竜衣の戦士と竜騎士《ドラグーン》   作:Nokato

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第一話『竜園島、到着』

 

 

 

 『──竜園島(りゅうえんとう)竜園島(りゅうえんとう)。魔導列車はこれより竜園島(りゅうえんとう)に入ります。六十秒後に多層シールド内に特殊入場しますので、魔力酔いにご注意ください。繰り返します、魔導列車はこれより──』

 

 直接脳内に響く車内放送を受け、本を読み耽っていた一人の少年が顔を上げる。少し長めの赤と黒が混じった暗い髪に、深淵を思わせるような純黒の鋭い目。十五の歳の割に大人びた美貌に少年をチラチラとみていた乗客の女性達は思わず濡れたため息を吐いた。その視線に気付いていた少年は女性達に軽くウインクしてサービスすると、少なからず黄色い声が挙がり車内は一気に騒がしくなった。

 

 「はは、いいねコレ。癖になりそうだ」

 

 頬杖を突きながら全くそうは思っていなさそうな冷たい笑顔を浮かべる少年の言葉に、隣に座る少年が瞼を閉じたまま面倒くさそうに返す。

 

 「よくもまぁ、なんとも思っていない者達にそんな事が出来るもんです。尊敬しますよ」

 「お前も心にもない事を言うではないか。なに、今のは少しのサービスというものだ。我が国ではこのような事出来なかったのでな、少し遊んでみたくなった」

 「控えてください。我々は一応帝国籍の上位者としてここに来たのです。今より酷い噂などが流れたら堪りません」

 「ふはっ、確かにそうだ。女遊びなどしたことがないというのに、全く俺も父上には嫌われたものだな」

 

 黒目の少年がそう言い切るとようやく隣に座る少年が目を開きこれから行われる竜園島への特殊入場に備えるべく、背筋を整えて座り直す。黒目の少年とは違い整髪料で整えられた眩い金髪を七三で分け、燃えるような赤い目で先を見据え、黒の皮手袋をした右手でクイッと眼鏡の位置を直すと、丁度特殊入場が行われ、抑えきれなかった衝撃が車内を襲う。その衝撃は微々たるもので、しかし乗客は黒目の少年以外皆ある程度備えないと魔力酔いを起こしてしまうようなものだった。

 多層シールドを抜けきると、また脳内に直接響く車内放送が来た。

 

 『──ただいまを以て、この魔導列車は竜園島に到着いたしました。乗客の皆様、ようこそ、竜の住む島へ──』

 

 その言葉に、乗客達は先程黒目の少年が起こした騒ぎよりも大きく騒ぎ出し、男女平等に特別な場所へと来られたことを喜んだ。

 そんな喜びに小浮きになっている乗客達を少年達は冷たく眺め、つまらなさそうに鼻を鳴らしていた。

 

 

 ここは竜園島。竜が住み、竜と生き、竜と共に戦う競技『竜舞武闘(ドラグライド)』が行われる島。血で血を洗う百年戦争の代理戦争が行われる島、竜園島──少年達は、そんな島の住人となるべく、この島に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 竜園島。優秀な竜使い同士で戦う競技竜舞武闘(ドラグライド)が行われるこの島の住人の七割は学生で構成されていることから別名学園島(がくえんとう)とも呼ばれている。残る三割は教師や店で働く者達や研究者達だ。ただの住人はここにはおらず、皆危険を承知でこの島に住む酔狂な者達である。

 さて、そんな島に到着し、魔導列車から降りた少年達は早速自分達の荷物を持ったまま急ぎ足で街中を駆けていた。周囲は自国の街並みや他国の街並みとは隔絶されているほどに文明が進んでおり、石畳の道路は毎週のように舗装され、店やその周辺にゴミは落ちておらず、レンガ仕立ての建物は堅牢さを露わに、行き交う人たちの身なりはほとんどがどこかの学園の制服である。

 自国では見たことのない景色に、黒目の少年が少し興奮気味に赤目の少年に話しかける。

 

 「はは、凄いなここは!活気に溢れ、皆が笑顔を浮かべている!俺は夢でも見ているのか、キール!?」

 

 キールと呼ばれた赤目の少年は、少し浮かれ気味にはしゃぐ黒目の少年に目もくれず、目を大きく開いて地図と穴が開くほどに睨めっこしていた。

 

 「夢かどうかは頬をぶっ叩くと解ると思いますよ!いいから貴方も地図を広げて学園までの道を調べてください!このままでは私達は入学式に遅刻するんですよ!?解っているのですか、ミラ様!?」

 「しかしまぁ、俺は本当に嫌われているのだと再確認したな。まさか渡された地図が数年前の物だとは思うまい?」

 「貴方が嫌われているのは生まれつきです!そんな事は今更でしょう、とにかく先方に迷惑を掛けないようにするのが重要なのです!向こうの方が私達を待っているはずなので、急いで向かわないと!」

 「主に向かって酷い奴だな、お前は……それとここでは身分の程は関係ないそうだ、学業に支障をきたすといけないらしいのでな。であるから、お前は俺を様付でなく呼び捨てで呼ぶべきだと思うんだが、どうだろう?」

 「貴様ァ!私が新しい地図を手に入れてきて学園の場所を調べている最中に美味そうな肉串を食ってるんじゃねぇですよ!?」

 「はっはっは!お前は本当に面白い奴だ!なに、先程目が合った屋台の店主と意気投合してな、入学祝にと、一本貰ったのだ」

 「私の分は!?ええいこの主、好き勝手過ぎでは!?」

 「まぁまぁ落ち着けよキール。ほれ、肉串をやろう。先の店主がわざわざもう一本持ってきてくれたぞ」

 「ありがとうございまアッツ!?」

 「はっはっは!」

 

 ミラがキールが若干涙目で慌てているのを見て、腹を抱えて笑い出す。キールはそんなミラを見て青筋を立てるがこれを天然でやっている主に何を言っても仕方ないので、とりあえず昂る気持ちを抑えた。

 

 「……しかし、確かに初日から遅刻というのは些か外聞が悪いな。さて、腹も満たしたことだしそろそろ行くとするか」

 「ようやくその気になってくれましたか……一応この方向だろうというアタリはつきましたが、なんせ道が入り組んでいそうなので見ながら行くのは面倒ですね……」

 「…?何を言っている、キール。障害物など、越えてしまえば良いだろう」

 「……何をするつもりですか?」

 「決まっている」

 

 そういうとミラは少ない荷物を担ぎ、少し勢いをつけ一気に近くの建物を駆けあがった。

 

 「なっ、ミラ様!?」

 「──どうした、早く来ないかキール!こうすれば邪魔なものは何もない、ただ真っ直ぐ駆ければいいだけだ!後呼び方が戻っているぞ!」

 

 二階建ての家の屋根の上からあまりにも傍若無人な事を言うミラに、キールは開いた口が塞がらなかった。周囲の人々もそんなミラを見て呆然とし、対するミラは状況が解っていなさそうな表情で首を傾げている。

 

 「っ、全く!貴方はいつもいつもやる事がぶっ飛んでるんですよ!」

 

 数秒固まっていたキールも、こういうのはいつもの事だと気を取り直し追いつくべく自身も荷物を担ぎ上げ、建物を駆け上がる。

 

 「ははっ、さて、俺は地図を見ていないのでな!方向も分からんので先に行くがいいぞ、キール!」

 「はいはい、ちゃんと私の後に着いて来てくださいよ!寄り道したら本気で怒りますからね!?」

 「承知した!では行くぞ!」

 「~~っ!もう、全くこの人は!」

 

 こうしてミラとキールは竜園島の屋台通りと呼ばれる区域を建物の上を駆けることで一気に目的地へと向かい始めた。

 いくらなんでもそんな事するか?といつの間にかミラと仲良くなっていた屋台の店主も、暫く肉串が焦げているのに気づかないほど、彼らが駆けて行った方向を呆然と見つめるのだった。

 

 

 




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