものだな」
土煙が晴れるとそこには無傷のスカリエッティが先程同様に存在していた。
「ホログラム映像……」
「無策で君に会うほど信用してはいない」
2人の間に緊張が走る。
数瞬の静寂の後スカリエッティが口を開く。
「さて、話を戻そう……単刀直入に言う。私に協力しないか?」
「協力? 何を言っているの?」
「私はどうしてもあの2人について知りたい。それこそ解剖してすべてを知りたいほどに」
「どうしてそこまで?」
「科学者としての性さ……」
「それで? なぜ私が時空犯罪者である貴方に協力すると?」
「協力するさ。君は間違いなくね。我々の利害は一致するはずだ」
「その根拠は?」
「君は今の管理局の体制、そして八神はやてに対し不信感や疑問を持っているのではないか?」
「っ……」
なのはが小さくした唇をかむ。
その表情見てスカリエッティは笑みを浮かべる。
「やはりそうか。それもそうだろう。現在の管理局は弛んでいる。もっと多くの時空を統治し、管理する必要がある。君もそう思うだろ」
「それは……」
「それに噂ではあるが八神はやては彼女達を贔屓目に扱っているとか」
「……」
「まぁ良い。現に管理局の一部の人物はもっと管理の幅を広げ、統治し統制することで管理局を中心とした完全な統治をするべく大規模な組織を作るべきだと考えている」
「まさか……そんなこと……」
「表立っては言わないだけさ。だが彼等も着実に準備は進めている」
「準備?」
「そうさ。おっと、時間か」
スカリエッティがそう言うとホログラムにノイズが走る。
「まっ! 待って!」
「もし、君が興味があるというならまた会おう」
そう言うとスカリエッティは完全に姿を消す。
スカリエッティが消えた場所に1枚のメモ用紙が落ちていた。
「これは……」
なのはがそれを拾い上げると同時に背後から声が響く。
「なのは!」
「なのはさん!」
振り返るとそこには、フェイトとスバルが走りながら近寄ってくる。
「なのは! 大丈夫?」
「あ……うん。大丈夫だよ」
なのはは不意に手にした紙をポケットへとしまい込んだ。
「どうしたの? 一体何が?」
「ガジェットの部隊に追われて……でももう大丈夫。そっちは?」
「今、あの2人が発生装置を破壊して残りのガジェットを撃破しているところだよ」
「そう……」
「とにかく戻ろう。皆心配してるよ」
「そうだね」
なのはは再びポケットに手を突っ込みメモ用紙の感触を確かめながら来た道を戻り始めた。
おや?
なのはさんの様子が…