一応バックアップを取っていたので何とかなりました。
翌朝。
7時を回った頃、はやてが目を覚ます。
「う……ううぅん……」
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
起床したはやては、パジャマを着替えた後、私に抱きかかえられリビングへと移動する。
「おはようございます。我が主」
「あー……」
一礼をしたシグナムを見て、はやてが言葉を詰まらせる。
「主?」
「いや……昨日のアレはやっぱ夢やなかったんやな……」
「はい、現実です」
「アハハ……」
私ははやてをソファーに降ろす。
「では主、何なりとご命令を」
「いきなり、命令なんて言われても……」
「必要とあらば、今すぐにでも蒐集を行います」
「うーん、昨日も聞いた気がするんやけど、蒐集ってなんなん?」
「詳しく話すと難しいので簡単に説明しますと、相手から魔力を奪う事です」
「そんなんあかんよ。他人に迷惑を掛けちゃ」
「しかし……」
「じゃあ、主として蒐集はしない事!」
4人は驚いた表情をしている。
「主がそう望まれるなら……」
シグナムが一礼する。
「それと、その恰好じゃあかんな。後で服を買いに行ってくる。それと武器は仕舞う事。それと、ご飯は作るからそれも食べる事」
「は、はぁ……」
「2人も買い物に付き合ってもらえる?」
「了解」
「ほな、皆の分のご飯を作らなきゃ!」
はやては嬉しそうに朝食の準備を始めた。
ヴォルケンリッターが現れてから数日間、私達とはやては彼等にこの世界における日常常識を説明した。
日常生活に親しんでいくにつれ、彼等の表情にも笑みが見受けられる。
どうやら、彼等には感情というものがあるようだ。
「はやてちゃん。後でお買い物に行きましょうか」
「あっ! 私も行く!」
「はいはい、ちょっと待って。ちょっとやる事だけやったらな」
駆け寄って来たヴィータに対し、はやてはそれに笑顔で答える。
「平和なものだな」
私の隣にやって来たシグナムが呟く。
「そうですね」
「しかし、こうも平和では感覚が鈍ってしまうな」
シグナムは笑いながらこちらに視線を移す。
「そこでだ」
「はい?」
「私と手合わせしないか?」
「手合わせですか?」
「あぁ。少しは体を動かさないとな」
シグナムは笑みを浮かべる。
「それに、お前に剣を突き付けられた時から、お前の強さが気になって仕方ない」
「現状、戦闘を行う必要性は──」
「私にはある!」
シグナムが私の言葉を遮る様に言い切る。
「大人しく諦めるんだな」
オオカミの姿に変化したザフィーラが呆れた様に呟く。
どうやら、魔力の消費を抑えている様だ。
「了解」
「そう来なくてはな!」
シグナムが庭へと移動しようとする。
「お待ちください」
「なんだ? 今更嫌だとは言わせんぞ」
「いえ、外で戦闘を行うのは危険です」
「しかし、家の中では後で主に怒られるぞ」
「仮想空間を使用します」
「なんだそれは?」
シグナムは首を傾げながらこちらに接近する。
「準備しますのでそちらへ座り目を閉じてください」
「あぁ」
シグナムが椅子に腰かけ、目を閉じる
「失礼します」
私は、シグナムにアクセスし、仮想空間を用意する。
「目を開けてください」
「なんだここは?」
仮想空間上で、シグナムが周囲を見渡す。
「現在、ヴォルケンリッターである貴女のプログラムにアクセスし、仮想空間をご用意しました」
「つまり、ここは現実では無いという事か。現実の私はどうなっている?」
「椅子に座り、目を閉じています」
仮想空間上に、ウィンドウを表示し、現実世界を投影する。
「ここでは、現実と同じように行動が可能です。デバイスも装備可能です」
「凄いな!」
シグナムが剣を手に取る。
「怪我の心配も無いのでご安心を。ただし痛覚は現実と同様です」
「心配するな、そこまで本気を出すつもりは無い」
シグナムは剣を構えると、デバイスが反応する。
「ほぉ、この空間は凄いな。レヴァンティンも感服しているな」
「ありがとうございます」
「では、早速だが、行くぞ!」
シグナムは駆け出すと、高速で接近し、上段からレヴァンティンを振り下ろす。
「防御開始」
私は、腕をブレードに変化させ、レヴァンティンを受け止め、弾き返す。
数歩後退った後、シグナムがこちらを見据える。
「私の一撃を受け止め、弾くとはやるな。だが!」
再び、シグナムは高速で接近し、こちらに近接攻撃を仕掛ける。
私は、ブレードでレヴァンティンを受け止め、時には流し、回避行動を続ける。
「防いでばかりではなく、攻撃してきたらどうだ!」
「了解」
私は、バーニアを起動し、急接近する。
「来い!」
接近した勢いをそのままにブレードを振り下ろす。
シグナムはレヴァンティンで防ぐと、そのまま右足を軸に、横に一閃する。
私は、高速で迫り来る一閃に対し地面を滑る様に回避すると、背後に回り込み、ブレードを振り下ろす。
「ちぃ!?」
ブレードが命中する已の所でシグナムは前転し攻撃を回避する。
「すげぇな……あのシグナムが押されてるぞ!?」
ヴィータの声が、仮想空間に響く。
「現在の模擬戦を、現実世界で投影させていただいております」
デルフィの声も響き渡り、現実世界では、ソファーに座った、ヴィータとシャマル、ザフィーラがこちらを観戦していた。
「現在はやては自室です」
「それはいい、まだ続けられるな!」
シグナムは勢い良く私に一閃を繰り出す。
私は後転し回避後、勢いそのまま、ブレードでシグナムの胴体を切りつける。
「ぐぅ!?」
シグナムはレヴァンティンでの防御が間に合わず、強制的に体を捩じって回避したようだ。
しかし、脇腹に着実にダメージが入っている。
「ハァ……ハァ……やるな!」
脇腹を抑えながら、レヴァンティンを構え直す。
「ダメージ確認。まだ続けますか」
私はその場で戦闘継続の意思を確認する。
「はぁ……いや、やめておこう」
シグナムはその場で首を横に振る。
私は、仮想空間を解除し、現実世界へと戻る。
「お疲れ様でした」
「はぁ……はぁ……」
現実世界に戻ったシグナムは椅子に座りながら息を荒らげ、脇腹を抑える。
「大丈夫? すぐに治療を」
「いや、大丈夫だ」
シャマルの治療を断り、シグナムは椅子から立ち上がる。
「どうだった。私は」
「戦闘技術は高位です」
「それはつまり?」
「とても強いという事です」
「そうか!」
シグナムは何処か満足したような表情で再び椅子に腰かけた。
「また頼む。今度は負けはしない」
「了解」
その時、デルフィがはやてを連れ、リビングに戻ってくる。
「おまたせ。ほな、買い物行こうか」
はやては、ヴィータとシャマルを連れ、買い物へと出かけた。
私達がこの世界に来てから数ヵ月が流れる。
その頃には、ヴォルケンリッター達もこちらの生活に慣れ始める。
しかし、それに従い、はやての体調が悪化し始める。
はやてが眠った後、私達ははやての体をスキャンする。
スキャンの結果、足の麻痺が全身に広がりつつあることが分かる。
このまま進行し心臓にまで達すると、生命機能に致命的な影響を及ぼすだろう。
原因は恐らく闇の書と呼ばれる本との不安定なリンクだろう。
そのリンクにより、身体機能に影響を及ぼしている様だ。
「お前達も気が付いたのか」
振り返るとそこには、戦闘服を身に纏ったシグナム達が立っていた。
「お前達の想像通り、主の病因は闇の書だ……」
「闇の書の魔力が、未成熟なリンカーコアを蝕んでるの……それではやてちゃんは……」
シャマルは悲しそうに俯く。
「それで、どうされるおつもりですか?」
「闇の書を完成させる。それしか方法はない……」
「しかし、蒐集は禁止されている筈です」
「我等……ヴォルケンリッターは主から多大なる恩恵を受けた。その主が今危機的状況にあるならば、その恩は返さなければならない!」
「その為なら、はやてを助ける為ならどんなことだってやる!」
4人の意思は固い様だ。
「もし、邪魔をするというならば……」
シグナムがレヴァンティンに手を掛ける。
「その点についてはご安心を」
「そうか……ならば、これは聞かなかったことにしてくれ、お前達まで巻き込むつもりは無い」
「一つよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「闇の書を貸していただけますか?」
「は? どうして?」
ヴィータが首を傾げる。
「現状、はやてと闇の書は不安定なリンクで繋がっています」
「その為、1度闇の書本体をスキャンさせていただきます」
「まぁ、そう言う事ならば……」
シグナムが頷くと、シャマルが闇の書を取り出す。
「スキャン開始」
闇の書を受け取った後、私達はスキャンを開始する。
様々な情報が、闇の書に集約されている中、一部だけバグの様なデータが存在した。
そのバグが原因だと思われる。
「スキャン終了」
「報告します。闇の書内部に、バグが存在しました」
「バグ?」
「はい。そのバグにより、闇の書自体がエラーを発生させ。その為はやての体に異常が出ているものと思われます」
「ならば、そのバグを取り除けば!?」
「症状は回復するでしょう」
「本当か!?」
「恐らくは」
「じゃあ、早くバグを!」
「しかし、問題があります」
「問題?」
4人の顔が曇る。
「はい、バグ自体が、闇の書のシステムの根幹に根差すプログラムに組み込まれています」
「つまり?」
「バグを取り除く為には、闇の書のプログラム自体を全てデリートする必要があります」
「そ……それは……まさか!」
「闇の書のプログラム全てのデリートはプログラムの一部であるヴォルケンリッターも削除対象です」
「な……!?」
4人のメンタルコンデションレベルが急激に低下する。
「つまり、我等が消えれば……主は助かる……と」
「その通りです」
「ふざけるなよ!」
「待て」
私に掴み掛るヴィータをザフィーラが引き留める。
「そんな、酷すぎるじゃないか!」
「ヴィータちゃん……」
「本当に……」
シグナムが口を開く。
「本当に……我等が消えれば主は……助かるのか?」
「はい」
私の回答に対し、シグナムが俯く。
「我等は……主の為ならどんなことでもする。そう決めたな」
「えぇ」
「もちろんだ!」
「あぁ」
4人は顔を見合わせ頷く。
「やってくれ」
「よろしいのですか?」
「あぁ」
私は、闇の書に手を掛ける。
「それはあかんよ!」
「はやて!」
「はやてちゃん」
はやてはベッドの上で上半身だけを起す。
「聞かれてましたか……」
「そりゃ、あんなで大声を出せば、聞くなって方が難しいよ」
「申し訳ない……」
シグナムの謝罪に対し、はやては微笑む。
「でも、私の為に皆が消えるなんて、それは絶対にあかんよ!」
「しかし、それでは……」
「ええよ……」
「でも……それじゃあ、はやては……!」
ヴィータは涙をこらえ俯く。
「削除以外にもう一つだけ、方法がございます」
全員の視線が、デルフィに集まる。
「本当か!?」
「はい、しかし、多少のリスクを伴います」
「聞かせてくれ!」
「はい、その方法とは、闇の書を完成させる事です」
「やはりそれしかないか……」
「はい、闇の書の完成後、管理者権限が完全にはやてに移譲されるはずです」
「え? 私?」
「しかし、バグにより闇の書は汚染されている為、管理者権限がバグに引き寄せられる可能性があります」
「なんやって……!」
「しかし、バグに管理者権限が奪取されるまで、数分間タイムラグがある様です。その間にバグのみを闇の書から切り離す事が出来れば、全員無事に生還できる可能性があります」
「数分間だと…」
「これでも多く時間を見積もっています」
「短ければ数秒でしょう」
「でも……そんな事……私に……!」
「バグの切り離し作業には我々も協力いたします」
「切り離したバグは私達がデリートするのでご安心を」
「でも、その為には蒐集? をしなきゃいけないんやろ?」
「はい」
「そんな、他人に迷惑かける様な事は……」
「しかし、それ以外の手段では、やはりシステム自体を削除するしかありません」
「でも……そんな事をすれば! ……それも──」
「何も手段を講じなければ、数ヵ月以内に死亡します」
「え……!?」
はやてのメンタルコンデションレベルが急速に低下する。
「ちょ、ちょっと!?」
「もう少しな……」
シャマルとシグナムは溜息を吐く。
「でも……それもええかも知れん……」
「はやてちゃん……」
「私はずっと一人……だったし……今更私が死んだところで誰も悲しまない……」
はやては俯き涙を流す。
「その様な事はございません」
「え?」
「少なくとも、私達、ここに居る全員は貴方に生きて欲しいと願っています」
私達が振り向くと、4人は同時に頷いた。
「ですから、命を粗末にしないでください」
「はやてちゃん……私達は貴女を……家族を守りたいの……!」
「主はやて、我等は貴女に生きて欲しいです! 家族を守る……その為なら……我等は消えても構いませんし、どんなことでもします! それこそ、世界を敵に回しても!」
「う……うぅう……うっ……!」
はやてはその場で泣き出し、4人がはやてを取り囲む。
「まったく世界を敵に回すなんて言われたらかなわんわ……」
「大袈裟でしたかね」
「大袈裟や!」
はやては涙を浮かべながらも、微笑む。
「現在の戦力レベルならば、全世界を敵に回した場合でも勝率は十分にあります」
「え?」
全員の視線が集まる。
「これでも、かなり厳しい戦況を想定してです」
「じょ……冗談だろ?」
「生憎と冗談を言うようなプログラムは持ち合わせておりません」
「あはは……」
はやては乾いた笑みを浮かべる。
「えっと……では改めて、主はやて。我等は蒐集を行ってもよろしいですか?」
「うん、ええよ」
「仰せのままに」
4人は膝を付き礼をする。
「でも、条件があるんよ!」
「条件ですか?」
「絶対に人を……相手を殺さない事! できれば傷つけても欲しくないんやけど……それは難しい?」
「傷付けずにというのは不可能ですが……わかりました。この場に我等は不殺を誓いましょう」
4人は深く頷く。
「よろしい! それと、無茶だけはしたらあかんよ!」
「わかりました」
シグナムが答えると、はやては微笑む。
「では、蒐集に関しては我等にお任せを!」
「うん」
「我々もお手伝いいたします」
「それは心強いな」
「手加減できるんだろうな?」
「善処します」
「やりすぎはあかんよ」
「了解」
「フフッ……うぅ……!?」
その時、はやてが胸を抑え、顔を俯かせる。
「はやて!?」
ヴィータがはやてに駆け寄るが、はやては軽く手を上げ無事を知らせる。
「大丈夫や! 少し苦しかっただけ……」
口ではそう言っているが、相当苦しい状況であることは、診断結果からわかる。
「こちらをお使いください」
私はベクタートラップ内からナノマシンが入ったペン型の注射器を取り出す。
「なんやこれ?」
「ナノマシンが入っています。これにより痛覚抑制や、闇の書とのリンクの微調整等を行い病気の進行を抑える事が可能かと思われます」
「よ、ようわからんけど、凄いんやな……でもどうやるんや?」
「首筋の静脈に押し当ててください。後は自動で注入されます」
「注射は慣れっ子やけど、首に打つのはちょっと怖いな……これ、打っても大丈夫?」
「ご安心を、既に効果は確認済みです」
「そ……そう?」
はやては、数回深呼吸を行った後、右手で首筋にペン型の注射器を押し当てる。
「イタッ!」
押し当てると同時に、体内にナノマシンが注入されたことを確認する。
「注入確認」
「恐らく、数日中には定着するでしょう」
「うーう……なんか変な……感じ」
左手で首筋を撫でながら、はやてはその場に横になる。
「それでは、我等は明日から蒐集を開始します!」
「うん、でも──」
「命は奪わず、無理もしない! 約束は守ります!」
「ならええよ。終わったら……迷惑かけた人達に皆で謝りに行こな」
「えぇ……」
はやてはそのまま、眠りに付いた。
「では、我等も部屋へ行きます」
4人ははやての部屋を後にした。
今作では、はやてが闇の書の蒐集を承知しています。
原作では秘密裏に行って居たのですが。まぁ、この2人が居てバレずに行うというのは無理があるでしょう…